映画『Love Letter』は岩井俊二監督の長編デビュー作
映画『Love Letter』は『Undo』『花とアリス』の岩井俊二監督の長編第1作。
雪山の遭難事故で恋人を亡くした女性に、彼の昔の住所あてに出した手紙に来るはずのない返事が届きます。
その返事を書いた同姓同名の女性との出会いがきっかけで巻き起こる、切なくも心温まる物語。
本作は、中山美穂が一人二役を演じ、ブルーリボン賞ほか数々の賞を受賞し、関西弁の役で豊川悦司が注目を集めた作品です。
心温まる奇跡の物語の『Love Letter』をネタバレありでご紹介します。
CONTENTS
映画『Love Letter』の作品情報
【公開】
1995 年(日本映画)
【監督】
岩井俊二
【キャスト】
中山美穂、豊川悦司、酒井美紀、柏原崇、范文雀、光石研、鈴木蘭々、加賀まりこ、塩見三省、中村久美、鈴木慶一、田口トモロヲ、うめだひろかず、長田江身子、小栗香織、わたる哲平、後藤直樹、酒井敏也、山口晃史、山口詩史、山崎一、神戸浩、ランディ・ヘイブンス
【作品概要】
フジテレビのTVドラマ「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」で日本映画監督協会新人賞を受賞した岩井俊二監督による長編第一作目の作品です。
日本アカデミー賞では、作品賞を受賞。豊川悦司が優秀助演男優賞と話題賞を受賞。柏原崇と酒井美紀が新人賞を受賞しています。
一人二役を演じたことで話題を集めた中山美穂は、ブルーリボン賞、報知映画賞、ヨコハマ映画賞などで主演女優賞を受賞しました。
韓国では1999年に公開されて観客動員数140万人越えの大ヒットを記録。17年後の2016年に再上映が行われるほど根強い人気を誇っています。
ハリウッド映画化もされた、イ・ジョンジェ、チョン・ジヒョン共演の韓国映画『イルマーレ』(2000)は『Love Letter』に影響を受けた作品とも言われています。
映画『Love Letter』ネタバレあらすじ
渡辺博子(中山美穂)は、かつての恋人藤井樹を雪山での遭難事故で失いました。博子は彼の3回忌に参加するため小樽に訪れ、彼の実家に立ち寄りました。
彼の母(加賀まりこ)と彼のアルバムを見ながら話をしていると、彼が以前住んでいた住所が見つかりとっさに腕にメモしますが、現在は国道になってしまって存在しない住所だと言うことでした。
博子が送った手紙は、小樽に住む藤井樹(一人二役、中山美穂)の家に届きました。
「背景 藤井樹様 お元気ですか。私は元気です。 渡辺博子」という内容の手紙でした。
藤井樹の昔の住所には、同姓同名の女性の藤井樹が住んでおり、彼女は不思議がりながら神戸に住む渡辺博子へ返事を書きます。
「拝啓 渡辺博子様 わたしは元気です。でもちょっと風邪気味です。」とワープロで書いて送りました。
その手紙に対して博子は、風邪薬と一緒に体を心配する内容の文章を書いて送ります。受け取った樹は不思議に思いながらも風邪薬を飲むのでした。
渡辺博子は、友人の秋葉茂(豊川悦司)にその不思議な手紙の返事について打ち明けます。
秋葉は藤井樹の友人でしたが、今は博子に思いを寄せています。ふたりは恋人に近い存在ですが、博子は樹のことが忘れられず煮え切りませんでした。
もういないはずのかつての恋人に送ったつもりの手紙に返信がきたと、戸惑いながらも喜ぶ博子を見て嫉妬する秋葉でした。
不思議な文通を秋葉は怪しみ、相手が誰なのかを確かめるために、本当に藤井樹なのか証拠を見せてほしいと手紙を送りました。
その手紙を受け取った藤井樹は運転免許証と一緒に、もう手紙を書かないで欲しいと送りました。
博子は恋人の樹とやり取りしている気分になっていたのに、免許証と手紙を見てがっかりします。現実はやはり変えられないと落胆しますが、博子と茂は小樽を訪れることにします。
風邪のために病院で診察を待っている間に眠ってしまった樹は、父が病院に運ばれる夢を見ます。樹の父親は風邪をこじらせて肺炎で死んだのでした。
そして、中学のときの記憶が蘇ります。同姓同名の男子藤井樹(柏原崇)が同じクラスに居たのです。
藤井樹の家へ訪れた博子と茂。樹は病院に行っていて不在だと父親(篠原勝之)から聞かされて手紙を置いて帰りました。
その博子から樹への手紙は「この手紙を今家の前で書いていること、自分の知っている藤井樹は別の人だった。かつての恋人で今どこにいるのかわからない」という内容でした。
入れ違いでタクシーで帰宅した樹はその手紙を読んで驚きます。あたりを見渡してもその姿はなく、博子たちは樹が乗ってきたタクシーに乗って行ってしまった後でした。
樹は同級生に同姓同名の藤井樹がいたことを手紙に書いて知らせます。博子が知っている藤井樹は彼ではないかと思ったからです。
博子はかつての恋人の樹の実家を訪れます。義母(加賀まりこ)にアルバムを見せてもらい、同姓同名の女子中学生の藤井樹の写真を見て義母に自分と似ているか尋ねます。
樹は博子に一目ぼれだと言っていたのに似ていたら困るのだという博子に、まだ樹のことが好きなのねと、涙があふれる義母と博子なのでした。
博子は樹に、藤井樹(柏原崇)との中学時代の思い出を教えて欲しいと手紙で頼みます。
樹は過去の思い出を書き綴ります。ふたりは3年間同じクラスでした。同姓同名のせいで、クラス中でいじられる日々が続きます。図書委員会に投票で無理やり決められました。
しかし図書委員の仕事をまるでせず、本を読んでばかりだった樹(柏原崇)。誰も読まないだろう本を借りて図書カードの一番最初に自分の名前を書くいたずらをしていました。
ある日、ふたりのテストの答案が入れ違ってしまい、樹(酒井美紀)は放課後の駐輪場で日が暮れるまで待ちぼうけした上、自転車のライトで答案を確認します。
及川早苗(鈴木蘭々)が樹(柏原崇)のことを好きになり、その仲を取り持つように頼まれたこともありました。及川の告白はあえなく玉砕。
自転車で下校中の樹(酒井美紀)は樹(柏原崇)にセメントの袋をかぶせられるいたずらをされることもあったので、樹(酒井美紀)は樹(柏原崇)がまともな恋人ができるなんて想像できませんでした。
陸上部だった樹(柏原崇)は大会の1ヶ月前に交通事故に遭って左足を複雑骨折してしまいました。案の定試合で転倒してしまい、中学時代の部活は悲しい幕引きとなってしまいました。
樹(中山美穂)は博子に頼まれて母校のグラウンドの写真を撮りに行きます。そのまま校内で恩師と話しながら、図書室へと行きます。樹の名前を聞くなり、図書委員の女子中学生たちは大盛り上がりになります。
彼女たちは図書カードにある「藤井樹」探しをゲームにしていたのです。
樹は、自分の名前を友達がいたずらで書いたのだと説明します。すると、その人はよっぽど樹のことが好きだったんだとさらに囃し立てられてしまいました。
樹は否定しますがなかなか伝わりません。樹(中山美穂)は学校から帰るとき、先生から藤井樹(柏原崇)は2年前に死んだということを知らされました。
博子は秋葉と一緒に樹が遭難した山へと向かいます。途中でやっぱり引き返したいという博子を秋葉はどうにか説得して、山小屋へと向かいます。
山小屋には樹の遭難事故以来、登山者のためのボランティアをしている梶親父(塩見三省)があたたかく迎え入れてくれました。
映画『Love Letter』の感想と評価
死んでしまった恋人に出した届かないはずの手紙が、偶然にも同姓同名の女性に届き、その女性は死んだ恋人と同級生だった。という、偶然が引き寄せた奇跡の物語です。
そんな非現実的な設定ながら、なぜ多くの人の心を揺さぶってやまないのか。それは、白銀の世界を美しく彩る演出と、喪失感をテーマにしていながらも初恋の甘酸っぱさをもった作品だからだといえます。
雪景色と光がもたらす世界観
まず、「岩井美学」とも言われるその演出の美しさが長編一作目にして大いに見てとれます。
炉から広がる橙色のあたたかな灯りや、図書室の窓から差し込むまばゆい光が登場人物を包み込む場面は幻想的な美しさと共に、登場人物たちの表情を繊細に映し出しています。
また、舞台である小樽の純白の雪景色は、その凍てついた空気から孤独と儚さを彷彿とさせると同時に、亡くなった恋人や父親がいる天国の神聖さをも感じさせます。
音楽を担当したREMEDIOSは岩井俊二作品である『undo』、『打ち上げ花火上から見るか横から見るか』や『PICNIC』などの音楽も手がけ、岩井作品の世界観を彩る要因のひとつと言えるでしょう。
コメディとシリアスの絶妙なバランス
死者との決別という、悲しいテーマでありながらも深刻になりすぎないのは学生時代の甘酸っぱい思い出の可愛さや、樹(中山美穂演じる)の祖父(篠原勝之)と母(范文雀)とのやりとりのコミカルさがさせているといえるでしょう。
祖父の頑固でマイペースながらも孫想いな姿には心があたたまり、思わずくすっと笑わせられます。
今や日本映画界に欠かせない俳優である光石研が、樹(中山美穂演じる)の親戚役として登場し、独特の笑い方と話し方で存在感を放っているのも見どころです。
そして、当時その関西弁のセリフが話題となった豊川悦司演じる秋葉茂が重要なキャラクターだと言えます。
その勢いと明るさ、ときに強引な行動が主人公を喪失感からの解放へと導くのです。
「お元気ですか、私は元気です」に込められた意味
「お元気ですか、私は元気です。」のセリフは渡辺博子(中山美穂)が死んでしまった樹に向けて言った言葉です。
博子が樹の過去の住所に出した手紙の文面であり、樹が失踪した雪山に向かって言った言葉でもあります。
彼の死を受け入れられない博子は、手紙が届いてほしい、生きていてほしいという思いでそう書いて過去の住所へと送りました。
しかし、雪山に向かって同じセリフを叫んだ時には、さようなら。ありがとうの意味を込めて言ったのではないでしょうか。
樹がいなくなったことをようやく受け入れた博子がふり絞るその「お元気ですか、私は元気です。」からは、切なさと博子の変化を感じられて胸が締め付けられます。
この名シーンに涙した人はきっと多いと思います。主人公を一人二役で演じた中山美穂の演技が本作には欠かせない魅力の一つとなっています。
控えめな性格の渡辺博子と、あっけらかんとした性格の藤井樹の演じ分けは見事で、どちらも魅力的です。
また、亡くなった藤井樹という人物は、中学生時代を演じた柏原崇以外は登場しません。
このことによって、博子が想う樹と、酒井美紀演じる樹が想う人物が同一人物だと印象付けられるのではないでしょうか。
そして、この物語は亡くなった樹ではなく、残された博子と樹(中山美穂演じる)の物語なのだという表れともいえるかもしれません。
まとめ
本作は、『リリイ・シュシュのすべて』(2001)や『花とアリス』(2004)などの岩井俊二監督による長編デビュー作で、最高傑作との呼び声も高い作品です。
ネット社会の今の時代では縁遠くなりがちな手紙という存在ですが、相手の顔が見えないのに感じる温度というのは特別なものです。
同監督による松たか子、福山雅治主演の『ラストレター』(2019)においてもそのぬくもりを感じることができます。キャスティングで嬉しいサプライズがあるのも楽しめるポイント。
『Love Letter』と順番に鑑賞してみてはいかかでしょうか。