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Entry 2021/03/06
Update

ホラー映画『カムプレイcomeplay』ネタバレ感想と結末解説あらすじ。スマホ越しに迫る“やばいガチ怖”の恐怖はデジタル社会に警鐘を鳴らす

  • Writer :
  • ジンリナ

デジタル社会ならではの“ミステリー・オンタクト・ホラー”!

2020年にアメリカで公開されたホラー映画『カム・プレイ』。

様々なスマートデバイスを通じて人々が常につながっている今の時代を反映し、スマートデバイスを介してのみ見える正体不明の怪物“ラリー”から逃げる母子の物語を描きます。

本作を手掛けたジェイコブ・チェイス監督が制作した短編映画『Larry』(2017)を原作とし、画面を圧倒する奇怪なクリーチャーにも驚かされる『カム・プレイ』。

韓国製英語(コングリッシュ)で表現するならば、“オンタクト(un-contact:非接触、非対面)”の時代を迎えた現代のデジタル社会でこそ“リアル”な恐怖を描いた本作は、「ミステリー・オンタクト・ホラー」という新たなジャンルを標榜しています。

映画『カム・プレイ』の作品情報


(C)2020FOCUS FEATURESLLC / STORYTELLERDISTRIBUTION CO.LLC.

【公開】
2020年(アメリカ映画)

【原題】
Come Play

【監督】
ジェイコブ・チェイス

【キャスト】
ギリアン・ジェイコブス、ジョン・ギャラガー・Jr、アジー・ロバートソン、ウィンズロウ・フェグリー、ジェイデン・マリーン、ギャヴィン・マックアイヴァー=ライト、ダルマール・アブゼイド、エボニ・ブース、レイチェル・ウィルソン、アラナ・アシュリー・マルケス

【作品概要】
映画『カム・プレイ』は、スマートデバイスを通じてのみ見える存在のターゲットとなった家族が、もう一つの逆転した世界から逃げようとする「ミステリー・オンタクト・ホラー」。

ジェイコブ・チェイス監督が演出を、『ヴィジョン/暗闇の来訪者』(2016)のギリアン・ジェイコブズと『アンダーウォーター』(2020)のジョン・ギャラガー・Jrが主演を務めます。

『アナベル:死霊人形の誕生』(2017)、『死霊館のシスター』(2018)などの制作陣、Netflixシリーズ「ストレンジャー·シングス」の制作陣の多くがスタッフとして参加しています。

映画『カム・プレイ』のあらすじとネタバレ


(C)2020FOCUS FEATURESLLC / STORYTELLERDISTRIBUTION CO.LLC.

オリヴァーは、自閉症児です。言葉を発することが出来ないため、他者との会話にはスマートフォンでの文字入力ならびに音声出力を利用しています。

彼は学校にも何とか通っているものの、スマートフォンが生活には必要不可欠でした。また定期的に母親のサラと病院への診療に通っていますが、そこでも決して話すことはありません。

父親のマーティは毎日仕事漬け。それは家族のためでもありましたが、オリヴァーやサラとの心の距離は遠くなっていました。またオリヴァーの定期診療に関しても、いつも付き添うサラと仕事を優先するマーティはよく言い争っていました。

マーティは朝早くから夜遅くまで働き、家ではいつも寝るだけ。サラとも一緒に寝ず、ソファで一人寝る父の姿を、オリヴァーは見つめていました。

結局、翌朝にマーティは家から出ていき、家族は別々に暮らすことになります。

その日の夜、オリヴァーは自身のスマートフォン内にいつの間にかインストールされていた謎のアプリ「Misunderstood Monsters」で、友達を欲しがる“ラリー”という名の怪物の物語を読みます。

やがて、オリヴァーの周囲に不可解な現象が起こり始めます。夜寝ていても誰かの気配をそばで感じるようになりますが、そのことを話せないオリヴァーは恐怖から悪夢を見るように。そんな彼を、サラは慰めてくれます。

翌日、学校で授業を受けるオリヴァー。話せない為にスマートフォンを持って来ています。教師が問題を出すと、彼はスマートフォンで文字を入力し回答しますが、他の同級生達はそれが気に入りません。「何故、オリヴァーだけスマートフォンを使っていいのか」と。

放課後、オリヴァーはいつものように、お気に入りのスポンジ·ボブのアニメを一人スマートフォンで観ていました。

その時1人の同級生が、野原で会おうと言います。オリヴァーは喜んで野原に向かいますが、同級生の姿はどこにも見えません。すると、突然現れた3人の同級生にオリヴァーは囲まれ、3人にからかわれ始めます。

オリヴァーはスマートフォンで文字を打とうとしますが、3人のうちのバイロンはそれを投げ捨て、どこかへ行ってしまいます。オリヴァーは大切なスマートフォンを探しますが、見つけられませんでした。

その後、病院で言語治療を受けるオリヴァー。サラは、何があったか尋ねても答えない彼にもどかしさを感じていました。見守るしかない母に対し、オリヴァーは口は固く閉じたままです。

一方、マーティはいつもの残業中でした。彼は駐車場警備の仕事をしていましたが、顧客が置いていった紛失物から、充電切れのタブレットを見つけます。

スマートフォンを失ったオリヴァーの為に、マーティはタブレットを持って行きます。タブレットを受け取って喜ぶオリヴァーは早速充電をします。

オリヴァーの自閉症について、夫婦は改めて話をします。互いにより息子に寄り添うことを要求し合っても、仕事に忙しいマーティは「最善を尽くしている」と言います。サラも「自分だけが子供の面倒を見ている」と訴えます。

充電を終えたオリヴァーは、自室でタブレットを使って、カメラアプリで遊んでいました。そのアプリは人の顔を自動で認識した上で、仮面を着けるなど動画の加工・合成を行うものでした。

オリヴァーはアプリを通じて骸骨の仮面を被ってみます。面白がりながら部屋を回っていると、室内にいるのは自分だけのはずなのに、自身の横に「骸骨の仮面を被った何か」が映っているのに気づきます。驚いたオリヴァーはアプリから目を離しますが、アプリ上に映っているその場所には何もありませんでした。

翌朝、オリヴァーはタブレットでアニメを観ながら朝食を食べていました。そのタブレットに、以前読んだラリーという怪物の物語が、再び自動的に表示されます。「ただ友達が欲しい」「寂しい」と話しかけてきたラリーに、オリヴァーはびっくりしタブレットを隠します。

サラはその晩、オリヴァーが同級生と一緒に遊びたがっていることから、同級生3人とその中の1人の母親を家へ招待しました。その3人とは、オリヴァーをからかったバイロン達です。

就寝の時間、オリヴァーはタブレットの隠し場所を見つめています。そんな彼の視線に気付いたバイロン達は、隠し場所からタブレットを見つけます。

すると、例のアプリが自動的にラリーの物語を再生し始めます。ラリーは「友達が欲しい」というメッセージを送ります。怖がるオリヴァーをよそに、バイロン達は物語を読み進みます。

その時、キッチンの方から物音が。何かが確かにそこにいたのですが、その姿は見えません。

オリヴァーはタブレットを取り返し、カメラを起動してキッチンへと向けます。そこにはキッチン内で、背中を向け座り込むラリーが映し出されていました。

ラリーを目撃してもその存在を信じないバイロンは、オリヴァー達の制止を無視し、ラリーのいる位置にまで行きます。するとラリーはバイロンを攻撃しました。

騒ぎを聞きつけたサラと友達の母親に、2人の友達は「オリヴァーのせいだ」と言います。そのせいでサラは駆け付けたバイロンの母親や他の同級生の母親達に責められます。そしてサラの謝罪も無視し、バイロンとその母親達はそのまま家を去ります。

翌日の教室、やはり学校に来なかったバイロンの席を見るオリヴァーは、彼のことを心配していました。

以下、『カム・プレイ』ネタバレ・結末の記載がございます。『カム・プレイ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2020FOCUS FEATURESLLC / STORYTELLERDISTRIBUTION CO.LLC.

サラは買い物を終えて帰宅。室内の片付けをしようとすると、置いてあったタブレットにラリーの物語が表示されますが、サラは消してしまいます。しかし彼女目を離した隙に、タブレットは勝手に別の場所へ移動していました。

その時、故障していたはずの家の中の電灯が全て点きます。サラはマーティが修理したと思い彼の名を呼びますが、室内には彼女以外誰もいませんでした。

タブレットの画面が再び点き、再生されていく物語の中で、ラリーはサラにメッセージを送ります。そのメッセージを通じて、ラリーは「故郷の世界」に帰りたがっていること、その際にオリヴァーを連れて行こうと考えていることにサラは気付きます。

サラはオリヴァーの身の危険を感じ、急いで学校に向かい彼と合流します。すると、バイロンの母親から電話がかかってきたため、サラとオリヴァーはその足でバイロンの家まで行きます。

ラリーに攻撃されたバイロンは、その衝撃的な体験のせいで酷く怯えていました。そんな状態の彼に対して、オリヴァーは一緒にアニメを観ようと慰めます。

その結果、言葉を発せないオリヴァーの代わりに、バイロンが母親達にラリーの存在について話すことに。改めて「オリヴァーを失うかもしれない」と思い知らされたサラは、別居中のマーティの住居へと避難することにします。

避難のため荷物を纏めるサラを待つオリヴァーは、タブレットでラリーを探します。そしてラリーがベッドの横にいることに気づきます。

自身の居場所に気づいたオリヴァーに、ラリーは「来い」と手振りをします。オリヴァーは近づいていきますが、「早く来なさい」とサラの声を聞き、オリヴァーは下階へと向かいました。

マーティの住居へ訪れたサラとオリヴァー。ですがサラの真剣な訴えにも、マーティはラリーの存在を信じてくれません。そしてサラに休養を勧めると、マーティは勤務先へオリヴァーを連れて行きます。

警備室で、マーティはタブレットでラリーの物語を見ました。怖がるオリヴァーに、マーティは声を出して読み進めていきます。しかしラリーからのメッセージを見ていくうちに、サラが訴えていた‟怪物のラリー”が、実際に存在するとマーティは感じ始めます。

その時、オフィスの電灯が故障します。怯えるオリヴァーに、マーティは「いつもあることだから大丈夫」と言い聞かせます。

電灯を直している間に外へ出たオリヴァーは、自分の前に何かがいる気配がしたため、以前マーティに貰った、赤外線レーザーに当たった対象との距離を測定できる距離計を使ってみます。

すると目の前には誰もいないのにも関わらず、距離の数値がぐんぐんと下がります。

最初は100m。そして80m、20m、1m……。

そこにマーティが現れ、オリヴァーを抱きかかえて警備室に連れて行きます。

警備室に戻りタブレットを手にしたマーティの背後で、オリヴァーの体は宙に浮きます。マーティがタブレットを構えながら振り向くと、ラリーがオリヴァーを抱き上げていました。咄嗟にラリーからオリヴァーを奪い返したマーティは、急いで家へと戻ります。

完全にラリーの存在を信じたマーティは、サラに先刻起きた出来事を明かし解決策を考えます。マーティとサラはタブレットを破壊し「もうラリーは現れない」とオリヴァーに言います。

安堵したのも束の間、警備室で勤務中のマーティの前に、ラリーはテレビの画面を通じて現れメッセージを送ります。

「故郷に帰る時間だ」「時間があまりないから、私を邪魔するなら、ただじゃおかない」と言いながら、電気系統を故障させ扉も閉めてしまいます。

マーティは隠れながら、スマートフォンでラリーの姿を確認します。そしてタイミングを見て逃げ出し車に乗り込みますが、ラリーは車内に侵入しマーティを攻撃して怪我を負わせました。

病院からマーティの容態を伝えられたサラは怒りを抑えられず、家にある全ての液晶テレビ、ラジオ、スタンド、電灯をぶっ壊します。

しかし、壁掛けテレビを通じてラリーが出現。「世界の人々が画面だけ眺める世の中になった」と語りながら、「一緒に故郷に帰ろう」とメッセージをオリヴァーに告げます。

自身も友達がいなく、スマートフォンだけを見ていたオリヴァーは「ラリーの友達になり、ラリーの故郷へ行く」という選択を考えてしまいます。しかしサラは「パパが怪我をしたの。ラリーのせいで」と彼を諭します。

サラは自分だけでもオリヴァーを守ると決心し、ラリーにオリヴァーを奪われるなど許せないと誓いますが、オリヴァー自身は「ラリーの友達になりたいけど、両親の元は離れたくない」という思いの中で葛藤を続けていました。

ラリーは捨てられた液晶テレビ等の画面から現れ、家の中へと侵入します。オリヴァーを探しさまよう中、サラとオリヴァーは隠れます。

ベッドの下に潜んでいる間、自閉症児のオリヴァーは怖がりながら「野原」と言います。野原にはデジタル機器どころか電気も通っていないため、ラリーがそこに来ることは不可能だったのです。

二人に気づき顔を覗き込ませてきたラリーに戦慄しながらも、サラとオリヴァーを家から逃げ出し野原へと向かいます。

オリヴァーはサラの手を引っ張り野原に辿り着きますが、そこは以前、バイロンがオリヴァーのスマートフォンを投げ捨てた場所でした。そのスマートフォンを通じて、ラリーは野原にも出現します。

二人は死に物狂いで走り出しラリーから逃れますが、その途中でサラの手を離してしまったことで、オリヴァーは一人になります。

そこにラリーが再び出現し、オリヴァーに「一緒に行こう」と手を差し出します。オリヴァーは思わずその手を握ろうとしてしまいます。

その瞬間、サラが現れてラリーが差し出した手を代わりに握ります。そしてラリーに対し「私が友達になってあげる」と言い放ちます。

オリヴァーは、初めてサラの目を見ます。オリヴァーが目を見てくれたことに喜んだサラは「愛しているわ」「私があなたをいつも守ってあげる」と微笑みながら語りかけます。

しかし、その言葉を言い終えるとサラの顔は醜く変化し、彼女はラリーに「故郷の世界」へと連れてかれてしまいました。

それ以来サラは行方不明扱いとなり、ラリーに負わされた怪我から回復したマーティは、オリヴァーの定期診療に付き添います。その中で、サラが今までどれ程の苦労をしていたのかをマーティは実感します。

その日の晩のこと。寝ていたオリヴァーは、何かの気配を感じ目覚めました。オリヴァーは階下へと降りて行きます。やがてマーティも異音で目覚め、ゆっくりと階下へ様子を見に行きます。

オリヴァーは一人宙に浮きながらも楽しそうにしています。マーティがスマートフォンのカメラを向けてみると、そこにはオリヴァーとサラが遊ぶ光景が映し出されていました。

オリヴァーに「ママがあなたをいつも守ってあげる」と語りかけるサラに、マーティは涙ぐみながら微笑みました。

映画『カム・プレイ』の感想と評価

(C)2020FOCUS FEATURESLLC / STORYTELLERDISTRIBUTION CO.LLC.

作品の魅力を際立たせるためのミステリー(謎)

スマートフォン、タブレットなど、様々なデジタル機器なくしては成り立たない現代社会を舞台に、恐ろしい存在との避けられない対決を描いた映画『カム・プレイ』。従来のホラー映画の枠を超え、デジタル社会ならではの“リアル”な恐怖を表現し注目を集めた作品です。

その一方で、基礎にミステリー(謎)を据えた物語の展開は、いわゆるハウスホラー(家という“密室/擬似密室”に出現する恐怖を描いた作品)としての本作の魅力、何よりも謎多き怪物ラリーの魅力を一層際立たせています。

特にスマートフォン内のアプリが起動した瞬間表示される《別のひっくり返った世界と繋がります》というメッセージは、未知の怪物がさまよう異界とデジタル社会としての現実世界が結合し、恐怖とその謎の物語が始まったことを観る者に感じさせ、その好奇心を増幅させます。

制作陣のこだわった怪物の造形

(C)2020FOCUS FEATURESLLC / STORYTELLERDISTRIBUTION CO.LLC.

本作に登場する怪物ラリーのように、映画で登場する‟未知の存在”は大抵、登場人物達がそれを幻影や妄想の類と錯覚してしまうかように曖昧に描かれることが多く、その中でも、CG技術が発展した現在の映画界では、映画に登場する‟怪物”の大半はCGで表現されることが主流となりつつあります。

しかしジェイコブ・チェイス監督は、「デバイス画面上でのみ映し出される怪物の威圧的な面貌は、CGではなく‟現実世界に確かに存在する、3次元の立体物”で表現してこそ、登場人物達の体験する恐怖をよりダイナミックに伝えられる」と考えました。

チェイス監督とプロデューサー陣は、最高の実写模型製作会社を訪問し怪物の造形について相談しました。その中で特に重要視されたのは、身長2.7mと巨大な怪物の‟動き”でした。

彼らは人とは全く異なる怪物ラリーの奇妙な‟動き”を表現すべく、細部まで精魂を注ぎました。アルミニウム、ラテックス、ゴムなど多様な素材を使用して造形された皮膚はシワなどグロテスクな部分までをも描写し、スプリングで怪物の脊椎にあたる部分を形作ることで、その巨体ゆえに表現するのも高難度となる怪物の‟動き”を自然に表現することが出来ました。

その結果、まるで目の前の現実に本当に存在しているかのようにリアルな怪物ラリーのビジュアルは、観る者の心拍数を一気に高め、「デバイス画面上でのみ映し出される怪物」という斬新な設定にリアリティを持たせています

オリヴァー役アジ・ロバートソンが演じる“至上の恐怖”

(C)2020FOCUS FEATURESLLC / STORYTELLERDISTRIBUTION CO.LLC.

主人公オリヴァー役を務めたアジ・ロバートソンは、第92回アカデミー賞受賞『マリッジ・ストーリー』(2019)で、アダム・ドライバーとスカーレット・ヨハンソンの息子役で出演しました。その時の彼を見て、スティーブン・スピルバーグが直接本作への出演を推薦したそうです。

アジ・ロバートソンの大きな瞳から、観客は目が離せないでしょう。そして彼の演技を通じて表現される、言葉を発せないがゆえの孤独、孤独ゆえに増幅されていく怪物への恐怖には、誰もが「実際に自分がその状況下にいるのでは」と錯覚する程の没入度を体感することになります。

オリヴァーは現実の世界に触れるための手段として、スマートフォンやタブレットの画面上に広がる世界、限りなく現実に近い現実が展開される世界を利用していました。しかしその世界が突如、現実とは全く異なる未知の異界と化し、自身に襲いかかってきたとしたら、それ以上の恐怖はないでしょう。

作中では具体的なセリフが一切ないと言っていい中、表情と視線のみによってオリヴァーが体験する“至上の恐怖”と心情を表現したアジ・ロバートソンの演技には、息が止まる程に圧巻されます。

怪物ラリーの正体とは?

(C)2020FOCUS FEATURESLLC / STORYTELLERDISTRIBUTION CO.LLC.

尋常ではない孤独と恐怖に見舞われるオリヴァーに、「友達になろう」と手を差し出す怪物のラリー。あまりにも寂しいオリヴァーの心をスマートデバイス越しに狙うラリーの手口は、インターネット上で孤独に苛まれる人々に付け入る“怪物”のような人間を連想させます。

デジタル社会と化した現代社会では、誰もが何処かで見たことがある“怪物”じみた人間に似たラリー。ただ悪しき怪物というよりはむしろ哀れな生命体に見えるその怪物の姿は、外見は違えど実はその中身は人間と同じであり、孤独と恐怖に耐えられなくなった現代を生きる人々の“成れの果て”であるとも考えられます。

またラリーは作中「世界の人々が画面だけ眺める世の中になった」と語ります。人々はコミュニケーションをとらず、他者に向けるはずのその“目線”もスマートフォンなどのスマートデバイスの画面へと向ける状態を、『カム・プレイ』は作中でのオリヴァーの目線を通じて演出しています。

怪物ラリーとオリヴァーの目線の演出。そこには、家族や友人との関係性の崩壊を経て、自らを「自閉」する段階にまで至った現代人の状態、その先には怪物という“成れの果て”への変貌が控えているということへの警告を表しているのかもしれません。

まとめ


(C)2020FOCUS FEATURESLLC / STORYTELLERDISTRIBUTION CO.LLC.

映画の終盤、息子オリヴァーを何としてでも生かそうとする母サラの愛は、彼女に‟自己犠牲”を選ばせました。その選択に誰もが悲しみを抱いた一方で、ラストシーンで描かれる母子の光景には、母の愛とは‟異なる世界を超えてしまう”程に無限なのだという事実を観る者に魅せてくれました。

多くの人々がスマートデバイス上の世界に依存する、現代のデジタル社会でこそ“リアル”な恐怖を描いた本作。怪物ラリーは、まさにこのような社会とスマートデバイスが生んだ弊害を投影しています。

そしてチェイス監督は、デジタル社会ならではの“リアル”な恐怖の根幹にある“孤独感”という感情から、コミュニケーションの問題に直面した家族の物語、そして“孤独感”と立ち向かうための真摯な愛の姿を見出しました。その結果、斬新な設定のホラー映画であると同時に、心を打つ魅力的なドラマ性を持った本作が完成したのです。

デジタル社会を迎えた現代は、“オンタクト(un-contact:非接触、非対面)”の時代でもあります。そして2020年以降のリモートアプリなどの普及も相まって“オンタクト・ホラー”が世界各地にて多数制作され続ける中で、『カム・プレイ』はその完成度において一線を画しています。

オンタクトの時代に次元を超える“オンタクトホラー”を披露する本作は、まさに観るに値するホラー映画となっています。


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