稀代の映画スター最後の主演作は、映画愛に満ちた泣ける作品!
2018年9月6日、惜しまれつつ他界したハリウッドスター、バート・レイノルズ。
それからちょうど1年。現在最も多くの傑作・問題作を放つと話題の、映画スタジオA24が手掛けた、彼の最後の主演映画が公開されます。
かつて一世を風靡した映画界のスーパースターに、ある映画祭から招待状が届きます。
そこは彼の生まれ育った街に、ほど近い場所でした。懐かしい場所に向かった彼の胸中に、様々な思いがよぎります。
落ち目となり歳を重ねた往年のスターを、バート・レイノルズが自らの姿に重ね演じます。
CONTENTS
映画『ラスト・ムービースター』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
The Last Movie Star
【監督・脚本】
アダム・リフキン
【キャスト】
バート・レイノルズ、アリエル・ウィンター、クラーク・デューク、エラー・コルトレーン、ニッキー・ブロンスキー、キャスリーン・ノーラン、チェビー・チェイス
【作品概要】
晩節を迎えたハリウッドの大スター。映画祭に招待された機に故郷に戻った彼が、自分の人生を振り返る姿を、ユーモアを交えて描いた人間ドラマ。
監督は70年代末の田舎町を舞台に、ロックバンド「KISS」のコンサートに行こうと奮闘する、高校生4人組の姿を描いた映画、『デトロイト・ロック・シティ』で注目を集めたアダム・リフキン。
クエンティン・タランティーノ監督の最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に出演が決まりながら、その撮影前に惜しまれつつ死去したバート・レイノルズ。
彼が主演する、最後の映画となったのが『ラスト・ムービースター』。その姿をご覧下さい。
映画『ラスト・ムービースター』のあらすじとネタバレ
かつて人気絶頂の頃、TV番組で映画会社のスクリーン・テストの体験を、面白おかしく語るヴィック・エドワーズ(バート・レイノルズ)。彼の一言一言に観客は沸き立ちます。
現在、高齢となり杖をつく身となったヴィックは、愛犬を連れ動物病院にいました。
長年連れ添った愛犬も15歳。すっかり体を悪くし、ヴィックは獣医と話し合った上で、安楽死を決意します。
動物病院からハリウッドの邸宅に戻ったヴィック。郵便受けに“国際ナッシュビル映画祭”からの、招待状が入っていました。
今は広い邸宅で、ただ1人寂しく暮らしているヴィック。スーパーに買い物に出ても、彼に気付く者も無く、落ちぶれた生活を送っていました。
彼は数少ない友人、同じく元スターのソニー(チェビー・チェイス)に、“国際ナッシュビル映画祭”の招待状が届き、生涯功労賞を贈られると彼に打ち明けるヴィック。
過去の生涯功労賞の受賞者は、ロバート・デ・ニーロ、ジャック・ニコルソンに、クリント・イーストウッド。招待費は映画祭持ちと聞き、バカじゃなきゃ招待を断らないと、ソニーは答えます。
ヴィックはゴミ箱に捨てた招待状を拾い上げ、自由の効かない体で空港へと向かいます。
空港で受付に向かったヴィック。しかし席はファーストクラスではなく、エコノミーだと知らされます。
ようやくナッシュビルの空港に到着したものの、ヴィックを迎える者の姿はありません。ようやく遅れて到着したのは、リムジンならぬポンコツ車。
しかも運転手は主催者の妹で、パンクな姿でスマホを手離さず、彼氏のビヨルンを浮気したと責めたてているリル(アリエル・ウィンター)でした。
彼女はヴィックが往年の大スターであるとは、つゆとも知らず、関心もありません。
車内は散らかり放題で、案内されたホテルは通りに面した騒がしい安宿。ヴィックは偽りの内容に騙され、ここに来てしまったと気付きます。
早速ソニーに電話をかけ、不満を訴えるヴィック。ソニーはせめて久々に、大物気分を味わってくるよう慰めます。
映画祭のオープニングまでの時間が無いと、急かされて会場に向かわされたヴッック。彼は車の中で、リルがスケッチブックに描いた絵に気付きます。
到着した会場は映画館でもホールでもなく、場末のパブでヴィックは呆れかえります。しかし中には、ヴィックの到着を待ちわびたファンが多数いました。
ヴィックを迎えたのは映画祭の主催者、リルの兄のダグ・マクドゥーガル(クラーク・デューク)、その相棒のショーン(エラー・コルトレーン)。
そして映画監督と紹介されたスチュアートは、彼の姿をカメラで撮影し記録映画にします。
映画祭中のロゴをデザインしたリルが、期間中ヴィック専属の運転手兼アシスタントだと紹介したダグ。レッドカーペットに立った彼を、観客は我も我もとスマホで撮影します。
次々浴びせられるフラッシュの光に、記者やカメラマンに囲まれた、人気絶頂の頃を思い出すヴィック。
ダグのパートナーで、映画祭のソーシャルメディア担当のフェイス(ニッキー・ブロンスキー)が映画祭の反響をヴィックに語りますが、彼はフェイスにウイスキーを注文します。
舞台に上がったヴィックに、興奮気味に質問するダグとショーン。やがて彼の主演映画「カトマンズの奇跡」が上映されます。
ヴィックの名が画面にクレジットされると、客席は歓声に沸きますが、彼は席を立つとバーのカウンターで酒を飲み始めます。
ヴィックは、リルが恋人のビヨルンと言い争う姿を目にします。恋人と喧嘩別れをしたリルは、ヴィックの隣に座り、遠慮なく酒を飲みます。
リルにダメな男を黙らせる方法を伝授するヴィック。しかしリルは、ヴィックにこの映画祭の内幕を話します。
この映画祭に特別功労賞として招かれたスターは、誰も来なかったと語るリル。これは“国際ナッシュビル映画祭”、有名な“ナッシュビル国際映画祭”ではありません。
「カトマンズの奇跡」の上映終了後、質疑応答に移ろうとして、ヴィックの姿が無い事に気付いたダグ。慌ててショーンとスチュアートと共に、ヴィックの姿を探します。
すっかり出来上がって、パブの外の馬の遊具にまたがっているヴィック。3人はフェイスの心配をよそに、彼をなだめて舞台に上げます。
舞台で自分はパチーノ、デニーロ、ブランドと違い、誤った選択をしたと語るヴィック。それでもダグと観客は、何とか彼を持ち上げようとします。
しかしヴィックは酔った勢いで、自分はこの映画祭で辱められた、これは映画祭では無く、負け犬の映画鑑賞会だ、と言い放ちます。
ヴィックはそのまま安ホテルに戻されます。限られた予算で精いっぱい運営していると話し、私たちはあなたのファンで、決して恥をかかせる意図はないと、説明するダグとショーン。
怒りの収まらないヴィックは、スチュアートのカメラを投げ捨て、3人を部屋から追い出します。
ヴィックは窓から通りに立つ女を目にしますが、女は彼に見向きもしません。多くの女とベットを共にしたのも昔の話、倒れて頭を打ったヴィックはそのまま意識を失います。
翌朝ビヨルンとヨリを戻し、ベットを共にしていたリル。兄ダグからの電話で目覚め、慌ててヴィックを映画祭へと迎えに向かいます。
しかしホテルにいたヴィックは、荷物をまとめていました。ダグの映画祭の残りの日程をキャンセルし、自宅へ戻ろうと決意していました。
ヴィックの指示で空港に向かうリル。タチの悪い恋人と、彼女がヨリを戻したと悟ったヴィックは、歳を取ると許せる事と許せない事が明確になる、と語り彼と別れるように勧めます。
彼の言葉に反発し、昨晩の映画祭の態度を非難したリル。しかしヴィックは道路上の、“ノックスビル”を示す標識に気付きます。
リルに“ノックスビル”へと向かうよう指示したヴィック。そこは彼の生まれ育った街でした。
映画『ラスト・ムービースター』の感想と評価
バート・レイノルズに共感と敬意を捧げた作品
架空の映画スター、ヴィック・エドワーズを描いたこの作品。彼が過去に出演した架空の作品も創造されますが、その経歴はバート・レイノルズ自身の生涯に、大きく重なります。
話題となったバート・レイノルズが、過去の出演作の自分自身と共演するシーン。ネタバレ部分をお読み頂ければ、どのように使われたかお判りでしょう。
使用された映画は『トランザム7000』と『脱出』。あの作品に登場したバート・レイノルズが、老いた彼自身と、どの様な会話を交わすか注目して下さい。
若き日はタフガイ、セックスシンボルと持ち上げられ、その後出演作に恵まれず、人気の低迷や離婚に自己破産と、浮き沈みを経験したバート・レイノルズ。
監督のアダム・リフキンは、彼がこの役を演じなければ、この映画は作らなかっただろうと明言しています。
映画とテネシー州への愛に満ちた作品
架空のスター、ヴィック・エドワーズの為に、バート・レイノルズの過去の出演作から、様々な作品を創造した『ラスト・ムービースター』、過去の映画へのこだわりは、それに止まりません。
酔ったヴィックが質問され、口汚く罵ったのがステラ・アドラー。彼女はかつて、アメリカの著名な演技指導者でした。
ステラ・アドラーは、演技理論の“スタニスラフスキー・システム”の名で知られる、コンスタンチン・スタニスラフスキーに師事した、唯一のアメリカ人俳優とされています。
名高いアクターズ・スタジオの芸術監督、リー・ストラスバーグと、“スタニスラフスキー・システム”の演技指導方法について対立、独自の演技法を確立し、多くの俳優を指導しました。
彼女の指導を受けた俳優に、マーロン・ブランドやロバート・デ・ニーロがいます。彼らと同じ道を歩めなかった、アクション俳優のヴィックの胸の内が伝わってきます。
そして授賞式でヴィックが名を上げた、名プロデューサーのジョーゼフ・E・レヴィーン。彼は1958年のイタリア映画『ヘラクレス』を、現代の映画宣伝に通じる大規模な宣伝で、アメリカで大ヒットさせた人物として有名です。
アメリカでの第1作『ゴジラ』公開に、関わったとして知られています。この様な人物の名が出てくるところにも、アダム・リフキン監督の映画愛が感じられます。
またこの映画、元々はニューヨークとフィラデルフィアを舞台にした物語として考えられていました。
ところがその後、テネシーを舞台にする事をアダム・リフキンが提案、ロケハンの結果すっかりこの地に惚れこみ、ナッシュビルとノックスビルを舞台とした脚本に書き直します。
劇中でヴィックが、懐かしそうに食べるお菓子である“グー・グー・クラスター(GooGoo Cluster)”、今もナッシュビルのメーカーが作っている、歴史あるキャンディー・バーです。
監督の様々なこだわりが、映画全編からにじみ出ている作品です。
こだわりの共演者が見せるアンサンブル
バート・レイノルズの共演者にも、様々なこだわりを見せるこの作品。ヴィックの友人として登場する、ソニーを演じるチェビー・チェイスも、かつてコメディ映画で頂点を極めた人物として、絶妙の組み合わせと言えます。
若手出演者が色々と訳ありな顔ぶれ、というキャスティングも、映画の内容を意識したものでしょうか。
リルを演じたアリエル・ウィンターは、子役時代からTVドラマ『モダン・ファミリー』の、メインキャストを務める人気者ですが、虐待かギャラを巡る争いか、母親と裁判で争った経歴を持っています。
その兄、ダグを演じたクラーク・デュークは、幼い頃子役として活躍しながらも、学業の為10年役者業を休止、その後コメディを中心に活躍している人物。
その友人ショーンを演じたのは、『6才のボクが、大人になるまで。』で、12年間に渡る自身の成長の姿を、リチャード・リンクレイター監督に描かれた、エラー・コルトレーン。
ダグのパートナー、フェイスを演じたニッキー・ブロンスキーは、映画『ヘアスプレー』のヒロインを演じながらも、その後スキャンダルでキャリアが低迷、ハリウッドで美容師のアルバイトをしながら、女優業を続けている人物です。
そして最後にヴィックの元妻、クライディアを演じたベテラン女優キャスリーン・ノーラン。
彼女はテレビを中心に、様々な役で活躍した女優であると同時に、スクリーン・アクターズ・ギルドの代表も務めた人物です。
かつて人気西部劇TVドラマ『ガンスモーク』で、バート・レイノルズと共演したキャスリーン・ノーラン。『ラスト・ムービースター』の演技は、批評家に絶賛されています。
『ガンスモーク』の映像はヴィック・エドワーズの架空の主演映画として利用され、共演者として彼女の名をクレジットする、映画はそんな遊びも行っています。
芸能界で特異な経験を積んでいる共演者たち。彼らがヴィック・エドワーズ=バート・レイノルズに、様々な共感を寄せた事は間違いありません。
まとめ
バート・レイノルズ、そして映画への愛情のあふれた映画『ラスト・ムービースター』、映画ファンには必見の映画です。
そして偏屈に孤独に生きた男の、再生の物語としても感動できる作品です。ラストでは場内にすすり泣きの声が聞こえる、特に年配者の胸を打つ映画でもあります。
この作品で、ダグたちが作り上げたのは“国際ナッシュビル映画祭(The International Nashville Film Festival)”。
“ナッシュビル国際映画祭(The Nashville International Film Festival)”ではなく、騒動を引き起こします。
ところでご本家の、アメリカで最も古い映画祭の1つは“ナッシュビル映画祭(The Nashville Film Festival )”。この名が使えなかったのは、大人の事情でしょうか。
映画を見た方、「そうか、この手があったか!」などと、良からぬ事は考えないように。