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Entry 2021/07/26
Update

映画『夜明けのふたり』ネタバレあらすじ感想と結末解説の考察。サンダンス映画祭を魅了した母の死を乗り越える少女たち

  • Writer :
  • 山田あゆみ

サンダンス映画祭のNEXTイノベーター部門受賞作『夜明けのふたり』

『夜明けのふたり』は、母の死による孤独とたたかう姉妹の姿を繊細に描いたヒューマンドラマ映画です。

(C)SAMUEL GOLDWYN FILMS. ALL RIGHTS RESERVED

本作は、2018年にサンダンス映画祭にてNEXTイノベーター部門を受賞しています。

主人公の18歳の少女を演じたのは、Netflix映画『プロジェクトパワー』やダニエル・カルーヤがアカデミー賞助演男優賞を受賞した『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』に出演している注目の女優ドミニク・フィッシュバックです。

映画『夜明けのふたり』の作品情報


(C)SAMUEL GOLDWYN FILMS. ALL RIGHTS RESERVED

【公開】
2018年

【監督】
ジョーダナ・スパイロ

【キャスト】
ドミニク・フィッシュバック、テイタム・マリリン・ホール

【作品概要】
本作は、サンダンス映画祭にてNEXT部門イノベーター賞を受賞しています。

監督はマンハッタン出身の女優としても知られるジョーダナ・スパイロ。出演作品は、ニコラス・ケイジ、ニコール・キッドマン共演の映画『ブレイクアウト』(2011)や、人気アクションホラー映画『フロム・ダスク・ティル・ドーン3』(2000)などがあります。

エンジェル役のドミニク・フィッシュバックは、本作で映画デビューした女優です。

ほかの出演作は、アマンドル・ステンバーグ主演の『ヘイト・ユー・ギブ』(2018)やNetflix映画の『プロジェクトパワー』(2020)ではジェイミー・フォックスとジョセフ・ゴードン・レヴィットと共演しています。

また、第93回アカデミー賞で作品賞、脚本賞など計5部門6ノミネートを果たした映画『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』にもダニエル・カルーヤらとメインキャストとして共演しています。

さらに、人気シリーズ「トランスフォーマー」の最新作『トランスフォーマー ビースト覚醒』(2022年公開予定)への出演も決まってる人気女優のひとりです。

映画『夜明けのふたり』のあらすじとネタバレ

(C)SAMUEL GOLDWYN FILMS. ALL RIGHTS RESERVED

銃の所持や窃盗、薬物使用の容疑で施設に収容されていたエンジェルは18歳の誕生日を目前に更生施設から出ることになりました。

父親とは、妻を殺した容疑で捕まって以来連絡をとっておらず、妹のアビーは里親の下で暮らしています。悪影響を与えたくないと、エンジェルは連絡をとっていなかったのでした。

刑務所内で同室だったジャッキーの父親マーカスを訪ねたエンジェル。

彼から銃を買うことになっていたのですが、マーカスはエンジェルに到底払えない額を請求しました。もしくは肉体関係と引き換えに譲るという条件を突きつけます。

交渉の末、後日ストロベリーマンション橋で会うことになりました。

バスの中で、同年代の少女たちが楽しそうに歌い踊る姿を冷めた目で見つめるエンジェル。その後、保護観察官のもとへ向かいます。

そこで、州外への移動や夜間の外出を禁じられたエンジェル。支援金を受け取るには父親の住所が必要ですが、担当者は厳しく教えてくれません。

叔父に電話をして父親の居場所を聞き出そうとすると、アビーに会うように勧められました。アビーのもとへ向かったエンジェル。

補助金目当てにアビーのほかにも養子を引き取り、薬を売らせて小銭を稼ぐような適当な暮らしをさせている里親の元でアビーは暮らしていました。

照れながらも、エンジェルが来てくれたことに喜ぶアビー。父親の居場所を知っていて、道案内すると言うのでした。

友達の家に泊めてもらうために向かったエンジェルでしたが、投げやりになっているエンジェルに対して友達は手を貸してくれません。

行く当てもなく、見知らぬマンションのロビーで夜を明かしたエンジェル。母に包まれて眠る夢を見たエンジェルはお漏らしをして目を覚ましました。

マーカスから朝6時に会おうという連絡があり、クラブで時間をつぶしてから向かいました。

車で事を済ませ、銃を手に入れたエンジェル。

ロングビーチにアビーと一緒に向かいます。片道チケットと往復チケットを一枚ずつ買って、アビー曰く、父親が住んでいるというビーチ周辺を目指しました。

バス車内では、アビーの髪をエンジェルが結んでやったり、同乗していた少女たちに占いをしてもらったりして過ごしました。

途中の休憩所で、アビーが初潮を迎えてしまいます。有り金をチケットに使ってしまったエンジェルは、生理用品を盗んでアビーに渡します。

そうこうしている内に、2人が乗ってきたバスは行ってしまいました。

目的地までのバスは夕方まで来ないと聞き、途方に暮れていたふたりに先ほど話していた少女たちが声をかけます。母親の車に乗せてもらえばいいと言って、家へと招かれました。

絵に描いたように幸せそうな暮らしを送るその少女の家を、じっくりと見て廻るエンジェル。

彼女の母親が家に帰ってきましたが、少女のひとりがケータイでエンジェルたちの父親のことを検索して、殺害容疑のことを知られてしまいます。

慌てたエンジェルは飲み物をこぼしてしまい、謝ってすぐに家を飛び出してしまいました。

バス停への道を歩いている途中、アビーはエンジェルに「ビーチへのお出かけ券 今日だけ有効」と書かれた紙を渡します。

父親がロングビーチの近くに住んでいるというのは嘘で、以前家族で住んでいた家にいるのだと話します。

ただふたりで一緒に過ごしたかっただけだとアビーは言いますが、だまされたことにエンジェルは怒ってしまいます。

大喧嘩になったふたり。私を置いて行った。と怒って泣くアビーの様子をみかねたエンジェルは、なだめて一緒に海に行くことにしました。

以下、『夜明けのふたり』ネタバレ・結末の記載がございます。『夜明けのふたり』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

アビーにとっては初めての海。エンジェルは家族でビーチに遊びに来た思い出を話します。

アビーは海に入ってはしゃぎ、はじめは見ていただけのエンジェルでしたが、アビーに誘われて海に入ります。

海遊びをして、つかの間の楽しい時間を過ごし、浜辺で日が暮れるまで話しをしたふたり。

エンジェルは、アビーから父親と会った時のことを聞いたり、アビーがいかにエンジェルのことを愛しているか聞きました。

ひとりでシャワーを浴びに行ったエンジェル。アビーのいる場所から突然銃声が聞こえます。

慌ててアビーの元へ駆け戻ったエンジェル。アビーに怪我はありませんでしたが、エンジェルの荷物の中から銃を見つけて問い詰めます。

銃を使って悪いことをするのではないかと、心配するアビーをどうにかなだめて帰りのバスに乗りました。

バスに揺られて眠ってしまったアビーを起こさないように、ひとり降りたエンジェルは、父親の家に向かいます。

家に着くと父が招き入れました。一緒に食事の支度をしながら会話する父親とエンジェル。

鞄の中の銃に手をかけながらも父親に向けることはしないエンジェル。一緒に食事をしながら、なぜこの家に戻ってきたのか尋ねました。

父は刑期を終え釈放されてから、暗闇に落ちそうで耐えるのに必死だったと話します。意味のある場所に戻って来たかったから、この家に戻ったのだと言います。

その言葉を聞いて別の部屋へと飛び込むエンジェル。銃を構えて父親の目の前に現れます。

アビーに近づいてほしくないと伝え、父親に対しては何も望んでいないことを伝えて、父親に発砲することなく家を後にしました。

朝になって、アビーに会いに行ったエンジェル。道路をはさんだ向こう側で、ふたつ並んだベンチの片方に座り、遠くを見つめるアビー。エンジェルは目が合った彼女にかすかに微笑みました。

映画『夜明けのふたり』の感想と評価

(C)SAMUEL GOLDWYN FILMS. ALL RIGHTS RESERVED

本作は、母の死に直面した18歳の少女が悲しみや厳しい現実に向き合う物語です。

父が母を殺した容疑で捕まり、残された妹とともに引き取られた里親の下では性虐待に遭うなど、悲惨な状況に追い込まれたエンジェル。

彼女の諦めきったようなその冷めたまなざしから、社会や人生をどのように見ているのかを描いています。

セリフは少なく淡々としているものの、その丁寧な描写や繊細な演技に心を掴まれる作品となっています。

失ったものをみつめる瞳

絶望したエンジェルの目を通して見る、家族や同世代の暮らしが印象的に映し出されます。

バスの中ではしゃぐ同世代の少女たち、公園で歌を歌って和やかに過ごす親子。ピアノや壁いっぱいに飾られている家族写真。

その全てから放たれる幸せの輝きを、ただただ見つめるエンジェルの瞳からは悲しみを通り越して、諦めや絶望が漂います

しかし、見ずにはいられない。昔は確かにあったその幸せに焦がれているから見てしまうのでしょう。

母を亡くし、父を憎み、妹とは一緒にいられないという状況で、求めていたのは母の眼差し、ぬくもりでした。

その切なさをセリフではなく、エンジェルの視線の先を切り取った映像で表現しているのが見事です。

時折エンジェルの心の声がナレーションで入りますが、それも冒頭とラストシーン直前で作品をバランスを締めているといえるでしょう。

そして、ラストシーンもエンジェルの表情によって締めくくられます。

妹のアビーが椅子に座っている姿を見て、アビーと目が合ったエンジェルはほんの少しだけ微笑みました。

彼女の表情からは、アビーのそばにいることを決めたように感じられます。アビーの隣に空席のいすがひとつあったのは、そのことを暗示していたのではないでしょうか。

人生の再出発

本作のクライマックスは、エンジェルが父親と対峙したシーンでしょう。

母の殺害容疑で捕まっていた父に対して、強い恨みを持っていたエンジェルでしたがすぐには銃口を向けませんでした。

それは、父の後悔を感じ取ったのと少なからず父への捨てきれない想いがあったからではないでしょうか。

このシーンの父親は、過去に暴力をふるっていたとは思えないほど落ち着いていました。そして、妻を殺した家に戻ってきた理由からは、深い後悔と反省が滲んでいました。

釈放されてから絶望に耐えるのに必死だったという父は、「意味のある場所」に帰ってきたかったと語っています。

かつてはそこにあった家族の幸せの空間。そして、自分が犯してしまった罪に向き合うためにその家に戻ってきたのでしょう。

一度犯した過ちは消せないし、失った命は戻ってこない、贖罪ともいえる父の行動を見てエンジェルは彼を撃ちませんでした。

許すというのは違うかもしれませんが、そのことをきっかけにエンジェルの中で父への恨みや憎しみに囚われていた思いから解放されたといえるでしょう。

人生の過ちや、どん底から抜け出そうとする人間の再生について見事に描いた作品です。

まとめ

(C)SAMUEL GOLDWYN FILMS. ALL RIGHTS RESERVED

全編を通して、悲しみや暗さが漂う作品ですが、姉妹でビーチに行くシーンは胸を打ちます。

エンジェルが年相応の無邪気な笑顔を見せる唯一のシーンだからです。

大人や社会の薄汚い面を知ってしまったエンジェルが人生に絶望せずにいられるのは、妹の存在があったからだと感じさせられました。

ラストシーンの後にはどうか、明るい未来が待っていると信じたいです。

繊細な人物描写や、登場人物たちの心の機微を描いた本作は一見の価値ありです。


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