Netflix映画『ワインは期待と現実の味』は、父の息子への期待と息子が見つけた道の現実を描く!
跡継ぎ問題は日本でもよく聞かれる話。親たちの苦労はわかっていても、自分に成し遂げたい夢ができたら、そのような子供世代も多くなっています。
Netflix映画『ワインは期待と現実の味』は、アメリカ南部のメンフィスで店を継がせたい父親と、自分の夢をみつけた息子の、すれ違った心が再び交わるまでの物語です。
演出を担当したプレティス・ペニーは、HBOのテレビドラマ「Insecure」シリーズのプロデューサーとして知られており、本作品『ワインは期待と現実の味』で初の映画監督を務めます。
プレティス監督は次のように語り、「肌の色やつらい体験によって人を定義するのではなく、みな同じ人間であることを前提としたうえで、自己肯定や人間性をテーマにした」とワインのように深く膨よかな映画をご紹介します。
映画『ワインは期待と現実の味』の作品情報
【公開】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
Uncorked
【監督/脚本】
プレンティス・ペニー
【キャスト】
ママドゥ・アティエ、コートニー・B・ヴァンス、ニーシー・ナッシュ、ケリー・ジェンレット、マット・マクゴーリ、ギル・オゼリ、サーシャ・コンペール、バーナード・デヴィッド・ジョーンズ、ミーラ・ロヒット・クンバーニ、マシュー・グレイヴ
【作品概要】
主役のエライジャ役には、生後6ヶ月で外交官だった父が政治亡命したのを受け、アメリカに渡ったという経緯もある、『パティ・ケイク$』(2018)のママドゥ・アテイエ。
エライジャの父ルイス役には、FXのミニシリーズ「アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件」(2016)で、エミー賞主演男優賞を受賞した、コートニー・B・ヴァンス。
作中のオリジナル音楽は、グラミー賞の2013年にベストラップソング賞、2020年でベストラップパフォーマンス賞を受賞している、ヒップホップポップやR&Bアーティストのヒット・ボーイが担当しています。
映画『ワインは期待と現実の味』のあらすじとネタバレ
メンフィスの酒店でアルバイトをしながら、実家が営むBBQ店の手伝いをしているエライジャは、ワインの魅力に興味を抱き、独学で知識を学ぶ青年。
ある日、酒店に来た看護師のターニャに、おすすめワインの説明をする時に「ヒップホップは好きかい?」と訊ねて、ワインの種類をヒップホップの音楽に例えます。
シャルドネはワインの元祖、万能で何にでも合うワイン界の“ジェイ・Z”、ピノ・グリージョは白ワインだけど、少しスパイシーな“カニエス・クアスト”、リースリングはさわやかで、上品な甘みがあってその気にさせる、“ドレイク”という感じにです。
ターニャはカナダ出身のラッパー“ドレイク”に例えられた、リースリングを選びました。そして、彼女はエライジャに興味を抱いたようです。
エライジャが棚に品出しをしていると、オーナーのレイアン・ジャクソンが取得した、“ソムリエ・ディプロマ”の証書が目にはいります。それを見てふと憧れを抱きます。
エライジャの父親が経営するBBQ店は、連日行列のできる人気の店です。母は店頭で父は厨房で働く、一家総出できりもりしていて、父のルイスはエライジャが後継者になると、決めて疑っていません。
ルイスはエライジャを連れて、燻製器の薪を買い出しにいきます。ルイスは薪の良し悪しについて、担当者と話しながらエライジャに伝えていますが、彼には全く興味がなさそうです。
ルイスが「明日は肉の卸売業者に行く」と、言ってもエライジャは「ワインクラブの出荷準備がある」と断ります。ルイスは家業の話しになると避けたがる息子に、店の存在意義を語り出します。
そして得意文句は、「フランキー・ビヴァリー(アメリカの歌手)の倒れた店だぞ」です。ルイスは“家業を継ぐための勉強をしろ”と、エライザを頭ごなしに言います。
次の日、エライザが出向いたのはワイン学校で催されたワインの試飲会でした。いろんな年代、産地銘柄のワインを試して興奮して酒店に戻り、ワインの魅力について熱弁します。
そこはジャクソンが通ったワイン学校でした。ジャクソンはソムリエ試験は難しく、結婚し子供もいたから、通うのも大変だったと語ります。
ジャクソンは独身で時間もあるエライジャに、ワイン学校に行きたいのか聞くと、親が店を継がせたがっているが、“ただ、自分の道をみつけたい”と答えます。
ジャクソンは「3回試験にトライしてやっととれたから、覚悟が必要でとても厳しい」と、アドバイスします。
店が主催する“ワインクラブ”のホームページを更新していると、ターニャが再び来店しました。
ターニャはエライジャが勧めてくれたワインの説明で、ワインとエライジャに興味をもってきたのです。
エライジャは彼女に、隔月でワインの試飲会があり、ワインの専門誌が無料で読めるなど、ワインクラブの案内を説明すると、ターニャは入会すると言い、「私のメールアドレスと連絡先が必要?」と、聞きます。
ターニャにまんざらでもないエライジャは「それは絶対に必要だ」と、職権乱用で彼女の連絡先をゲットしました。
夕食の席でルイスはエライジャに、頼んでおいた店の用を済ませてなかったことを問い出します。用事があったというと、「仕事より大事な用か?」と不穏な空気になります。
母のシルヴィアも察しますが、“ソムリエの会”に出席していた。と話すと、従弟のJDが“ソマリア”と聞き間違え、会話は脱線してしまいます。
シルヴィアはエライジャの話しに戻し、彼はソムリエについて説明します。そして、ジャクソンが推薦状を書いてくれると話すと、ルイスは「そこまでしてもらってやり通せればいいが・・・」と懸念します。
ルイスはいろんなことに興味を示しては、「思いつきばかりで・・・」と言いかけ、シルヴィアはその先を言わせません。彼女はエライジャの気持ちを大切に思う母親でした。
そのシルヴィアは2年前にガンを患い、購入したウィッグがたくさんあります。経過観察中でまだ髪の量を気にしているからです。作中ではさまざまな髪型になる、シルヴィアがでてきます。
シルヴィアはルイスに、夕食時のエライジャへの態度を責めます。彼女は息子のやりたいことを応援するのが親だと言い、ルイスはエライジャが、DJ、日本で英語の教師・・・と、やっては挫折したのを見てきて、そろそろ家業に目を向ける時だと言います。
それでもシルヴィアは「今は得意分野を見極めている時、なぜソムリエなのか、聞いてあげても・・・」と息子をかばうのです。
エライジャはターニャとの初デートしますが、ターニャは別の店で、シャルドネを買った話をはじめます。
エライジャは「裏切ったな?」と言いますが、ターニャは「そうだけど・・・ワインは得意分野?」と、聞きます。シャルドネを買った店員の説明とは違ったからでしょう。
エライジャは前の彼女と食事に行った時に、ウェイターがワインのブドウの産地、育った環境など、知らなかった知識に興味がわいて、家でも調べるようになったと言います。
“今までの人生でははどこにも行けなかったから、フランスやスペインに行った気分になれた”
エライジャのワインに対する興味に対して、ターニャは「次々に気が移るの? 店員以上になるつもりは?」と聞きます。そこで、エライジャはソムリエに、なることも考えていると話します。
ターニャは地頭の良さを見抜いて、ソムリエへの道を後押ししますが、試験の難度や仕事との両立を理由に、迷っているエライジャに「言い訳考えるより、試験を受ける方が簡単」と言います。
ターニャは、“人はできない理由を考えがちだけど、本気さえあれば”と推しました。
映画『ワインは期待と現実の味』の感想と考察
本作は観ているだけで、ワインの知識が身につく感じがするくらい、ワインに関する専門用語や産地などが沢山出てきます。
一見ストーリーはありがちな跡継ぎ問題だと思うでしょうが、実はアメリカ南部メンフィスに残る、根深い差別問題を忍ばせています。
アメリカの南部は特に、黒人を奴隷にしていた時代が長くありました。その黒人の精神を解放に導いたきっかけの一つが、映画のバックグラウンドに流れる、ヒップホップやリズム&ブルースだったとも言われています。
そのブラックミュージックをメンフィスに広げたのが、白人DJだったということから、人種の歴史や価値観の違いを解消し理解し合うには、緩衝材となる人物や素材が必須であり、歩み寄りが大切だと訴えている気がしました。
そして、作中でターニャが言った、“人はできない理由を考えがちだけど、本気さえあれば・・・”と、ルイスが言った、“母さんや父さんを言い訳にするな”と言ったように、壁にぶちあたると、逃げ出したくなる気持ちをよく言い当てていると、ドキッとしました。
エライジャが学校を辞める時に、ターニャには相談せず、JTに話したのは彼なら反対せず、共感してもらえ、ターニャに話せば、厳しいことを言われるとわかっていたからです。
人には誰でも弱い面があり、厳しい言葉は避け、たやすい方へ流れてしまいます。それをエライジャの心の動きを使い、うまく表現しています。
まとめ
この映画は家業にはありがちな、跡継ぎ問題です。父と息子の世代間にある価値観の違いや、苦労人の祖父や父親と比べ、何不自由なく育った、息子の人生観の間にあるギャップで、親子の関係がギクシャクするストーリー。
母親がその2人をつなぎとめる役割でしたが、関係改善の糸口を見ないまま他界してしまいます。母は家族の中心者ですから、シルヴィア亡き後どうなってしまうのかが鍵でした。
母の死でワインの勉強に身がはいらなくなり、逃げ道をBBQの仕事に向けたエライジャでしたが、それが父との関係修復へと近づけ、ソムリエの勉強に対しても理解をさせられました。
『ワインは期待と現実の味』は父親の自負と息子への期待、息子の浮ついた夢の現実などをワインに例え、理解をする歩み寄りや、夢に向かうやる気を見せることの大切さを伝えてくれた映画、一見の価値のある作品です。