映画『パッドマン5億人の女性を救った男』は、2018年12月7日(金)よりTOHO シネマズ シャンテほか全国ロードショー!
2000年代のインドで、衛生的でかつ安価な生理用品の開発・普及に奔走した男性の実話を描いた『パッドマン 5億人の女性を救った男』。
愛する妻はもちろん、全インド女性を救おうとあらゆる逆境に立ち向かった男の物語を、解説および補足情報込みで深掘りします。
CONTENTS
映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』の作品情報
【公開】
2018年(インド映画)
【原題】
Padman
【監督】
R.バールキ
【キャスト】
アクシャイ・クマール、ラーディカー・アープテー、ソーナム・カプール
【作品概要】
インドで、衛生的かつ安値の生理用ナプキン開発に勤しんだ男性、アルナチャラム・ムルガナンサムの半生を綴ったノンフィクション、『ラクシュミ・プラサドの伝説』を映画化。
女性の生理に対し、ある意味日本以上にデリケートなインドにおいて公開された本作は、初登場NO.1の大ヒットを樹立。
アルナチャラムに相当する主人公ラクシュミを演じるのは、インドで圧倒的人気を誇る俳優アクシャイ・クマール。
原作本『ラクシュミ・プラサドの伝説』を執筆し、本作のプロデューサーも兼任したトゥインクル・カンナーは、アクシャイの実生活の妻でもあります。
映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』のあらすじとネタバレ
愛妻のための生理用ナプキンが買えない。ならば“作れば”いい!
インドの小さな村で鉄工所に勤めるラクシュミは、妻ガヤトリと新婚生活をスタート。
決して裕福とはいえないものの、母や2人の妹とともに幸せに暮らしていました。
そんなある日の食事中、ガヤトリは突然その場を離れ、その姿を見た妹も彼女に付き添います。
それから数日間、家に入らずベランダで安静にするガヤトリに何が起きたのか把握できなかったラクシュミでしたが、後に彼女が生理だったことが分かります。
インドでは、女性の生理現象は“穢れ”とされ、さらにそうした女性が触れた物は不浄だという考え方があったのです。
生理について全く知識がなかった上に、さらにはガヤトリが汚れた布で処置をしていた事実にラクシュミは驚きます。
早速ラクシュミは、薬局での価格が55ルピーという高額に再び驚愕するも、不足金額を友人から借りて、生理用ナプキンを購入します。
しかしガヤトリは、「高すぎる上に、これを使っていることが周囲に知られると恥ずかしい」と、ナプキンを受け取ってくれません。
それでもラクシュミは、鉄工所で同僚がケガした際、止血するために購入していたナプキンを使ったことで、改めてその清潔性と実用性を認識。
「市販のナプキンが買えないなら、自分で清潔かつ安価なナプキンを作ればいい」と、自家製ナプキン作りに着手します。
生理用ナプキン開発に取り組むラクシュミ。しかし数々のトラブルに!
溶接工員として手先の器用なラクシュミは、綿や接着剤を使って見よう見まねでナプキン作りを開始。
当初こそ、自分のためにしてくれていると理解し、夫の作ったナプキンを使ってみたガヤトリでしたが、試作品が破れて衣服を汚してしまい、それ以降は協力を拒んでしまいます。
しかしラクシュミは、妹たちや医科大に通う女子学生、はては成人したばかりの近所の女子にまで協力を仰ぐなど、仕事もおろそかにナプキン作りに没頭。
そんなラクシュミの行動は、次第に村の人々から奇異な目で見られるようになっていきます。
試作を続けていくうち、ついにラクシュミは自分でも試してみようと、女性用下着を穿いて動物の血を詰めたゴムボール製の人工子宮を取り付け、自転車に乗って走ります。
ところが子宮が破裂してズボンを汚してパニックとなり、思わずガンジス川に飛び込んでしまった様を、公衆の面前に晒すことに。
「聖なる川を汚した」と村民たちの非難を浴び、さらには「妹に恥をかかせた」と、ガヤトリの兄に彼女を実家に連れ戻されてしまったラクシュミは、ひとり村を離れることを決めます。
ついに自作ナプキン開発に成功するも…
都会であるインドールに移ったラクシュミは、ナプキン作りの知識を得るには大学の教授に聞けばいいと、教授が暮らす教員宿舎で使用人の仕事に就きます。
そこで教授の子供に頼みインターネットでナプキンの製造工程を調べてもらい、ナプキンにはセルローズ・ファイバーという材質が使われていることを知ります。
ラクシュミは製造元からセルローズ・ファイバーのサンプルを入手し、さらに地元の有力者に取り入り90万ルピーという大金を融資してもらい、ナプキン製造機作りを開始。
試行錯誤の末、ついにラクシュミは必要最低限でナプキンが安値で作れる製造機を完成させます。
ラクシュミは、たまたまイベント出演でインドールに来ていた女子大生パリーと出会い、彼女に顧客第一号となってもらうことに。
首都デリーで暮らし、普段からナプキンを使っているパリーのお墨付きを得て、ラクシュミはナプキン作りの成功を確信するのでした。
早速、妻ガヤトリに電話報告するラクシュミでしたが、ガヤトリは、妻の身を案じずナプキンの事ばかり話す夫にショックを受け、彼を責めてしまいます。
自分の気持ちが理解してもらえずに落ち込むラクシュミに、パリーからある提案が。
それは、教授をしているパリーの父親が勤務するデリーのインド工科大学で行われる、発明コンペティションへの参加でした。
コンペに優勝すれば多額の賞金を得られると、緊張交じりでプレゼンしたラクシュミでしたが、結果は見事優勝。
ラクシュミは、製造機の特許取得をパリーから勧められるも、「金儲けのために作ったのではない」と固辞します。
一方、ガヤトリも、妻に対して罵声を浴びせる兄の姿を見て、これまでのラクシュミの行動が、自分を含めた女性を助けるためのものであったと、改めて気づくのでした。
コンペ優勝の偉業はインド中に知れ渡り、インドールでも大歓迎を受けるラクシュミ。
ところが、発明したのがナプキン製造機だと知らなかった地元民から手のひら返しの非難を浴びたのをきっかけに、考えを翻意して特許取得を決意します。
映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』の感想と評価
インド国内でタブーとされる“女性の生理”
本作『パッドマン 5億人の女性を救った男』の舞台となるインドにおいて、生理用ナプキンの使用率がわずか12%、しかもそのデータがつい最近の2001年のものという事実に驚かれる方は多いのではないでしょうか。
ナプキン普及率が低い田舎部では、生理になった女性が触れた物は不潔だとして、その間は家に入らない慣習があり、ネパールなどには、生理時にこもる専用の小屋があったりします。
また、生理を他人、特に男性に悟られるのは恥という考え方もあり、劇中で、「(生理のことで)辱めを受けるぐらいなら死を選ぶ」と、主人公ラクシュミの妻ガヤトリが涙ながらに訴えるのも、女性自身にも生理がタブーという認識があることを意味します。
ラクシュミが生理について無知な人物として描かれているのも決して誇張ではなく、ラクシュミを演じたアクシャイ・クマールも、生理についてほとんど知らなかったと語っています。
ラクシュミのモデルとなったアルナチャラム・ムルガナンサム氏によるナプキンビジネスで、インドを含めた南アジア諸国での生理への理解度は上がりました。
しかし、偏見はいまだに残っており、本作撮影時にナプキンを手にする演技を求められた俳優が、それを不服として出演を辞退したり、生理という題材が不適切だとして、パキスタンでは上映が禁止となっています。
ナプキンの値段が55ルピーは安い?高い?
劇中、ラクシュミが市販用ナプキンの値段が55ルピーという額に驚くシーンがあります。
この価格帯は、本作の設定年の2001年においては、コーヒーなどのドリンク類が1杯23ルピー(約39円)、カレー1皿だと38ルピー(約62円)程度とされています。
そこへきて市販ナプキン(主に輸入品)だと、20個入り(1枚11円)の物だとしても約220円かかる試算となります。
都市部と田舎で貧富の差が激しいインドで、かつラクシュミのような裕福ではない家庭においては、1日の食費以上するナプキンを手軽に買うことは容易ではないのです。
インド人女性の自立・変容にも着目
本作では、ラクシュミの妻ガヤトリと、ラクシュミのナプキン製造ビジネスに協力するパリーという2人の女性が登場します。
ラクシュミが暮らすような村では、女性本人の意志よりも、家長である男性の一存で結婚が決まるケースがあります。
これは、カースト制度や宗教的背景から、田舎部ほど「女性は男に従うのが当たり前」、「妻は夫に頼らないと生活がままならない」といった考えが根強くあるからです。
ガヤトリも、実の兄に勧められてラクシュミ家に嫁いでおり、兄の命が絶対であることが示唆されます。
そんなガヤトリは、ナプキン作りが原因で兄からラクシュミとの離婚を強要され、一時はそれに従おうとします。
しかし、夫が兄とは違い女性を慈しむ人物であると知った彼女は、必ず彼が大義を成し遂げると信じ、待ち続けるのです。
かたや、もうひとりの女性パリーは自立心が強く、一流企業への就職を蹴ってラクシュミのビジネスに活路を見出して飛び込むなど、ガヤトリとは対照的な存在として描かれます。
インドの貧困地帯に暮らす住民は働き口もままならず、ゆえに仕事がなく荒れた男性が、女性を虐待することも少なくないのだとか。
劇中では、そうした社会面、家庭面において抑圧されてきた女性たちが、パリーの提案によってナプキンを製造・訪問販売する仕事に就いていきます。
ナプキン開発に取り組む男を描く一方で、『パッドマン 5億人の女性を救った男』では、現代のインド人女性の実情や変容にも焦点を当てているのです。
実話にフィクションを織り交ぜたインド映画らしさ
実話がベースとはいえ、インド映画らしく歌やダンスもしっかり盛り込まれている『パッドマン 5億人の女性を救った男』。
特に冒頭、ラクシュミとガヤトリの新婚生活ぶりを歌ったオープニング曲に注目してください。
「僕の時間は君の時間」、「君の家族は今日から僕の家族」、「本当に時々でいいから僕の好物を作ってね」といった、妻への愛情を捧げる歌詞が、この作品の全てを物語っていると言っても過言ではないでしょう。
一方で、近作の『ボヘミアン・ラプソディ』同様に、本作も史実にフィクション要素を加えている部分もあります。
実際のムルガナンサム氏は、製造機の開発から完成までに6年の歳月を要していますが、映画ではそのあたりの時間経過を感じさせないようにしています。
また、ラクシュミとパリーの道ならぬ恋愛未遂描写も、映画を盛り上げるためのフィクションです。
しかし、そんなメロドラマ的要素もインド映画の醍醐味。
2時間17分という、インド映画にしては比較的短い上映時間なのも、観やすさに拍車をかけています。
まとめ
サクセス・ストーリーでありながら、娯楽要素も満載の『パッドマン 5億人の女性を救った男』。
安易に「感動」を売りにする映画が多い昨今ですが、クライマックスのラクシュミによる講演スピーチは、拙い英語“リングリッシュ”だからこそより感動が伝わります。
この演説シーンは、なんとワンテイクで撮られたとか!
『パッドマン 5億人の女性を救った男』は、2018年を締めくくるのにふさわしいハートフルドラマと言って間違いありません!