映画『LORO 欲望のイタリア』は2019年11月15日(金)より、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー!
政局が混乱し短命の首相が次々誕生するイタリア政界で、異例の長期政権を維持したシルヴィオ・ベルルスコーニ元首相。
世界有数の資産家兼実業家であり、幅広い支持を集めた彼は、同時に問題発言を繰り返し、汚職やスキャンダルにまみれた悪名高き政治家でもありました。
その彼をモデルに、勝利と成功と愛にとりつかれた老いた権力者の姿を、イタリア映画らしい豪華絢爛にして、イマジネーションあふれる映像美で見せる大作映画です。
虚栄にまみれた男、ベルルスコーニの姿を社会風刺や批判の枠を越え、歴史劇に登場する人間像にまで高めて描いた作品です。
CONTENTS
映画『LORO 欲望のイタリア』の作品情報
【公開】
2019年11月15日(金)(イタリア映画)
【原題】
Loro
【監督・脚本】
パオロ・ソレンティーノ
【出演】
トニ・セルヴィッロ、エレナ・ソフィア・リッチ、リッカルド・スカマルチョ、カシア・スムトゥニアク、ファブリッツィオ・ベンティヴォリオ
【作品概要】
悪名高きイタリアの名物政治家、ベルルスコーニ元首相をモデルに描かれた人間ドラマ。
監督は『イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男』でイタリアの元首相ジュリオ・アンドレオッティの実像を描き、カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞したパオロ・ソレンティーノ。
その後監督した『グレート・ビューティー 追憶のローマ』ではアカデミー賞外国語映画賞を受賞、さらに英米など各国の名優が出演する『グランドフィナーレ』を手がけ、イタリアを代表する監督として活躍しています。
主演であるベルルスコーニ元首相を演じるのは、『イル・ディーヴォ』『グレート・ビューティー』でも主演を務めた名優トニ・セルヴィッロ。監督と息のあった演技を見せます。
『カラヴァッジョ 天才画家の光と影』のエレナ・ソフィア・リッチ、『ジョン・ウィック:チャプター2』で悪役を務めたリッカルド・スカマルチョ、『アメリカから来た男』など数々の名作映画に出演のファブリッツィオ・ベンティヴォリオらが脇を固めます。
映画『LORO 欲望のイタリア』のあらすじ
2006年、5年に及ぶ第2次ベルルスコーニ政権が倒れた年。イタリア・サルディーニャにある高級ヴィラ(郊外の高級住宅)が映し出されます。この館の主こそ、シルヴィオ・ベルルスコーニ元首相(トニ・セルヴィッロ)でした。
その頃ブッリア州の青年実業家、セルジョ(リッカルド・スカマルチョ)は、地元の政治家に取り入っていました。さらに上を目指す彼は、今もイタリア政財界の大物であるベルルスコーニに取り入ろうと考えます。
女好きのベルルスコーニに近づくには、美女を集めたパーティーを開くのが一番。派手なパーティーで自分の存在感をアピールしたセルジョは、ベルルスコーニを取り巻く女の1人キーラ(カシア・スムトゥニアク)と出会います。
今も政権への返り咲きを狙うベルルスコーニ。しかし大物政治家サンティーノ(ファブリッツィオ・ベンティヴォリオ)は、虎視眈々と彼を陥れようと動いていました。
それを知ってか知らずか、70歳を過ぎた今も、キーラら若い女たちと享楽的に過ごすベルルスコーニ。一方ですっかり心の離れた妻ヴェロニカ(エレナ・ソフィア・リッチ)の歓心を取り戻そうと、様々な手段で彼女への愛をアピールします。
誰にでも見せる笑顔と巧みな話術、裏表使い分けた術策で、最高権力の座への復活を目指すベルルスコーニ。セルジョはキーラの協力によって、ついにベルルスコーニと接触します。
2008年、再度首相の座に着いたベルルスコーニ。しかし政治生命を揺るがすスキャンダルが発生し、彼の言動は政敵や世論の批判の的となります。そんな状況でも、どこ吹く風の表情で日々を過ごすベルルスコーニ。ヴェロニカやセルジョは、彼のどんな姿を目撃したのでしょうか。
そして2009年、イタリアを大きな災害が襲います…。
映画『LORO 欲望のイタリア』の感想と評価
現役政治家を描いた風刺作
オリバー・ストーン監督が、第43代アメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュを描いた『ブッシュ』、そのブッシュ政権で副大統領を務め、陰で大統領を操ったとされるディック・チェイニーを描いた『バイス』。
参考映像:『バイス』予告編(2018年日本公開)
ハリウッドなど各国で、まだ現役・存命の政治家を描いた伝記・風刺映画が続々と作られています。
そしてイタリアの巨匠パオロ・ソレンティーノは、不動産で財を成しメディアを支配した大実業家であり、スキャンダルで世界を騒がせたイタリア元首相シルヴィオ・ベルルスコーニの姿を『LORO 欲望のイタリア』で描きました。
この作品も風刺精神に満ち、ベルルスコーニの姿を滑稽に描いていますが、この映画は冒頭に「現実と虚像の人物が関わり合う作品」と紹介されます。
そう、この作品は事実に重きを置いた、ありきたりの伝記映画ではありません。現実の政治家・ベルルスコーニの行動や事件をモデルにしつつも、「全てが事実に即し、全てが恣意的」に描かれた、イタリア伝統のオペラ劇のごとき作品として作られています。
仮面劇の登場人物のして描かれたベルルスコーニ
パオロ・ソレンティーノ映画の常連トニ・セルヴィッロがベルルスコーニを演じますが、その姿は将に、仮面の様な笑顔が貼り付いた男。
周囲から「あの男が微笑むと、すべての天使が淋病にかかる」とまで言われた、年齢に不相応な不気味な作り笑顔。それがベルルスコーニのトレードマークでした。
監督とトニ・セルヴィッロは、この笑顔で権力者ベルルスコーニを笑いの対象に、また内に野望と策謀を秘めた、同時に権力と愛にとり憑かれた空虚な老人として描きます。
若い女に目が無く、同時に妻を含めあらゆる女性を愛と欲望の対象とする70歳の男。劇中で彼の老いが無惨に突き付けられるシーンが笑いを誘いますが、それに懲りない老人の姿は、同時に救いがたい哀れさを感じさせます。
権力を握る事、あらゆる女性や全ての国民に愛される事を望み、並外れた行動力で目的を達しながら、いざ権力を手にすると、具体的な行動が伴わない中身の無い人物。
こうした喜劇的であり、同時に悲劇的でもある人物として、劇中でベルルスコーニは描かれます。
華麗に、そして荘厳に描かれる映画
伝記映画と呼ぶには、余りに舞台劇的に描かれた『LORO 欲望のイタリア』。
映画は、多くの女をはべらせたベルルスコーニの姿をポップかつゴージャスに、そして政治の舞台を華麗かつ荘厳に描きます。
それはフェデリコ・フェリーニの映画を思わせる、女性と過剰な装飾に満ちた世界です。同時に風刺と空虚さを感じさせ、様々な面で『甘い生活』以降のフェリーニ作品を思わせます。
享楽的な生き方を愛し、愛や性を大いに讃えるイタリア人的気質を描いたこの作品は、政治劇というよりはオペラのような華麗さと、TV・ビデオ時代の軽さを持つ映像で描いた、舞台劇的映画とみるべきです。
同時にラストで描かれるのはイタリア人のもう一つの側面、キリスト教に対する敬虔な思い。それが登場すると映画の雰囲気が一気に変わります。
監督はベルルスコーニを通じて、聖と俗、享楽と刻苦が共存する現代のイタリア社会を描きます。この宗教的側面も、フェリーニの作品などイタリア映画伝統のテーマを思い起こさせます。
まとめ
華麗さと風刺性、そして宗教的なものの描き方が、伝統的な数々のイタリア映画の名作を思わせる『LORO 欲望のイタリア』。
いわゆる政治映画をイメージして観た方は大きな戸惑いを覚えるでしょうが、フェリーニやルキノ・ヴィスコンティの映画を念頭に置くと、パオロ・ソレンティーノ監督が意図したものが見えてくるでしょう。
映画では、人間の持つ滑稽な部分を強調して描かれたベルルスコーニ元首相。監督は多くの疑惑やスキャンダルにまみれた権力者を「公人」ではなく「私人」として捉え、優しさと哀れみを持った視点で描きます。
オリバー・ストーンなど、アメリカの政治的に物申す監督の作品とは、一線を画す作風の映画になっています。
実際のベルルスコーニは、歳の差がある愛人との関係は無様なスキャンダルとなり、妻・ヴェロニカとの離婚は泥仕合の裁判沙汰、映画より醜い修羅場を経験しています。
政治的な不正行為や、失言・暴言に関してはさらりと触れるだけ。映画は“武士の情け”的な姿勢で、ベルルスコーニの人間像を、更にヴェロニカら関係者の姿を描きます。
映画はベルルスコーニを笑い者にしている様で、オペラに登場するような演劇的人物として描いていますから、むしろ彼は映画に感謝すべきでしょう。
もっともトニ・セルヴィッロが巧みに演じた貼り付いた様な、実に気持ち悪い笑顔だけは、大資産家で今は欧州議会議員を務める、シルヴィオ・ベルルスコーニ元首相も、「勘弁してくれ」と思っているかもしれません。
映画『LORO 欲望のイタリア』は、2019年11月15日(金)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー!