冬の京都・貴船を舞台に2分間のタイムループを繰り返す人々の混乱を描くコメディ
『夜は短し歩けよ乙女』(2017)、『ペンギン・ハイウェイ』(2018)の脚本の上田誠率いる劇団ヨーロッパ企画。
世界27ヵ国53の映画祭で上映&23もの賞を受賞した第1弾『ドロステのはてで僕ら』(2020)に続き、制作された長編映画『リバー、流れないでよ』。
京都・貴船の老舗料理旅館「ふじや」で働くミコトは、仕事の合間に貴船川のほとりにたたずんでいました。そこで女将に呼ばれ、仕事に戻ります。
しかし、しばらくするとまた貴船川のほとりにいます。しばらくしてミコトと話していた番頭、女将も異変に気づき始めます。
もしかしてループしている……?パニックに陥りながらも人々は力を合わせて原因究明に乗り出していきますが、その原因とは……。
鳥越裕貴や、本上まなみ、早織、近藤芳正とヨーロッパ企画のメンバーが顔を揃えます。
更に、舞台『夜は短し歩けよ乙女』で上田誠や劇団ヨーロッパ企画と共演したアイドルグループ「乃木坂46」のメンバー・久保史緒里も友情出演。
映画『リバー、流れないでよ』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【監督】
山口淳太
【原案】
上田誠
【脚本】
上田誠
【キャスト】
藤谷理子、鳥越裕貴、永野宗典、角田貴志、酒井善史、諏訪雅、石田剛太、中川晴樹、土佐和成、早織、久保史緒里、本上まなみ、近藤芳正
【作品概要】
ヨーロッパ企画代表で全ての舞台の脚本・演出を手がける上田誠が原案・脚本を手がけ、映像コンテンツの演出を手がける山口淳太が監督を務めたオリジナル長編映画第二弾。
第一弾となった『ドロステのはてで僕ら』(2020)は、世界27ヵ国53の映画祭で上映&23もの賞を受賞しました。
出演者には、ヨーロッパ企画所属の俳優陣が顔を揃えるほか、舞台『夜は短し歩けよ乙女』に出演したアイドルグループ「乃木坂46」のメンバー・久保史緒里も出演しています。
映画『リバー、流れないでよ』のあらすじとネタバレ
京都・貴船の老舗料理旅館「ふじや」。
ふじやで働く仲居のミコトは、仕事の合間に貴船川を眺め佇んでいます。そんなミコトを呼ぶ女将の声に仕事に戻るミコト。
番頭と片付けながら、ミコトは番頭の娘の話を聞いています。娘に恋人がいることにショックを受けている番頭と談笑していたはずのミコトは気づくとまた貴船川の前に佇んでいます。
そこに女将の声が聞こえて仕事に戻るミコトは、またしても番頭と片づけに。「デジャブ?」と首を傾げるミコトに番頭も「ループしているよね?」と言います。そんな会話をしているとまたしてもミコトは貴船川の前にいます。
女将もループしていることに気づきます。そこに仲居のチノの異変に気づき、「何度も熱燗を準備しようとしているのに、全然熱燗が温まらなくて」とパニックになっています。
女将はそんな皆を宥め、「どんな試練があっても皆で乗り越えてきたから大丈夫」と皆に指示を出します。そして女将は外の様子を聞きにいきます。
番頭とミコト、チノは久しぶりに再会し泊まりにきたというクスミ、ノミヤに事情を説明しにいきます。
「この雑炊全然減らないんだよ」訳がわからない様子の宿泊客に「私たちもよく分からないので、状況が分かり次第また…」とミコトとチノ説明している途中でまた2人は元の場所に戻ってしまいます。
ミコトは調味料、チノはぬるま湯の日本酒を手に部屋に向かい、「時間が経ったら戻りますが、調理場からとっていただいて構いませんので」と説明します。
番頭に呼ばれ、ミコトは上の階に泊まっている作家先生の対応に向かいます。「何度PCに入力しても消えてしまう」と言う先生に番頭とミコトの2人で状況を説明します。
やっと理解した作家先生は、締切がないことに喜び、全てを放棄して今の状況を楽しみ始めます。やっと宿泊客が落ち着いてきたと思っていたら……風呂場に作家先生ときた編集者がいました。
編集者も異変に気づいたものの仕方がないので頭を洗っている途中の姿にバスタオルを巻いて出てきます。番頭は慌てて「その格好で出てきてはダメです!」と引き留めつつも、状況を説明していきます。
その頃、女将や本館の調理場の人々を中心に状況を把握し始め、どうやら貴船の一部地域だけちょうど2分間隔でループしていることがわかります。しかし、その原因はわからず、どうやって止めたら良いかも全くわかりません。
そのままループを繰り返していたところ、外の騒動に気づき、休憩室にいた調理場のタクが出てきます。ミコトは慌てて「出てこない方がいい」と言いタクを休憩室に押し込めます。
そして休憩室にあるものを見て、「それ、バレたらまずいんじゃないの」と言います。机の上にあったのはフランス語の教材でした。音楽を聴いていたというタクにミコトは更に「フランスに行くんでしょ、聴いているのも音楽じゃなくてフランス語でしょ。私に黙って行くつもりだったの」と言います。
タクは説明しようとしますが、2分が経ってしまいます。ミコトはタクに「時間止めたの私なんだ」と告白します。
映画『リバー、流れないでよ』の感想と評価
前作『ドロステのはてで僕ら』(2020)は、タイムテレビを通して過去と未来が交信できるというSF映画でした。未来と過去の差はわずか2分です。
この2分というのは、『リバー、流れないでよ』において、ループする時間と同じです。2分はわずかな時間のようで、少しの変化は起こすことができるというミニマムさが、絶妙なシュールさを生み出しています。
また、『ドロステのはてで僕ら』は、カフェとオーナーの部屋を中心に物語が展開され、『リバー、流れないでよ』も、主に旅館を中心に物語が展開していきます。時間だけでなく、場所という側面においてもミニマムに展開されているのです。
このようなミニマムさは、脚本、原案を手がける上田誠が劇団ヨーロッパ企画で舞台を演出してきたという背景が関係しているのかもしれません。小さな世界で繰り広げられる群像劇の中で、巧妙に練られたアイデア、撮影の仕掛けが観客を惹きつけます。
一つは、2分という時間へのこだわりと、計算された長回しの映像です。地下に調理室があったり、窓から貴船川を眺められる客室であったり、旅館の入り組んだ構造を最大限に生かし、登場人物と共に移動するカメラによってまるで迷路のような錯覚を起こさせます。
更に、状況把握からミコトの秘密の告白へと流れ、次第に宿泊客らの関係性への物語と転じていく、物語の展開の早さも見どころの一つです。しかし、その主軸にミコトとタクの淡い恋愛模様が描かれることで全体が爽やかでみずみずしさに包まれています。
ミコトとタクは、互いに好意を抱いているものの、告白することなく、タクはフランスに行くことを考えながらも踏み切れずに悩み、ミコトはタクが自分に伝えずにフランスに行くことに寂しさを感じています。
どこか踏み切れず、直接そのことを話せずにいた2人が、ループによって言えずにいた思いを打ち明け、ミコトは気持ちの整理がつき、タクを送り出せるようになり、タクはフランスに行く決意を固めたのです。
タイムパトロールのヒサメの存在も、ループの原因であったというだけではなく、恋の祈願をしに貴船にやってきたという理由があることによって遠い未来においても、今と変わらない人々の姿を感じることができるのです。
アイデアを駆使した面白さと、普遍的な人々の姿に心が暖かくなります。また、冒頭でも語られますが、貴船といえば夏の川床のイメージがありますが、冬の貴船の静かで美しい姿も映し出されています。
まとめ
タイムループをはじめとしたSF映画は、ハリウッド映画を見ても大作映画で大掛かりな撮影が必要な印象のあるジャンルです。そんな映画をインディーズで、しかも限られた空間で作り出すというアイディアの面白さがヨーロッパ企画の映画の魅力といえます。
『ドロステのはてで僕ら』では、上の階のオーナーの部屋にあるモニターと、下のカフェのモニターがつながっているというところから最初は始まります。
しかし、そのモニターを移動し、鏡合わせのようにすることで、2分後の未来としか会話できなかったはずが、4分後まで知ることができ、その繰り返しによって更に先の未来まで見ることができるようになります。
そのようにやや頭がこんがらがるような仕組みで物語が展開されていきますが、『リバー、流れないでよ』はもっとシンプルな2分間をただ繰り返すといったループになっています。
ループもの×お仕事ムービーとして話題になった『MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(2022)は、同じ月曜日を繰り返すというものでしたが、『リバー、流れないでよ』ではたった2分間です。
それによって、今何が起こっているのか説明したいけれど、また戻ってしまう……というジレンマが生じてくるのも面白いところです。更に、2分という短さの中で逃避行を試みたミコトとタクの微笑ましくもミニマムさ故のおかしさが癖になります。
『ドロステのはてで僕ら』、『リバー、流れないでよ』と続いて2分間に無限の可能性を感じさせる映画を作ったヨーロッパ企画が、次はどんなアイデアで映画を作るのか?とても楽しみになります。