Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2020/05/23
Update

実話映画『SKIN/スキン』あらすじと感想レビュー。レイシストからの更正を誓い顔のタトゥーを剥いだ若者

  • Writer :
  • 松平光冬

ヘイトの“仮面”を剥いで更生の道を歩んだネオナチ青年を描く実話

レイシストとして生きてきた若者の贖罪と苦悩を描く映画『SKIN/スキン』が、2020年6月26日より新宿シネマカリテほかにて公開となります。

2003年にアメリカで発足したスキンヘッド集団「ヴィンランダーズ」の共同創設者ブライオン・ワイドナーの実話をベースに映画化したヒューマンドラマ。

本作が長編デビュー作となるガイ・ナティーヴが手掛け、『リトル・ダンサー』(2000)、『ロケットマン』(2019)のジェイミー・ベルが全身にタトゥーを纏った白人至上主義者を演じた、衝撃の実録ドラマの見どころを解説します。

映画『SKIN/スキン』の作品情報

(C)2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

【日本公開】
2020年(アメリカ映画)

【原題】
SKIN

【監督・脚本・共同製作】
ガイ・ナティーヴ

【製作】
ジェイミー・レイ・ニューマン、オーレン・ムーバーマン、セリーヌ・ラトレイ、トルーディ・スタイラー、ディロン・D・ジョーダン

【撮影】
アルノー・ポーティエ

【編集】
リー・パーシー、マイケル・テイラー

【キャスト】
ジェイミー・ベル、ダニエル・マクドナルド、ダニエル・ヘンシュオール、ビル・キャンプ、ルイーザ・クラウゼ、カイリー・ロジャーズ、コルビ・ガネット、マイク・コルター、ヴェラ・ファーミガ、メアリー・スチュワート・マスターソン

【作品概要】
2003年にアメリカで発足したスキンヘッド集団「ヴィンランダーズ」の共同創設者ブライオン・ワイドナーの実話をベースに映画化したヒューマンドラマ。

全身に無数のタトゥーを入れたブライオンが、シングルマザーのジュリーとの出会いによりこれまでの悪行を悔い、更生を誓う様を描きます。

ブライオン役を『リトル・ダンサー』(2001)『ロケットマン』(2019)のジェイミー・ベル、ジュリー役を『パティ・ケイク$』(2017)のダニエル・マクドナルドがそれぞれ演じます。

また、反ヘイト団体を運営するダリル・L・ジェンキンスを、マーベルヒーローのルーク・ケイジ役で知られるマイク・コルターが演じます。

監督は、短編『SKIN』(2018)でアカデミー賞短編映画賞を受賞し、本作が長編デビュー作となるガイ・ナティーヴです。


映画『SKIN/スキン』のあらすじ


(C)2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

反ファシスト抗議を行う人々に、猛然と襲いかかるスキンヘッドの集団の中に、顔じゅうにタトゥーを施した男、ブライオン・“バブス”・ワイドナーがいました。

彼は10代で親に捨てられ、白人至上主義者グループを主宰するフレッドとシャリーンのクレーガー夫婦に拾われ、実の子のように育てられました。

今やグループの幹部となり、筋金入りの人種差別主義者となっていたブライオンは、とあるきっかけから3人の娘を育てるシングルマザーのジュリーと出会います。

彼女との出会いで、これまでの自分の人生に迷いが生じたブライオンは、次第にグループからの脱退を考え、更生することを誓います。

しかし、前科とタトゥーが障害となり仕事につけないばかりか、彼の裏切りを許さない元仲間たちからの脅迫に悩まされることに。

そんなブライオンに、反ヘイト団体を運営する政治活動家のジェンキンスが、転向の手助けを申し出て……。

映画『SKIN/スキン』の感想と評価


(C)2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

アメリカの病理、レイシズム問題を描く

本作『SKIN/スキン』は、元ネオナチのレイシスト、ブライオン・ワイドナーの半生をベースに描いた実録ドラマです。

白人至上主義者だったブライオンが更生すべく、計25回、16カ月に及ぶ過酷なタトゥー除去手術に挑む様に密着したテレビドキュメンタリー『Erasing Hate』(2011)に感銘を受けたイスラエル出身のガイ・ナティーヴ監督が、長編映画化を企画。

しかし、アメリカで映画製作の実績がなかったナティーヴは、資金調達のために、同じくレイシズムをテーマにした短編『SKIN』を製作します。

これが大きな反響を呼び、企画立ち上げから7年を経て、ようやく本作が実現しました。

なお、この短編『SKIN』は、2019年のアカデミー賞短編映画賞を受賞しています。

参考映像:短編『SKIN』(2019)

貧困、格差がヘイトやレイシズムを生む

(C)2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

本作の主人公ブライオンは、実の両親に捨てられた後、白人至上主義グループを主宰するクレーガー夫婦に拾われ、自らもレイシストの道を歩んできました。

主宰者のフレッド・クレーガーは、ブライオンのように家庭環境に恵まれなかったり、生活が苦しく学校に行けない少年少女たちに目星をつけてスカウト。

彼らに衣食住を与える代わりに、「黒人(アフリカ系)やヒスパニック系、アジア系、ユダヤ系、ホームレスや身体障害者といったマイノリティが、我々のような優れた白人の居場所を奪った」と扇動することで、ヘイトやレイシズムを植え付けて“構成員”にしていくのです。

クレーガーや実在のブライオンが創設した「ヴィンランダーズ」のようなレイシストグループは、アメリカ国内だけでも1,000以上存在すると云われます。

貧困や格差社会がヘイトやレイシズムに直結してしまう、多人種国家が抱える病理。

さらに構成員の中には、生きていくためにレイシストになった者もいることから必ずしも一枚岩ではなく、メンバー間にもヘイトが存在します。

ブライオンは、そうした上辺だけの負の感情でつながるファミリーに次第に嫌気が差し、シングルマザーのジュリーと慈しみのあるファミリーを築こうと、グループからの脱退を決意します。

(C)2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

ヘイトと不安の仮面を剥ぐ


(C)2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

ジュリーや反ヘイト団体主宰者ダリル・L・ジェンキンスの手助けにより、ブライオンは過去の自分との決別する証として、顔のタトゥーの除去手術に挑みます。

顔のタトゥーはヘイトの象徴であると同時に、ジェンキンス曰く「不安を隠す仮面」

しかしながら、レーザーを照射してタトゥーを消す施術は、想像を絶する激痛を伴います。

ユング心理学において仮面を意味する「ペルソナ(Persona)」を、これまで犯した罪を心から悔やむ、文字通り「痛悔(つうかい)」の念を持って剥がすことで、彼は本当の意味での人間=パーソン(Person)となっていくのです。

そのブライオンを演じたジェイミー・ベルは、『ロケットマン』での名助演も記憶に新しいところですが、もはや「『リトル・ダンサー』の少年役でデビュー」という紹介文が不要なほど、順調に俳優キャリアを重ねています。

本作では、毎日3時間半の時間をかけてタトゥーや偽歯メイクを施し、肉体も短期間で20ポンド(約10キロ)も増量。

メイク時間を節約するために一日中タトゥーを入れたまま過ごす時もあり、その際は製作スタッフをも安易に寄せ付けなかったほど、ブライオンと完全に同化していたそう。

まとめ

(C)2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

ナティーヴ監督が本作『SKIN/スキン』の脚本を書き始めたのは、バラク・オバマ政権が2期目を迎えていた時期でした。

黒人大統領の誕生により、ヘイトやレイシズムが完全に無くなるのではと云われていたアメリカ。

ところがその期待はドナルド・トランプ政権になるとあっけなく瓦解し、全米各地で痛ましい人種間暴動やヘイトクライムが多発することとなります。

国のトップがヘイトスピーチを繰り返し、レイシストグループも年々増加する絶望的現状でありながら、それでもユダヤ人であるナティーブ監督は、アメリカにはブライオンのように更生できる希望もあることを本作で提示します。

今年11月に大統領選を控えるアメリカの今後を見据える意味でも、観てほしい一本です。

映画『SKIN/スキン』は、2020年6月26日より新宿シネマカリテ他で公開。



関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』あらすじネタバレと感想評価。音楽と感動のドラマが勇気を与える

素敵な音楽と感動のドラマ。 人生に悩む時、音楽は生まれる。 元ミュージシャンの父と母親の才能を受け継ぐ娘が、音楽活動を通してお互いの人生を考え、前に進んで行くストーリー。 将来への希望と不安、愛する人 …

ヒューマンドラマ映画

映画『修道士は沈黙する』あらすじとキャスト。予告ビジュアル解禁!

映画『修道士は沈黙する』は、2018年3月17日(土)よりBunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー公開です。 各国の一流俳優が豪華共演し、イタリアの鬼才ロベルト・アンドーが作り上げたスタ …

ヒューマンドラマ映画

映画『叫びとささやき』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。ベルイマン監督が家族の愛憎と人の欲望を“強烈な赤”で彩る

アメリカでのベルイマン代表作『叫びとささやき』 1973年にスウェーデンで公開された映画『叫びとささやき』は、死を間近に控えた次女と、その看病を任された二人の姉妹、そして召使の4人を描いたヒューマンド …

ヒューマンドラマ映画

映画『晩春』ネタバレ解説と考察評価。結末までのあらすじで解く、娘の結婚に“複雑な父の思い”

「なるんだよ、幸せに」小津作品の中でも特に傑作と名高い作品『晩春』を観る 映画『晩春』は、小津安二郎の1949年の作品で、小津作品の中でも『東京物語』(1953)などと並ぶ最高峰の一つとして高く評価さ …

ヒューマンドラマ映画

映画『しんしんしん』あらすじ感想と評価解説。行く当てのない人々が身を寄せ合う“疑似家族の旅”を切なく描く

孤独な魂が身を寄せ合う疑似家族の生きざま 東京藝術大学で黒沢清に師事した『ピストルライターの撃ち方』(2023)の眞田康平の初監督作品。 伝説のバンド「はっぴいえんど」の名曲「しんしんしん」にインスピ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学