映画『泳ぎすぎた夜』は、2018年4月14日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
日仏の若手監督の共同監督による文化や国籍を超えた作品は、雪で覆われた山間にある小さな町でおきた、とても小さな冒険談。
まだ幼い6歳の少年は、しんしんと雪降る夜に、何故だか目を覚ましてしまいます…。
第74回ヴェネチア国際映画祭に正式出品された五十嵐耕平とダミアン・マニヴェルの共同監督による、瑞々しさに満ちた作品とは?
1.映画『泳ぎすぎた夜』の作品情報
【公開】
2017年(日本映画)
【原題】
La nuit où j’ai nagé
【監督】
五十嵐耕平&ダミアン・マニヴェル
【キャスト】
古川鳳羅 (こがわ たから)、古川蛍姫 (こがわ けいき)、古川知里 (こがわ ちさと)、古川孝 (こがわ たかし)、工藤雄志 (くどう ゆうし)、はな(犬)
【作品概要】
日仏合作映画『泳ぎすぎた夜』は、五十嵐耕平&ダミアン・マニヴェル共同監督で制作され、第74回 ヴェネチア国際映画祭や第65回サン・セバスチャン国際映画祭に正式出品された作品。
2.映画『泳ぎすぎた夜』のあらすじ
雪で覆われた青森の山々にある小さな町。
夜中にしんしんと雪が降り積もり、寝静まり返った屋内はひっそりと明けぬ朝でまだ暗いままです。
漁業市場で働いている父親は、そんな時刻にひとり覚めすと、家族たちは起こさないように静かに仕事に行く準備を始めます。
出かける前には毎日の日課なのか、台所でゆっくり煙草の煙を潜らせます。
しかし、なぜだかこの日に限って、物音に目を覚ましてしまった6歳の息子は、父親が町の市場に仕事へ出かけた後も眠ることができません。
彼はクレヨンで魚やタコの絵を描たり、手にした愛用のキャメラで写真を撮ったり、結局は翌日なっても寝ることができませんでした。
うつらうつらしたまま少年は眠い目をこすりながら、歯磨きをして家族とともに朝食をすませて、学校に出かけます。
しかし、校門前まで登校したものの、彼は校舎には向かわず、雪に埋もれた道なき道を彷徨はじめます。
父親に少年が描いたが書いた絵を届けに行こうと思ったのか、父親が働く市場を目指します。
少年にとっては何もかもが小さな冒険のはじまり…。
3.映画『泳ぎすぎた夜』の感想と評価
本作『泳ぎすぎた夜』をひと言で言うなら、主人公の少年は“雪の王子様”だ!
誰もが知る著名な小説家で、フランス人の飛行士でもあった、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの小説『星の王子様』と似たような静かと豊さの行間を持った映像を持っています。
この作品は、正確に述べればサイレント映画ではないですが、無駄な台詞は一切排除されています。
名作『星の王子様』のテーマにある「本当に大切なものは目に見えない」とばかりに、スクリーンに見入ることでしょう。
観客のあなたは少年を見守る大人としての傍観者から、かつて、幼き頃に時間がふんだんにあった子どもに帰ることができます。
主人公の少年を演じたのは古川鳳羅 (こがわ たから)。自由にのびのびとした演技をする表現力は、決して鑑賞者を飽きさせずにエキサイティングで目が離しません。
五十嵐耕平&ダミアン・マニヴェル監督は、ロケ地となった町に住み着き演じることができる子役を探していましたが、なかなか納得のできる人物が見つけられずにいました。
しかし、ふとした町のイベント会場に出かけた2人の監督は、楽しそうに走り回る1人の少年を見かけます。
それが、たから少年でした。すっかり惚れ込んだ2人の監督は、その後も時間をかけて慎重に彼が子役の俳優をできるか判断をしたり、たから少年の家族の出演や脚本を設定を取り込んでいきます。
たから少年の主人公へ起用は、本作『泳ぎすぎた夜』を見れば一目瞭然ですが、大きな成功だと言えるでしょう。
冒頭で述べた“雪の王子様”を実感したのは、主人公の少年が夜に眠れずに真っ白なタオルケットをマントにした時、そう思わされるのではないでしょうか。
他にもロケ先に使用した家の階段の突き当たりにある窓。その深夜の闇に舞う雪の美しさなど、映画冒頭から一気に作品の持つ世界観に引き込まれてしまいます。
参考映像:『白い馬』(1953)
また、フランス人映画監督のアルベール・ラモリスによる、1953年『白い馬』や、1956年『赤い風船』を彷彿とさせる映像詩を感じさせてくれることでしょう。
日本の雪国である青森で制作を行い、町の気配を雪で覆った静かなる映像詩は見事なオススメの1本です。
きっと、サイレントな雪の街を徘徊するたから少年を見ると、思わず微笑みが溢れるはずですよ。
まとめ
映画『泳ぎすぎた夜』に登場した少年を“雪の王子様”と述べました。
それを感じた要素に、自分が寝ていた布団の白いシーツを雪景色に見立て恐竜の玩具を配して、ジオラマ撮影のようにカメラで写真を撮る場面もありました。
闇に光る白いフラッシュが美しく、また、少年の小さな世界観の構築ですが、“支配している雪の王国を眺めている”ようで、子どもの頃に自分も似たようなことをしたのを思い出します。
その少年が雪の積もった白い町で彷徨い、迷子になる面白さは子どもならではの豊かさの一つなはず。
もちろん、小道具で使用されたキャメラも物語の後半まで活きてきますよ。
ヴェネツィア国際映画祭に出品された五十嵐耕平&ダミアン・マニヴェル監督の『泳ぎすぎた夜』は2018年4月14日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開!
とっても豊かな詩情あふれる作品、ぜひ、お見逃しなく!