Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2020/09/10
Update

映画『マティアス&マキシム』あらすじと感想評価レビュー。グザヴィエ・ドラン作品の新たなる“青年の純愛と友情”

  • Writer :
  • 山田あゆみ

映画『マティアス&マキシム』は2020年9月25日(金)全国順次ロードショー

映画『マティアス&マキシム』は、『Mommy』や『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』のグザヴィエ・ドラン監督による最新作です。

ルカ・グァダニーノ監督の『君の名前で僕を呼んで』に感銘を受けたドラン監督が製作した自身初の純愛映画となっています。

監督の実際の友人たちをキャストに迎えて、地元ケベックで撮影されたという初めての試みが満載な本作。

また、ドランが自身の作品に出演するのは、2013年の『トム・アット・ザ・ファーム』以来7年ぶりになり、その演技にも注目が集まっています。

映画『マティアス&マキシム』の作品情報


(c)2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL

【日本公開】
2020年(カナダ映画)

【監督】
グザヴィエ・ドラン

【キャスト】
ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス、グザヴィエ・ドラン、ピア・リュック・ファンク、サミュエル・ゴティエ、アントワン・ピロン、アディブ・アルクハリデイ、ハリス・ディキンソン、アンヌ・ドルヴァル、ミシュリーヌ・バーナード、マリリン・カストンゲイ、キャサリン・ブルネット

【作品概要】
グザヴィエ・ドラン監督が『君の名前で僕を呼んで』(2017)にインスパイアされ、友情と恋のはざまで揺れる青年の12日を描いた純愛映画です。

冒頭にクレジットで「エリザ〈『ブルックリンの片隅で』(2017)〉、フランシス〈『ゴッズ・オウン・カントリー』(2019)〉、ジョエル〈『ある少年の告白』(2019)〉、ルカ〈『君の名前で僕を呼んで』(2018)〉に捧ぐ」と出てきます。4作品とも、ホモセクシュアルの作品という括りを通り越して、繊細な心の動きやジェンダーの問題を観るものに訴えかける作品です。

ケヴィン役のハリス・ディキンソンは『ブルックリンの片隅で』の主演を務めたことで評価を得た俳優。ほかにはダニー・ボイル制作のFXドラマ「TRUST/トラスト ゲティ家のスキャンダル」に出演し、2020年公開予定の『キングスマン:ファースト・エージェント』ではレイ・ファウンズと共に主役に抜擢されている新鋭俳優の一人です。

上記の4作の映画に影響を受けたドランは、自分は本当に作りたいものをごまかしていたのではないかと感じたと言っています。自身はゲイを公言し、過去作の登場人物にも投影していたものの、さらけ出すのを躊躇していた部分があったのかもしれません。本作が率直で生の感情が伝わる映画となっているのは、監督の覚悟と新たな挑戦だといえるでしょう。

映画『マティアス&マキシム』のあらすじ


(c)2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL

婚約者がいるマティアスと、あと数日で街を離れるマキシム。

幼馴染みのふたりは、友人宅のパーティーで友人の妹から頼まれて、映画の撮影のためにキスシーンを演じることになりました。

そのキスをきっかけに互いへの想いに気づき始めるふたりでしたが、マキシムが街を出ていく日は刻一刻と迫ります。

映画『マティアス&マキシム』の感想と評価


(c)2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL

友情の物語

本作はこれまでのドラン作品とは違い、全体を通して親近感が漂う映画だと感じました。それは、ドラン作品の中では初めて「仲間の存在」が軸になっているというのが一因といえます。

友人たちによってとめどなく交わされる何気ない会話や戯れ、何の意味もなさそうなシーンから感じられるのは、日常感です。

監督の実際の友人らがキャスティングされているということで自然体なゆるさがよりその雰囲気を醸しだしているのではないでしょうか。

その日常感が観る者に「もし自分が同性の友人を好きになったらどうするか」と考えさせるのです。

繊細な心の揺れの表現


(c)2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL

ドラン監督作品の素晴らしい点は、クライマックス以外のシーンでも心を奪われるような美しいシーンがあることだといえます。それは本作も同じでした。

一度芽生えた感情が止まることなく走り続けることを思わせるような映像や音楽表現は健在で、ピアノの旋律に乗せて繊細な心模様をエモーショナルに描いています

細かな目配せや、距離感の変化など心の揺れ動きを見せる主演ふたりの演技は見事です。ドラン演じるマキシムは顔に痣がある役で、どこか陰のあるキャラクターでした。

この痣を、自身の心の傷を表現したものだと監督は語っており、人目を気にして生きるということの辛さと気の置けない友人たちこそが唯一の救いになるというメッセージが込められています。

友人たちといるときに得られる安心感はほかに替えがきかないもので、友情と恋の間で葛藤するマキシムの切ない表情には心を揺さぶられました

まとめ


(c)2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL

公開されるのが初秋ということで作中の季節にマッチしていて、帰り道きっと気持ちよく劇場を後にすることができるはずです。

グザヴィエ・ドランの新境地、ぜひスクリーンで堪能するのをお勧めします。

映画『マティアス&マキシム』は2020年9月25日(金)全国順次ロードショー



関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『T2トレインスポッティング』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も

世界中を熱狂させた『トレインスポッティング』再び…。 監督のダニー・ボイルや主演のユアン・マクレガーなどキャスト・スタッフ共に再結集した『T2トレインスポッティング』をご紹介します! CONTENTS …

ヒューマンドラマ映画

映画『永遠の1分。』感想評価と解説レビュー。曽根剛と上田慎一郎がタッグを組んだお笑い路線の東日本大震災作品

映画『永遠の1分。』2022年3月4日、東京・池袋シネマ・ロサから全国公開 『カメラを止めるな!』の曽根剛と上田慎一郎のタッグで、“東日本大震災”と真摯に向き合った最新作『永遠の1分。』をご紹介します …

ヒューマンドラマ映画

隠し砦の三悪人(黒澤明/1958映画)あらすじ感想と評価解説。スターウォーズの元ネタ?個性的な俳優陣が繰り広げる“脱出劇の名作”

男勝りな姫と黄金を守る3人の男たちの脱出劇! 巨匠・黒澤監督によるスリルとサスペンス、そしてユーモアにあふれた痛快娯楽時代劇『隠し砦の三悪人』。 戦国時代を舞台に、敗軍の大将・六郎太が世継ぎの姫と隠し …

ヒューマンドラマ映画

映画『スパゲティコード・ラブ』ネタバレあらすじ感想。結末ラストの評価解説。13人の登場人物の中に“アナタ”の心情に重なるキャラがいるはず!

「イタイね」「ヤバっ」「分かんない」「何のために生きてんの?」 「どこへ行けばいいの?」みな、迷子。 数々のトップアーティストのMVや、ブランド広告を手がけてきた映像クリエイターの丸山建志監督による初 …

ヒューマンドラマ映画

映画『ボルグ/マッケンロー氷の男と炎の男』ネタバレ感想レビュー。ラスト結末も

20歳の若さでウィンブルドンで初優勝を果たし、その後4連覇を達成したテニスプレーヤー、ビヨン・ボルグ。 天才的な才能を持ちながら、審判に噛み付く気性の粗さから「悪童」と呼ばれたジョン・マッケンロー。 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学