「撮るんだよ、映画!」―時代劇オタクの女子高生が高校最後のひと夏を映画製作に懸ける!
7人の仲間と共に時代劇を撮ろうと奮闘する女子高生のひと夏の青春を描いた映画『サマーフィルムにのって』は、心はずむ青春映画であり、SF映画でもあるというジャンルミックスな作品です。
主演の女子高生「ハダシ」に、乃木坂46の元メンバーで、ドラマや映画など幅広い活躍をみせる伊藤万理華、ハダシが、主演にと惚れ込む男子高校生・凛太郎に『猿楽町で会いましょう』の金子大地が扮するなど、これからの日本映画を牽引する次世代俳優たちがずらりと集結。
監督は伊藤が主演したドラマ『ガールはフレンド』や映画『青葉家のテーブル』の松本壮史が務め、劇団「ロロ」主宰・三浦直之が脚本を担当しています。
映画『サマーフィルムにのって』の作品情報
【公開】
2021年公開(日本映画)
【監督】
松本壮史
【脚本】
三浦直之、松本壮史
【キャスト】
伊藤万理華、金子大地、河合優実、祷キララ、板橋駿谷、甲田まひる、ゆうたろう、小日向星一、池田永吉、篠田諒
【作品概要】
時代劇が好きな女子高生が7人の仲間と共に時代劇を撮影するひと夏を描く青春映画。『青葉家のテーブル』(2020)の松本壮史が監督を務め、劇団「ロロ」主宰・三浦直之が脚本を担当しています。
ドラマ、映画を始め、様々なクリエイティブ活動で活躍する伊藤万理華、『猿楽町で会いましょう』の金子大地など、次世代俳優たちが勢揃いし、息のあった演技を見せています。
映画サマーフィルムにのって』のあらすじとネタバレ
「ハダシ」は、時代劇、中でも勝新太郎が大好きな高校3年生です。親友の「ビートバン」と「ブルーハワイ」と共に、河川敷に放置された車を秘密基地にして、毎日のように時代劇映画のDVDを観たり、映画談義に花を咲かせていました。
ハダシは「武士の青春」という脚本を書き上げ、所属する映画部が毎年制作する作品候補に名乗り出ますが、ライバルである花鈴のキラキラ恋愛劇との投票であえなく敗れてしまいます。
花鈴監督のもと、順調に進んでいく撮影を横目に、ハダシは浮かない顔です。ビートバンが、映画部でなくても個人で「武士の青春」を撮ればいいじゃない、やれることがあったら手伝うよと言ってくれますが、主役にふさわしい人物もみあたりません。
そんなある日、地元の名画座に古い時代劇を観に行ったハダシは、映画館で凛太郎に出会います。彼こそ「武士の青春」の主役猪太郎にぴったりだ!と感じたハダシは初対面にも関わらず駆け寄り、「映画に出てください」と嘆願していました。
凛太郎はハダシを観てなぜか「監督!」と叫びますが、映画に出ることは固く拒否します。逃げる凛太郎を追うハダシ。凛太郎は鉄橋からはるか下の川にダイブして逃げ延びようとしますが、あとを追ってハダシもダイブし、凛太郎を驚かせます。
何度頼んでも断られ、ハダシはついに「わかった」と答えました。「映画を撮るのもやめる」と彼女が言うと、凛太郎はなぜかあわてて、結局主役を演じることに合意します。
ハダシは学内を駆け回り、「この夏の間だけ、みんなの青春、私に頂戴」と言って、「超一級」のキャスト・スタッフを選び出しました。クラスメイトで夏目漱石の朗読がうまく、高校生とは思えない風格のあるダディーボーイを主人公猪太郎の相棒・子之介役に抜擢。
キャッチャーミットの音だけを聞いて、どのピッチャーが投げたのかを当てることが出来る野球部補欠の駒田と増山を録音担当、照明をたくさんつけたデコチャリを乗り回しているヤンキー小栗を照明係として口説き落としました。
殺陣の指導は剣道部部長のブルーハワイが務め、ビートバンがiPhoneでの撮影を担当し、ついにクランクイン。慣れない撮影に四苦八苦しながらも文化祭でのゲリラ上映を目指して7人は力を合わせます。
いい感じにチームワークが出来上がった頃、なんと凛太郎がタイムマシンで未来からやって来たことが判明。彼はハダシのデビュー作を観たいがために、未来からやってきたのです。
凛太郎が言うには、ハダシは大監督になって数々の名作を発表することになるのだそうです。でもデビュー作だけ存在がわからず観ることができないといいます。
ただし、上映履歴はあり、それが秋の学園祭であったことから、それを観にわざわざ凛太郎は未来からやってきたのでした。まさか自分が主演することになるとは思いもせずに。
仲間たちは皆、驚きますが、ハダシが何よりショックだったのは、凛太郎たちが住む未来の世界では映画がないという事実でした。映像は5秒がスタンダードで一分もあれば長編と言われてしまうとのこと。皆、他のことに忙しく、二時間前後もある映画など観る暇がないのだといいます。
落ち込んでいるハダシに向かって凛太郎は言うのでした。「たまたま監督の映画に出会って人生が変わったんです。監督が主役は俺じゃないとダメだと言ってくれたみたいに、俺も監督じゃないとダメなんです。俺が未来を変えて見せます」と。
「どうやって?」とハダシが尋ねると凛太郎は「たゆまない努力です」と応えました。
ラストシーンを撮るために、海辺の町で合宿をするハダシたち。ところが、花鈴たち映画部も、同じところでロケをしていました。なんで同じところなのよ、とハダシは思わず愚痴ります。
宿も同じだったようで、風呂場で湯船につかっていたビートバンとブルーハワイのもとに、花鈴が姿を見せます。「勝負しましょう」というビートバンに対して花鈴は「眼中にもなかったわ」と言って、2人を唖然とさせます。
しかし、翌日、映画部の出演者の一人が好きな人に告白してふられたショックで倒れたため、欠員が出て花鈴たちは困り果てていました。その様子を見たハダシは「適任者がいるよ」とブルーハワイを指差します。実は彼女は隠れラブコメファンだったのです。ブルーハワイは念願のラブコメ出演を果たし見事に代役をやってのけました。
ライバル心を燃え立たせながらも、お互いに協力仕合い、映画の完成を目指す二組。ハダシは、撮影をしていく中で凛太郎に恋していることに気が付きます。
最後の撮影で、ハダシは悩みに悩んでいたラストを書き換え、子之介役が敵と知った猪太郎が子之介を斬らないストーリーを選択しました。
すべてを撮り終えたハダシと花鈴は背中合わせに座り、懸命に編集に励みます。その合間に、2人は花鈴の好きな恋愛映画のDVDを観ます。恋心を胸に秘めたままのヒロインの姿に感動しつつ、花鈴は自分はこういう映画は撮らないと言います。「勝負しない主人公は観たくないから」と。
どこで上映するつもりかと尋ねられたハダシは、映画部の上映をのっとるつもりだったと応えます。花鈴は二本立てを提案し、「勝負しょう」と微笑みました。ハダシは花鈴に礼を述べました。
映画『サマーフィルムにのって』の感想と評価
『サマーフィルムにのって』は、高校最後の夏休みに映画作りに熱中する生徒たちの姿を、コミカルかつエモーショナルにみずみずしく描き、観る者の心を激しく揺さぶる至高の青春映画です。
勝新太郎が好きな時代劇オタクの女子高生が、親友たちと秘密基地のような場所で、時代劇三昧している姿の実に楽しそうなこと! 親友たちの「ビートバン」、「ブルーハワイ」というニックネームを聞いて、相米慎二の『ションベンライダー』を想起する人も多いことでしょう。
池田エライザ監督の『夏、至るところ』では登場人物の一人が相米の『台風クラブ』について言及していましたが、こうした2020年代の青春映画が相米作品に目配せしているのは相米映画好きにとっては実に嬉しいことです。
また、ハダシは7人の仲間と映画を撮っています。その人数について映画内で言及されることはありませんが、当然、映画ファンにはぐっとくるものがあります。
それらは『サマーフィルムにのって』で、伊藤万理華扮する主人公の「ハダシ」が語る、「映画って、スクリーンを通して今と過去をつないでくれるんだと思う」という言葉と重なるものです。心をとらえた映画の記憶が新しい世代に受け継がれ、新しい形として芽吹き、育まれていくのです。
映画製作の難しい部分をさらっと省いているとか、もう少し、制作過程を見たかったといった思いもあるにはありますが、本作が描きたかったのはもっと別のところにあります。
ひとつは、前述したように「継承」の問題です。大好きなものへの思いを未来につなげたい。自分が受け取った大切なものがまた未来に別の形で誰かを感動させるかもしれない。そんな映画への思いがスクリーンに溢れ出します。
だからこそ、ハダシは未来では映画が失くなっているという事実を知り愕然とするのです。今、映画界で問題となっている「ファスト映画」をさらに極端にしたような状態が未来では起こっているというのです。
未来につながらないことを今、やることになんの意味があるのかとハダシは戸惑います。そんな中、未来からやってきた金子大地扮する凛太郎は自分が映画を蘇らせることをハダシと約束します。
2人の間には恋が芽生えますが、すぐに離れ離れになってしまうこともあって告白することができません。
ラスト、2人が箒を握りしめて行う決闘は、迫力ある殺陣が繰り広げられる映画最大のアクションシーンです。ですが、互いに真剣にぶつかっていく行為自体が切ないラブシーンのようで、観るものの涙腺を崩壊させます。
またラブシーンのようでありながら、やはり格別のアクションシーンとして、観るものに激しい高揚感をもたらせもします。
そして、もうひとつ、この映画に深く込められているのは、ものを創造すること、創造を突き詰めることに従事する人々たちの喜びや苦しみです。
ハダシは、常に映画のラストについて迷い続けています。何度も何度もシナリオを書き直し、「敵討ち」について、熟考し続けます。
破天荒で胸を打つラストの展開は散々迷った末の最後の決断によるものです。
そこに現れているのは、妥協せず、世界観をつきつめていこうという姿勢がなければ良いものなどは生まれてこないのだという監督の松本壮史、脚本の三浦直之からのメッセージです。若いキャストや、映画を観る人々へのエールでもあるのでしょう。
最初は映画部にはあるまじきリア充集団としておバカなキラキラ恋愛劇を撮っているとしか思えなかった花鈴をはじめとする映画部が、筋を通す連中であることがわかり、次第に良きライバルとなっていく展開も胸アツです。ライバルである花鈴もまた、妥協しない真の創造者といえるでしょう。
股旅映画に登場する侠客たちが、筋を通し、「おとしまえをつける」連中であるように、本作もまた、ハダシが、自分の映画づくりに、筋を通し、おとしまえをつける物語と表現することができます。
物語は「映画」へと集約されていますが、その対象は観る人によって、様々に形を変え、その人、それぞれの大切なものを想起させるでしょう。
したがって、必ずしも映画ファンでなくても、この映画にはそれぞれ何かしら心を打つものがあり、自身の思いにつながっていくはずです。
まとめ
時代劇オタクの女子高生を溌剌と演じる伊藤万理華の素晴らしさが、映画を牽引しています。伊藤という俳優が「ハダシ」というキャラクターを演じているというのではなく、「伊藤=ハダシ」にしか見えません。
時代劇ヲタクという作り込んだキャラクターにもかかわらずその佇まいはなんとも自然で、小さな体がスクリーンの中で大きく躍動し弾ける様は感動的でさえあります。
同じくビートバンという天文部の女子生徒に扮した河合優実もいかにもな文系少女役ですが、こちらもとてものびのびと自然な演技を見せており、また、ブルーハワイこと祷キララが見せる穏やかで爽やかな表情や動作が実に新鮮です。
『さらば青春の光』の改造されたベスパのごとく装飾された「デコチャリ」に乗る篠田諒には笑わせられますし、男性陣は皆、ユニークなキャラクターだらけ。
未来人という設定の金子大地が一番まともに見えるのが面白く、金子も落ち着いた爽やかな人間味あふれる演技を見せています。また、武士の姿が決まりに決まっていることにも言及しないわけにはいかないでしょう。
映画の終盤、文化祭の日、体育館で行われた映画の上映会で、ハダシたちは、ドキドキしながら、期待と不安の中でスクリーンの前に座っています。
カメラは暗闇での彼らの様子を映し出します。スクリーンを食い入るように見つめ、笑顔に溢れる彼らの表情は、『サマーフィルムにのって』を観る私達の表情と酷似しているでしょう。