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『宝島』原作小説ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。映画化で戦後沖縄を《オキナワ人情と風景の絶唱》とす⁈

  • Writer :
  • 星野しげみ

戦後の沖縄を舞台に4人の男女の青春を描いた『宝島』が映画化に!

第160回直木賞を受賞した真藤順丈の小説『宝島』。

「戦果アギヤー」と呼ばれる、アメリカ軍基地に忍び込み食料などの物資(戦果)を奪い、困窮する人々に配っていた人たちを主人公に、戦後沖縄の20年間を圧倒的な熱量で描いています。

この小説の力量に惚れ込んだ、「るろうに剣心」シリーズの大友啓史監督が、妻夫木聡を主演として映画化に取り組みました。広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太といった豪華キャストも顔を揃えています。

映画『宝島』は、2025年6月に全国公開予定です。映画公開に先駆けて、小説『宝島』をネタバレありでご紹介します。

小説『宝島』の主な登場人物

【オンちゃん】
アメリカ軍の基地や倉庫から食べ物や医療品などを盗んでくる「戦果アギヤー」のリーダー。

【グスク】
オンちゃんの親友。のちに刑事となる。

【レイ】
オンちゃんの弟。後にテロリストとなる。

【ヤマコ】
オンちゃんの恋人。後に教師となる。

【ウタ】
浮浪児。グスク、レイ、ヤマコとの接触がある。

小説『宝島』のあらすじとネタバレ

1952年の沖縄は、日本政府がアメリカとの間に行った対日平和条約によって、正式に日本から分離されて米国の支配下におかれていました。

星条旗があちこちに掲げられた沖縄。ここでは、「戦果アギヤー」と呼ばれる人々が民衆の英雄となっていました。

「戦果アギヤー」とは、アメリカ軍の基地や倉庫から食料や物資を盗み出し、沖縄の貧しい人々に配っていた、一種のコソドロのような人たちのことです。

島一番の「戦果アギヤー」と呼ばれたオンちゃんは、親友のグスク、実弟のレイ、恋人のヤマコでチームとなって活躍していました。

オンちゃん20歳、グスク19歳、レイ17歳の夏のある日、ヤマコを残して3人は他の地域の戦果アギヤーと協力して、嘉手納基地から物資を盗み出す計画を決行しますが、失敗に終わります。

生きて帰ることを大切にしていたオンちゃんは、アメリカ兵との激闘の末に行方不明となりました。

グスクとレイは命からがら嘉手納基地からの脱出に成功します。なんとか逃げ延びたグスクは、ヤマコの元に辿り着き、怪我の手当を受けました。

両足の指の骨を骨折したレイはアメリカ兵に捕まって病院へ。治療が済み次第、警察に送られると言います。

基地の外で待っていたヤマコにとっては、オンちゃんの行方不明は大ショックなこと。逃げ出せた2人にとっても、オンちゃんが戻って来られなかったことは信じがたい出来事でした。

それでも、オンちゃんのことだから、きっとうまく逃げてどこかに潜伏しているはずと信じ、3人は捜し続けます。

ですが、何年経ってもオンちゃんの消息は掴めません。残された3人はオンちゃんのことを胸に秘めたまま、前向きにそれぞれの人生を歩み始めます。

退院してすぐに服役囚となったレイ。刑務所での生活も3年が経とうとしていました。

オンちゃんの情報を得るために、グスクは自分は「戦果アギヤー」で嘉手納基地襲撃に行ったと自供し、刑務所へ入りました。

そこでレイと再会。同胞でもありライバルでもある2人は共謀し、服役中にオンちゃんと一緒に嘉手納基地襲撃の計画を立てていた戦果アギヤーに出会い、基地から逃げ出したオンちゃんが「予定にない戦果」を持ち帰ったという事実を得ました。

1958年、グスクは刑務所で過ごした経歴を持ちながら、新米警察官となりました。警官になればオンちゃんの捜査を続けることができるという淡い希望があったのです。

ですが、アメリカ人の政府関係者や沖縄の地元の暴力団とも情報の交換をして、オンちゃんを捜しますが、見つけられないままでいました。

レイは刑務所から出た後、地元の愚連隊などとつるみ、テロリストとして危ない仕事を続けています。

ある日、レイはオンちゃんの足跡を追って悪石島にたどり着きます。ですが、その島にいるおじいは、オンちゃんは密輸団の闘争に巻き込まれ、その島で命を落としたと証言しました。

一方、グスクもレイもヤマコへの想いを抱くようになりますが、ヤマコはグスクやレイは仲間としてしか見ることができませんでした。

ヤマコは、いつまで経っても戻らないオンちゃんへの想いを胸に、やがて教師として自分の人生を歩み始めます。

戦争が終わっても街には浮浪児があふれ、アメリカ軍によるひき逃げ、強姦、飛行機の事故などが絶えません。

そんな中、ヤマコは浮浪児の「ウタ」と出会います。外国人の血が混ざったウタは、他の浮浪児から邪魔者扱いされ、どこで暮らしているかも分からないのですが、ヤマコにはなついてくれているようでした。

ウタは成長するにつれて街のごろつきとつるむようになり、ヤマコを心配させます。やがてグスクもウタを知ることとなりました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには小説『宝島』ネタバレ・結末の記載がございます。小説『宝島』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

1966年、夏。グスクはヤマコへの想いを胸に秘めたまま、婦警のサチコと結婚。もうすぐ、父親になるからとサチコから言われたからです。

その頃、沖縄の政治状況はひどく揺れていました。重要な政策として沖縄返還を掲げて内閣総理大臣になった佐藤栄作が、1965年に沖縄を訪問します。

アメリカは嘉手納基地から北ベトナムへの空襲を始めました。「本土復帰」や「戦争反対」を叫ぶ声はひきもきらず、島中に「本土復帰」「反戦」「反基地」のデモも頻発します。

街の治安は乱れ、ごろつきの使い走りをする少年たちの姿も見受けられました。そんな少年の中にグスクは、ウタの姿を見つけます。警官のグスクに反抗的な態度をとるウタ。

レイも行方をくらませ、ヤマコとも距離ができ、グスクは一抹の寂しさを覚えていました。そんな折、アメリカ産の物資が大量に人々の家の玄関に届けられるようになりました。

その昔、「戦後アギヤー」によって戦果が届けられたように、物資が届きます。まだまだ生活に困る家庭も多い沖縄の人々は喜びますが、その中にガスマスクが入っているようになり、人々は困惑します。

その頃「米軍が沖縄に毒ガス部隊を配置しようとしている」という新聞記事が出て、皆を驚かせます。しかも「日本政府がそれを知っていた」との記事も出て、沖縄の人々も我慢の限界に達します。

ついに、大規模な嘉手納基地へのデモ行進が始まりました。デモの混乱にまぎれて、レイは嘉手納基地に毒ガス攻撃を仕掛けようとしました。

レイの計画を読んだグスクはレイを止めようと、追いかけて嘉手納基地に入ります。ですが、2人ともアメリカ軍のヘリコプターに上空から見つかってしまいます。

逃げる2人が迷い込んだ場所は、かつて嘉手納強盗未遂事件があったときも2人が迷いこんだ「ウタキ」と呼ばれる神聖な森でした。

追い詰められた2人ですが、仲間の手助けによって基地から脱出することに成功。レイとグスクは生きて基地から戻ることができましたが、デモに参加していたウタは命を落としました。

ウタと交流のあったレイ、グスク、ヤマコは、ウタの出生を知るために、ウタが幼い頃に住んでいた洞窟へと向かいます。

洞窟には白骨化した遺体がありました。それが誰なのかわかりませんでしたが、3人はそれぞれが調査した情報をつなぎ合わせ、その遺体は消息不明となったオンちゃんであるということに気づきます。

ヤマコがユタのおばあから聞いた話によると、オンちゃんの行方がわからなくなったあの嘉手納基地の事件の日、米軍の高官の子を身ごもり、基地の中のウタキの森で出産した女がいるとのことでした。

オンちゃんは事件当日、逃げているときにその産まれたばかりの赤ん坊を助けて、基地の外に連れて帰ろうとしていたのでした。これが「予定にない戦果」だったのです。

オンちゃんはアメリカ軍に追われ、赤ん坊と一緒に悪石島に身を隠します。やがて満身創痍で沖縄に戻り、ウタと名付けた赤ん坊と共に洞窟に隠れ住みました。ですが、足の怪我がもとで歩けなくなったオンちゃんは、そのまま洞窟の中で死を迎えます。

わずか3歳のウタは成す術もなく、ごみを漁るようにして生き延び成長しました。そして、浮浪児としてレイやグスクの前に姿を現し、食べ物を与えてもらっていたのでした。

すべてを知った3人は、オンちゃんへの尊敬を深め、これからも強く生きていこうと決意します。

1972年、沖縄は本土へ返還されました。テロリストとして警察から追われるレイは一時的に身を隠します。

返還後も何も変わらない沖縄の日常生活を過ごす「戦果アギヤー」たち。レイも戻ってきて、ときおり顔を合わせるときがあると、ウタの話などをします。

ヤマコが道端で教えてやった文字を使い、ウタは自分の気持ちを手紙に書いていました。

ヤマコやグスクと知り合い、話に出て来る英雄が、幼い日々の流浪をともにしたあの人だと察しても、洞窟の中の遺骨のことを言えなかったウタ。迂闊に話すと3人の運命がもっとばらばらになるのではないかと危惧したようでした。

レイのもとで使い走りをしたこともあり、レイへの手紙には、「おいらはどこから来て、どこに行くんだろう。ずっとそればかりを考えていた」と書いてありました。

また、島の中で見聞きした普通の生活に、いちいちあげた「あきさみよう!(あれまぁー)」という感嘆の声を書いています。

‟オンちゃんに連れられてこの島に来て、出逢えたものは素晴らしいものばかり。こんな素晴らしいものばっかりの島があるなんて!”

その全ては、オンちゃんがくれた戦果です。

グスクもレイもヤマコも、自分たちがとびきりの戦果アギヤーだった証となる手紙を何度も読み直し、ウタとオンちゃんに思いを馳せます。

小説『宝島』の感想と評価

本作は、第160回直木賞のほか第9回山田風太郎賞、第5回沖縄書店大賞を受賞。全てが失われた戦後沖縄を舞台に、混とんとした時代を全力で駆け抜けた“戦果アギヤー”と呼ばれる若者たちの姿を壮大なスケールで描いています。

オン、グスク、レイ、ヤマコの4人は、アメリカ軍から食料などを盗み出し、島の人々に配っていました。島ではそんな活動をする人を「戦果アギヤ―」と呼び、英雄視されていました。

ある日、仕事が失敗し、オンの消息は途絶え、グスクとレイはそれぞれ個別に刑務所へ行きます。それからも、ヤマコを含む3人はオンちゃんの行方を探し続けます。

本作は、自分たちの意志を曲げずに生きるグスクたちの姿を力強く描いていますが、実は物語には、もう一つ作者が投げかけている重厚なテーマがありました。

それは、あの戦争で日本で唯一の陸上戦の地となり、敗戦を迎えた沖縄が背負わされていた理不尽さです。これは現代でも続いていることかもしれません。

今でも根強いこの‟支配される境遇”は、沖縄がアメリカの占領下におかれて日本に返還されるまでの長い年月の間は、もっとひどかった! 沖縄の人々にとっては地獄のような日々だったことでしょう。

それでも沖縄の人々は我慢強く耐え、運命が仕掛けた逆境に抑圧されつつも、雄々しく立ち上がっていきます。

そんな人々を主人公にした沖縄の戦後史を綴った歴史書でもあると言える本作からは、絶対にあきらめないという不屈の精神と生きる喜びに満ちた勇気をもらえます

映画『宝島』の見どころ

原作は、戦後沖縄を舞台に史実に記されない真実を描いています

原作の持つ圧倒的な熱量に魅かれた大友啓史監督は「時代はいつしか平成から令和に変わったけれど、それでも私たちが記憶の底で、遺伝子の隅々まで忘れてはいけない物語が確実に存在する。戦後の沖縄を舞台に描かれる『宝島』は、まさにそんな類の物語だ」と語っています。

映画でも原作のスケール感を損なうことのないよう、大友監督が細部まで徹底的にこだわり抜いたと報じられました。

なかでも注目は、原作で書かれた1970年12月20日未明にコザで群衆5000人が米軍関係車輛を次々と焼き払った「コザ騒動」です。この大騒動を大友監督が映画でどのような規模感で描くのかと、期待は高まります。

一方、ストーリーで気になるのは、登場する4人の「戦果アギヤー」の生き方です。行方不明になった島の英雄オンちゃんを探しながら、その親友と実弟と恋人がはそれぞれの人生を歩んでいきます。

後に警官となるオンちゃんの親友のグスクを演じる妻夫木聡、後に愚連隊となる実弟のレイを演じる窪田正孝、そして後に小学校の先生となる恋人ヤマコ役には広瀬すず。

豪華なキャストで織りなす三人三様の人生の中心には、常に永山瑛太演じるオンちゃんがいます。

美しい南の島の沖縄で育まれる4人の友情と愛情は、戦後沖縄の20年間の歴史と交錯。原作では島への愛情を吐露するのは少年ウタですが、映画では誰が語ってくれるのでしょうか。

誰が言ったとしても、彼らの生まれ故郷の‟島”を‟宝島”と称し、故郷への深い愛を表現した作品となっているのに違いありません。

映画『宝島』の作品情報

【日本公開】
2025年公開(日本映画)

【原作】
真藤順丈『宝島』(講談社)

【監督】
大友啓史

【キャスト】
妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太

まとめ

2025年公開予定の映画『宝島』の原作小説をご紹介しました。

小説では、戦後の沖縄を舞台に、アメリカ軍から物資を奪って貧しい人々に配っていた「戦果アギヤー」たちのそれぞれの人生を描いています

占領下の沖縄での理不尽な生活や危うい日米関係に左右される政治情勢のもとで、それでも力強く生きる主人公たち。

戦争のせいで孤児となった少年・少女も多いのですが、沖縄はそこで生まれて生きている人たちにとって、普通に笑って生活できる素晴らしいものが揃っている宝島だったのです。

「戦果アギヤー」は占領下の貧しい住民へ米兵からの盗品を配る正義感溢れる好漢で、世間では泥棒と呼ばれる行いをするのですが、人々の憧れの的でした。

そんな「戦果アギヤー」を妻夫木聡、窪田正孝、永山瑛太らが力強く演じ、また自分の主張を曲げずに凛々しく生きるヤマコの複雑な胸の内を広瀬すずがどう魅せてくれるのかと、映画への期待が膨らみます。




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