Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ホラー映画

Entry 2019/11/21
Update

映画愛憎『ゴーストマスター』感想評価【カメラを止めるな類似比較】と“似て非なる親子世襲”を徹底解説

  • Writer :
  • 20231113

映画『ゴーストマスター』は2019年12月6日(金)より、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!

ホラーコメディとして始まりながら、“究極の映画愛”を描いた作品として話題沸騰中の映画『ゴーストマスター』。

映像企画発掘コンペ「TSUTAYA CREATERS’PROGRAM FILM 2016」で準グランプリを受賞。その後、各国の映画祭に出品され、世界の映画ファンから熱い支持をえた作品です。

2019年の夏、新宿シネマカリテで開催された、「カリテ・ファンタスティック! シネマコレクション2019」のクロージング作品として上映された作品が、待望の全国公開を迎えます。

今注目を集めるこの作品を、同じく撮影現場を舞台に集まった人々を描いた作品『カメラをとめるな!』との比較を通して、解説していきます。

映画『ゴーストマスター』の作品情報


(C)2019「ゴーストマスター」製作委員会

【公開】
2019年12月6日(金)(日本映画)

【脚本】
楠野一郎

【監督・脚本】
ヤングポール

【出演】
三浦貴大、成海璃子、板垣瑞生、永尾まりや、原嶋元久、寺中寿之、篠原信一、川瀬陽太、柴本幸、森下能幸、手塚とおる、麿赤兒

【作品概要】
安易な恋愛青春映画の撮影現場が、血みどろホラーの舞台へと変貌。やがて物語は映画製作への熱い愛を語り始める。怒涛のクライマックスへ向け突っ走る、ホラー・コメディ映画。

監督はアメリカ人の父と日本人の母を持つヤングポール。黒沢清監督に師事し、東京芸術大学大学院修了製作の映画『真夜中の羊』は、フランクフルト映画祭・ハンブルク映画祭で上映されています。

その後イギリスのレイダンス映画祭では、「今注目すべき7人の日本人インデペンデント映画監督」の1人に選出され、『それでも僕は君が好き』などドラマの演出にも活躍中です。

三浦貴夫と成海璃子が主演を務め、2人をとりまく撮影現場の俳優・スタッフ陣を、川瀬陽太・森下能幸・手塚とおる・麿赤兒など個性派俳優たちが固めます。

映画『ゴーストマスター』のあらすじ


(C)2019「ゴーストマスター」製作委員会

とある廃校で撮影中の人気コミック映画化作品、通称「ボクキョー」こと『僕に今日、天使の君が舞い降りた』。その現場には監督やスタッフからこき使われる、助監督・黒沢明(三浦貴大)の姿がありました。

日本映画代表する巨匠と同じ名を持つ黒沢ですが、本人はB級ホラー映画を熱烈に愛する気弱な映画オタク。今日も現場で散々な目に遭わされますが、いつか監督として映画を撮らせるとの、プロデューサーの言葉を信じて耐え忍んでいます。

黒沢の心の支えは、自分が監督として撮る映画『ゴーストマスター』の書き溜めた脚本。彼はそれを肌身離さず持ち、手を加え続けていました。

ところが「ボクキョー」の撮影は、主演人気俳優が“壁ドン”シーンに悩んで撮影が中断。皆の不満は黒沢へと集中します。それでも黒沢は、出演女優の渡良瀬真菜(成海璃子)に自分が撮る映画、『ゴーストマスター』への熱い想いを伝える事が出来ました。

ところが黒沢に対し、真菜は厳しい言葉を浴びせます。さらにプロデューサーは彼に映画を撮らせる気など無いと知り、黒沢は絶望のどん底へと突き落とされます。

黒沢の不満と怨念のような映画愛は、『ゴーストマスター』の脚本に憑依します。悪霊を宿した脚本は、キラキラ恋愛映画の撮影現場を、血みどろの惨状に変えてゆきます。

どうすればこの恐怖の現場から逃れられるのか、悪霊と化した脚本を浄化させる事ができるのか。残された者たちの、映画への情熱が試される…。

映画『ゴーストマスター』VS.『カメラをとめるな!』比較


(C)2019「ゴーストマスター」製作委員会

インディーズ映画ながらSNSで話題となったた「カメ止め」こと、『カメラをとめるな!』と『ゴーストマスター』は、共に撮影現場を舞台にした映画作品です。

同じ状況を描いていますが、全国公開こそ後になったものの、製作は『ゴーストマスター』の方が先でした。ですが長時間のワンショット・シーン撮影と、その舞台裏を描いた「カメ止め」と、劇映画として製作された『ゴーストマスター』は大きくスタイルが異なります。

どちらの作品も、無茶な要求に悪戦苦闘する人物を面白おかしく描いています。それが「カメ止め」では濱津隆之演じる監督であり、『ゴーストマスター』では三浦貴大演じる助監督・黒沢明(もちろん、巨匠・黒澤明監督のパロディ)です。

期せずして似た設定とホラー映画への愛情持つ、2本の映画がほぼ同時期に製作されていたのですが、この2人の主人公の設定が大きく異なります。

「カメ止め」の監督は再現ドラマの演出など、小さな撮影現場を数多くこなしつつ、妻と共に一人娘を育てたマイホーム的な人物。仕事のモットーは「早い、安い、質はそこそこ」と公言してはばからない、状況に妥協しつつ撮影する人物です。

一方『ゴーストマスター』の助監督は、いつか自分の作品が監督できると信じ、それに映画オタクらしい気弱な生活も相まって、周囲の理不尽な扱いに耐え忍んで現場に立っています。

いつか自分が監督する映画の脚本を、肌身離さず持っていることが、彼の過酷な日々の支えになっていました。『ゴーストマスター』の脚本は何度も書き直された結果、今や第42稿と、縁起でもない力作になっていました。

この両者がそれぞれの撮影現場で、性格の異なる大きなトラブルに見舞われるのですが…。

映画作りへの情熱と憎しみ


(C)2019「ゴーストマスター」製作委員会

「カメ止め」の監督は、安請け合いしたノーカット生中継のゾンビドラマの撮影現場で、次から次へと発生するトラブルにブチ切れ、それでも作品を完成させるべく奮闘する内に、映像作家としての情熱が呼び覚ます。

ところが『ゴーストマスター』の助監督・黒沢明は、撮影現場で自分の才能を否定され、そして映画監督になる夢が断たれたと思い知らされます。絶望の果てに彼の映画に対する愛は怨念に替わり、それが自作の脚本に憑りいたのです。

怨霊と化した脚本は、“壁ドン”演技に悩む主演男優に憑依し、この作品を完成させろと要求します。実にトンデモな展開ですが、B級ホラー映画を愛する者には大アリの物語です。

「カメ止め」は周囲の状況から無茶な撮影が開始され、それが主人公の映画愛に火を付けますが、『ゴーストマスター』は主人公の黒沢明が持つ激しい映画愛こそが、悪霊の望む無茶な撮影の原因となりました。

こうして始まった『ゴーストマスター』の撮影は、主人公の助監督の怨念が生んだ、映画が完成するまで脱出不能の、B級ホラー映画ならではの過激な血みどろの惨劇の現場となります。

「カメ止め」で撮影現場で奮闘する監督の姿は、同じ映像作家の道を歩もうとした一人娘の心を掴み、親娘で困難な映画撮影に臨んだことで、2人の関係と映画への情熱は大き成長を遂げます。

そしてワンショット撮影という困難なミッションの達成は、現場に集まったスタッフ・俳優たちに一体感を与え、バラバラな思いで集まった人々は映画撮影を通して1つになり、笑顔でラストを迎えます。

では、『ゴーストマスター』の助監督・黒沢明は、撮影を通してどのような変貌を遂げたのでしょうか。

過酷な現場で受け継がれる激しい愛憎


(C)2019「ゴーストマスター」製作委員会

家族の描写がない『ゴーストマスター』の助監督・黒沢明。日本どころか世界の映画史に名を刻む、巨匠“黒澤明監督”と同じ名を持つ人物です。

映画を愛する彼にとって、生まれた時からその名は呪いでした。撮影現場でイジられるのは当然ですが、自分の映画を作ることに対する執念も、巨匠と同様の激しいものになります。

彼の情熱は、コミック原作の安易な恋愛映画の現場で爆発します。悪霊と化した『ゴーストマスター』の脚本は、同じ現場で映画への情熱を燃やしていた人物、W主演の成海璃子が演じる女優・真菜や、たかが“壁ドン”シーンに思い悩む、イケメン主演男優らを巻き込みます。

こうして呪われた映画『ゴーストマスター』の撮影が開始されるや、現場は流血と共にブラックユーモアに包まれます。この様に紹介すると「カメ止め」同様、映画が完成すれば皆が幸せになれる、そんな映画を想像するのではないでしょうか。

そうではありません。劇中で助監督の黒沢は信頼し尊敬している、長年製作現場に立っていた古参スタッフから、映画作りへの愛情こそが、自身を不幸にした原因だと告白されます。

映画に対して、燃え上がるような愛情を持って撮影現場に立つ者は、その炎に焼かれるように、不幸になってしまうのです。

助監督の黒沢の疑似家族、精神的な父である巨匠“黒澤明監督”にも、思うように映画が作れない、自殺未遂まで起こした困難な時期を経験しています。それは思うような映画が作れず、意に沿わない現場でこき使われる、助監督の姿と彼の置かれた環境に重なります。

女優・真菜も、父の影響を脱しきれない2世俳優として不満を抱えていました。自分なりの女優としてのあり方を模索していますが、今回の映画の起用もその結果と知らされ、ショックを受けます。

『ゴーストマスター』の撮影を通し、映画製作の舞台裏の過酷さを思い知らされた、助監督・黒沢と女優・真菜。しかし映画は、それでも映画製作に関わり続ける情熱を燃やす、2人の姿を描きます。

ホラーコメディ映画であるこの作品が描いた一番の恐怖は、映画を愛する人を喰いものにする撮影現場と、それでも映画愛ゆえに、参加せずにいられない人々の姿です。

まとめ


(C)2019「ゴーストマスター」製作委員会

映画愛が生んだ悪霊に撮影を求められた映画が、完成に向かって突き進む姿を描いた作品が『ゴーストマスター』です。恐怖と困難の極みである撮影現場は、果たして登場人物に何をもたらしたのでしょうか。

助監督・黒沢明は自分の執念のような映画愛に殉じ、映画を完成させようとします。しかしその作品に彼が思い描いた形では、主演女優・真菜の姿は登場しません。真菜は彼女自身の、女優として思い描く姿を体現して変貌したのです。

黒沢と真菜は映画製作現場の過酷な環境、そして内に秘めた映画への強い愛情は、必ずしも自分を幸せにしないと学びました。

映画への激しい愛情は、同時に呪いでもある。2人はそれを自覚してなお、映画作りに関わる道を選びます。

ラストシーンの真菜の姿。それは女優としての今までの彼女自身を、今まで見て来た映画の枠を、様々な問題を抱える日本の映画製作現場を、そうやって完成した映画を安穏と見ている観客の姿勢を、このすべてへのメッセージを体現します。

『カメラを止めるな!』は親娘が困難な撮影を共にする事で、映画作りを次の世代へと継承した姿を、温かい視線で描いていました。

『ゴーストマスター』の黒沢と真菜は、自身の呪いである映画への愛情を再確認させられ、過酷な映画作りの困難を知ってなお、“親”たちと同じ姿勢で映画作りに臨む決意を示します。

共に映画製作の舞台裏を描いた、ホラー・コメディである「カメ止め」と『ゴーストマスター』。前者は優しいホームドラマ調の、家族を描いたコメディですが、『ゴーストマスター』はブラックユーモアと共に、先人たちの執念のような映画愛を、自ら受け入れた人々の姿を描きます。

それゆえにホラー映画ファンのみならず、全ての映画ファンの胸を打つ、涙なしでは見ることができない怪作になりました。

映画映画『ゴーストマスター』は2019年12月6日(金)より、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!






関連記事

ホラー映画

ホラー映画『NOCEBO ノセボ』あらすじ感想と評価解説。“ビバリウムのロルカン・フィネガン監督”の描いた「幸せの絶頂」にいた家族の怪異な恐怖

映画『NOCEBO ノセボ』は2023年12月29日(金)より全国順次公開! 『ビバリウム』のロルカン・フィネガン監督によるホラー映画『NOCEBO ノセボ』。 幸せの絶頂にある一人の女性が遭遇した予 …

ホラー映画

『ファウンダーズデイ殺戮選挙』あらすじ感想評価。スラッシャームービーの欲望渦巻く秀作!

映画『ファウンダーズデイ/殺戮選挙』は2024年9月20日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷他で全国順次公開! 国であったり県であったりと規模に大小はあれど、特定の集団の長を決める「選挙」の期間は …

ホラー映画

【ネタバレ感想】ハロウィン(2018)|ホラー映画の怖さとオススメな魅力の根源を再認識せよ

映画『ハロウィン』2019年4月12日(金)全国ロードショー! 1978年ジョン・カーペンター監督の手によって生み出された、ホラーアイコン“ブギーマン=マイケル・マイヤーズ”。 シリーズ誕生40周年の …

ホラー映画

映画『コンジアム』最後までネタバレ考察と評価。実在の廃病院で撮影⁈動画配信で描くリアリティとは

世界七大心霊スポットにも選ばれた「昆池岩精神病院」を知っていますか? 昆池岩(コンジアム)精神病院。京畿道広州市にあるこの精神病院は、20年以上前に廃業し廃墟になってからこの病院は不気味な噂が絶えませ …

ホラー映画

The Mortuary Collection/葬儀館のコレクション|ネタバレあらすじと感想。ラスト結末の解説も【死体に纏わる残酷ホラーをファンタジックに描く】

《全ての死には物語がある》 幻想的な『葬儀館のコレクション』は奇妙な葬儀屋が語る、死体にまつわる残酷で悲劇的な物語たちを描いたオムニバス・ファンタジーホラー映画。 脚本・演出を担当したライアン・スピン …

Cinemago|想像力の海へ、シネマダイビング。
ACT1|次の物語は、人からはじまる。
Cinemagoオンラインショップ|DVD・鑑賞チケット・オリジナルグッズ
『血を吸うスマトラオオコンニャク』
【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学