男の友情を描いた脱獄映画の金字塔が、装いも新たによみがえる!
2019年6月21日よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国公開される、チャーリー・ハナム主演の『パピヨン』の詳細な映画解説。
また、実話を記した原作小説や、1973年製作のスティーブ・マックイーン主演の映画版(以下、オリジナル版)との相違点について考察します。
映画『パピヨン』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ、セルビア、モンテネグロ、マルタ合作映画)
【原題】
Papillon
【監督】
マイケル・ノアー
【キャスト】
チャーリー・ハナム、ラミ・マレック、ローラン・モラー、トミー・フラナガン、ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン、イヴ・ヒューソン
【作品概要】
スティーヴ・マックイーンとダスティン・ホフマン出演による、1973年公開作『パピヨン』を2017年にリメイク。
主人公のアンリ・“パピヨン”・シャリエール役を、『パシフィック・リム』(2013)のチャーリー・ハナム、相棒のルイ・ドガ役を、『ボヘミアン・ラブソディ』(2018)のラミ・マレックがそれぞれ演じます。
監督のマイケル・ノアーは、刑務所内での人種間対立を描いた『R』(2010、日本未公開)で注目を浴びた、デンマークの新鋭です。
映画『パピヨン』のあらすじ
1931年、パリ。金庫破りを生業とし、胸に蝶の刺青を入れていることから “パピヨン”と呼ばれるアンリ・シャリエールはある日、身に覚えのない殺人罪で逮捕。
終身刑を受けてしまったパピヨンは、“悪魔島”と呼ばれる、南米のフランス領ギアナにある孤島内の刑務所への護送途中で、ニセ札偽造の罪で死刑宣告を受けたルイ・ドガと出会います。
体内に金を隠し持っているために命を狙われていたドガに、護衛をする代償として脱獄の資金提供を求めるパピヨン。
両極端な性格の2人は、これを機に奇妙な友情を結ぶこととなりますが、同時に彼らにとって、長くて過酷な日々の始まりとなるのでした――。
原作者アンリ・シャリエールと小説『パピヨン』について
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— Papillon (@papillonmovie) April 28, 2017
本作の原作となった小説『パピヨン』は、殺人の濡れ衣を着せられ13年間の獄中生活を送った、アンリ・“パピヨン”・シャリエールによる1969年発表の処女作です。
1944年に、9度目の挑戦でついに脱獄に成功したシャリエールは、その後ベネズエラの市民権を取得し、容疑が晴れて自由の身となりました。
ただ一方で、シャリエールと同時期に獄中生活を送ったという元囚人たちから、小説の内容が事実と異なるといった声が上がったり、冤罪ではなく本当にシャリエールが殺人を犯したのではという説が流布するなどの物議も醸しました。
真偽の程は定かではないものの、原作ではシャリエールが何度も脱獄を試みる過程や刑務所内での混沌とした人間模様、さらには脱獄後の経緯が語られており、これが小説家第1作とは思えないほどの彼の表現豊かな文章力が、余すことなく示されています。
シャリエールはその後、ベネズエラ生活を回顧した続編『パピヨンは死なない』や、映画化の際は自ら脚本・出演した『太陽の200万ドル』を発表するも、映画版『パピヨン』が完成する直前の1973年7月に亡くなっています。
オリジナル版『パピヨン』について
1973年に映画化されたオリジナル版『パピヨン』の大きな脚色として、原作では少ししか登場しないルイ・ドガを、パピヨンの相棒として大きくフィーチャーした点が挙げられます。
これは、スティーヴ・マックィーン扮するパピヨンのパートナーを、第二の主人公的存在にする必要があると判断した、製作陣の意向からです。
そのため、途中から脚本に加わったダルトン・トランボと、パートナー役にキャスティングされたダスティン・ホフマンが協議した結果、ドガの役どころを原作よりも膨らませています。
トランボといえば、太平洋戦争後のアメリカに吹き荒れた、“赤狩り”と呼ばれる共産主義者弾圧に巻き込まれ、公に脚本家としての活動が出来なくなった人物。
その苦難から彼は、理不尽な体制への反発や、真の友情を描いたテーマの脚本を多数手がけました。
ホフマンが「ドガはトランボ本人がモデルになっている」と語るように、オリジナル版ではトランボの存在が際立っていますが、彼自身も俳優として刑務官吏役でカメオ出演しています。
なおトランボについては、伝記映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2016)があります。
参考映像:『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』予告
リメイク版『パピヨン』の特徴
そしてリメイク版となる本作は、シャリエールによる2つの原作(『パピヨン』、『パピヨンは死なない』)と、オリジナル映画版の脚本をベースとしています。
あらすじ展開こそオリジナル版を踏襲していますが、オリジナル版にはなかった原作のエピソードも追加。
冒頭でのパピヨンが刑務所に入る前のパリのエピソード、そしてエピローグなどは、原作を意識した箇所でしょう。
キャスト陣についても触れておきましょう。
まずパピヨンを演じるチャーリー・ハナムは、その説得力ある肉体美を活かした乱闘シーンこそあれど、マックィーンがパピヨンを演じたオリジナル版よりも、“静”の演技に徹した感があります。
それが顕著なのは、中盤での独房シーン。
オリジナル版のパピヨンは、独房生活に耐えきれず発狂寸前にまでなるシーンが話題となりましたが、リメイク版でのパピヨンは、心身共に疲弊しつつも、静かに脱獄への執念を燃やすような性格づけとなっています。
参考映像:『パピヨン』の極限の独房シーン
かたやドガ役のラミ・マレックは、オリジナル版のホフマンよりも性格を尖らせつつ、脆さを抑えるよう心がけたと語っています。
それでいて、時にはパピヨンをも凌駕するタフな精神力を見せる演技力は、さすがオスカー俳優といったあたりでしょうか(もっとも、本作は『ボヘミアン・ラプソディ』よりも前に製作されていますが)。
そのほかに、作品全編に漂う閉塞感がオリジナル版よりも上回っていたり、それでいて『ミッドナイト・エクスプレス』(1978)や『ショーシャンクの空に』(1995)といった過去の刑務所映画を彷彿とするシーンも散見しています。
まとめ
リメイク版『パピヨン』は、原作を未読だったり、オリジナル版映画を観ていない人向けに製作した感があります。
オリジナル版の評価が高いと、どうしてもリメイク版は比較されて評価が下がりがち。
そのため原作やオリジナル版に触れたことのある人の中には、本作の出来に不満を感じるかもしれません。
しかし、何から何までオリジナル版と同じにしても意味はありません。
自由と希望を諦めない男たちを描くという、根本のテーマはしっかりと捉えています。
独自の演出や表現方法を試みた本作は、及第点の出来映えといっていいのではと思います。
極限世界で繰り広げられる男たちの友情を描いた『パピヨン』は、2019年6月21日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー!