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【ネタバレ】Wの悲劇|あらすじ感想と評価考察。薬師丸ひろ子×三田佳子が女優の業を生々しく演じる!

  • Writer :
  • 谷川裕美子

名セリフに彩られた珠玉の人間ドラマ

『セーラー服と機関銃』(1981)の薬師丸ひろ子が主演を務めた、夏樹静子原作の同名小説を劇中劇におりこみ女優の業を生々しく描く名作『Wの悲劇』。

劇団の研究生だったヒロインが事件に巻き込まれ、身代わりの代償として主役を演じることとなったことから、真の女優へと成長していく様をスリリングに描きます。

共演は世良公則、高木美保、三田佳子。

数々の名セリフが観る者の心を虜にした本作の魅力をたっぷりご紹介します。

映画『Wの悲劇』の作品情報


(C)1984KADOKAWA

【公開】
1984年(日本映画)

【原作】
夏樹静子

【監督】
澤井信一郎

【脚本】
荒井晴彦、澤井信一郎

【編集】
西東清明

【キャスト】
薬師丸ひろ子、世良公則、高木美保、志方亜紀子、清水紘治、南美江、草薙幸二郎、堀越大史、西田健、蜷川幸雄、三田村邦彦、三田佳子

【作品概要】
夏樹静子の同名小説を本編の舞台劇として、若手女優の成長と恋を描く青春映画に昇華した一作。監督は澤井信一郎。本作で日本アカデミー賞で最優秀監督賞を受賞しました。

劇団のスキャンダルに巻き込まれた若手研究生のヒロインが、代償として重要な役を手にして成長していく様をリアルに描きます。

ヒロイン役の薬師丸ひろ子は、本作でアイドルからの脱皮を成功させ数々の映画賞を受賞しました。トップ女優役の三田佳子も圧巻の演技を見せ、日本アカデミー賞で最優秀助演女優賞を受賞しています。

ヒロインの恋人役を世良公則、ライバルの若手女優役を高木美保が好演。

映画『Wの悲劇』のあらすじとネタバレ


(C)1984KADOKAWA

女優を夢見て劇団「海」の研究員として日々芝居に励む三田静香。女優としての経験を広げるために、先輩俳優の五代淳と一夜を共にします。

翌日、静香は野外劇場で早朝に一人で演技を練習している中、森口昭夫という青年と出会います。

トップ女優の羽鳥翔と五代淳が主演を務める「Wの悲劇」が劇団の次回公演作となり、娘・摩子役が研究生の中からオーディションで選ばれることが発表されました。

オーディションの末に菊地かおりが選ばれ、静香にはセリフがひと言しかない女中役とプロンプター役が与えられます。

オーディションに落選して落ちこんで帰宅した静香を、花束を抱えた昭夫が出迎えました。そのまま飲みに行った後、二人は結ばれます。昭夫は真剣に静香に結婚を申し込みますが、静香は女優になる夢を捨てきれません。

大阪公演初日の舞台の後、静かな舞台に立ち思わずセリフを放った静香に、翔が声をかけて小遣いを渡しました。

その晩、ホテルの翔の部屋に礼を言いに寄った静香を、翔は自室へ強引に招き入れました。そこで静香はとんでもない事態に巻き込まれます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『Wの悲劇』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『Wの悲劇』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)1984KADOKAWA

部屋のベッドでは翔の長年のパトロンの堂原が死んでいました。翔は静香に、堂原が自分の上で突然死してしまったことを話し、自分の女優生命を守るために静香に身代わりになってくれるよう頼みます。

恐怖から逃げだそうとした静香でしたが、摩子役をあげるという翔の言葉を聞いて、思わず引き受けてしまいます。

堂原をパトロンに持つ研究生、という演技をマスコミの前でも見事に演じきった静香。翔はかおりの演技に難癖をつけて役から降ろし、約束通りに静香に東京公演から摩子役を与えました。

テレビで静香の記者会見を見た昭夫は、静香に説明しろと詰め寄りますが、彼女は何も答えられません。

そして迎えた公演。本番前に震える静香に向かい檄を飛ばす翔。そのおかげで自分を取り戻した静香は見事に演じきり、大成功をおさめました。

鳴り止まないカーテンコールに静香は精一杯応えます。最後列では昭夫が拍手を送っていました。

劇場を出た静香は大勢のレポーターらに囲まれます。後ろに昭夫を見つけた静香が駆け寄ろうとした時、役を奪われたかおりが姿を現しました。

かおりは事件の真相を知っていました。静香が翔の身代わりとなり、見返りに摩子役を手にした事実を大声でばらした後、ナイフを持って静香にめがけて駆け出します。昭夫が飛び出し、静香をかばって刺されてしまいました。

それから数日後。静香はアパートを引き払い、昭夫と住むはずだった家に立ち寄りました。そこにはケガが治った昭夫が不動産の仕事で来ていました。

もう一度やり直したいと言う彼に向かい、静香はこれからも芝居を続け、自分の人生を生きるために一人でやり直すと返事をします。

去って行く静香に大きな拍手を送る昭夫。静香は笑顔で振り返り、カーテンコールに応えるかのように一礼をしました。

映画『Wの悲劇』の感想と評価


(C)1984KADOKAWA

欲望のままに夢を追い求める女優の業

公開当時一世を風靡した人間ドラマです。今なお多くの根強いファンを持ち、数々の名セリフが観る者を魅了します。

夏樹静子原作のミステリーを劇中劇におくという演出が光ります。有名劇作家の蜷川幸雄氏が自ら出演。舞台劇の演出も手がけており、見応えある一作に仕上がっています。

劇中劇にリンクしたドラマが本筋で展開していくストーリーとなっており、ヒロインの若手女優・静香と、彼女をうまく操り身を守ろうとする大女優・翔の危うい関係性がとても魅力的です。

劇団研究生だった静香は、ヒロイン役のオーディションに落ちてしまいました。しかし、翔のとんでもないスキャンダルに巻き込まれ、翔の身代わりを引き受けることにより大役をつかむことに成功します。

描かれるのは赤裸々な欲望です。舞台への生々しい執着と野心。また、性に関してもかなりオープンで、全編通して動物的な熱気が漂っています

研究員の静香の必死な姿に、かつての自分を重ねる翔。しかし、かつて自分を手玉にとった権力者たちと同じく、若手らを自分の駒として扱います。

保身のために静香を身代わりに仕立て上げ、かおりからは容赦なく役を奪うことに、まったく罪悪感を感じる様子はありません。

ギラギラとした生命力にあふれ、それでいて上り詰めた者の悲しみも感じさせる大女優・翔を、三田佳子が圧巻の演技で魅せます

彼女が本番前に静香に向かい、「女優!女優!女優!」と檄を飛ばすシーンに心掴まれるのは、そこに本物の匂いがするからこそでしょう。

三田の演技に負けることなく、画面で輝きを放つ薬師丸ひろ子も見事です。薬師丸は間違いなくスクリーンで光る女優と言えるでしょう。

演技力や実力という言葉がかすむほど、スターというのは何もかもねじふせて光を放つ者を指すのだと痛感させられます。

薬師丸が演じたからこそ、特別美人なわけでもないごく平凡な女の子が「女優」になるための業を引き受けるドラマに感動が生まれたと言えるかもしれません。

まっすぐな心を持つ青年との恋


(C)1984KADOKAWA

自分の欲望を知り、女優としての成長を遂げていった静香。まっすぐに愛してくれる青年・昭夫との恋もまた、彼女を羽ばたかせるためのもう一つの大きな力となりました。

世良公則演じる昭夫はもともと演劇青年でしたが、どんな時も俯瞰して物事を見る自分を受け入れられなくなり、演劇の世界を離れていました。しかし、女優になることを夢見て懸命に生きる静香に思いを寄せるようになります。

現実と演劇の両方の世界を知る昭夫は、静香を応援したい思いと、芝居をやめて自分と共に生きて欲しいという思いの間に立っています

そして、演劇を続けるかやめるか悩み続けている静香も、彼と演劇とどちらをとるか心が揺れ動くのです。

しかし、スキャンダルに巻き込まれたことにより、思いがけず役をつかむチャンスを手にした静香は、自分の欲望と共に、自分の演技への自信を持つようになります。

そしてラスト。やり直そうと言ってくれた昭夫の胸に飛び込むのではなく、自分の人生を自分で引き受けて生きていくことを選ぶ静香。彼がいたからこそ、芝居を続けていくことへの情熱を自覚できたのでしょう。

昭夫という温かで安全な場所を乗り越える覚悟が、静香をさらに大きく羽ばたかせる原動力になったに違いありません。

まとめ


(C)1984KADOKAWA

スリリングなストーリーの中に女優の性(さが)と甘酸っぱい恋を織り込み、数々の映画賞を受賞した名作『Wの悲劇』

初々しい薬師丸ひろ子といぶし銀の演技を魅せる三田佳子の競演が、本作最大の魅力となっています。

良くも悪くも「欲望」こそが飛翔の強い原動力となり得ることを見せつけられる一作です。たとえ肥大した欲望の先に待ち受けるのが地獄だと知っていても突き進むしかないのが、女優の業といえるのかもしれません。



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