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Entry 2020/10/23
Update

映画『タイガーテール』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。Netflixで配信されたアランヤン監督のすべての“移民へのラブレター”

  • Writer :
  • からさわゆみこ

Netflix映画『タイガーテール』で描かれた、父と娘の心の溝と交差

人生にはいくつかの岐路があります。自分の頭の中に描いた夢のために、大切なものを犠牲にすることもあります。

アメリカのテレビドラマ「パークス・アンド・レクリエーション」やNetflixオリジナルドラマ「マスター・オブ・ゼロ」の脚本で注目を集めた、脚本家アラン・ヤンの初映画監督作品『タイガーテール -ある家族の記憶-』をご紹介します。

父を亡くし、母は出稼ぎのため祖父母に預けられ、親のいない寂しい少年時代をすごした青年が、アメリカでの成功を夢をみて渡米し、数十年後に味わう“後悔”とは、いったいなんなのでしょう?

映画『タイガーテール -ある家族の記憶-』の作品情報

Netflixオリジナル映画『タイガーテール -ある家族の記憶ー』

【公開】
2020年(アメリカ映画)

【原題】
Tigertail

【監督・脚本】
アラン・ヤン

【キャスト】
ツィ・マー、フィオナ・フュー、クリスティーン・コー、リー・ホンチー、ヘイデン・セットー、ジョアン・チェン、シンデラ・シェー 、マーゴット・ビンガム、ヤン・クイメイ、ジェームズ・サイトウ

【作品概要】
アラン・ヤン監督の父親は台湾からの移民で、ヤン監督自身はアメリカで教育を受けた2世です。そんな父親の半生をベースに、主人公の娘の視点で脚本を描いています。

仕事をリタイアし熟年離婚をした、主人公ピンルイを演じるのは、第77回ゴールデングローブ賞最優秀外国語映画賞にノミネートされた、『フェアウェル』(2019)で好演したツィ・マーです。

主人公の母役に、第6回シンガポール国際映画祭をはじめとする、アジアの主要な映画祭で主演女優賞を獲得している、台湾の女優ヤン・クイメイが演じます。

映画『タイガーテール -ある家族の記憶-』のあらすじとネタバレ

ピンルイ少年は、台湾の貧しい農村部の祖父母の家に一時的に預けられ、暮らしていました。ピンルイの父は彼が1歳の時に亡くなり、母は仕事を探すために街に出ていたからです。

ピンルイは寂しさのあまり、両親の幻を見るほどでした。村には中華民国の憲兵が、反体制派の排除に見回りをしていて、台湾語しか話せない祖母ですら脅かします。

ピンルイは祖母に畑で両親を見たと訴えます。祖母はそれは幻覚だといい、両親に会いたがる彼に厳しく諭します。

「いくら空想しても父親は生き返らない。おまえの母さんも子供の頃、同じことを言った。強くなりなさい。涙をみせるな」

台湾からアメリカに帰国したピンルイは、迎えに行った娘の車中で、子供の頃の思い出に気持ちをはせていました。

娘は父親が台湾に行っていることを知らず、2人の様子もぎこちない雰囲気です。娘が会話を試みても、そっけない対応をするピンルイ。

ある日、ピンルイ少年は畑で農村では見かけない、身奇麗な少女ユエンと出会い、仲良くなります。しばらくの年月はユエンと遊ぶ幸せな日々でした。

ところがピンルイの母親は地元、虎尾鎮(コビチン)で仕事をみつけ呼び戻されます。2人は離ればなれになると思われました。

しかし、何年かたち青年となったピンルイは、美しく成長したユエンと偶然、町で再会し恋に落ちたのです。

以下、『タイガーテール -ある家族の記憶ー』ネタバレ・結末の記載がございます。『タイガーテール -ある家族の記憶ー』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

Netflixオリジナル映画『タイガーテール -ある家族の記憶ー』

ピンルイは友人から「あの子にプロポーズするんだろ?」と尋ねられますが、「彼女の家は金持ちだから、両親に反対されるさ」と答えます。

友人は「それじゃあ、今のうちに彼女と楽しんでおけ」と言います。

ダンスホールでデートをする2人。ピンルイはユエンを上手にリードをします。ユエンが「どこでダンスを?」と尋ねると、ピンルイは自分の夢を語り出します。

「映画さ、アメリカの。いつかアメリカに行くんだ。母さんを連れて。もう、働かせたくない」

ユエンは「私も行ける?」と聞きます。ピンルイは「もちろんさ。ダンスには相手がいる。でも、向こうには、フェイ・ダナウェイがいる。キミは邪魔になるからくるな」

そんな冗談を言います。

ピンルイはユエンを街の高級レストランに連れて行きますが、悪だくみで無銭飲食を体験させたり、豪邸に住んでるから金の方に目がくらむだろうなどと、身分の違いを隠しました。

それでも2人の気持ちは、どんどん深まっていきます。

ピンルイは、台湾に残した母親が亡くなり、葬儀のため台湾に行っていました。

娘のアンジェラはピンルイを家まで送り届けると、「気持ちはわかるけど、お葬式のことは、教えてほしかった。私の祖母なのよ」と言います。

ピンルイは「小さなころに連れて行ったきりだ。覚えていないだろう?」と、仕事で多忙な娘を気遣ったと答えます。

アンジェラは「おばあちゃんのことを知りたかった」と、洗い残してあった食器を洗うと歩み寄りますが、ピンルイはそれを断り、彼女は帰宅していきました。

独り暮らしのピンルイは湯を沸かし、お茶を入れ母親と働いていた、工場のことを思い出しています。

工場での仕事はきついもので、何度もくじけそうになったと言います。ピンルイの母は息子が、“男前”であることを自慢に思っていました。

母はピンルイの顔を見て、“恋をしている”と見抜きます。

そして、その日の休憩時間に工場の社長が、ピンルイに話があると呼び出し、彼の渡米の夢について聞き、「あの国には夢がある」と理解を示しました。

渡航費用について聞かれたピンルイは、正直に「分からない」と、いうしかありません。そこで社長は言います。

「実は娘のジェンジェンに、結婚相手を探している。会ってみないか?」

ピンルイはその晩、ジェンジェンと会い夕飯を食べます。ジェンジェンも美しい娘ではありましたが、ユエンのような華はなく、おとなしい地味な女性でした。

ピンルイは同じ日に、ユエンとデートする約束をしていましたが、時間に遅れて会いに行き、ユエンに「どこに行っていたの?」と問われますが、ピンルイはごまかしました。

ユエンは、待ち合せに遅れることのなかったピンルイに、「誰かと会っていたのでは?」と疑念を抱いたのです。ピンルイは否定しつつ意を決したように「家を見てみる?」と、ユエンに聞きます。

ピンルイはユエンを自分の粗末な家に連れて行きます。ユエンはピンルイの生活状況を理解し、それ以上はなにも聞きませんでした。

台湾から自宅に帰ったピンルイは、食器を洗います。アンジェラも自宅へ帰り食器を洗いながら、父とのことを思い出していました。

アンジェラが高級物件に引越した時、ピンルイは、物件の支払いのことや結婚相手があまり仕事が熱心とはいえないことで、アンジェラを心配していました。

アンジェラは大切なのはお金だけではないと言い、ピンルイは、若さで本当に大切なものがわかっていないと言います。

ピンルイはアンジェラの母と離婚していました。「結婚に失敗したくせに何がわかるの?8カ月付き合った。彼はいい人で私を幸せにしてくれる。」

ピンルイは「それだけか?」と聞き、アンジェラは「結婚にはそれだけあれば十分」だと言いきったのです。

台湾の工場でピンルイが母と働いていたとき、ちょっとしたミスで母がケガをしました。

彼が「きつくて危険な仕事だから辞めよう」と提案しますが、他にできることがない母は、文句はあるけど十分満足していると、辞める気はありませんでした。

「身の丈は知っている。高望みしても無駄なことも」

ピンルイは「僕が稼げば、仕事を辞めて引っ越せる」そう言うと、そんなことはわかっている“金のなる木”でも持っているのかい?と、母は冗談交じりに聞きます。

翌日、ルンピンは社長に、ジェンジェンとの結婚に同意したと伝え、アメリカに行くことを決めたのです。

出発の朝、母は「まずは就職しなさい。のろまな子でも、やっていける国なの?」そう言って、家の前で寂し気にタクシー見送るだけでした。

ルンピンがタクシーの車窓から外をみると、雨の降る街の中にユエンの姿をみつけ、ユエンもこちらを見たように思いましたが、次の瞬間には見えなくなっていました。

これが台湾で見た最後のユエンの姿です。

台湾から戻ったルンピンが片づけをしていると、別れた妻ジェンジェンから電話が入ります。亡くなった母親の哀悼と、アンジェラに関する心配事を伝えるためでした。

ジェンジェンは、アンジェラが仕事漬けで、家にも帰っておらず、悩みもあるようだと言います。そして、ピンルイに話を聞いてあげてほしいと言います。

ジェンジェンは「あなたはアンジェラに厳しかった」と言い、ピンルイは「彼女のためだった」と返します。

「あの子はそう思っていなかった。あなたはあの子ともっと会うべきよ。娘なのよ」と、伝えました。

アンジェラが子供の頃の出来事を思い出すと、ピアノの発表会でミスをし、涙を流すアンジェラにピンルイは、「泣いても何の解決もしない! 強くなれ!」と、叱咤(しった)していたのです。

その日の晩、父ピンルイと娘アンジェラは、それぞれ独りで夕食を食べていました。

アンジェラは夫のエリックが、家を出て行った日のことを、ピンルイはアメリカに着いた日のことを思い出していました。

アメリカはピンルイの想像していたものとは、全く違っていましたが、自分の選んだ道で後戻りはできないと、覚悟しました。

物静かな新妻ジェンジェンとは、趣味も話も会いません。台湾から持ってきたヤオ・スーロのLPレコードをかけても、ユエンのようにダンスもしません。

ピンルイは職探しに出かけ、一軒の小さな食品雑貨店を任される仕事を見つけました。そして、ピンルイは忙しく働き、ジェンジェンは家で家事をするだけの日が続きます。

ジェンジェンがホームシックになりかけたころ、彼女はコインランドリーで、中年の台湾人女性ペイジンと知り合います。

ピンルイもジェンジェンを気遣って、古いオルガンを買ってきて、コミュニケーションをとろうとしますが、店と家の往復だけで時間がすぎていきます。

ジェンジェンは次第にペイジンの家に行き、食事の用意もしないことが増え、ピンルイの買ってあげた、オルガンも物置になりました。

仕事が軌道に乗ったピンルイは、台湾の母を呼び寄せようとします。しかし、知らない土地で暮す気のない母は、アメリカへは行かないと告げるのです。

ピンルイの抱いたアメリカへの夢や、渡米の理由が途絶え、妻ともギクシャクし始めます。

ジェンジェンは学校に通い、教師になりたいと相談しますが、子供ができたら働けない、無理だと反対をします。

ジェンジェンはペイジンから、勉強を始めた方が後悔しないとアドバイスされて、開講時期を調べ始めますが、同時に妊娠したこともわかり、ピンルイ夫婦は新居に引越しをします。

ピンルイはこの時、ヤオ・スーロの思い出のレコードを捨てました。アンジェラが授かった頃のことを思い出しながら、ピンルイは娘に電話をかけてランチに誘います。

ところが会話の糸口をみつけられないピンルイは、アンジェラからランチに誘われて嬉しかったけど、なんで黙っているのかと問われてしまいます。

ピンルイはとっさに「調子はどうだ?平気か?」と聞くと、アンジェラははじめは強がったものの「平気じゃない。彼が出て行った」と、涙ぐみました。

アンジェラは、彼が出て行ったのは、自分のせいだからつらいと話しますが、ピンルイは「大変だな」と、言ったきり言葉をかけてあげられず、とまどったまま沈黙しているのでした。

アンジェラは父親ならこういう時、かける言葉があるんじゃないの?と責め、母親が出て行った理由も知らないといいます。

「慰めの言葉もないの?気休めでも“大丈夫だよ”の一言も?」

せきを切ったようにアンジェラは、続けます。

「私は今まで、ずっと無償の愛を与えてくれる存在を求めていた。パパは父親なのにどう接したらいいかわからない。もう、“諦めた方がいいのかも”」

ピンルイはジェンジェンから、離婚を切り出された日を思い出しました。

「いつかは変わってくれると思っていたけど、“諦めた”。あなたには人を思いやる心がない。時を戻せるなら出会った日に戻りたい。そして、逃げるのあなたのいない場所に」

ピンルイは考えますが、納得のいく答えがみつからずにいました。そして、ある日FaceBookで、“リー・ユエン”の名前で検索をかけます。

ユエンもまたアメリカに移住し暮らしていました。ピンルイは“君の古い友達”とメッセージし、友達申請をします。

早速、ユエンからSNSをやっていてよかったと、返信がきてしばらく、たわいのないやりとりが続きます。

そして、ある日ユエンから“週末にニューヨークへ行くから会えないか?”と、誘われ食事の約束をするのです。

ピンルイは街を出る時に見かけたのは君かとたずね、ユエンは“そうだ”と答え、なぜ黙って出て行ったのか聞きます。

「君に話していたら、何か変わっていたかな?」と聞くと、「そうね」というだけでした。

お互いの生活状況を話す中、ピンルイはアンジェラとの関わり方に悩んでいると、ユエンに打ち明けます。

「分かり合えるわ。それにはまず、あなたから先に心を開くのよ。まだ間に合うわ」

新しい年をピンルイは、アンジェラ主催のパーティーで迎えます。母は新しいパートナーと充実した時間をすごしていました。

ピンルイはパーティーが終わるのを見計らっていました。アンジェラの片づけを手伝い、2人きりの時間になると、アンジェラは話だします。

エリックが特別な存在で、そういう人とは2度と会えないと思うと話し、父親にその気持ちがわかるか聞きます。

ピンルイは今は理解できるというようにうなづき、語り始めます。

「特別な女性がいた。ママと会う前、台湾におまえの知らない過去の一つだ」

ピンルイはアンジェラを連れて、再び台湾へ帰省します。2人はもう、無理に会話をすることはありませんでした。

子供の頃に育った場所、母と働いた工場、そして母の眠る納骨堂へお参りに行き、アンジェラに言います。「母は強い女性だった」と。

そして、最後に一緒に歩いて帰った道、“虎尾”と、2人で暮していた家へと向かいます。家は荒れ果てた廃虚になっていました。

そして、ピンルイは「あの先のバーで彼女と踊っていた」と教えます。アンジェラが名前を訪ねると「ユエン」と答えたまま、目からあふれたであろう涙を手で隠します。

アンジェラはそんな父の姿を見て、自然に父の肩に手を添えてあげるのでした。廃虚の前に立つ2人は、同じ傷みを分かつ者同士となり、分かり合えるきっかけをみつけたのです。

映画『タイガーテール-ある家族の記憶-』の感想と評価

ルンピンは父親を知らずに、苦労を重ねてきた祖母と母に育てられ、夢と引き換えに大切なものを捨て、アメリカに渡る夢を選びました。

彼なりに苦労してきた母への恩返しの気持ちがあってのことでしたが、その思いは報われず、アメリカに渡ってきた意味を持ち直すモチベーションが必要だったと理解できました。

それはアメリカでの生活で家族をまもるため、がむしゃらに働くことだったのでしょう。結果、家族への思いやりを失わせる方向になってしまい、離散してしまうという皮肉なものとなりました。

ただし、最後には故郷に置いてきた母と恋人の存在によって、一組の父娘の絆が修復でき安堵できた映画でした。

戦後の台湾情勢

第2次世界大戦後、中華民国軍の侵攻によって台湾では、徹底的な弾圧が行われ、「恐怖政治」が横行していました。

そのためピンルイが子供の頃(1950年代)の台湾は、治安が悪く経済的にも不安定な時期だったといえます。

台湾攻略を目論む中国共産党に対して、それを防衛するアメリカ軍の存在で、台湾にはアメリカの文化が多く入ってきました。

また、ベトナム戦争の影響で、軍需物資の調達が重要となり、重工業が発展しました。ピンルイが青年時代にアメリカに憧れた理由は、こういった背景があるのです。

似たもの父娘だからこそすれ違う

ピンルイとアンジェラの親子は“頑固”な性格でした。それゆえに自分の成し遂げたい事のために、本当に大切なものを失ったのです。

ピンルイは幼少期に父親の愛情をうけていないので、父親というものがどうあるべきかが分からずに育ちました。

そんなピンルイのもとで育ったアンジェラは、父親から厳しく躾けられ、父親との関係が歪んでしまったのです。

ピンルイは祖母に「涙を流すな強くなれ」と言われて育ち、女手一つで育ててくれた母からも、苦労に立ち向かう強さを身に着けました。

見知らぬ国のアメリカで、立派に家族を養ったピンルイには、これ以上の自信と誇りはなかったでしょう。アンジェラには、そのことを教えたかったのです。

ところがアメリカで生まれ、アメリカの文化で育ったアンジェラには、そのことがよく理解できませんでした。

まとめ

『タイガーテール -ある家族の記憶-』は、劇場での公開が予定されていましたが、新型コロナウィルスの影響で劇場が閉鎖となり、Netflixでの配信のみとなりました。

しかし、アラン・ヤン監督は台湾をはじめとする、アジア各国からアメリカに渡った移民の人々に、コロナ禍に立ち向かうエールになればと語っています。

さまざまな困難や苦労を乗り越えてきた、アジア移民の人達に、労いを気持ちが込められた作品となっています。

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