Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ホラー映画

Entry 2024/11/24
Update

『ぼくらのふしだら』あらすじ感想と評価考察レビュー。田野優花(元AKB48)が演じる主人公が《時を止める力》と引き換えにする少女の性欲とは⁉︎

  • Writer :
  • 糸魚川悟

映画『ぼくらのふしだら』は2025年1月3日(金)よりテアトル新宿ほか全国順次公開!

自分のコンプレックスを払拭することのできる強大な能力を手にした時、あなたはその能力を他人に影響を及ぼさずに使うことはできるでしょうか。

コンプレックスが強ければ強いほど手にした力に依存し始め、果てには周囲の人を巻き込みかねない事態に陥るかもしれない「力」という存在。

今回は《時間を止める能力》を手にした少女が、《身を持ち崩すほどの性欲》という副作用とその強大すぎる能力に溺れていく映画『ぼくらのふしだら』(2025)をご紹介させていただきます。

映画『ぼくらのふしだら』の作品情報


(C)大見武士・少年画報社/映画「ぼくらのふしだら」製作委員会

【公開】
2025年(日本映画)

【原作】
大見武士

【監督・脚本】
小林大介

【キャスト】
田野優花、かれしちゃん、植村颯太、木村葉月、石川翔鈴、岩永ひひお、中村公隆、もりゆうり、

【作品概要】
商業誌において多くの作品を手がけてきた漫画家・大見武士が「月刊ヤングキングアワーズ GH」に掲載した同名漫画を、映画『青鬼』(2014)の小林大介が映像化。

アイドルグループ「AKB48」の元メンバーであり映画『リンキング・ラブ』(2017)で主演を務めた田野優花が、本作でも主人公・結城美菜実を体当たりの演技で演じ、『地獄少女』(2019)などで知られる木村葉月、ドラマ『顔だけ先生』にレギュラー出演した植村颯太が共演。

映画『ぼくらのふしだら』のあらすじ


(C)大見武士・少年画報社/映画「ぼくらのふしだら」製作委員会

自分自身に自信を持てない《劣等感の塊》として生きてきた結城美菜実は、酒に溺れ働きもしない父親から離れるため、大学への進学を切望していました。

ある日、勉強や同級生たちとのコミュニケーションを築くための《時間》を欲していた美菜実の前に、人ならざる者「ササヤキ」が現れ《時間を止める能力》を彼女に与えます。

しかし美菜実に与えられた能力には、使えば使うほどに《性欲》が強くなってしまうという副作用がありました。

時間を止めるたびに増していく凄まじい性欲を満たすため、幼なじみ・鏑木信一に体を預けるふしだらな日々。能力によって美菜実の生活は彩りを持ち始める一方で、逆に心は黒く染まっていきます……。

映画『ぼくらのふしだら』の感想と評価


(C)大見武士・少年画報社/映画「ぼくらのふしだら」製作委員会

田野優花の体当たりの演技が光る作品

本作は能力の代償に強い性欲に溺れる少女を主人公としており、直接的でこそないもののエロティックなシーンが多く登場します。

そんな『ぼくらのふしだら』で主演を務めたのは、アイドルグループ「AKB48」のメンバーとして2018年まで活躍した田野優花

「元アイドル」という肩書きを脱ぎ捨てるかのように主人公・結城美菜実を真正面から演じた本作では、主演の田野優花がエロティックなシーンはもちろんながら、徐々に闇に染まっていく美菜実の内面の変化の様子も、表情や喋り方で感じさせてくれる巧みな演技を見せてくれます。

コスプレイヤーでありグラビアアイドルとしても活躍するかれしちゃんをはじめ、若手ながらダークな雰囲気を後押しする俳優陣が出演したことによって、本作はエロティックなだけではない重いメッセージ性の存在する映画として完成していました。

《不快》を排除するために使われる《凶器》


(C)大見武士・少年画報社/映画「ぼくらのふしだら」製作委員会

美菜実の手にした《時間を止める能力》は、異能の力を描く作品の中でも最強の部類に入るものであり、その能力を持つだけで富も権力も手にできるほどの圧倒的な力です。

しかし、富も権力も必要とせず、ただ目の前のことに必死な高校生がこの力を手にした時、その能力はただただ自身の前に立ちふさがる《不快》を排除するために使われる《凶器》へと変わっていきます

自身を心から心配してくれる幼馴染の信一を性の道具として扱い、自分の人生の障害となる人間を手にした《力》で排除していく美菜実。

些細なことであっても他人を傷つける勇気を持てなかった彼女が、過分な力を手にしてしまったことで闇に堕ちていき、最後にはすべてを巻き込んだ衝撃的な結末を迎えることとなります。

人間そのものが悪なのか、《力》という概念こそが人間を悪に引き込んでしまうものか、さまざまな概念が揺さぶれる作品でした。

手にした力で求めるのは《他人の評価》


(C)大見武士・少年画報社/映画「ぼくらのふしだら」製作委員会

2012年にアメリカで公開された映画『クロニクル』(2013)では、超能力を手にした3人の若者の人生が超能力によって狂っていく様が描かれていました。

他にも幼い子どもたちが能力に目覚めるノルウェー映画の『イノセンツ』(2023)など、力を手にした少年少女がその「狂気」を加速させていく作品は一つのジャンルとして存在します。

しかし、それらの既存作品と『ぼくらのふしだら』の異なる点は、本作には実に《日本人的概念》が多く詰め込まれている部分にあります。

主人公・美菜実は「自分の価値は他人の評価で決まる」という思想に取り憑かれており力に目覚めた彼女の行動原理は手にすることのできなかった《他人からの評価》を手にすることに終始しています。

そこからは、SNSの普及により誰もが他者を評価し、相互に発信ができるようになったことで、人々の中での「他人から評価されたい」という自己承認欲求が強まり、もはや歯止めが効かなくなりつつある日本人の姿が垣間見えます。

果たして美菜実は、《他人からの評価》を欲し続けた果てに何を見るのでしょうか。

まとめ


(C)大見武士・少年画報社/映画「ぼくらのふしだら」製作委員会

ちなみに原作者の漫画家・大見武士は漫画『ぼくらのふしだら』に続き、2016年には『わたしのふしだら』を執筆しています。

エロティックでありながら、人間の愚かさについて考えてしまうようなダークな物語が光る大見武士の原作漫画を、実写に完全に落とし込んだ映画『ぼくらのふしだら』

さまざまな方向に心を揺さぶられる物語は、新年開始の映画としては刺激が強すぎる気もしますが、そんな作品だからこそ映画初めには相応しいとも言えます。

映画『ぼくらのふしだら』は2025年1月3日(金)よりテアトル新宿ほか全国順次公開!

ダークでエロティックな本作を、ぜひ鑑賞してみてはいかがでしょうか。



関連記事

ホラー映画

映画『来る』あらすじネタバレと感想。ラスト結末の【ぼぎわん】の正体や意味の紹介も

2015年第22回日本ホラー小説大賞を受賞した澤村伊智の「ぼぎわんが、来る」を、『告白』で日本アカデミー賞を受賞、『嫌われ松子の一生』『渇き』など、話題作を放ち続ける中島哲也監督によって映像化。 中島 …

ホラー映画

映画『ザ・スイッチ』あらすじネタバレと感想解説。ハッピーデスデイの監督が手掛けた地上最悪の入れ替わり!

映画『ザ・スイッチ』は2021年1月15日(金)全国ロードショー 『透明人間』『ゲット・アウト』などホラー、サスペンスの話題作やヒット作を数多手がけるジェイソン・ブラムが製作し、「ハッピー・デス・デイ …

ホラー映画

【来るネタバレ映画解説】霊能者の比嘉琴子(松たか子)は何故ムシを吐いたか。考察で見つけた幼虫の意味とは

2018年12月7日(金)より公開された中島哲也監督のホラー・エンターテイメント作品『来る』。 独特の作風で人気を誇る中島哲也監督が、「第22回日本ホラー小説大賞」を受賞した澤村伊智の原作『ぼぎわんが …

ホラー映画

映画『アス』あらすじネタバレと感想。ジョーダン・ピール監督の新作の内容とは⁈

ジョーダン・ピール監督の最新作『Us』 2017年に大ヒットしたホラー映画『ゲット・アウト』。 監督を務めたジョーダン・ピールが、新たな恐怖の物語を生み出しました。 今回は2019年9月6日に日本で公 …

ホラー映画

韓国映画『感染家族』あらすじネタバレと感想。ラストに爽快さと感動を導く“奇妙な”家族の絆

辺境の地に現れたゾンビと奇妙な家族の究極のサバイバルムービー! 平凡な田舎町に現れたゾンビを待ち受けていたのは、一攫千金ビジネスを企む家族たちだった。 オリジナリティー溢れる斬新さと、過去のゾンビ映画 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学