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『ガール・ウィズ・ニードル』あらすじ感想と評価考察。戦争と貧困が招く地獄にヒロインが堕ちる衝撃作

  • Writer :
  • 谷川裕美子

映画『ガール・ウィズ・ニードル』は2025年5月16日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷ホワイトシネクイントほか全国ロードショー

映画『ガール・ウィズ・ニードル』が2025年5月16日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開されます。

史実に基づいた傑作ゴシックミステリーです。監督を務めるのは『波紋』(2015)のスウェーデン系ポーランド人のマグヌス・フォン・ホーン。

2024年カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品されたほか、第97回アカデミー賞で国際長編映画賞にノミネートされた秀作です。

主演は『ゴッドランド/GODLAND』(2024)のヴィク・カーメン・ソネ。

女性としての幸せをただ求めていた主人公のカロリーネは、思いがけない地獄へと進んで行きます。女性の悲しみ、貧困の悪に向き合う衝撃作です。

映画『ガール・ウィズ・ニードル』の作品情報


(C)NORDISK FILM PRODUCTION / LAVA FILMS / NORDISK FILM PRODUCTION SVERIGE 2024

【日本公開】
2025年(デンマーク・ポーランド・スウェーデン合作映画)

【監督・脚本】
マグヌス・フォン・ホーン

【編集】
アグニェシュカ・グリンスカ

【キャスト】
ヴィク・カーメン・ソネ、トリーネ・デュアホルム、ベシーア・セシーリ、ヨアキム・フェルストロプ

【作品概要】
デンマークの暗黒の時代に起こった連続殺人事件をもとに漆黒の映像美で描いた作品。

監督・脚本を手掛けたのは、『波紋』(2015)『スウェット』(2020)といった鋭い視点の作品で、世界的注目を集めるスウェーデン系ポーランド人の若き鬼才マグヌス・フォン・ホーン。

2024年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映されると、予想できないショッキングな展開と心理的恐怖を煽る音響やユニークな美術セットが話題騒然となりました。各国の映画祭を席巻し、本年度アカデミー賞では国際長編映画賞にノミネートされています。

音楽アーティスト、プース・マリーとして活躍するフレゼレケ・ホフマイアが奏でる心理的恐怖を演出する不気味な音楽と、撮影監督ミハウ・ディメクが映し出す漆黒の映像美は観客を妖しくも魅力的な闇の世界へと誘います。

主演のヴィク・カーメン・ソネは『ビッチ・ホリデイ』(2019)で注目され、『ウィンター・ブラザーズ』(2019)『ゴッドランド/GODLAND』(2024)のフリーヌル・パルマソン監督のミューズとしても知られる実力派です。

共演は『ザ・コミューン』(2020)で第66回ベルリン国際映画祭の銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞した名優トリーネ・デュアホルム。

映画『ガール・ウィズ・ニードル』のあらすじ


(C)NORDISK FILM PRODUCTION / LAVA FILMS / NORDISK FILM PRODUCTION SVERIGE 2024

第一次世界大戦後のコペンハーゲン。お針子として働くカロリーネは、アパートの家賃が支払えずに困窮していました。

やがて工場のオーナーと恋に落ちますが、身分違いの関係は実らず、彼女は捨てられた挙句に失業してしまいます。

すでに妊娠していた彼女は、もぐりの養子縁組斡旋所を経営し、望まれない子どもたちの里親探しを支援する女性ダウマと出会いました。

他に頼れる場所がないカロリーネは乳母の役割を引き受け、2人の間には強い絆が生まれていきます。しかし、やがて彼女は知らず知らずのうちに入り込んでしまった悪夢のような真実に直面することとなり……。

映画『ガール・ウィズ・ニードル』の感想と評価


(C)NORDISK FILM PRODUCTION / LAVA FILMS / NORDISK FILM PRODUCTION SVERIGE 2024

あまりの衝撃的な展開に何度も悲鳴を上げてしまうほど、悲しく苦しい作品です。戦争の残酷さ、貧困の罪。そして、混乱の世で善悪の境界線が薄れていく悲しみを、モノクロームの世界で丁寧に紡ぎます。

主人公のカロリーネはただ幸福を求めるごく平凡なお針子でした。夫は戦争にいったまま消息不明となり、家賃も払えず彼女は部屋を追い出されてしまいます。

工場オーナーと恋に落ち、幸せを手にしたように思えましたが、母親に結婚を反対されてお腹の子もろとも捨てられました。

大きな傷を負って帰ってきた夫、望まないながらも元気に生まれた子供。はきだめのような世界に、間違いなく美しい存在が現れますが、カロリーネは彼らを顧みることなく、養子縁組斡旋所のダウマに我が子を託します。

カロリーネがなぜこんなにも理不尽で辛い目に遭わねばならないのかと、観ていて胸を締め付けられることでしょう。

陰鬱な白黒の世界に、カロリーネを演じるヴィク・カーメン・ソネの瞳がギラギラと光りますカロリーネの抱えきれないほどの感情の波を、圧巻の演技で魅せるソネから目が離せません

ダウマを演じるのは、ベルリン国際映画祭の銀熊賞受賞の名優トリーネ・デュアホルムです。

一見穏やかで優しそうに見えながら、その奥に底知れない恐ろしさを隠し持つ狂気の女を見事に演じ、観る者の胸をざわつかせます

2人がもつれ合いながら深い闇へと墜ちていく様に、戦慄を覚えずにはいられません。

まとめ


(C)NORDISK FILM PRODUCTION / LAVA FILMS / NORDISK FILM PRODUCTION SVERIGE 2024

貧困の苦しみ、女性の悲しみを正面から見つめた衝撃作『ガール・ウィズ・ニードル』

人々を苦しみに突き落とした戦争、妊娠させておいて逃げてしまう男、家賃の払えない者を追い出す家主、生んだ子を他人に託す女。その内、本当の悪とは何なのでしょう。そして、その線引きは誰がするのでしょうか。

重苦しい世界を進んで行った先に差す、一筋の光の美しさに心救われる作品です。

映画『ガール・ウィズ・ニードル』は2025年5月16日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷ホワイトシネクイントほか全国ロードショーです。



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