記憶に囚われる女と記憶を失っていく男の邂逅
映画『あの歌を憶えている』が、2025年2月21日(金)より新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほかで全国順次ロードショーされます。
“忘れたい記憶を抱え続ける女”と、“忘れたくない記憶を失ってしまう男”の邂逅を、ジェシカ・チャステイン、ピーター・サースガード出演で描くヒューマンドラマの見どころをご紹介します。
映画『あの歌を憶えている』の作品情報
【日本公開】
2025年(アメリカ・メキシコ合作映画)
【原題】
Memory
【製作・監督・脚本・編集】
ミシェル・フランコ
【共同製作】
エレンディラ・ヌニェス・ラリオス、アレックス・オルロフスキー、ダンカン・モンゴメリー
【製作総指揮】
モイセス・チベル、ジャック・セルビー、ミヒャエル・ベバー、ボビー・アレン
【撮影】
イブ・カペ
【共同編集】
オスカル・フィゲロア
【キャスト】
ジェシカ・チャステイン、ピーター・サースガード、メリット・ウェバー、ブルック・ティンバー、エルシー・フィッシャー、ジョシュ・チャールズ、ジェシカ・ハーパー
【作品概要】
心の傷を負っていた女性と、記憶障害を抱えた男性が出会ったことで生じるヒューマンドラマ。
主要キャストは、『タミー・フェイの瞳』(2021)でアカデミー賞主演女優賞を受賞したジェシカ・チャステインと、『ニュースの天才』(2003)のピーター・サースガード。サースガードは本作の演技で2023年ヴェネツィア国際映画祭男優賞を受賞しました。
そのほかのキャストに、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014)のメリット・ウェヴァー、Netflixドラマシリーズ「マニアック」(2018)のブルック・ティンバー、『サスペリア』(1977)のジェシカ・ハーバー。
監督および製作・脚本・編集を、『或る終焉』(2015)でカンヌ国際映画祭脚本賞、『ニューオーダー』(2020)でヴェネツィア国際映画祭審査員大賞を受賞したミシェル・フランコが担いました。
映画『あの歌を憶えている』のあらすじ
ソーシャルワーカーとして働き、13歳の娘アナと暮らすシルヴィアは、高校の同窓会でソールという男性と知り合います。彼は若年性認知症による記憶障害を抱えていました。
ソールの面倒を家族に頼まれ日々を過ごすうちに、穏やかで優しい人柄の彼に惹かれていくシルヴィア。
急速に近づいていく2人でしたが、そんな中、過去のトラウマに苦しめられていたシルヴィアが、疎遠となっていた母サマンサと再会し……。
映画『あの歌を憶えている』の感想と評価
ニューヨークに暮らすシングルマザーのシルヴィアは、アルコール依存症を克服すべく、禁酒会に通う日々を送ります。そんな中、渋々出席した高校の同窓会の場で、隣に座ってきた男と遭遇。
気味悪がり帰路についたシルヴィアの後を追うその男。しかし翌日、その男ソールは後を追ったことも、学生時代のシルヴィアのことも覚えていないと言います。彼は若年性認知症を抱えていたのです。
過去の辛い記憶が原因でアルコール依存に陥ってしまったシルヴィアと、近しい記憶を忘れてしまうソール。本作『あの歌を憶えている』は、そんな“記憶”が絡んだ2人の男女の物語です。
脚本も担当した監督のミシェル・フランコは、「何らかの理由で社会の隙間に落ちてしまう人々についての映画を作りたかった」と、本作を制作した経緯を語ります。
「社会の隙間に落ちてしまった」2人の人間が、思わぬ形で邂逅。それによって生まれる愛と希望が描かれて生きます。
シルヴィアを演じるのは、オスカー女優のジェシカ・チャステイン。脚本を読んだ当初は、トラウマを抱えた女性が主人公のダークスリラーと思ったそうですが、読み進めていくうちに「2人の素晴らしい人間についての作品」と感銘を受け主演を快諾。自ら街のショップで衣裳を選び、ヘアメイクも自分で行うなど、積極的に参加しました。
一方、ソール役のピーター・サースガードは、『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』(2015)などの主演作はあるも、フィルモグラフィ上では助演が多い俳優。しかし裏を返せばそれだけ重用とされている証で、本作もチャスティンの強い推薦を受けて出演し、認知症について独自にリサーチを重ね、まさに体当たり演技が目を惹きます。
まとめ
本作のタイトルにもなっている「あの歌」とは、イギリスのロック・バンド、プロコル・ハルムが1967年に発表した世界的ヒット曲「青い影」を指します。
ソールの亡き妻が好んでいたとして、劇中で繰り返し流れるこの曲は、妻が自分への愛を失っていることを知った夫の哀しみを歌っているとされます。
「青い影」を聴くことで妻の記憶をつなぎとめていたソールは、やがてその愛をシルヴィアに向けていき、彼女もまたその想いに応えようとします。しかし……。
シルヴィアが抱えていたトラウマとは? そして、それを知ったソールは?
記憶に付随する苦しみに囚われた2人の行く末に、目が離せないでしょう。
映画『あの歌を憶えている』は、2025年2月21日(金)より新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほかで全国順次ロードショー。
松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)