Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2019/06/19
Update

映画『パピヨン(リメイク版)』2017と1973年版の比較解説。実話原作とオリジナル劇場版との相違点に迫る

  • Writer :
  • 松平光冬

男の友情を描いた脱獄映画の金字塔が、装いも新たによみがえる!

2019年6月21日よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国公開される、チャーリー・ハナム主演の『パピヨン』の詳細な映画解説

また、実話を記した原作小説や、1973年製作のスティーブ・マックイーン主演の映画版(以下、オリジナル版)との相違点について考察します

映画『パピヨン』の作品情報

(C)2017 Papillon Movie Finance LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

【日本公開】
2019年(アメリカ、セルビア、モンテネグロ、マルタ合作映画)

【原題】
Papillon

【監督】
マイケル・ノアー

【キャスト】
チャーリー・ハナム、ラミ・マレック、ローラン・モラー、トミー・フラナガン、ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン、イヴ・ヒューソン

【作品概要】
スティーヴ・マックイーンとダスティン・ホフマン出演による、1973年公開作『パピヨン』を2017年にリメイク。

主人公のアンリ・“パピヨン”・シャリエール役を、『パシフィック・リム』(2013)のチャーリー・ハナム、相棒のルイ・ドガ役を、『ボヘミアン・ラブソディ』(2018)のラミ・マレックがそれぞれ演じます。

監督のマイケル・ノアーは、刑務所内での人種間対立を描いた『R』(2010、日本未公開)で注目を浴びた、デンマークの新鋭です。

映画『パピヨン』のあらすじ


(C)2017 Papillon Movie Finance LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

1931年、パリ。金庫破りを生業とし、胸に蝶の刺青を入れていることから “パピヨン”と呼ばれるアンリ・シャリエールはある日、身に覚えのない殺人罪で逮捕。

終身刑を受けてしまったパピヨンは、“悪魔島”と呼ばれる、南米のフランス領ギアナにある孤島内の刑務所への護送途中で、ニセ札偽造の罪で死刑宣告を受けたルイ・ドガと出会います。

体内に金を隠し持っているために命を狙われていたドガに、護衛をする代償として脱獄の資金提供を求めるパピヨン。

両極端な性格の2人は、これを機に奇妙な友情を結ぶこととなりますが、同時に彼らにとって、長くて過酷な日々の始まりとなるのでした――。

原作者アンリ・シャリエールと小説『パピヨン』について

本作の原作となった小説『パピヨン』は、殺人の濡れ衣を着せられ13年間の獄中生活を送った、アンリ・“パピヨン”・シャリエールによる1969年発表の処女作です。

1944年に、9度目の挑戦でついに脱獄に成功したシャリエールは、その後ベネズエラの市民権を取得し、容疑が晴れて自由の身となりました。

ただ一方で、シャリエールと同時期に獄中生活を送ったという元囚人たちから、小説の内容が事実と異なるといった声が上がったり、冤罪ではなく本当にシャリエールが殺人を犯したのではという説が流布するなどの物議も醸しました。

真偽の程は定かではないものの、原作ではシャリエールが何度も脱獄を試みる過程や刑務所内での混沌とした人間模様、さらには脱獄後の経緯が語られており、これが小説家第1作とは思えないほどの彼の表現豊かな文章力が、余すことなく示されています。

シャリエールはその後、ベネズエラ生活を回顧した続編『パピヨンは死なない』や、映画化の際は自ら脚本・出演した『太陽の200万ドル』を発表するも、映画版『パピヨン』が完成する直前の1973年7月に亡くなっています。

オリジナル版『パピヨン』について

1973年に映画化されたオリジナル版『パピヨン』の大きな脚色として、原作では少ししか登場しないルイ・ドガを、パピヨンの相棒として大きくフィーチャーした点が挙げられます。

これは、スティーヴ・マックィーン扮するパピヨンのパートナーを、第二の主人公的存在にする必要があると判断した、製作陣の意向からです。

そのため、途中から脚本に加わったダルトン・トランボと、パートナー役にキャスティングされたダスティン・ホフマンが協議した結果、ドガの役どころを原作よりも膨らませています。

トランボといえば、太平洋戦争後のアメリカに吹き荒れた、“赤狩り”と呼ばれる共産主義者弾圧に巻き込まれ、公に脚本家としての活動が出来なくなった人物。

その苦難から彼は、理不尽な体制への反発や、真の友情を描いたテーマの脚本を多数手がけました。

ホフマンが「ドガはトランボ本人がモデルになっている」と語るように、オリジナル版ではトランボの存在が際立っていますが、彼自身も俳優として刑務官吏役でカメオ出演しています。

なおトランボについては、伝記映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2016)があります。

参考映像:『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』予告

リメイク版『パピヨン』の特徴


(C)2017 Papillon Movie Finance LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

そしてリメイク版となる本作は、シャリエールによる2つの原作(『パピヨン』、『パピヨンは死なない』)と、オリジナル映画版の脚本をベースとしています。

あらすじ展開こそオリジナル版を踏襲していますが、オリジナル版にはなかった原作のエピソードも追加。

冒頭でのパピヨンが刑務所に入る前のパリのエピソード、そしてエピローグなどは、原作を意識した箇所でしょう。

キャスト陣についても触れておきましょう。

まずパピヨンを演じるチャーリー・ハナムは、その説得力ある肉体美を活かした乱闘シーンこそあれど、マックィーンがパピヨンを演じたオリジナル版よりも、“静”の演技に徹した感があります。

それが顕著なのは、中盤での独房シーン。

オリジナル版のパピヨンは、独房生活に耐えきれず発狂寸前にまでなるシーンが話題となりましたが、リメイク版でのパピヨンは、心身共に疲弊しつつも、静かに脱獄への執念を燃やすような性格づけとなっています。

参考映像:『パピヨン』の極限の独房シーン

かたやドガ役のラミ・マレックは、オリジナル版のホフマンよりも性格を尖らせつつ、脆さを抑えるよう心がけたと語っています。

それでいて、時にはパピヨンをも凌駕するタフな精神力を見せる演技力は、さすがオスカー俳優といったあたりでしょうか(もっとも、本作は『ボヘミアン・ラプソディ』よりも前に製作されていますが)。

そのほかに、作品全編に漂う閉塞感がオリジナル版よりも上回っていたり、それでいて『ミッドナイト・エクスプレス』(1978)や『ショーシャンクの空に』(1995)といった過去の刑務所映画を彷彿とするシーンも散見しています。

(C)2017 Papillon Movie Finance LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

まとめ

(C)2017 Papillon Movie Finance LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

リメイク版『パピヨン』は、原作を未読だったり、オリジナル版映画を観ていない人向けに製作した感があります。

オリジナル版の評価が高いと、どうしてもリメイク版は比較されて評価が下がりがち。

そのため原作やオリジナル版に触れたことのある人の中には、本作の出来に不満を感じるかもしれません。

しかし、何から何までオリジナル版と同じにしても意味はありません。

自由と希望を諦めない男たちを描くという、根本のテーマはしっかりと捉えています

独自の演出や表現方法を試みた本作は、及第点の出来映えといっていいのではと思います。

極限世界で繰り広げられる男たちの友情を描いた『パピヨン』は、2019年6月21日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー!

関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『ハニーボーイ』あらすじネタバレと感想。キャストのシャイアラブーフは出演依頼を受けるつもりはなかった⁈

ノア・ジュプ主演、アルマ・ハレル監督作品『ハニー・ボーイ』 映画『ハニー・ボーイ』は、「トランスフォーマー」シリーズの主演を務めたシャイア・ラブーフが脚本を執筆。特に男性の観客から大きな支持を獲得し批 …

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ 護られなかった者たちへ】結末ラスト感想と考察解説。本格ミステリーとして佐藤健と瀬々敬久監督が社会保障の落とし穴を暴く

佐藤健が殺人事件の容疑者を熱演する社会派ミステリー 『護られなかった者たちへ』は、作家中山七里の同名小説を『8年越しの花嫁 奇跡の実話』の主演・佐藤健と瀬々敬久監督のコンビで映画化したものです。 東日 …

ヒューマンドラマ映画

野外映画ねぶくろシネマ2017柏の葉T-SITE・雨天の場合は?

夏休み最初の週末2017年7月22日(土)に、野外映画ねぶくろシネマ@柏の葉T-SITEで『ヒックとドラゴン』を無料上映されます。 「映画×ファミリー×アウトドア」をキーワードにピクニック気分で映画が …

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】フラッシュダンス|映画あらすじ感想と結末の評価解説。ラスト感動ダンスシーンで一大ブームを巻き起こした大ヒット作

ヒロイン・アレックスの輝ける夢と愛! プロダンサーを目指すヒロインの夢と愛、友情を描いた世界的大ヒット映画『フラッシュダンス』。主演を務めたのは、本作が映画初主演となったジェニファー・ビールスです。 …

ヒューマンドラマ映画

映画『エルヴィス』ネタバレあらすじ感想と解説評価。プレスリーの“伝説と歌声”は不出世のスターであり、キング・オブ・ロックンロールそのものだ

“キング・オブ・ロックンロール”、エルヴィス・プレスリーの生涯 映画『エルヴィス』が、2022年7月1日(金)より全国ロードショーです。 “キング・オブ・ロックンロール”と称された不出世のスター、エル …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学