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Entry 2019/08/28
Update

映画『ミッドサマー』ネタバレ感想と考察。結末でアリアスター監督が描く“残忍で破滅的なおとぎ話”とは

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『ミッドサマー(原題:Midsommar)』は2019年7月3日より全米公開。
原題Midsommarはスウェーデン語で夏至祭(ミッドソンマル)の意。

2018年、『ヘレディタリー/継承』で長編デビューを飾り「21世紀最高のホラー映画」と評され世界の観客を阿鼻叫喚させたアリ・アスター監督。

みんなが不安になればいいな」そんなコミカルなコメントと共にアスター監督が新たな作品を発表しました。

ホラー映画らしからぬポップで可愛らしいポスターも話題の『Midsommar』(2019)です。

ゴアな描写たっぷり、笑いもたっぷり、「こんなことあったら嫌だ」もたっぷり…。

今回は「黙示録的破局映画」と言われている本作を考察していきます!

映画『ミッドサマー』の作品情報

映画『Midsommar』

【製作】
2019年(アメリカ・スウェーデン合作映画)

【日本公開】
2020年2月予定

【原題】
Midsommar

【監督・脚本】
アリ・アスター

【キャスト】
フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、ウィル・ポールター、ヴィルヘルム・ブロングレン、アーチー・マデクウィ、エローラ・トルキア、ビョルン・アンドレセン

映画『ミッドサマー』のあらすじとネタバレ

参考:製作会社A24のツイッター

ダニとクリスチャンのカップルは長く交際していますが破局寸前。

しかしある日ダニの妹が両親を殺した後に自殺する事件が起こり、クリスチャンは別れを告げることを止まります。

クリスチャンは夏、友人のマーク、ジョシュ、ペレとスウェーデンの田舎町ハルガを訪れる予定でした。

クリスチャンとジョシュが文化人類学専攻のこともあり、ペレが彼らを「自分の故郷で90年に一度しか開催されない夏至祭が開催されるから来てはどうか」と誘ったのです。

内緒で旅行を決めていたクリスチャンはダニに責められ、彼女も連れて行くことにしました。

ハルガに着いた一行は彼らと同様夏至祭を見に行くカップルのコニーとサイモン、ペレの妹マヤや村の人々と出会います。

住人たちは皆白い衣服を見に纏い踊ったり駆け回ったりなんとも牧歌的。

2日目、しきたりに従って村人全員と共に食事をするダニ一行。

誕生日席には青い衣服を着たおじいさんとおばあさんが座っています。

食事が終わるとおじいさんとおばあさんは神輿のようなものに乗せられて、村の高い岩場へ連れて行かれました。

昼寝のため宿舎へ戻ったマークを除き、ダニ、クリスチャン、ジョシュはペレら村の人たちと何が起こるのか見に行きます。

おじいさんとおばあさんは手のひらを切りつけて血を岩版にこすりつけ、そのまま下に飛び降りて死にました。あまりにショックな出来事に呆然とするダニたち。

人は皆生命の輪の中で生きており、72歳で自死を選ぶのは村のしきたりだと説明されます。

ダニは両親の死を思い出し帰ることを思い立ちますが、ペレに説得され止まりました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ミッドサマー』ネタバレ・結末の記載がございます。『ミッドサマー』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
3日目。昨日の事件を見て村を出ることを決めたコニーとサイモンですが、サイモンの姿が見当たりません。

村人たちはサイモンが先に駅に向かったと言いますが、コニーは彼がそんなことをする訳がないと答えます。

クリスチャンは、ジョシュが論文のテーマに既に選んでいるこの村のことを自分も書きたいと言い出し、二人は喧嘩に。

仲裁したペレは、村の長老たちに論文に書いていいか尋ねると言います。

ジョシュはとある建物の中で近親相姦によって生まれたルーベンという名前の奇形児が作った、ルーン語で書かれた預言書を見せてもらいます。ジョシュは写真を撮っていいか尋ねますが、もちろん断られてしまいました。

一方マークは、昨日亡くなったおじいさんとおばあさんの灰が埋葬された古木に放尿し、村の人々に怒られます。そのあと前々から彼に目配せをしていた女性にどこかへ連れて行かれてしまいます。

その夜、ジョシュはこっそり預言書を撮影しようとしていました。しかし背後から殺されたマークの皮を被った裸の男が忍び寄り、ジョシュも殺されてしまいます。

翌日。ダニはハイになる飲み物を飲まされ、村の女性たちと共に、その年のメイクイーンを決める大会に参加します。

メイポールの周りをぐるぐると回り、最後まで立っていた女性がメイクイーンとなるのです。

踊っている途中に飲み物の影響か、スウェーデン語を話せるようになるダニ。彼女は最後まで踊り続け、メイクイーンに選ばれます。

その頃クリスチャンは村人からペレの妹、マヤとセックスをして欲しいと頼まれていました。

狭い村はこうして外部の血を時折受け入れているのです。

ドラッグを飲まされクリスチャンが連れて行かれた部屋には、裸のマヤと様々な年齢の女性たちが。マヤが喘ぐと女性たちも真似をする異様な光景が繰り広げられます。

その頃、五穀豊穣の祈りが終わったダニは、クリスチャンのことが気になり、建物を覗いて情事を知ってしまいます。ダニが泣き叫ぶと女性たちも真似をするのでした。

ことが終わって部屋から逃げ出したクリスチャンは、慌てて入った鶏小屋でサイモンの死体を目撃します。そこで長老たちに見つかり、気絶させられてしまいました。

クリスチャンは「あなたは喋れないし動けない、けれど大丈夫よ」という声で目を覚まします。壇上には鮮やかな花で覆われたダニの姿が。

村人は悪を一掃するために9人の生贄を捧げることを宣言します。

最初の4人の犠牲者はジョシュ、マーク、コニー、サイモン。残りの4人は長老2人、ペレの従兄弟、もう1人の村人。

最後の犠牲者としてダニはクリスチャンを選びます。そしてペレを新しい預言者として讃えます。

まだ麻痺したままのクリスチャンは解体した熊の体の中に入れられ、他の生贄たちと共に黄色いピラミッドの形をした寺院に連れて行かれました。

火がつけられあっという間に燃えていく寺院。儀式を祝うため村人たちは泣き叫ぶ演技をし始めます。

呆然と眺めていたダニでしたが、いつしか顔には笑みが浮かんでいました。

映画『ミッドサマー』の感想と評価

トラウマを呼び起こす恐ろしさ

参考:『Midsommar』のツイッター

“なぜか裸の女性たちに見守られながらセックス”“ドラッグでハイになった時のおかしな行動”、ほかにもその場にそぐわないシュールな台詞に行動と笑いも散りばめられている『Midsommar』

グロテスクな描写もかなりのもので、身を投げるおじいさんおばあさんの潰れた顔が大写しになったり、ジョシュやマークの惨殺死体であったり、最後の火あぶりなど目を覆いたくなるシーンも多数。

しかし本作の本当に恐ろしいポイントはトラウマや死を思い起こさせ、ダニと一緒に観客を巻き込んでパニックに陥らせる様な心理描写です。

両親と妹を亡くし、“一応は”そばにいてくれるものの、既に埋められない溝があるボーイフレンドがいるダニ。スウェーデンに行くことを知らされて責める時、破局の危機にあることを知っている彼の友人たちと会う時の気まずい状況…。

冒頭から一気に暗澹たる空気が立ち込め、そして問題の村ハルガへ。

夏至祭の会場へたどり着く前に一行は休憩しドラッグを試すのですが、ダニのバッド・トリップの描写も陰鬱なものです。

トラウマが脳を支配し、皆が自分を笑っているような強迫観念にかられる。

映画はキャラクターたちに笑いとも嘆きとも似つかぬ奇声を多く発させて不安を煽り、“誰も理解してくれない”“誰を信じたら良いか分からない”その疎外感や自らも気づかないうちに溜まっていく狂気の恐ろしさを演出することに成功しています。

加えて舞台は夏至祭、一日中太陽が照りつけ、夜の闇に隠れることも許しません。惨たらしいことも恐ろしいことも何もかもが曝け出されて、直面しなければいけないのです。

スウェーデン出身の映画監督、イングマール・ベルイマンの作品『叫びとささやき』(1972)の系譜を引く美しくも恐ろしい不穏、叫び声と沈黙のコントラスト

画面の外で起こっている出来事と自らの心の不安定さがますます揺さぶりをかけ追い詰める。(ペレの従兄弟の名前は“イングマール”です。)

ですから、心身疲れている時の鑑賞は決しておすすめできません。

「どこにも逃げ場はない」「何もかも明らかにされる」「一番恐れていることと対峙しなければならない」そう思わせる力を持ったホラー映画となっています。

キーワードは“おとぎ話”

家族も亡くし、ボーイフレンドとは破局寸前の関係にあり、挙げ句の果てにはカルト集団に出会うことになる凄まじい旅路を進む主人公ダニ。

しかし彼女はラストシーンにて、生贄となり燃え盛る友人たちの死体やボーイフレンドのクリスチャンを見てにんまりと微笑んでみせます。

なぜ彼女は満ち足りたようなあの笑みを浮かべたのか

本記事では『Midsommar』は、主人公ダニが“虚実で固められた世界を抜け出し導かれるままに進んで、自分とはっきりと磁場が合う家族を見つけることができる”という物語、として考えていきます。

ダニという女性はハルガの村全体と大きく呼応しています。

実は映画の序盤から、後々にダニやクリスチャンたちが訪れることになるハルガの街の符号となるシンボルが多々登場しているのです。

ダニの部屋に飾ってあるのは大きなクマと小さな女の子が何とも印象的な絵で、これは童話集や神話、民話、タロットカードなどの挿絵を多く手がけたスウェーデンの画家ヨン・バウエルによる作品。

白い衣服で軽やかに舞い踊る乙女たちが同じく登場する『ピクニック at ハンギング・ロック』(1975)やロマン・ポランスキー監督作品『テス』(1979)を想起させる、ホラー映画とは思えないほどファンタジックで可愛らしいビジュアルを持つ『Midsommar』は、このヨン・バウエル作品の登場によって一層おとぎ話めいたものに昇華されます。

外は雪が降っていますがダニの部屋は植物が至る所に置かれていて対照的です。

村の入り口にたどり着き、ドラッグでトリップした時には植物が自分の手から生え、木々が人間のように脈打つ幻覚を見ます。

ダニの視点で、この“植物が意志を持ち動いているように見える”という描写は劇中で何度も何度も登場します。

“植物と波長を合わせることができる”という店は、動物や自然と友人のように戯れることができるおとぎ話の王女を思い起こさせる点です。

植物だけではありません。メイクイーンを決める踊りの最中、隣の女性とスウェーデン語で突然会話できるようになります。

そしてダニが悲しみと怒りで泣き叫べば周囲の女性たちも彼女にならい、感情を高ぶらせて爆発させる行為を共にするのです。

そして最後、クリスチャンとの完璧な別れを決意したダニの思いを代行するかのように、村人たちは文字どおり彼自体を燃やし尽くしてくれます。

おとぎ話の王女のように、喪失や悲しみを乗り越えて本当の家族、本当の居場所を見つけることができるのです。

本作はダニやクリスチャンのバックグラウンドを深堀りはせず、ただ二人は“破局寸前のカップル”として登場します。

クリスチャンの死で終わるように、映画のテーマは“家族”と“恋愛”

恋愛の面だけから見れば、“クリスチャンは別れを切り出したがっているのに何も言わない友人たち”“ずるずると引きずったが故に不信感はぬぐいきれないボーイフレンド”と不透明、虚偽でダニは囲まれていました。

それが夏至祭で文字どおり、何もかも白日の下に晒されたことにより(衝撃的な形ですが)過去となってしまった恋から脱出することができたのです。

ダニの最後の笑みは恐ろしくも、全編の中で最も爽快感あるワンシーンです。

まとめ

参考:製作会社A24のツイッター

病める精神を明るい陽の元に曝け出し、破局に直面しながらもズルズルと引きずるカップルに過激な方法でけじめをつけさせ、主人公にある種の救済を与える。

トラウマや抑圧からの解放を描きながら、カップルの破局話を民俗ホラーとして仕立て上げたアリ・アスター監督の手腕を堪能できる『Midsommar』。

疲労や不安に襲われること間違いなし、それでも思わず笑ってしまうこと間違いなし…。

その美しい牧歌的な風景と凄惨な絵面が脳裏を蝕んでやまない、『Midsommar』は新たなホラー映画の名作として語られるに違いありません。

『Midsommar』は日本では邦題『ミッドサマー』として、2020年2月に公開予定です。



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