Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2019/02/23
Update

『サムライマラソン』ネタバレ感想。一気にラストまで駆け抜ける結末に爽快感がある時代劇

  • Writer :
  • もりのちこ

日本初のマラソンは江戸時代に行われた「安政遠足(あんせいとおあし)」だった。

優勝すれば願いが叶う夢のマラソン大会が、藩の存亡をかけた戦いに変わる。行きはマラソン、帰りは戦。

『超高速!参勤交代』の土橋章宏が史実を基に書き下ろした『幕末まらそん侍』の原作をベースに、『ラストエンペラー』のジェレミー・トーマスと『おくりびと』の中沢敏明が、企画・プロデュースに参加。

監督は『不滅の恋/ベートーヴェン』のバーナード・ローズ監督。

国境を超えた最高のスタッフと豪華キャストで贈る、幕末エンタテイメント『サムライマラソン』を紹介します。

映画『サムライマラソン』の作品情報


(C)“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners
【公開】
2019年(日本)

【原作】
土橋章宏「幕末まらそん侍」

【企画・プロデュース】
ジェレミー・トーマス、中沢敏明

【監督】
バーナード・ローズ

【キャスト】
佐藤健、小松菜奈、森山未來、染谷将太、青木崇高、木幡竜、小関裕太、深水元基、カトウシンスケ、岩永ジョーイ、若林瑠海、竹中直人、筒井真理子、門脇麦、阿部純子、奈緒、中川大志、ダニー・ヒューストン、豊川悦司、長谷川博己

【作品概要】
土橋章宏の「幕末まらそん侍」を原作に、『不滅の恋/ベートーヴェン』のバーナード・ローズ監督が映画化。

プロデューサーには『ラストエンペラー』を手掛けたジェレミー・トーマス。音楽担当は『めぐりあう時間たち』のフィリップ・グラス。そして衣装デザイナーは『乱』のワダエミ。アカデミー賞受賞スタッフが集結しました。

キャストには、佐藤健、小松菜奈、森山未來、染谷将太、長谷川博己、竹中直人と日本を代表する俳優たちが勢揃いです。

映画『サムライマラソン』のあらすじとネタバレ


(C)“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners
時は嘉永6年。日本は、260年続いた鎖国が終わろうとしていました。黒船来航です。

献上品として異国の品を携えてやってきたペリー。対面する幕府家老の五百鬼祐虎(豊川悦司)。

モールス信号、ウィスキー、ピストル、見たこともない異国の品々は、日本にとって幸せをもたらすものなのか、それとも災いをもたらすものか、計り知ることは出来ません。

迫る異国の脅威に日本国中が不安を抱えていました。

安中藩主・板倉勝明(長谷川博己)は、開国に備え藩士を鍛えることを思いつきます。その案とは、藩士たちを集め十五里の道を走らせる「遠足」でした。

さっそく、藩士たちを収集します。「侍は強くなくてはならん。心と体を鍛錬せよ!遠足を行う!この遠足の勝者には望みを聞いてつかわす」と宣言します。

安中藩の藩士たちは、戦もなく穏やかな世にすっかり慣れていました。

安中藩家老の息子・辻村平九郎(森山未來)は、身分を鼻にかけた遊び人。藩主板倉の娘・雪姫(小松菜奈)に思いを寄せるも、叶わず。この遠足で勝って、雪姫を娶ろうと躍起になります。

勘定方のリーダー・植木義邦(青木崇高)は、腰痛持ちで遠足の参加にもやる気がありません。

足軽の上杉広之進(染谷将太)は、藩一の俊足の持ち主。遠足で勝って武士になり家族を楽させたい。優勝候補です。

遠足の前日、藩主の板倉から突然解雇された老侍・栗田又衛門(竹中直人)は、隠居する前にもう一花咲かせたいと、亡くなった友の息子と遠足に参加することを決めます。

勘定方の唐沢甚内(佐藤健)は、一見平凡な侍です。目立たず、恥をかかず、秀でず、酒で酔わず。真の姿は、幕府のスパイ。唐沢家は代々幕府の隠密でした。

急な藩主からの収集を不審に思った甚内は、江戸幕府へ密書を送ります。

しかし藩主の提案は、謀反でもなくただの「遠足」でした。誤った情報を流してしまった甚内は、急いで飛脚を追いかけますが、すでに関所を通った後でした。

江戸から刺客がやって来る。自分が身をもって止める覚悟で遠足に参加します。

そしてもう一人、遠足の参加を希望する者がいました。藩主板倉の娘・雪姫です。

雪姫はじゃじゃ馬姫で父をいつも困らせていました。絵画が得意が雪姫は、江戸で学びたいと思っていました。もちろん父は猛反対です。

遠足の前日に髪を切り城を抜け出しますが、関所を通ることが出来ません。民に成りすまし、遠足に参加することで関所を超えようと企んでいました。

それぞれの思惑が交差する中、遠足は開催されます。

私利私欲にまみれた者たちは、勝者の賭けのため金で解決をせまったり、ズルをし近道をしたりと散々たるスタートとなりました。

その頃、江戸幕府の五百鬼祐虎は、前々から面倒だと思っていた安中藩を潰しにかかります。

遠足で城から藩士たちが遠ざかる隙をつき、安中藩出身の刺客・はやぶさを送り込みます。

はやぶさを筆頭に荒くれもの達が安中城を目指しやってきます。それを手引きしていた者がいました。安中藩に紛れていた隠密は甚内だけではなかったのです。

以下、『サムライマラソン』ネタバレ・結末の記載がございます。『サムライマラソン』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

腰痛持ちの植木は、遠足の序盤ですでに脱落していました。皆を先に行かせた後、軽々と立ち上がり隠していた馬に飛び乗ります。

馬で山道を走り、幕府からの刺客・はやぶさを迎え入れます。植木もまた幕府の隠密でした。

自分の誤った密書のせいで刺客が来るかもしれないと警戒していた甚内は、異変に気付きます。早々に脱落した上司の植木の様子を見に戻るも、彼がまた隠密であることを知ります。

幕府の策略を知った甚内は、戸惑います。長い潜入生活で得た、愛する者たち、仲間を守りたい。幕府か藩か。揺れ動く忠義。

甚内は、植木を前に刀を抜くことを決めました。隠密同士の鍛え抜かれた剣術がぶつかります。僅かな隙を付いたのは甚内でした。

その頃、遠足の先頭集団は関所を超え、折り返し地点の熊野権現でしばしの休息を取っていました。

わざと皆から遅れてやってきた雪姫は、関所超えを目前にしていました。しかし、関所の役人に身分がばれ拘束されてしまいます。

そこに現れたのが、幕府からの刺客たちです。ピストルで役人たちを次々撃ち殺していく、はやぶさ。閉じ込められていた雪姫は、命からがら逃げるも肩を撃たれてしまいます。

川まで逃げてきた雪姫は、馬を連れた甚内に出くわします。手際よく治療をする甚内に、何者だと問う雪姫。甚内は正直に事の経緯を話します。

すると、川上から遠足の先頭にいたはずの辻村が流されてきます。辻村は折り返しの際、近道だと誘いこまれた先で、家来によって命を狙われていました。隠密は辻村の側にもいたのです。

城が危ない。藩主の板倉の元へ急いで戻る甚内たち。辻村は馬に乗り、遠足の途中の藩士たちに城に戻るように指示を出していきます。逆戻りする藩士たち。

村の入り口で待ち受けるは、幕府の刺客たちです。はやぶさは、ひとり城へ向かっていました。

安中藩士と幕府刺客の対決です。刀と弓の攻防戦。甚内と雪姫、そして遠足の先頭集団にいた上杉たちも合流します。

藩士たちは痛手を負いながらも刺客たちを倒し、一丸となって城へと走ります。遠足の行きはバラバラだった藩士たちの心が、今ひとつになりました。

城では、はやぶさが藩主板倉を人質に待ち構えていました。何も知らない民たちは、遠足の帰りだと勘違いし声援を送っています。

なだれ込む藩士たち。帰りを待つ藩主板倉の横に、はやぶさの姿を見つけた甚内は手裏剣を打ち込みます。空を切るピストルの音。

すかさず女中たちの矢がとどめを刺します。安中藩の戦の強さが伺えます。

はやぶさは倒れるも、今度は藩主板倉の側近・小次郎が刀を抜きます。甚内の手裏剣が飛びます。手裏剣が一瞬早く、小次郎に当たります。

「お前までも隠密だったとは」藩主板倉は、はやぶさが持っていたピストルで小次郎にとどめを刺します。戦いは終わりました。

すべての者がゴールした城では、隠密であった甚内が切腹を申し出ます。雪姫の説得もあり、藩主板倉は甚内を許し、今後藩のために尽くすように申し付けます。

それから12年後。サムライの時代は終わります。安中藩士の遠足のシーンと、現代のマラソンの姿が重なって見えます。マラソンの歴史はここから始まったのです。

映画『サムライマラソン』の感想と評価


(C)“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

これまでにはない時代劇!

外国人監督が撮った日本の時代劇映画というと、2003年公開エドワード・ズウィック監督の『ラストサムライ』を思い浮かべる方も多いことでしょう。

日本人よりも日本人らしい、侍よりも侍らしい、日本の時代劇を外から見るとこんな風になるのかと感心する映画です。武士道、わび・さび、忠義。凛々しく強いサムライの姿が特徴です。

方や、『サムライマラソン』のバーナード・ローズ監督は、イギリス出身。日本の映画界の巨匠・黒澤明監督を敬愛しており、侍たちの戦闘シーンでは黒澤映画を彷彿させる演出も登場します。

こちらは、時代劇特有のセリフ回しも気にせず、サスペンス、人間ドラマ、そしてスポーツの要素まで盛り込んだ幕末エンタテイメント映画となっています。

ジャパニーズ・サムライも人間。私利私欲で裏切ったり、叶わぬ恋に悩んだり、走ったり、殺陣はばらばら、時代劇として見ると少し違和感を感じます。

しかし、プロデューサーのジェレミー・トーマスをはじめ、音楽担当のフィリップ・グラス、そして衣装デザイナーにワダエミと、アカデミー賞受賞スタッフが集結したというスケールの大きさが随所に感じられます。

黒船来航のシーンでの幕府の武士の赤備えのカッコよさ、女たちの衣装のビビッドカラー、西洋の音楽が静かに武士の闘争心を盛り上げ、一気にラストまで駆け抜ける爽快感。まったく新しい日本の時代劇があります。

サムライの面々


(C)“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners
映画『サムライマラソン』の見どころのひとつとして、日本を代表する俳優たちの生き生きとした演技が挙げられます。

主役の甚平役・佐藤健は、どこか陰のある隠密藩士を冷静沈着に演じ、老侍・栗田役の竹中直人は日本古来の「ナンバ走り」を面白おかしく披露します。若手もベテランもそれぞれのキャラで一丸となって映画に取り組む姿勢が伺えます。

佐藤健と青木崇高の『るろうに剣心』コンビの剣術のぶつかり合いも見どころです。隠密らしい小回りの利いた殺陣は息つく暇もありません。

そして何と言っても注目なのが、辻村平九郎役の森山未來です。肉体も精神も仕上がっていて、目が離せません。走る姿も、殺陣も泥臭いけどカッコイイ。遠山の金さん張りの片肌を脱ぎ黒馬にまたがる姿に惚れ惚れします。

まとめ


(C)“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners
土橋章宏の「幕末まらそん侍」を原作に、『不滅の恋/ベートーヴェン』のバーナード・ローズ監督が映画化。日本を代表するキャストとアガデミー賞受賞スタッフが贈る幕末エンタテイメント映画『サムライマラソン』を紹介しました。

2020年東京オリンピックに向けて「いだてん」も盛り上がっていますが、日本史上初のマラソン大会と言われる「安政遠足」を題材とした映画『サムライマラソン』もぜひご覧ください。

関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『ミナリ』ネタバレ考察と結末解説。ラストで韓国語MINARIの意味がユンヨジョン演じるおばあちゃんへの想いに繋がる

映画『ミナリ』は2021年3月19日(金)よりTOHOシネマズシャンテ他にて全国ロードショー。 韓国からアメリカへ移り住んだ一家を描いた映画『ミナリ』。 リー・アイザック・チョン監督自身の家族のエピソ …

ヒューマンドラマ映画

映画『鉄道運転士の花束』あらすじネタバレと感想。結末で見せた“気難しく不器用”な父親の決断とは

鉄道運転士が乗り越えなければならない大きな障害とは? 定年間近の鉄道運転士イリヤは、これまで28人をひき殺した不名誉な記録の持ち主。 自分と同じ道を選んだ養子のシーマは、鉄道運転士が乗り越えなければな …

ヒューマンドラマ映画

映画『天使にショパンの歌声を』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も

もうすぐ、高校生や大学生の最高学年は卒業を迎える3月ですね。 今回ご紹介するカナダ映画『天使にショパンの歌声を』は、そんな別れの季節にぴったりの女性の優しく、そして力強く別れに向き合う作品。 クラシッ …

ヒューマンドラマ映画

映画『島々清しゃ』あらすじネタバレ感想とラスト結末の解説。進藤風監督が沖縄の慶良間諸島に住まう祖父・母親・娘の親子3代を描く

沖縄の慶良間諸島を舞台に“音楽”によって結ばれる人間の絆を描く映画『島々清しゃ』 人の心を解き放っていくものに「自然」と「音楽」と感じる人は決して少なくはないでしょう。 今回ご紹介する『島々清しゃ』は …

ヒューマンドラマ映画

映画『サムライせんせい』あらすじネタバレと感想。人気漫画を市原隼人で実写化

幕末150周年記念作品として製作された映画『サムライせんせい』は、黒江S介の同名コミックス「サムライせんせい」(リブレ刊)の原作を映画化しました。 幕末を奔走した土佐藩の“熱き志士”武市半平太が平成の …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学