日本を代表する名優、山崎努と樹木希林の初共演作『モリのいる場所』。
30年間、ほとんど家から外に出たことがない伝説の画家・熊谷守一夫妻の晩年を描いた作品です。
家から外に出ない熊谷守一=モリの家には、多くの訪問者が絶えません。
草木が生い茂る庭を通ってやってくるのは人間ばかりではありません。鳥や猫、昆虫に石までやってきます。
いつまでも好奇心旺盛でマイペースなモリに、振り回されながらも魅了される周りの人々。
寄り添い続け52年目の老夫婦の風変わりだけど、温かくて愉快な日常を覗いてみましょう。
映画『モリのいる場所』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【監督・脚本】
沖田修一
【キャスト】
山崎努、樹木希林、加瀬亮、吉村界人、光石研、青木崇高、吹越満、池谷のぶえ、きたろう、林与一、三上博史
【作品概要】
30年間、ほとんど家から外に出たことがない伝説の画家・熊谷守一夫婦とその周りを取り巻く人々の、どこかくすっと笑える日常を描いた作品『モリのいる場所』。
監督は『南極料理人』『キツツキと雨』『横道世之介』など、人間ドラマの中に笑いがあり、心が温かくなる作品が多い沖田修一監督。監督自ら脚本も手掛けています。
日本を代表する名優、山崎努と樹木希林の初共演作としても注目の作品です。
映画『モリのいる場所』のあらすじとネタバレ
昭和49年、絵画鑑賞中の昭和天皇。「これは、何歳の子供の描いた絵ですか?」
天皇、その絵は94歳の熊谷守一の絵ですよ。
モリは、夫婦生活52年目になる妻・秀子と、草木の生い茂る庭付きの一軒家に住んでいます。
モリの庭には、鳥や猫、蟻にめだか、カエルにカマキリと多くの動植物が暮らしています。
モリは毎日、森の番人さながら、毛皮を腰に巻きフェルト帽子を被り補聴器を付け、庭に探検にでます。
庭には、新しい生命があふれています。毎日観察してもしきれない生命の神秘に、モリは夢中です。
ある時は寝転がって蟻の歩き方を観察し、新しい葉っぱに声をかけ、覚えのない石に思いを馳せ、ある時は30年掘り続けた池のめだかを見に行くのに迷子になる始末。
モリは30年間、家から外に出たことがありません。庭の小宇宙冒険で、モリは忙しいのです。
熊谷家の家事を手伝いに来る、姪っ子の美恵ちゃん(池谷のぶえ)は、何度も盗まれる「熊谷の表札」問題で頭を抱えています。
モリの手書きの表札は、絵と同様お金になると思われていました。
そんなモリに看板の文字を書いてほしいと、旅館の主人(光石研)が熊谷家にやってきます。
庭の探検で忙しいモリの変わりに話を聞く秀子。モリは好きなものしか書けないと断ります。
そこを何とか。信州からはるばる来たことを告げると、モリは何故か書くと言い出します。
その場に居合わせた画商の荒木(きたろう)は、書いてもらえることに驚く主人に言います。
「書いてもらえることになって良かったね。モリは新幹線を知らないから何日もかけて来たと思ってるのさ」と。
いざ、この日のために用意した極上のヒノキの看板に筆入れの瞬間です。「雲水館」と旅館の名前を書いてもらう予定でした。
出来上がった文字はというと、「無一物」(むいちぶつ)、モリの好きな言葉でした。この際、旅館名を変えたらと笑いあう人たち。モリの家は、今日もにぎやかです。
モリの人柄に惚れ、写真を撮り続けている男・藤田(加瀬亮)がアシスタントの鹿島(吉村界人)を連れてやってきました。
虫が苦手と、虫よけスプレーをしだす鹿島に、藤田は切れ気味です。
しかし、モリの庭での観察を一緒に経験していくうちに鹿島もいつの間にか、モリのファンになっていました。
「蟻っていうのは、左の2番目の足から歩きだすんだね。」モリの言葉に、大の大人が3人揃って地面に寝ころび、蟻の観察に夢中です。モリの家は、今日も穏やかです。
そんなある日、皆でカレーうどんを頬張りながらドリフターズの話をするお昼時、熊谷の家に電話が鳴ります。
電話に出た秀子が言うには、「国からなにやら文化勲章をくれるとかなんとか?あなたどうします?」
「人がいっぱい来ちゃうし、袴はきたくないし」と嫌がるモリ。「主人はいらないそうです」と電話を切る秀子。
時が止まった熊谷家の食卓。それぞれの頭に、天井から大きなタライが落ちてきました。
だめだこりゃ!いかりや長介のセリフが聞こえてくるようです。
映画『モリのいる場所』の感想と評価
2018年9月15日にこの世を去った樹木希林。憧れの存在だった山崎努との初共演の作品が『モリのいる場所』でした。
名優2人の佇まいだけで人を惹きつける演技に魅了されます。
漫才のような2人のやり取りはすごく自然で、本当に52年間寄り添ってきた熊谷夫妻を見ているようでした。
そして名優2人を相手に埋もれない演技、池谷のぶえの安心感。
コント番組『LIFE!〜人生に捧げるコント〜』や『宇宙の仕事』『今日から俺は!!』などコメディドラマに欠かせない存在である池谷のぶえが演じた足の指をつりがちな美恵ちゃん。
彼女が熊谷夫妻と俗世間をつなぐキーパーソンです。
モリの言葉
あらすじでは紹介しきれなかったモリの語録に、「もう一度人生をくりかえせるとしたら」というセリフがあります。
妻の秀子は「疲れるから嫌だわ」と言います。
モリは「俺は何度でも生きるよ。生きるのが好きなんだ」と答えを出します。
生きていることは素晴らしいことで、新しい発見は常に身近にあるものだと教えてくれます。
熊谷夫婦は変わりゆくものを柔軟に受け入れます。でもそれは、変わらないものがあるからこそ出来ることです。
お互いの信頼、感動する心、未知なるものへの好奇心。物質は変わっても人の心は自分次第です。
まとめ
熊谷守一=モリは、フォーヴィスムの画家に位置づけられています。
写実主義とは別で、色彩も輪郭も心が感じるものを描く作風です。
モリの心の中から浮かび上がる色彩の世界は、小宇宙である庭から得られるものでした。
日中は庭で植物や昆虫の観察をし、呼んでもいない客人たちとご飯を食べ、妻の秀子とオセロをし負け、夜は学校へ行くといって作業場へ行き絵を描くモリ。
30年間、家から外へ出たことがないモリの世界は、誰よりも広い世界でした。