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『リトル・ワンダーズ』あらすじ感想評価。黒澤明やトリュフォーからジブリまで様々なリスペクトが見られる秀作

  • Writer :
  • 桂伸也

2024年10月25日(金)より、映画『リトル・ワンダーズ』全国順次公開!

子供たちの何気ない日常の中に現れた冒険の時を描いた映画『リトル・ワンダーズ』。

本作は、ふとしたきっかけでパイを求めて出かけた子供たちが、偶然とんでもない事件に巻き込まれる中で奮闘し理解し合う姿を描いた物語。

カリフォルニア芸術大学でイラストレーション、グラフィックデザイン、ファッションデザインと幅広い芸術分野に携わり、それを映画制作に応用することを志したアメリカのウェストン・ラズーリ監督による長編デビュー作であり、2023年の第76回カンヌ国際映画祭でプレミア上映されました。

映画『リトル・ワンダーズ』の作品情報


(C)RILEY CAN YOU HEAR ME? LLC

【日本公開】
2024年(アメリカ映画)

【原題】
Riddle of Fire

【監督・脚本・製作】
ウェストン・ラズーリ

【キャスト】
リオ・ティプトン、チャールズ・ハルフォード、チャーリー・ストーバー、スカイラー・ピーターズ、フィービー・フェロ、ローレライ・モート、アンドレア・ブラウン、レイチェル・ブラウン、ウェストン・ラズーリほか

【作品概要】
あるきっかけでブルーベリーパイを母に送ることが必要となり、それを手に入れるための冒険に出た子供三人組が、謎の犯罪集団に遭遇したことで思わぬアクシデントに巻き込まれていく姿を描いたアドベンチャー物語。

本作を手がけたのは、アメリカのウェストン・ラズーリ監督。長編デビューとなる本作で監督・脚本を担当しています。

映画『リトル・ワンダーズ』のあらすじ


(C)RILEY CAN YOU HEAR ME? LLC
ヘイゼル、ジョディ兄弟と友人のアリスという悪ガキ3人組が結成した「不死身のワニ団」は、ある日とある商品倉庫でゲーム機を盗み出すことに成功し、家で楽しもうとしますが、兄弟のママが家のテレビにパスワードを仕掛けており、そもそも画面を見ることができません。

ちょうどそのころママは風邪を引き病床に臥せっており、テレビを使いたいという子供たちに対し「お気に入りのブルーベリーパイを買ってくること」を交換条件として提示します。

三人がお店に向かうと、なんとお店の店員も風邪で休み。そのため自分たちでパイを焼こうとしたものの、スーパーで調達しようとしていた材料の卵を、不審な一人の男に横取りされてしまいます。

卵を奪い返そうと追いかける三人。男が向かった場所を突き止め向かうと、そこは怪しげな一軒家。そして家は魔女が率いる謎の集団「魔法の剣一味」のアジトでありました。

何も知らないまま必死で卵を追いかけ、怪しい企みに巻き込まれる三人。そして森で出会った魔女の娘ペタルも仲間に加わり、卵を奪い返すとともに悪い大人たちに立ち向かう彼らは……。

映画『リトル・ワンダーズ』の感想と評価


(C)RILEY CAN YOU HEAR ME? LLC
この物語の構成に関して作品を手がけたウェストン・ラズーリ監督は、1970年代のディズニー映画『チビッ子ギャング台風』『The Biscuit Eater』『星の国から来た仲間』といった作品からの影響を語っています。

街中のどこかに存在する物流倉庫で盗みを働き、バイクで颯爽とエスケープを決める三人の子供。

物語としては、とある理由でブルーベリーパイを手に入れるべく奔走する子供たちを追うという他愛もない物語でありますが、そんなオープニングの子供たちの「大人な振る舞い」の姿も相まって、非常に壮大なイメージが頭に浮かんできます。

そして彼らが遭遇する、一つの犯罪集団。そこには物語における実在の「魔女」が登場し、子供たちはさまざまな壁に向き合い、それを乗り越えていく。その展開は現代の時代性に即している物語の中で、ファンタジックな空気感をおぼえさせます。

その意味でこの物語は「子供の頃はみんなこうだった」というノスタルジーを描いているものではなく、逆に何らか「子供たち」という存在の未来に対する夢のようなものを描いているような印象も感じられることでしょう。


(C)RILEY CAN YOU HEAR ME? LLC
クライマックスでは「魔女」と「魔女の娘」という関係の終わり、といった特別な展開をさりげなく盛り込むなど、この印象を強くする要素がさまざまなポイントで垣間見られます。

またメインキャストとしてはほぼ子供たちだけで構成されている物語でありながら人物の存在感には素人である雰囲気もあまり感じられず、うまいキャスティング、演出が行われたことがうかがえます。

本作でキャスティングされた子供たちの個性的なルックスは、どこか背伸びも感じられる行動の中にそのまま彼らが大人になった時の表情が垣間見られる自然な存在感が見られ、強く共感をおぼえさせられる感覚をおぼえることでしょう。

ラストシーンは、さまざまな困難を乗り越え、はしゃぎ飛び回る子供たちの姿。その光景からはやはりこれからの時代が彼らのものであるというポジティブ性も見られ、強いメッセージをたたえた作品であることも感じられる作品です

まとめ


(C)RILEY CAN YOU HEAR ME? LLC
ラズーリ監督は、本作を手がけるにあたり自身のこれまでの影響よりフランソワ・トリュフォー監督の『大人は判ってくれない』、黒澤明の『隠し砦の三悪人』などの作品を上げ、これら物語の自分的バージョン作品を作りたかった、という意向があったことをメディアのインタビューで語っています。

全編を16ミリフィルムで撮影していることもさることながら、冒頭のオープニングタイトルやエンディングのテロップに見られるロゴなど、70年代以前の古い映画を想起させるその作風には、逆に斬新さすら感じられます

また本作の物語構築における影響は、先述のもの以外にもさまざまな要素が考えられます。監督は日本の宮崎駿監督作品に多大な影響を受けていることも公言しており、物語における「魔女」の存在は、どこかその作品群の影響も見えてきます。

さらにメディアのインタビューで、脚本執筆時には日本初の人気ゲーム『ゼルダの伝説 時のオカリナ』を繰り返し楽しんでいたことも明かしており、物語のファンタジックな空気感、世界的にも受け入れられやすい世界観は、まさにさまざまな現代メディアからも多大な影響を受けたラズーリ監督ならではのものであるという印象も感じられるでしょう。

映画『リトル・ワンダーズ』は2024年10月25日(金)より全国順次公開!




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