ラテンアメリカに何百年と伝承され地域の人誰もが知っている怨霊の物語を初めて映画化した『ラ・ヨローナ~泣く女~』。
ジェームズ・ワン プロデュースの「死霊館」シリーズの新たな作品です。
美貌と評判のマリアは恋に落ち結婚。2人の息子をもうけますが、夫は若い女性と浮気。逆上したマリアは、夫がこの世で一番愛した子供2人を川で絞殺。我に返ったマリアは罪の意識から同じ川に投身自殺。それ以来、泣きながら彷徨い我が子の身代わりとなる子供をさらって行きます。
映画『ラ・ヨローナ~泣く女~』の作品情報
【公開】
2019年5月10日(アメリカ映画)
【原題】
The Curse of La Llorona
【監督】
マイケル・シャヴェス
【キャスト】
リンダ・カーデリニ、マデリーン・マックグロウ、ローマン・クリストウ、レイモンド・クルツ、パトリシア・ベラスケス
【作品概要】
劇場公開としてはマイケル・シャヴェスの映画監督デビューとなるホラー作品。
コマーシャルやショートフィルムを製作したシャヴェスを抜擢したのは、ジェームズ・ワン。
『グリーンブック』『ハンター・キラー』『シンプル・フェイバー』で全く違う役を演じ分けたリンダ・カーデリーニが主人公・アンナ役に扮し、初のホラー映画出演です。
霊能力者ラファエルには、『ブレイキング・バッド』のトゥコでお馴染みのレイモンド・クルス。
「アナベル」シリーズや『IT イット “それが見えたら終わり”。』の脚本家ゲイリー・ドーベルマンも製作に名前を連ねています。
映画『ラ・ヨローナ~泣く女~』のあらすじとネタバレ
1673年、メキシコ。
マリアは息子2人と遊んでいました。1人が母に美しいネックレスを渡します。大事そうに受け取るマリア。
ふと気が付くと母の姿が見えずその息子は探します。川の中に兄を沈めて抑え付けるマリアを見た息子は逃げ出しますが、直ぐに追いつかれ腕を掴まれます。
1973年、ロサンゼルス。児童福祉局に勤めるアンナは、子どもが2人学校に来ていないと報告を受けます。
担当していた家族であったため、家庭訪問をすることにしました。
母のパトリシアは酷く警戒している様子です。子どもの安全を確認したいと説得するアンナを、パトリシアは仕方なく招き入れます。
中は火の灯るキャンドルが無数に置かれており異様な雰囲気。
アンナは外から施錠した部屋を見つけます。パトリシアが止めるのも聞かず、アンナは扉を開けます。
しゃがみ込んだ2人の息子を発見し子どもたちを保護。アンナはもう大丈夫だと約束しますが、安全な場所など無いと子どもが呟きます。
2人の腕には酷い火傷の様な痕。その晩、施設の宿泊所で眠ることになった子どもたちは、ラ・ヨローナに襲われます。真夜中、連絡を受けたアンナが駆けつけますが、2人は近くの川で溺死して発見されていました。
警察に逮捕されたパトリシアはアンナの姿を見て、お前のせいだ、あの女を止めようとしたのに、と叫びます。あの女とは誰なのか尋ねたアンナに、パトリシアは、「ラ・ヨローナ(泣く女)」だと答えました。
そして、アンナの子どもクリスとサマンサを狙ったラ・ヨローナがアンナの家に現れます。クリスを階段から突き落とし、お風呂に入るサマンサを水中に引っ張り込み、助けに来たアンナの手首を掴み皮膚を焼きます。
金色に光る目を見開き真っ黒な涙を流す悪霊でした。教会へ駆け込んだアンナは、ペレス神父に助けを求めます。呪われた人形の事件に関わった経験に触れた神父は、アンナの抱える深刻な状況を理解します。
しかし、教会の介入には手続きと時間が掛かることから元神父のラファエルを紹介しました。
ラファエルは、教会とは袂を分けても信仰心の強い霊能者です。火傷の痕を見てラ・ヨローナの仕業だと直ぐに気が付き、親子を救うためアンナと共に彼女の家へやってきます。
映画『ラ・ヨローナ~泣く女~』の感想と評価
これまで悪魔対神の構図で多くのホラー映画が作られて来たハリウッドで、元は人間だった怨霊を題材にした作品でジェームズ・ワンは成功を収めています。
しかし、ホラーの見所はやはり邪悪なものを退治する場面。本作でその役目を担うラファエルを演じたのはレイモンド・クルス。
劇中でお浄めに使用した鷲の羽は、実はクルス自身の私物で、先住民の宗教指導者から貰ったものだと話しています。
『ラ・ヨローナ~泣く女~』は3人の母親が衝突する物語です。
子どもを守ろうとするアンナと我が子を奪われたパトリシアがそれぞれ恐れ苦しむ心情、数百年引きずる恨みで魔物化したアンナ。そして神を信じ切る強い霊能者が交錯し、ホラー映画を怖くするレシピが揃っています。
何と言ってもラ・ヨローナ役のマリソル・ラミレスが怖い…。CGが使われていないため大きな役所です。
主演のリンダ・カンデリーニは、ラミレスがユーモアに溢れ4時間掛かるメイクに文句も言わず、子役の子どもたちにも気を配っていたと賞賛。
これまで数々のテレビドラマにゲスト出演して来たラミレスですが、今回どう役作りしたのか訊かれ、溜まった自分の怒りを利用したと周りを笑わせます。
また、本作の監督を務めたマイケル・シャヴェスとクルスは、ロケーション撮影に使われたアンナの家で怪奇現象が頻繁に起きたことを明かしました。
例えば怨霊と対峙する場面を撮影中、クルスがしていたお守りのブレスレットが突然千切れてビーズが散乱。硬い石で出来ているにも拘らず、3つのビーズが真中から二つに割れていたそうです。
アメリカに来て最初に聞いた怪談が「ラ・ヨローナ」だったと話すジェームズ・ワンは、今後シャヴェスの手でパトリックやヴェラがどう演出されるのか楽しみだとインタビューで答えており、再びウォーレン夫妻が登場する物語が製作されることを示唆しています。
まとめ
母性に目覚めた女性は格別の強さを発揮するものです。
ホラー映画の傑作と言われる1973年の『エクソシスト』や、後に話題を集めた1982年の『ポルターガイスト』でも、自分の子どもを守ろうと母親は身を挺しています。
本作では、アンナが忠告を無視したためパトリシアは我が子を失い、その悲しみは憎しみに変ります。
しかし、最後は同じ母親としてアンナを許しており、どんな強い恨みも深い愛情には勝てないメッセージを伝えています。
子どもに贈られたネックレスを見たラ・ヨローナが束の間見せた温かい母親の顔は、罪深い怨霊の魂もまだ救える希望を意味しているのかもしれません。