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映画『MEMORIAメモリア』ネタバレあらすじと結末の感想評価。アピチャッポン監督初の国外撮影で独特の世界観を描く

  • Writer :
  • 西川ちょり

音に導かれる記憶の旅路

『世紀の光』(2006)、『ブンミおじさんの森』(2010)などの作品で知られるタイの映画監督アピチャッポン・ウィーラセタクンの『MEMORIA メモリア』は、南米コロンビアを舞台にしており、監督が初めて国外で撮った作品として注目を集めています。

第74回カンヌ国際映画祭では審査員賞を受賞。タイ国史上初のパルムドールに輝いた『ブンミおじさんの森』に続き、カンヌ4度目の受賞を果たしました。

主役にティルダ・スウィントンを迎え、奇妙な衝撃音が聞こえるようになった女性の記憶の旅路が描かれますが、物語が進むに連れ、予想もつかぬ展開へとなだれ込んでいきます。

映画『MEMORIA メモリア』の作品情報


Photo: Sandro Kopp (C) Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF-Arte and Piano, 2021

【日本公開】
2022年公開(コロンビア、タイ、イギリス、メキシコ、フランス、ドイツ、カタール合作映画)

【原題】
Memoria

【監督・脚本】
アピチャッポン・ウィーラセタクン

【キャスト】
ティルダ・スウィントン、エルキン・ディアス、ジャンヌ・バリバール、ファン・パブロ・ウレゴ、ダニエル・ヒメネス・カチョ

【作品概要】
タイの映画監督アピチャッポン・ウィーラセタクンがティルダ・スウィントンを主演に迎えて、南米コロンビアを舞台に撮った作品。

奇妙な衝撃音が聞こえるようになった女性の記憶の旅路が描かれます。

第74回カンヌ国際映画祭では審査員賞を受賞し4度目の受賞を果たし、第94回アカデミー賞国際長編映画賞コロンビア代表に選出されました。

映画『MEMORIA メモリア』あらすじとネタバレ


Photo: Sandro Kopp (C) Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF-Arte and Piano, 2021

ある明け方のこと。眠りについていたジェシカは地球の核が震えるような不穏な音の衝撃で目覚めます。

その時は、何か工事でもしているのだろうと思っていましたが、どうやらその音は自分にしか聞こえないようなのです。

入院している姉の見舞いにボコタにやって来たジェシカ。姉は滾々と眠り、朝、ジェシカと話したことも忘れているようでした。

姉は、自分が病気になったのは、車に轢かれた犬を助けてあげられなかったせいだと語りました。

音は昼間にも聞こえ、何度も続けて聞こえるときもあります。ジェシカは録音スタジオを訪れ、音響技師のエルナンという男性に音の再生を依頼します。

いろいろ試しながら、ついにジェシカが納得できる音が出来上がりました。ジェシカは公園でエルナンと落ちあい、それを受け取ると、花用の大型冷蔵庫を見に、専門店へ向かいました。

「値段が高い」といって、契約せずに店を出たジェシカに、一緒についてきたエルナンが「出資してもいい」と言い出し、ジェシカは訝しがります。「店に戻ろうか?」とエルナンは尋ねますが、ジェシカはそのまま歩きつづけました。

妹が退院し、ジェシカは妹家族と一緒にレストランで食事をとっていました。義理の弟は妹に、仕事でアマゾンの部族の儀式の取材などに関わったせいで病気になったのではないかと話し続け、ジェシカが「病気は犬のせいと言ってなかった?」と妹に尋ねると、妹はそんなことは言っていないと否定します。

さらに、ジェシカが死んだと思っていた人を妹たちは生きていると言い、ジェシカはすっかり混乱してしまいます。この時もあの音が何度も頭の中で響いていました。

ジェシカは再びエルナンに会いに行きますが、録音スタジオの人々は口をあわせてエルナンなどという人物はここにはいないと言います。

音が聞こえるようになって以来、不眠に陥っていたジェシカは、妹が入院していた病院に行き、診察を受けることにしました。

音のことを話し、眠れないので薬を処方してほしいと頼みますが、医師は薬が手放せなくなってはいけないと慎重な態度を取ります。

その日、ジェシカは考古学者の女性アニエスと知り合い、トンネルから発掘された6000年前の少女の頭蓋骨を見せてもらいました。頭蓋骨には小さな穴が空いているように見えました。

そんな中、森の中を流れる小川の側を一人歩いていたジェシカにまたあの音が襲います。

あたりを見回しているジェシカの様子を見て「大丈夫か?」と声をかけた男がいました。魚の鱗取りをしていたその男はエルナンと名乗りました。

エルナンはジェシカにどこから来たのかと尋ねたあと、自分は村から出たことがないと語りました。さらに「自分は全てを記憶する。だからテレビも映画もみない」と言います。

「見逃したら惜しいものもあるかも」とジェシカは言いますが、「例えば?」と問われると、ありきたりなことしか言えません。

エルナンは「物語はどこにでもある」と石ころを指差して、「この石から男の声が聞こえる」と言い、「男の友人2人がやって来て、男を殴り宝石を奪い逃走。追いかけた男はまた殴られてしまった]と語ります。

岩や、木、石やコンクリートには記憶の波動が残っており、エルナンはその記憶を聞くことが出来るのだそうです。

「宇宙にいたことがある。ある恋人を見たら生まれたんだ」と意味のわからないことを言い始めたエルナンに、ジェシカは思わず処方された薬を差し出しました。

その時、ジェシカに過去の母親との記憶が蘇ってきました。ジェシカがまだ赤ん坊の頃の記憶です。

エルナンに「夢を覚えているの?」と尋ねると、「夢はみない」という答えが返ってきました。ジェシカは半ば強引にエルナンに眠って見せてくれと頼みました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『MEMORIA メモリア』ネタバレ・結末の記載がございます。『MEMORIA メモリア』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

エルナンは横たわるとすぐに眠ってしまいました。息をしているようには見えず、まるで死んでいるようでした。ジェシカは側に座り、長い時間そうしていました。

突然エルナンは目を覚ましました。ジェシカは彼の家に招かれ、自家製の酒を振る舞われました。

エルナンの部屋を見渡したジェシカはここを知っていると感じました。子どものころ、ベッドの下に隠れて、皆が自分を探した記憶が浮かび上がってきました。

しかしエルナンは、それは自分の記憶で君はここにはいなかったと言います。「君は俺の記憶を読んでいる。俺はハードディスクのようなもの、君はアンテナだ」というエルナン。

エルナンがジェシカの腕に手を置くと、ふいに窓の向こうから男の声がしました。それはさっき、エルナンがジェシカに語ってみせた石の記憶そのもので、争う男たちの声、暴力の気配や男たちの激しい息遣いが聞こえてきました。

その時、ドスンというあの音がまた聞こえました。ジェシカはエルナンから離れ、窓辺に立ちました。激しい風の音がしています。

風に揺れている森。その中から突然、奇怪で巨大な黒い物体が現れ、音と共に空中に飛び出していきました。

飛行物体を目撃したのか、道路にたたずむコロンビア軍の兵隊の後ろ姿。

発掘された6000年前の人間の骨には多くの菌が付着していると報告されています。また発掘現場には微妙なヒ素が混じっているのがわかり、人体への影響について論じられていました。

雲が広がる空の景色。雷鳴のような響きが木魂していました。

映画『MEMORIA メモリア』解説と評価


Photo: Sandro Kopp (C) Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF-Arte and Piano, 2021

カーテンが閉められた暗い部屋。突然、不穏な音が響き、ベッドに横になっていたらしき人物が起き出して画面に影として現れます。

この女性ジェシカを演じているのは、オスカー女優のティルダ・スウィントン。この音を聞くようになってからジェシカは眠れなくなってしまいます。

この設定はアピチャッポン監督自身が患った「頭内爆発音症候群」の経験に由来しますが、ジェシカはそれがそのような名がつく病気であることを知りません。

この音以外にも、駐車所に停まっている車の警報音が赤いライトを点滅させながら突然次々と鳴り出したり、街中で大きな音がしたかと思うと、突然男が身を伏せ、あたりを伺って走り去ったりというエピソードか重ねられます。

一体何が起こっていて、どんな音が聞こえてくるのか、観る者は意識を集中して耳をすませることになります。

コロンビアの街を歩くジェシカは、アピチャッポン監督の姿が投影されているとも考えられますが、音を共有している我々は彼女とある意味同化しているともいえ、彼女の一挙手一投足を我がことのように体感します。

しかし、ジェシカの前からこつ然と人がいなくなったり、妹と事実の把握に齟齬があったりと、彼女が不思議な体験をしていくに連れ、果たして本当にジェシカの周りに問題があるのだろうか、おかしいのは妹ではなくジェシカ自身では?というヒロインに対する懐疑的な気持ちが生まれ始めます。

このジェシカという人物はコロンビアにやってきた英国人なのですが、そもそも何をしている人物なのかがよくわかりません。

田舎で農園をしているらしいのですが、具体的な言及はありません。「菌」や6000年前の発掘物にも興味を示していますが、学者ではないと否定しています。どこか掴みどころのない人物と言わざるを得ません。

それに加え、アピチャッポン監督はこのジェシカという人物を、ジャック・ターナーの1943年の作品『私はソンビと歩いた!』に登場する生きる屍である砂糖園主の妻ジェシカからの引用であると言及しています。

美しく艶やかな姿ながら、意識のないまま農園内を彷徨うジェシカ。『MEMORIA メモリア』のジェシカも同じように意識混濁しているのでしょうか!? 謎めいた展開は非常にスリリングです。

ヒロインはいつしかコロンビアの森の奥へと導かれます。そこではさらに奇妙な人物が彼女を待っていました。

人の記憶や存在のあやふやさ、土や岩や石に潜む気配、そして突然聞こえてくる暴力の響きに驚いていると、しばらく固定されていたカメラがぐるっと回転し、予想もしなかった映像が立ち上がってきます。

なるほど、本作はSFだったのかとうなずく人もいれば、いや、これは何かのメタファーだろうと解釈したがる人もいるでしょう。

その大胆な発想と展開に、煙に巻かれたような、不意を突かれたような気分になりつつも、宇宙を含めた世界のあらゆる振動と息吹、万物にこびりついた歴史へと思いを導く、そのスケールの壮大さには驚きを隠せません

それでいて、非常に個人的な「記憶」を同時に思い起こさせる。まさに装置(ハードディスク)のような作品といえるかもしれません。

あるはずのないものが見えたり、死者と生者が交錯し合ったり、睡眠(しばしば眠り続ける)と不眠の関係といった事柄は、これまでタイを舞台にしてきたアピチャッポン映画で何度も描かれてきた魅力的な主題ですが、今回は、さらに「音」に集中して観ることで、アピチャッポン映画を新たに「発見」するのです。

まとめ


Photo: Sandro Kopp (C) Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF-Arte and Piano, 2021

アピチャッポン監督にとって、本作は主役のティルダ・スウィントンを始め、全てプロの俳優を使った初めての作品です。

映画は、都市部を描く前半と森の奥深くに入る後半とでがらりと雰囲気を変えます。どちらにもエルナンという男が出てきて、不可思議な体験をヒロインに与えます。

都市部のエルナンを演じたファン・パブロ・ウレゴも、川のほとりのエルナンを演じたエルキン・ディアスも、いずれもコロンビアで活躍する俳優です。

言語はスペイン語と英語が使われ、ティルダ・スウィントンはスペイン語も巧みに使用しています。

後半のエルナンとジェシカのやり取りは不可解なわけのわからなさと共に、どこかユーモラスなものを感じさせます。

とりわけ、エルナンが自分は宇宙人なのだというようなことを語った際にジェシカが彼に歩み寄り、医者を説得して貰った治療薬を差し出す場面などは、人を喰った妙なおかしさがあります。

また、謎の黒い物体は、エルナンが魚の鱗をずっと取っていたシーンが目に焼き付いているせいか、巨大な魚の頭のようにも見え、不思議な高揚感を誘います。

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