余命宣告を受けた妻を支える夫とその親友の絆を描く、哀しくも温かなヒューマンドラマ!
2015年に『Esquire』誌で掲載され反響を呼んだエッセイを、リドリー・スコットをはじめとしたアカデミー賞ノミネートスタッフが映画化した『Our Friend/アワー・フレンド』。
妻役にダコタ・ジョンソン、夫役にケイシー・アフレック、その親友役にジェイソン・シーゲルが出演し、愛する人を失う悲しみと、愛を支え続けた友情を丁寧に描いています。
CONTENTS
映画『Our Friend/アワー・フレンド』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【監督】
ガブリエラ・カウパースウェイト
【エグゼクティブ・プロデューサー】
リドリー・スコット
【原作】
マシュー(マット)・ティーグ
【キャスト】
ケイシー・アフレック、ダコタ・ジョンソン、ジェイソン・シーゲル、イザベラ・カイ・ライス、ヴァイオレット・マグロウ、チェリー・ジョーンズ、ジェイク・オーウェン、グウェンドリン・クリスティー
【作品概要】
2015年に「Esquire」誌に掲載された、ベテランジャーナリストのマシュー(マット)・ティ―グによるエッセイが話題になり、スコット・フリー・プロダクションズのプロデューサーであるマイケル・プルスのオファーによって映画化された作品です。
ガンを患うニコル役を演じたのは、「フィフティ・シェイズ」シリーズやルカ・グァダニーノ監督によるリメイク版『サスペリア』(2019)、『ザ・ピーナツ・バター・ファルコン』(2019)など出演作が絶えない人気女優のダコタ・ジョンソン。
夫のマット役を演じたのは、ベン・アフレックの弟で『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)でアカデミー賞・ゴールデングローブ賞・英国アカデミー賞を獲得した実力派俳優のケイシー・アフレック。友人のデイン役を演じたのはコメディ俳優として活躍し、『マペッツ』(2011)や『人生はローリングストーン』(2015)で知られるジェイソン・シーゲルです。
監督は、ブラジル系アメリカ人の映画監督ガブリエラ・カウパースウェイト。サンダンス映画祭で上映されたシャチのドキュメンタリー映画『BLACKFISH』(2013)で英国アカデミー賞にノミネートして注目を集めた監督であり、彼女は本作の監督オファーが届く以前、原作となったエッセイに感動し自身のSNSで投稿したことが抜擢の決め手になりました。
作中ではレッド・ツェッぺリンの「Ramble On」と「Going to California」の2曲が使われていますが、リードシンガーのロバート・プラントが映像に心を打たれて使用を許可。ダコタ・ジョンソン演じるニコルにとって思い入れの深いバンドだったため、スタッフ一丸となって交渉した結果が実を結んだのです。
映画『Our Friend/アワー・フレンド』のあらすじとネタバレ
2013年秋、アラバマ州のフェアホープ。マット(ケイシー・アフレック)とニコル(ダコタ・ジョンソン)は自宅の寝室で、2人の娘たちに母の余命が残りわずかだと伝えました。
ポーチでは、娘たちの泣き声を悲痛な表情を浮かべた親友のデイン(ジェイソン・シーゲル)が肩を落として座っていました。
マットとニコル、デインが出会ったのは13年前のニューオーリンズ。舞台女優のニコルが出演していた舞台でデインがスタッフをしていたことで仲良くなり、ニコルはマットとデインに仲良くなってほしいと思い、彼を紹介しました。
デインは、以前ニコルが既婚者であるのを知らずにデートへ誘ったことをマットに謝り、今後彼女に近寄ってくる男は自分が追い払うと約束します。
そのことを聞いたマットは、いつか世の中を変えるような記事を書きたいとデインに語り、デインもまたスタンダップコメディアンになるという自身の夢を明かし、打ち解けました。
2012年、ニコルはがんの宣告を受けます。入院して化学療法を受けることになったニコルへの介護と、娘たちの世話に追われて身体ともに限界になっていたマットを手伝うために、デインはニューオーリンズからフェアホープにやってきました。
2~3週間の滞在予定でしたが、家の荒れ果てた状況、長女モリーの不安と不満が爆発しそうな様子を見て心配になり、そのまま当分マットの手伝いをしようと決めました。
2008年(がん告知の4年前)、マットはジャーナリストとして世界中を飛び回り、娘とニコルの待つ家ではほとんど過ごせていませんでした。
ニコルと大喧嘩し、デインからも家にいるべきだと忠告を受けたものの、マットはコメディアンの夢を諦めて家電量販店で働いているデインに対し、傷つけるような言葉を浴びせてしまいます。
告知から1年後の2013年の春、デインが来てから3ヶ月が経っていました。デインは恋人のキャットと喧嘩をしてしまいます。早くニューオーリンズに帰ってきてほしいキャットの想いは分かりながらも、デインは決して帰ろうとしなかったからです。
その喧嘩の後に家に帰り、落ち込んだ様子のデインに、ニコルは「大人になりなさいよ」と強い口調で話しかけます。恋愛や人間関係において自分をさらけ出せないデインの性格を知っていたからです。
その夜、突然倒れたニコルは病院で緊急手術を受けるも、がんの転移が見つかり余命半年だと宣告されました。
自宅に戻ってから、ニコルは「やりたいことリスト」をデインとマットに話します。謝肉祭のパレードに出たい、ケイティ―・ペリーとデュエットしたい、噴水に入りたい……彼女の「やりたいこと」を聞いたデインとマットは、ケイティー・ペリーの件以外の全ての「やりたいこと」を、全力でアポイントを取って叶えたのでした。
しかし、来客が来ると張りきってもてなすニコル。体を心配するマットでしたが、ほどほどにと声をかけてもニコルは反発して取り合いません。
病気の進行とともに精神的に不安定になっていくニコル。やがて彼女は、マットとデインに心無い言葉を浴びせ、家の物を投げるなど暴れてしまいます。
映画『Our Friend/アワー・フレンド』の感想と評価
実話をもとにした愛と友情の物語であり、パートナー以外に人生を捧げられる友がいる素晴らしさと、失う悲しみまでを丁寧に描いた作品でした。
本編の展開に沿って、本作の優れた点を解説していきます。鑑賞前の方はご注意ください。
冒頭とラストシーンの秀逸さ
まず、余命がわずかであることを娘たちにどうやって伝えようかニコルとマットが話し合う場面から本作は始まります。互いの意思を尊重しつつ、冷静でありながら少し緊張も見られる2人の様子が伺えます。
そして、ポーチで待っていたデインが娘たちの悲嘆の声を聞いて肩を落とします。この場面は本作後半で、ポーチで過ごすデインの視点からも描かれています。
この悲しい夜の記憶を、ニコルとマット、そしてデインも同様に受け止めたことが象徴した場面といえるのではないでしょうか。それは同時に、デインもまた家族の一員であるということも意味しています。デインはマットとニコルのために共に苦難を乗り越えてきたのです。
また、本作の前半部分では、時間軸が余命告知の前後へと何度も場面が変わります。その回数が多いので複雑に感じられますが、このことで単純に悲しい結末に向かう悲壮感だけでなく、人生における様々な思い出を振り返る形になっています。
そこには、デインも自身の人生で行き詰っていたときにマットと子どもたちに救われたこと、ニコルとマットの夫婦関係が決してずっと円満だったとはいえないことも描かれ、さまざまな思い出があったからこそ、ラストの感動が増すのでしょう。
そしてラストでは、友情を確かめ合う2人という場面ではなく、デインが去ってしまった寂しさから言葉を詰まらせるマットの姿で締めくくられます。
この時のことを、原作エッセイでは以下のように書かれていました。
デインが出て行った日はニコルが亡くなった時よりもショックだった。あまりにも唐突だった。家を出ていくことをどう伝えようかと散々悩んだのだろう、何も言わずにある日突然荷物をまとめ始めた。
娘たちが学校にいる間に出ていくことにしたようだ。車へ向かう彼は一瞬立ち止まり、僕にこう言った。「数週間したら帰ってくる。その頃には君は再婚しているだろうから、変な感じになるだろう」
ふたりとも笑った。彼は車をドライブウェイから出し、走り去った。僕は長いこと庭につったったまま、この先どうしようかと思案した。目は涙に濡れていた。しばらくしてから僕はくるりと踵を返し家の中へ戻っていった。
(マシュー(マット)・ティーグ『私の友人:「愛」という一言では片づけられない(The Friend:Love Is Not a Big Enough Word)』(「Esquire」誌/2015年5月10日初出)より)
今回の映画化にあたって、原作者のマットと脚本を務めたブラッド・イングルスビーは、1年半もの間ほぼ毎日連絡を取り合って脚本を完成させました。つまり、当人であるマットが納得していることを第一優先に作られた脚本となっています。
マットのデインへの感謝の気持ち、そしてエッセイのタイトルにもなっている「愛」という一言では片づけられない想いがこのラストシーンには集約されていました。
実話をもとに多くの人に届く本質的なメッセージ
本作は実話をもとにしていますが、ドキュメンタリー映画ではありません。原作エッセイにはなかった内容が、映画には含まれています。
具体的にはニコルの浮気が発覚する場面、デインが気を病んでクライミングに出かける場面です。それは夫婦の複雑な関係性や、デインがなぜマットらに献身的であり続けたのかという理由づけになる場面だといいえます。
これらの出来事が実際にはなかったことだとしても、本作のもつ本質的なメッセージをより多くの人に伝えるための場面として効果を発揮しています。
そして、現実には苦しく厳しい闘病生活を映像化するにあたって、全てを忠実に視覚化するのではなく理想を表すような美しい場面を混ぜることで、妻の死を乗り越えたマットが感じた「人生の美しさ」を表現したのです。
まとめ
本作は余命宣告を受けた妻を看取るというストーリーの作品ではありますが、一番のテーマは愛を超える深い友情となっています。
人それぞれ一筋縄ではいかない人生の悲喜こもごもがあるということや、病気を患う者だけでなく、看取る側の苦労や現実も描いています。だからこそ、観客に共感と感動を呼ぶのでしょう。
また、本作のパンフレットには原作となったエッセイの全文が掲載されているので、そちらを読んでみるとよりこの3人の絆を感じることができると思います。