タイ古来の呪物「フンパヨン」をめぐるホラー映画が誕生!
タームは出家した兄のティーに会うため、ドンシンタム島の寺院を訪れます。すると「ティーは僧侶を殺し、逃亡した」と告げられます。
兄がそんなことをするわけがないと思ったタームは、兄の失踪について調べ始めます。しかし島では、恐るべき出来事が次々と起こり始めていきます。
タイに古来から伝わる呪物「フンパヨン」をモチーフにしたホラー映画『フンパヨン 呪物に隠れた闇』。
タイのドラマ『Lovely Writer The Series』(2021)『Step by Step』(2023)に出演し「Up」の愛称で親しまれるプーンパット・イアン=サマンと、『The Gifted Graduation』(2020)『Fish Upon the Sky』(2021)に出演し「Phuwin」の愛称で親しまれるプーウィン・タンサックユーンの若手俳優2人が共演しました。
また監督を『祟り蛇ナーク』(2020)のポンタリット・チョーティグリッサダーソーポンが務めています。
映画『フンパヨン 呪物に隠れた闇』の作品情報
【日本公開】
2024年(タイ映画)
【原題】
Hoon Payon
【監督】
ポンタリット・チョーティグリッサダーソーポン
【キャスト】
プーンパット・イアン=サマン、プーウィン・タンサックユーン、クナティップ・ピンプラダブ、プーリパット・ウェーチャウォンサーデーチャーワット、タソーン・クリンニウム、パンナウィット・パッタナシリ、ワラティップ・キッティパイサン
【作品概要】
「フンパヨン」とは、釈迦の時代から存在する一種のお守りのこと。呪術師によっては呪いを込めることも、身を守るものにもなるフンパヨンですが、果たして本作に出てくるフンパヨンに込められたものとは……。
人気急上昇中のタイの若手俳優プーンパット・イアン=サマン、プーウィン・タンサックユーンが共演するほか、ホラーコメディ「Make Me Shudder」シリーズ(2013〜2015)のクナティップ・ピンプラダブが出演。
『祟り蛇ナーク』(2020)のポンタリット・チョーティグリッサダーソーポンが監督を務めました。
映画『フンパヨン 呪物に隠れた闇』のあらすじとネタバレ
タームは、出家した兄のティーに会うためにドンシンタム島の寺院を訪ねます。船を降りたところで出会った純粋な青年のテに案内してもらい、森の中の寺院へと向かいます。
僧長に「ティーは前の僧侶を殺して行方不明になっている」と知らされ衝撃を受けるターム。兄がそんなことするわけがない、何があったのか知りたいとタームは寺院に残り、調べることにします。
正義感の強いタームは、テを虐める僧に食ってかかり、何かと問題を起こします。余所者のタームをよく思わない僧もいる中、ティーを慕っていた少年僧のブリーズをはじめウンらなどはタームに協力してくれます。
タームは信心深い村の人々に疑問を感じ、皆が慕う人の形をした像「ポープー」に、力があるなら自分に見せてみろと挑戦を突きつけ、その供え物を壊してしまいます。
そんなタームに、人形師のジェットは「信じなくてもいい、否定するな」と言います。
映画『フンパヨン 呪物に隠れた闇』の感想と評価
紛れ込んだ悪と純粋過ぎる悪
古来から伝わる呪物「フンパヨン」をモチーフとしたタイのホラー映画『フンパヨン 呪物に隠れた闇』。
本作では、生身の人間からフンパヨンを作り操る「人形師」こと住職の正体が、実は凶悪犯であったという犯人の種明かしにとどまらず、寺院で起こった殺人事件の真の犯人は、純粋な青年テの仕業であったという衝撃の事実が最後に明かされます。
両者の悪は目的も求める欲求も大きく異なっています。人形師の場合は、享楽殺人に近い殺して操ることを目的としています。しかしテの場合は、自分が悪いことをしているという認識のない純粋さがかえって恐ろしく「無垢なる悪」といえます。
ミーナーは自分のもの、テを殴ったやつに報復する……それによって越えてはならぬ一線を超えたことに無自覚なテは、周りにとってもピュアで無害な人間だと思われています。
一方で「人形師」であった住職は修行をした僧ではなく、その正体は更生のため寺院にやってきた前科者でした。生身の人間を使って人形を作って捕まった住職は、更生のためやってきた寺院で邪魔者を排除して現在の地位についたのでしょう。
ティーはその正体を知り、このまま彼を野放しにはできないと真実を明らかにしようとしますが、殺されてしまいます。グラーも住職が正式な僧ではないことや、ティーが殺された真相も薄々感づいていましたが、秩序が乱れることを嫌い、隠蔽しようとする地元警察らの圧力に負け、口を閉ざしてしまいます。
ティーのような勇気が出なかったことを悔やんでいたグラーは、兄と同じように「そういうもの」と見て見ぬふりすることができず、ぶつかっていくタームの姿に目を覚まさせられたのです。
信心深い村人たちの事なかれ主義、閉鎖的な社会がテのような無垢なる悪を生み出した側面もあります。テはその純粋さを利用されたり、純粋ゆえにバカにされ抑圧も受けてきました。
村社会の人々の深層心理と、森の中にある寺院、大量のフンパヨンとアジアホラーの独特な雰囲気が人々の恐怖を誘います。
まとめ
国民の約9割が仏教徒であることで知られるタイ。信仰の自由もありますが、地方の小さな村や島では、地域のコミュニティと寺院が密接に関わっている場所が大半でしょう。
またタイにおいて、男性は一生に一度は出家をして修行を積むとされており、出家が許されていない女性は、出家している家族がいると食べ物を納めたり、寄進をしたりするといいます。
地域にとって寺院が欠かせないものであると同時に、寺院にとっても人々の寄進は欠かせないもので相互に作用しているといえます。
『フンパヨン 呪物に隠れた闇』作中では、警察ですらも寺院とつながりを持ち、島の秩序を保つために真実が隠されてきました。
そんなコミュニティに対し、外部の者であるタームが真っ向からぶつかってきます。その結果タームの身にも危険が降りかかりますが、最後には彼の行動のおかげで、グラーはこれ以上見て見ぬふりをするわけにはいかないと真実に目を向けます。
さらに、これから寺院の立て直しをはかる決心もするグラー。外部の力によって解体されるのではなく、それによって内部の人々の意識が変わっていくという希望のある展開になっています。
それでもホラー映画らしく、衝撃の真実によってバッドエンディングを迎えることに……。
タイの宗教をベースに、おどろおどろしい森の中の寺院や石の像が襲ってくるという視覚的なインパクトによって恐怖を誘う演出と、タイ映画らしいエンタメ要素もあるホラーになっています。