17世紀オランダは、人々を魅了する貴重なチューリップの投機で、民衆たちが一攫千金を狙っていました。
大商人の老主人と美しすぎる少女を描く、肖像画に秘められた禁断の愛と裏切りのヒューマンストーリーです。
映画『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』は世界的ベストセラー小説『チューリップ熱』を映画化し、まるでフェルメールの絵画に入り込んだような映像美が散りばめられています。
CONTENTS
映画『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ、イギリス合作映画)
【原題】
TULIP FEVER
【脚本・監督】
トム・ストパード、デボラ・モガー、ジャスティン・チャドウィック
【キャスト】
アリシア・ヴィキャンデル、デイン・デハーン、ジュディ・デンチ、クリストフ・ヴァルツ、ザック・ガリフィアナキス、ホリディ・グレインジャー、トム・ホランダー、ジャック・オコンネル、カーラー・デルヴィーニュー
【作品概要】
「フェルメールの絵画の世界を小説にしたい」と願った作者デボラ・モガーは、日本でも大ヒットした映画『マリーゴールド・ホテルで会いましょう」の原作者であり、この映画の脚本にも携わっています。
ミステリーとラブストーリーを絶妙なバランスで映像化したのは、『ブリーン家の姉妹』(2008)のジャスティン・チャドウィック監督と『恋におちたシェークスピア』(1998)でアカデミー賞を受賞した脚本のトム・ストパード。
主人公ソフィアには、『リリーのすべて』(2015)でアカデミー賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデル。
フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」をオマージュした衣装や、フェルメール・ブルーのドレスをまとい、清楚ながらも秘めたる熱い想いを持つ女性ソフィアを体現しています。
画家のヤンには『アメイジング・スパイダーマン2』のデイン・デハーンなど、オスカー俳優たちの熱演で観るものをミステリアスな愛と人生の物語に引き込みます。
映画『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』のあらすじとネタバレ
「あなたが生まれる前のオランダは…」と話し始めた女性の名はマリア。
彼女の話によると17世紀のオランダ・アムステルダムの大富豪の商人コルネリス・サンツフォールト家のメイドとして働いています。
彼女の話によると、当時オランダは遙東の国から来た珍しい花チューリップを人々は我を忘れて手に入れようとしていました。
商人だけではなく、巷の民衆さえも大枚を叩いてチューリップの投機に熱中し、酒場で夜な夜な賭けが繰り広げられていました。
球根の値段は今や高騰し続けていました。
孤児として聖ウルスラ修道院で育った美しい少女ソフィア、彼女は成人し、修道院長がコルネリスに嫁ぐことを伝えます。
「ここで育ったものは、男をとるか客をとるか修道院をとるか。嫁ぐことで妹たちが助かるのよ」
ソフィアが嫁ぐことで、妹たちが修道院を出て親戚の家で預かってもらえるようになりました。
前妻との間に子宝に恵まれなかったコルネリスは、ソフィアとの子作りに意欲的に取り組見ます。
毎晩祈りを捧げベットに向かうコルネリスとソフィアでしたが、なかなか授かることができません。
子どもができないことをソルフ医師に相談しますが、誤解をされて危うく相手にされそうでした。
マリアが回想します。
ー「ソフィアとは、私を女中というよりも妹のように扱ってくれて仲良く過ごしていた」
お抱えの魚の行商人がマリアを訪ねます。
彼はウィレム、マリアとお金を貯めて結婚する約束をしていました。
夕食にコルネリスがマリアに不服そうに言います。
「今日も魚か?魚売りに恋人でもいるのか?」
俯くマリアをソフィアは優しく見つめています。
ある日、コルネリスがソフィアに伝えました。
「気晴らしに肖像画を描いてもらおう。若手で真面目な画家を紹介してもらったんだ」
早速訪ねて来た画家のヤン・ファン・ローズは、階段から降りてくるソフィアに出会った瞬間に恋に落ちました。
彼の横柄な態度に「すぐに辞めてもらって!」と嫌悪感を持っていたソフィアでしたが、絵を描く真摯な態度と真剣な眼差しのヤンに、徐々に惹かれていきました。
その頃結婚するための資金を稼ごうと魚売りのウィレムは、一攫千金を賭けて酒場へ足を運び、チューリップの投機を始めます。
投機を仕切っている男に、明日になったら2倍になると持ちかけられ、手に入れたのは一般的な白い球根の所得証明書でした。
ウィレムはチューリップの証明書への署名をもらうために、所有者のウルスラ修道院へ向かいます。
修道院長が所有者として、修道院が栽培を行っていました。
ウィレムは修道院長とともに自分の球根の栽培場所を確認しにいくと、そこには白いチューリップの花の中に一輪だけ白と真紅の花“ブレイカー”が咲いていました。
驚く二人。ウィレムは早速その奇跡の球根に「マリア提督」と名付け、大喜びでマリアの元に向かいます。
マリアが部屋にいないので、窓辺にブレイカーの一輪を花瓶に挿して帰りました。
ある日いつものようにソフィアがコルネリスの外出中にヤンと逢瀬を重ねて帰る途中、マリアのストールを借りて羽織っている姿をウィレムが目撃し、マリアが画家の元に通っていると誤解してしまいます。
ウィレムは傷心の中で泥酔し、財布を盗まれ海軍に連れて行かれてしまいます。
次の朝、マリアの元に違う魚売りがやって来ます。
マリアは急にウィレムがいなくなったことを、ソフィアに相談します。
「しかも赤ちゃんができたの」と告白するマリア。
マリアはさらに「私を辞めさすんじゃないわよね、私も画家とのこと全部ご主人さまに言うわよ」と続けます。
「そんなことしないわ…」とソフィアは返事をしますが、思いつめている様子でした。
マリアの語りが入ります。
ー「あの時脅すつもりはなかったのよ」
ソフィアはある計画を思いつき、マリアに静かに伝えます。
「コルネリスの子どもとして、私が産むことにするのよ」
ヤンとソルフ医師にも協力を仰ぎ、ソフィアは、お腹に詰め物を入れて対応する。
「母体に良くないので、ベットを分けるように」とソルフ医師はコルネリスに告げ、仕方なくコルネリスはユトレヒトへ旅立ちます。
ユトレヒトには、ソフィアとの結婚前から愛人がいました。
この幸せな日々をソフィアとヤンは共に過ごしていましたが、ヤンは二人で逃げるための資金を稼ぐため、友人のヘリットと二人で修道院に球根を盗みに行きます。
修道院長に捕まりますが、それをきっかけにチューリップの投機に乗り出して行くヤンでしたが…。
映画『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』感想と評価
今回は、映画『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』の見どころを楽しむために、四つの謎を解き明かします。
まず一つ目は、17世紀のオランダという時代です。
「世界は神が造ったが、オランダはオランダ人が造った」というオランダの諺があります。
これには、二つの意味があって、海抜ゼロメートルの土地を開拓して国土を広げたこと、二つめは約80年の長期に渡ってスペインと戦い独立を勝ち取ったという歴史があります。
他のヨーロッパ諸国のような絶対君主がおらず、教会の力も弱い、つまり商業で成功した大富豪貴族(香辛料で成功したコルネリスのような)による共和政治が行われました。
独立するとともに、海洋貿易で世界の海を支配し(日本へもやってきて鎖国の中、貿易をしていました)、17世紀はまさにオランダの黄金期でした。
世界から珍しい物が流入し、首都アムステルダムはロンドン、パリに次いでヨーロッパ第三位の大都市でした。
映画の随所にその活気あふれた港町の映像が流れています。
二つ目の謎、“チューリップ・フィーバー”です。
日本のバブル期をイメージしてみるとわかりやすいのですが、どんどん景気が良くなって、闇雲な投機へ走ってしまう国全体が浮き立つ、まさにバブルです。
日本は主に土地や不動産が投機の対象となっていましたが、オランダも下地には土地投機と宝くじのようなものがありました。
そこにチューリップが突如現れます。
チューリップの美しさと中でも希少な縞模様の“ブレイカー”の価値はうなぎ上りで、他のヨーロッパの国では呆れ返っていました。
チューリップは種類が多く、安いものなら庶民も買うことができました。
転売を繰り返して、この映画のように値が吊り上がって行くので一夜にして貧しい民が大富豪になることが可能でした。
三つ目の謎、オランダの画家とは?
それこそフェルメールやゴッホ、レンブランドなど世界的に有名な画家が思い浮かべられますが、絵の好きなオランダ人は、庶民でも絵を購入し家に飾っていました。
他国では王族貴族の室内に飾るものなので、これもオランダの特殊性です。
当時アムステルダけで700人もの画家がいて、帆船を描く人、花を描く人、肖像画だけというように専門に分かれていました。
小型のものを薄利多売し、画家だけでは食べていけないので他の職業を持つ人が多かったようです。
貧しい画家ヤンが、チューリップの投機に走る動機もこれで説明できます。
四つ目の謎、コルネリスとソフィアの年齢差は?
老人と若い娘。実際にそのような結婚が多かった時代です。
若く貧しい女性が生活安定のために金持ちに買われ、金持ちも後継者を産んでくれる娘を選んでいました。
本作のソフィアも愛のない結婚をお金のためにして、ひたすら子どもを産むために夜の営みを強いられます。
一方マリアとウィレムの自由な愛が描かれて、ソフィアの切ない表情が浮き彫りにされます。
まとめ
青いドレスのソフィアの姿が美しく、薄暗い室内で窓からの差し込む淡い光を受け、いっそう神々しく聖性に満ちていて、本作の映像はフェルメール作品のオマージュに満ちています。
窓辺で手紙を読む姿、女主人と女中の密やかな企て、扉から静かに見つめるアングル。
部屋の外では狂喜乱舞するチューリップフィーバー。
この対比でますますフェメールの世界が静謐に映し出されています。
映画『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』は、ぜひフェルメールの世界の扉を開きませんか。