映画『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』は、U-NEXTにて配信中
小説や映画化作品、ゲームに萌え系アニメの原作として、日本でもお馴染みのクトゥルフ神話。
怪奇小説家H・P・ラヴクラフトが生み出した創造神話は、彼の友人や信奉者の作家が著作で世界観を広げ、今や世界に影響を与える存在に成長しました。
ラヴクラフトはクトゥルフ神話的な作品だけでなく、自身がコズミック・ホラー(宇宙的恐怖)と呼んだ、SF的性格を持つ作品も発表していいます。
その代表的な小説、「宇宙からの色(異次元の色彩)」が、『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』として映画化されました。
未知の異常現象に向かい合うのは、個性派俳優ニコラス・ケイジ。異次元の恐怖がもたらす狂気を映像化した作品です。
CONTENTS
映画『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』の作品情報
【日本公開】
2020年(ポルトガル・アメリカ・マレーシア合作映画)
【原題】
Color Out of Space
【監督・脚本】
リチャード・スタンリー
【出演】
ニコラス・ケイジ、ジョエリー・リチャードソン、マデリン・アーサー
【作品概要】
アーカム郊外にある、自然豊かな田舎に移り住んだガードナー家。理想的の生活は彼らが住む地に落下した、隕石によって終わりを告げました。一家は心と体に影響を与える何かに翻弄され、静かな田舎暮らしは、極彩色に染められた悪夢に変貌します…。
『ハードウェア』(1990)や『ダスト・デビル』(1992)を監督し、『スキン・コレクター』(2017)の脚本の書いた、リチャード・スタンリーが手掛けた作品です。
主演は本作と同じく、イライジャ・ウッドが製作を務めた『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(2017)で、存在感を見せつけたニコラス・ケイジ。共演は『レッド・スパロー』(2018)、そして名作ホラー映画『回転』(1961)をリメイクした『ザ・ターニング』(2020)のジョエリー・リチャードソン。『ビッグ・アイズ』(2014)や『好きだった君へのラブレター』(2018)、続編『好きだった君へ P.S.まだ大好きです』(2020)の、マデリン・アーサーが出演しています。
映画『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』のあらすじとネタバレ
アーカムの西にある深い森。魔女の伝説が伝わる、忌まわしい場所と噂されていました。
森に現れた発電会社の調査員で学者のワード・フィリップスは、魔術の儀式で母の回復を祈る娘、ラヴィニア・ガードナー(マデリン・アーサー)と出会います。
彼女はこの森で父ネイサン(ニコラス・ケイジ)と母テレサ(ジョエリー・リチャードソン)、ベニーとジャックの2人の弟と暮らしていました。
ネイサンはガンを患ったテレサのため、自然豊かなこの地で父が遺した農場を経営し、アルパカを飼育していました。
テレサは病気に苦しみながらも、今もネットで株取引のコンサルタントとして働いています。こうして飼い犬のサムと共に、幸せに暮らすガードナー一家。
ある夜、彼らの家は怪しい光に包まれ、そして轟音が響き渡ります。家の前の庭に隕石が落下したのです。
怪しく光り、嫌な臭いを放つ隕石を目撃した一家。幼い息子ジャックは強いショックを受けました。
翌日通報を受け、アーカムの市長トゥーマと、ピアース保安官がやって来ます。そこに現れたワードを、隕石の落下現場に連れて行くラヴィニア。
市長に意見を求められたワードは、一般的な隕石なら害は無いと答えます。
ワードはベニーの案内で近くに住む変わり者の住人、エズラの家を訪ねました。
元電気技師で、世捨て人の様に暮らすエズラから、湧き出る水が黒く濁っていると聞かされたワード。
突然雷が鳴り響きます。激しく雨が降り、雷が何度も隕石に落ちました。
雷が直撃し怪しく光る隕石。ラヴィニアは隕石が雷を引き寄せたと呟きます。
同じ夜、採取した水を調査していたワードは、電波障害や機器の誤作動を体験します。そして森の中でうごめく、怪しい光を目撃したワード。
次の朝、ガードナー家の庭に落ちた隕石は消えていました。ネイサンとテレサは、庭の井戸の傍に見たことの無い花が咲いたと気付きます。
その夜、料理中に放心状態になったテレサは、指を切り落としました。
両親は病院に向かい、子供たちが農場に残されます。しかし彼らは奇妙な出来事を体験します。
井戸に向かい口笛を吹くジャックは、井戸の中にいる男と会話していると言います。そして何か奇妙な音を聞くラヴィニア。
父からの電話は雑音で通じず、井戸の中で何かを目撃したジャックの前に、地球上のものとは思えない昆虫が現れます。
何かの光に包まれたラヴィニアは、体調を崩して吐きました。
ガードナー家に現れたワードは、やつれたラヴィニアに水が汚染されていると告げ、飲まないよう警告します。
彼が井戸に向かって立つジャックに声をかけると、少年は友達と遊んでいると答えました。
ワードはエズラの家に警告に向かいます。現れた彼に録音した奇妙な音を聞かせるエズラ。
エズラは物音の正体は、床下にいるエイリアンだと言い張ります。彼の発言は理解し難いものでした。
その夜、指の接合手術を終え帰宅中のネイサンとテレサは、路上で奇妙な生物を目撃します。それはかつて、エズラの飼い猫だった生き物でしょうか。
ジャックは現れた怪しい光を魅入られたように見つめ、それに向かった飼い犬のサムは悲鳴を上げます。
奇妙な物音に悩まされラヴィニアは眠れず、ベニーは時間の感覚を失っていました。
帰ってきた両親はジャックの面倒を、ラヴィニアとベニーが見ていなかったと責めます。2人は事情を説明しますが、理解してもらえません。
何かが現れ、一家や農場に悪い影響を与えているとラヴィニアが訴えても、耳を貸さないネイサン。
ラヴィニアはベニーに、私たちはここから出て行かねばならないと呟きます。
家に戻りシャワーを浴びていたネイサンは、排水口にいた奇妙な生物に触れました。
夫と息子ジャックの奇妙な発言に、テレサも混乱します。徐々に蝕まれていくガードナー家の人々…。
映画『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』の感想と評価
『襲い狂う呪い』(1965)、ドイツ映画『宇宙の彼方より』(2010)と過去に映画化されている、ラヴクラフトの怪奇小説「宇宙からの色」。
『襲い狂う呪い』の主演は、フランケンシュタインの怪物を演じた怪奇スター、ボリス・カーロフ。
ゴジラシリーズの作品『怪獣大戦争』(1965)や、『フランケンシュタイン対地底怪獣』(1965)の、ニック・アダムスが出演した映画として知られています。
ゴシックホラーの香りを漂わせつつ、奇怪なクリーチャーが登場する隠れた傑作ホラー映画として、ファンから評価されている『襲い狂う呪い』。
それを新たに映画化したリチャード・スタンリーは、熱心なラヴクラフト信者です。
舞台の農場がアーカムの西にあるのは原作通りですが、ミスカトニックやダンウィッチといったお馴染みの地名が登場し、クトゥルフ神話ファンはニヤリとするでしょう。
魔術に傾倒している、ラヴィニアが持つ本は「ネクロノミコン」。ホラーファンなら嫌な予感しかしません。
事件を目撃する人物、”ワード・フィリップス”は、当然”ハワード・フィリップス・ラヴクラフト”から頂いた名前です。
劇中で彼はイギリスの古典的ホラー作家、アルジャーノン・ブラックウッドの「柳」を読んでいます。
ブラックウッドはラヴクラフトに影響を与えた小説家です。リチャード・スタンリーのこだわり、お判り頂けましたか?
彼はホラー映画『スキン・コレクター』の脚本を執筆しています。この映画にはバーバラ・クランプトンが出演しています。
バーバラ・クランプトンはラブクラフト原作のホラー映画、『ZOMBIO 死霊のしたたり』(1985)のスクリーム・クイーンとして記憶に残る人物です。
ラブクラフト映画への愛
2020年4月20日、バーバラ・クランプトンは「リチャード・スタンリー監督の新作を見たよ!」と、画像付きの謎かけツイートを行い、ファンの間で話題となりました。
『死霊のしたたり』も本作と同じく、クトゥルフ神話の本流から外れたSF的要素のある小説、「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」が原作です。
リチャード・スタンリーは『死霊のしたたり』を生んだ、80年代のホラー映画ブームから少し遅れて監督デビューしました。
彼にとってバーバラ・クランプトンは気になる存在で、ホラー映画界の同志であり、そして親しい間柄なのでしょう。
本作に登場するモンスターは、『遊星からの物体X』(1982)に登場した怪物に似ています。
同時に『襲い狂う呪い』や、バーバラ・クランプトンほか『死霊のしたたり』と同じスタッフ・俳優で作られた映画、『フロム・ビヨンド』(1986)からの影響を感じました。
『フロム・ビヨンド』もラヴクラフトのSF要素の強い小説、「彼方より(彼方へ)」を原作とした作品です。
ラブクラフトの大ファンだった母から、8歳か9歳頃作品を読み聞かされ(!)、以来熱心なラブクラフト信者となったと語るリチャード・スタンリー。
母は研究の為にアフリカに移住した人類学者で、この地で息子を育てました。彼が母親から様々な影響を受けたことは、いうまでもありません。
まとめ
クトゥルフ神話ファンは必見の映画『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』。
あなたの近くにラヴクラフトの愛読者がいれば、とっ捕まえてでも見せてあげて下さい。
本作はクトゥルフ神話を題材にしたテーブルトークRPG同様に、登場人物の”SAN値”(正気度ポイント)を激しく削る内容です。
狂気に陥る人物を演じるに相応しいのは、ニコラス・ケイジと誰もが認めるでしょう。劇中の様々な状況で、鬼気迫る演技を繰り広げたニコラス・ケイジ。
監督はその演技は全てコントロールされたもので、撮影現場を混乱させるもので無かったと話しています。
怪優ニコラス・ケイジを愛する人は、彼のパフォーマンスを大いに楽しんで下さい。
多くのホラー映画には、作り手が体験した本当の恐怖が潜んでいます。
リチャード・スタンリーに大きな影響を与えた母親は、ガンを患い10年の闘病の末に亡くなりました。
それを踏まえて鑑賞すると、ニコラス・ケイジ演じる主人公の振る舞いに、別の側面が見えてきませんか。
母が衰えた時、幼い頃とは逆に、自分が母にラブクラフト作品を読み聞かせた監督。
苦難の時期を支えたのはラブクラフトの小説であり、本作の製作は自分にとってカタルシスだったと監督は告白しています。