『あなたを抱きしめる日まで』(2013)の大女優ジュディ・デンチと、スティーブン・フリアーズ監督が率いるイギリス最高峰のスタッフが再びタッグ!
晩年を輝かせた英国女王ヴィクトリアとインド人使者の強い絆を描いたドラマを、壮麗な映像美で実写化しました。
息子エドワード7世により歴史から抹消された、驚きの“真実”が今ここにベールを脱ぐ珠玉の物語です。
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映画『ヴィクトリア女王 最期の秘密』の作品情報
【公開】
2019年(イギリス・アメリカ合作映画)
【原題】
Victoria and Abdul
【脚本・監督】
スティーブン・フリアーズ
【キャスト】
ジュディ・デンチ、アリ・ファザル、エディ・イザード、アディール・アクタル、ティム・ピゴット=スミス、オリビア・ウィリアムズ、フェネラ・ウールガー、ポール・ヒギンズ、ロビン・ソーンズ、ジュリアン・ワダム、サイモン・キャロウ、マイケル・ガンボン
【作品概要】
本作の女王を演じるのは名優ジュディ・デンチ。彼女が『Queen Victoria 至上の恋』(1997)に続き、2度目のビクトリア女王役を演じ、ゴールデングローブ賞の主演女優賞にノミネートされました。
アブドゥル役に抜擢されたのはボリウッド映画の名作『きっと、うまくいく』(2009)で印象深い演技をみせた、インドの若手実力派アリ・ファザルです。
監督は『クィーン』(2006)のスティーヴン・フリアーズ。デンチとは『あなたを抱きしめる日まで』(2013)以来のタッグを組みました。
さらに脚本を『リトル・ダンサー』(2000)のリー・ホール、撮影を『英国王のスピーチ』(2010)のダニー・コーエンが務めるなど、英国最高峰のスタッフが集結しました。
映画『ヴィクトリア女王 最期の秘密』のあらすじとネタバレ
1887年、インド英領29年目のアグラ市、そこに1人のインド人、アブドゥルが祈りを捧げています。
アブドゥルは、多くの貧民が行き交う雑多な市場を通り、布を織る工房を歩いていきます。
着いた所は彼の仕事場刑務所の記録所で、アブドゥルは多くの囚人達が並ぶ受付に座ります。
上司が彼を探して、「ヴィクトリア女王即位50周年式典で、記念金貨“モハール”を献上する役目に選ばれた」とアブドゥルに告げます。
アブドゥルが、博覧会の絨毯を選び気に入ってもらえたこと、そして何よりも長身であることが選ばれた理由でした。
名誉なことだと嬉しそうな表情をするアブドゥルでしたが、候補の1人が象から落ちて代役となった背の低いモハメッドは、しぶしぶイギリス行きを受け入れました。
2人はイギリスの大きな商船に乗り、海を渡ってイギリスへ向かいます。
長旅の間、船上でイギリスの高官から「決して女王陛下と目を合わせてはいけない」と2人は言われ、王宮での振る舞いや礼儀作法を叩き込まれます。
モハメッドは「くそじじい」と愚痴をこぼしています。
一方バッキンガム宮殿では、老齢のヴィクトリア女王がイビキをかいて寝室で寝ています。彼女は大勢の使用人たちに抱かれるように起こされ、次から次へと服を着せられていきます。
秘書のポンソンビーが、4時にお茶をして、4時半に…をして、4時45分には…と言うように細かく決められた予定を、ヴィクトリア女王に読み上げています。
ウィンザー城では、絢爛豪華な大広間で祝宴が始まり、ファンファーレとともに豪華な食事が次々に運ばれていきます。
通路で自分たちの出る順番を待つアブドゥルとモハメッドは、あまりのご馳走と使用人の素早い動きに圧倒されています。
もの凄い勢いで料理を平らげる女王のペースに、来客たちは戸惑う間も無く、あっという間にお皿が下げられます。
「インド帝国より献上品でございます」という報告とともに、アブドゥルとモハメッドが記念金貨を運びます。
アブドゥルは俯き退きながらも、一瞬女王を見つめ女王と目が合い、アブドゥルは微笑みかけます。
翌日ポンソンビーが「金貨はお気に召しましたか?」と女王に声を掛けると、「ノッポがハンサムだったわ」とヴィクトリアは答えました。
すぐにアブドゥルとモハメッドを連れてくるようにとヴィクトリアは命じ、彼らが帰国の準備をしていたところを呼び止められます。
アブドゥルとモハメッドは、園遊会でゼリーを女王に渡す役目を言いつけられます。
「果汁を牛の骨から取ったゼラチンで固めたものだ」と説明を受けた2人は、プルプル震えるゼリーを運びます。
「野蛮人め」と呟くモハメッドを無視して、笑顔でアブドゥルは女王の元へ運びます。その途端、彼は女王に跪きつま先にキスをします。
突然のアブドゥルの行動に、周囲は騒然となりますが、ヴィクトリアは笑顔で「元気が出たわ」と返事をすると、彼女はアブドゥルを気に入り祝典期間中、インド人の2人を従者にすることにします。
映画『ヴィクトリア女王 最期の秘密』の感想と評価
誰もが名前だけでイメージするイギリス大帝国のヴィクトリア女王。2019年はヴィクトリア女王生誕200年の記念すべき年です。
大英帝国の最盛期に63年もの間、君臨した彼女の人生はあまりにも波乱に満ちたものでした。
1819年父ケント公(イギリスの公爵)エドワードの長女として誕生し、翌年父が死去。1837年18歳にして女王に即位し、1840年知的でハンサムなアルバートと結婚しますが、プロポーズは女王からしました。
結婚式では当時珍しかった純白のドレスを着用し、純白のウェディングドレスが広まったきっかけとなります。その後、4男5女の子どもを授かります。
1861年最愛の夫アルバートを失い、10年もの間公の場から姿を消し、残りの40年の生涯を喪服で過ごします。
本作でも度々喪服の姿が映し出されますが、この影響により、今日にみる喪服に合うジュエリーが発展しました。夫亡き後、スコットランド人の従僕ジョン・ブラウンに慰められ、彼を寵愛します。
インド女帝として即位50周年式典ダイヤモンドジュビリーで巡り合ったのが、インド人従者アブドゥルでした。
英国歴史上黄金時代を築き、夫アルバートと理想のカップルと語り継がれてきた彼女ですが、長年の女王としての重圧や愛する人の喪失感、周りの私欲だけで集まる人々の虚栄心や孤独そして確実に歩み寄る老いと、多くの苦悩を抱えていました。
そんな背景を持ちながら、1日の始まりに女王として気丈に立つ姿を誰が演じることができるのか。
スティーヴン・フリアーズ監督は「ジュディ・デンチに役を断られたら、この作品はできなかった」と語っています。
ジュディ・デンチの俳優としての魅力
参考映像:ジョン・マッデン監督『恋に落ちたシェイクスピア』(1998)
ジュディ・デンチは舞台女優としてキャリアを積み、『恋に落ちたシェイクスピア』では、エリザベス女王としての存在感と、凝視する圧倒的な演技で、アカデミー賞助演女優賞を受賞しました。
参考映像:サム・メンデス監督『007スカイフォール』(2012)
ダニエル・クレイグ版「007」シリーズの3作目。ジュディ・デンチは、Mとして5代目ボンド役ピアース・ブロスナンの時から演じています。
彼女は、演技力・存在感共に抜きんでおり、本作でのニヒルなダニエル・クレイグとのやりとりで魅せた母性と力強さは、印象的で今も記憶に残ります。
惜しまれつつMを引退しますが、007と共に最後まで彼女の生き様から目が離せないストーリーです。
参考映像:ジョン・マッデン監督『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(2011)
シニア世代の代表として、自立した女性を演じた『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』も必見です。
ジュディ・デンチ演じる未亡人イブリンは、持ち前の行動力で教養アドバイザーとして生き生きと働き始めます。
年齢を重ねても、悔いなく人生を謳歌すべきだとジュディ・デンチが、体現してくれます。また2016年に続編『マリーゴールド・ホテル 幸せへの第2章』も公開されました。
ジュディ・デンチの俳優としての魅力は、多様な人生を歩んだ女性を演じつつ、人生の厚みを表情豊かに表現するところです。
年齢を感じさせないほど、真摯に向かう演技がまさに彼女の真骨頂です。
まとめ
スティーヴン・フリアーズ監督は、アブドゥル役のインド人俳優に出会うために事前にインドで探しました。
実際イギリスに在住するインド人俳優は多くいたのですが、この映画の設定と同様に、初めてイギリスを訪れる感動を伝えられるような純粋で真摯な表情を持った俳優を探していました。
そこで出会ったのが、インドのボリウッドで活躍する若手実力派アリ・ファザルでした。彼の純粋で優しい瞳を見て即断即決。
確かに出世欲や若者ならでの野心を持つアブドゥル役でしたが、同時に女王に対し真摯に向かい、彼女と宗教や文化を超え、深い信頼と絆を育んでいく姿に誰もが心を寄せるでしょう。
女王ヴィクトリアが、別荘でアブドゥルだけに本音を吐露したシーンで、彼は「人のために行きましょう」と優しく女王の心を受け入れます。
そして何よりも微笑ましいシーンは、心の師ムンシとしてイスラム教との言葉「ウルドゥー語」を女王が習い始めた時、ノートを用意して丁寧に文字を綴っていく女王ヴィクトリアとアブドゥルとの時間です。
このまま時が止まってしまえばいいのに。そんな雰囲気を感じさせる、女王としてではなく1人の女性の淡い初恋のような、幸せなひと時でした。
本作で描かれているように、国籍や文化そして宗教を超えていくのは人と人との交流であり、愛に勝るものはないというメッセージが、この映画のタイトル『Victoria and Abdul』に込められています。
映画『ヴィクトリア女王 最期の秘密』で19世紀の大英帝国にタイムスリップしてみませんか。