殺人や自殺など何かしらの死亡事故が起きた、いわくつきの部屋を指す「事故物件」。
この事故物件に住み、自身の体験を書籍にしている「事故物件住みます芸人」である、松原タニシの原作を、中田秀夫が映像化した『事故物件 恐い間取り』。
今回は、後半の展開に着目し「何故、山野は4軒目で襲われたのか?」を考察していきます。
CONTENTS
映画『事故物件 恐い間取り』のあらすじ
お笑いコンビ「ジョナサンズ」として活動している、山野ヤマメ。
山野は、相方の中井とコンビで活動していますが、10年やっても売れない為、中井に解散を突き付けられます。傷心のまま、帰宅しようとした山野に、ライブを見ていた小坂梓が話しかけます。
「ネタが面白かった」と絶賛する梓に、山野は「もう使わない」と、コントで使ったビニール傘を渡します。
一方でテレビ番組プロデューサーの松尾にも挨拶に行った際、中井が新たに放送作家として活動を開始する事を知った松尾は、視聴率が低迷している自身の番組の企画案を出させます。
ですが、中井の提案は使えない企画ばかりで、がっかりした松尾は、その場を退席しようとします。何とか松尾を引き留めたい、中井が提案したのは、同期の芸人から聞いた事故物件の話です。
ある事故物件に住んだ芸人が、精神に異常をきたし、最後は芸人を辞めて実家に帰ってしまったという話なのですが、それを聞いた松尾は、ピンで仕事も無い山野に、事故物件に住んで、その様子を撮影させるという企画を考えます。
最初は戸惑っていた山野ですが、松尾が事故物件を見つけて来たので、仕方なく事故物件に住む事になりますが、それがすべての恐怖の始まりでした…。
映画『事故物件 恐い間取り』感想と評価
映画『事故物件 恐い間取り』では、テレビ番組の企画で、無理やり事故物件に住む事になった芸人、山野ヤマメが遭遇する数々の恐怖を描いています。
そして、一見すると無関係に思える、4つの事故物件エピソードを、謎の黒装束姿の男が1つに繋いでいる事が、本作の特徴です。
黒装束姿の男は、一軒目からその姿を見せていますが、霊感の強い梓しか、その存在を感じる事はありませんした。
しかし、事故物件4軒で、黒装束姿の男は、山野の前にハッキリを姿を見せて襲い掛かってきます。
何故、黒装束姿の男は山野に4軒目で襲ってきたのでしょうか?
それは、山野が事故物件に関する感覚が麻痺してしまい、「あの世に連れて行かれる」条件が揃った為と思われます。
事故物件の1軒目
まず、事故物件1軒目では、山野は自分が住むマンションに貼られている「6階立ち入り禁止」の張り紙に反応するなど、かなり事故物件を恐れていました。
いわくつきの場所になんて、ほとんどの人が住みたくないはずなので、これは当然の反応でしょう。
ですが「事故物件芸人」として需要が増えていく中で、山野は事故物件に住む事を「ネタ」として考えるようになります。
1軒目の事故物件で、交通事故に遭った時点で、普通は怖くなり辞めますが、世間の反響が大きかった事で、山野は逆に手応えを感じるようになります。
さらに山野の事故物件に関する恐怖が、麻痺している事が分かる印象的な場面があります。
事故物件の2軒目
2軒目の事故物件で、中井の携帯電話に入っていた謎のメッセージが、前にこの部屋で亡くなった老婆の、最後の言葉と分かり「これはネタになるぞ」と呟く場面です。
この時点で、山野は事故物件での怪現象から、逃げる事を考えるどころか「事故物件芸人として、ネタになるか?どうか?」の判断しかしなくなっているのです。
「事故物件慣れ」をし始めた事で、一般の人間と感覚がズレ始めている事が分かりますね。
事故物件の3軒目
そして3軒目で、山野は無意識に首にベルトをかけて、前の住人と同じように首つり自殺を図ります。
梓により助かりますが、山野が事故物件に住み続ける事で、徐々に精神が病んでいっており「あの世との波長が合い始めた」そんな印象すら抱きます。
急展開する4軒目の事故物件
そして、問題となる4軒目の事故物件で、山野が恐怖に対して、感覚が麻痺している事が露呈されます。
引っ越してすぐに、誰もいない場所でセンサーが反応して、ライトが点灯したり、部屋のドアが勝手に開いたりするのですが、山野は気にする様子を見せません。
それどころか、事故物件の中から、ライブ配信を始めるという行動に出て、完全に霊現象をネタにするようになります。
山野と距離を置くようになっていた梓が、そのライブ配信を見て異常な空気を感じますが、この時点で、山野は「事故物件の住人」として馴染んでしまい、幽霊に近い側の存在となってしまっているのです。
そして、そのタイミングで、黒装束姿の男が現れ、山野を「あちら側」に連れて行こうとしたと読み取れます。
映画『事故物件 恐い間取り』は、4軒の事故物件での恐怖を、オムニバスのように見せる作品ですが、山野が事故物件に対して、警戒心が無くなり、心が病んで、あの世に連れて行かれる条件が揃っていく様子を、一貫して表現していたのです。
4軒目という数字が「死」を暗示させる為、そこも不気味な感じがしますね。
まとめ(不動産の女社員・横水の変死を解説)
本作で黒装束姿の男に、狙われるキャラクターがもう1人います。
事故物件を専門に扱っていた不動産の社員、横水です。
事故物件は、一度でも人が住めば告知義務が無くなる為、横水は山野に事故物件を勧めまくっていました。
他所から見れば、とんでもない事をしているように見えますが、最後に中井が山野の所へ駆け付けたのは、横水の指示でした。
もしかすると、横水は黒装束の男の存在に気付き、どこかで除霊を狙っていたのかもしれません。
そして、その除霊の為の囮として、山野を使い続けていたとも解釈できます。
そう考えると、ラストで黒装束の男によって、命を奪われた横水は、完全に敗北してしまったと言えます。
事故物件は、創作物ではなく、実際に存在している物件です。
そこには、人間では太刀打ちできない、特殊な存在がいるのかもしれません。
面白半分で事故物件に関わって、作中の山野のように、幽霊と波長が合わないように気を付けましょう。