映画『モーリタニアン/黒塗りの記録』は、2021年10月29日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開!
2001年9月11日に起きた、アメリカ同時多発テロ。
このテロの首謀者とされ、不当拘禁されたモハメドゥ・ウルド・スラヒの手記を原作に、アメリカ政府が隠す、恐るべき真実に迫ったサスペンスドラマ『モーリタニアン/黒塗りの記録』。
悪名高い「グアンタナモ収容所」に不当拘禁されたスラヒを救う為、奔走する人権派の弁護士ナンシー・ホランダと、スラヒをテロの首謀者と断定し、死刑にする事を命じられた、軍の弁護士ステュアート中佐。
本作は、2人の弁護士と、徐々に明かされるスラヒの記憶の3つの視点から、隠された真実に迫っていくサスペンス色の強い作品です。
衝撃の実話をもとにした、本作の魅力をご紹介します。
映画『モーリタニアン/黒塗りの記録』の作品情報
【公開】
2021年公開(イギリス映画)
【原題】
The Mauritanian
【原作】
モハメドゥ・ウルド・スラヒ
【監督】
ケビン・マクドナルド
【脚本】
M・B・トレイブン、ローリー・ヘインズ、ソフラブ・ノシルバニ
【キャスト】
ジョディ・フォスター、タハール・ラヒム、ザカリー・リーバイ、サーメル・ウスマニ、シャイリーン・ウッドリー、ベネディクト・カンバーバッチ
【作品概要】
2015年に発行された、モハメドゥ・ウルド・スラヒによる著書「グアンタナモ収容所/地獄からの手記」を原作に、2人の弁護士が、アメリカ政府が隠す、恐るべき真実に迫ったサスペンスドラマ。
スラヒを救う為に奔走する人権派弁護士のナンシーを、1976年の『タクシードライバー』で注目されて以降、『告発の行方』(1988)『羊たちの沈黙』(1991)で2度の「アカデミー賞主演女優賞」を獲得している、名実ともにトップクラスの女優、ジョディ・フォスターが演じており、本作でも「ゴールデングローブ賞」を受賞する程の圧巻の演技を見せています。
軍の弁護士ステュアート中佐を演じる、ベネディクト・カンバーバッチは、TVシリーズ「SHERLOCK(シャーロック)」で人気を博して以降、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(2014)でアカデミー賞主演男優賞に初ノミネートされ『ドクター・ストレンジ』(2016)のストレンジ役でも知られる、実力派の俳優です。
ベネディクト・カンバーバッチは「グアンタナモ収容所/地獄からの手記」の映画化を熱望。
『モーリタニアン/黒塗りの記録』では、当初はプロデューサーに専念する予定でしたが、完成した脚本に惚れ込み、自ら出演を望んだというエピソードがあります。
監督は、ドキュメンタリー映画で高い評価を受けている、ケビン・マクドナルド。
映画『モーリタニアン/黒塗りの記録』のあらすじ
2002年、アメリカ同時多発テロの首謀者として、母親の前で拘束されたモハメドゥ・スラヒ。
スラヒは「すぐに戻れる」と信じていましたが、一度も裁判が開かれないまま、長年拘禁されてきました。
2005年、スラヒの事を知った人権派の弁護士ナンシー・ホランダーは、スラヒの拘禁を不当と考え、法律事務所の後輩女性弁護士、テリー・ダンカンと共にスラヒを救い出す為の弁護を引き受けます。
スラヒに面会したナンシーとテリー。
もともと4か国語を操る程の、頭の良いスラヒは、拘禁中に英語を覚え、今では日常的な英語の会話を問題無く出来るようになっていました。
ナンシーは、スラヒにこれまでの事を手記として書き残すことを提案します。
一方、スラヒをアメリカ同時多発テロの首謀者にしたいアメリカ政府は、スラヒを死刑にして「正義の鉄槌」を見せつけることを考えていました。
軍の弁護士であるスチュアート・カウチ中佐は、スラヒを死刑にする為の裁判を任されます。
ですが、スラヒの事を調べていく中で、アメリカ同時多発テロ首謀者としての、決定的な証拠を掴むことができず、スチュアートもスラヒの長年に渡る拘禁に疑問を抱くようになります。
スラヒの無実を証明する為に必要な情報、それは2002年にスラヒが収監された、司法手続きなしに厳しい尋問や拷問が行われたとされる、キューバの悪名高き収容所「グアンタナモ収容所」での記録です。
ナンシーは、情報を開示するよう軍に要求しますが、送られてきたのは、都合の悪い部分は全て黒く塗りつぶされた報告書でした。
スチュアートも「グアンタナモ収容所」の真実を知る為に、軍の上層部に掛け合いますが相手にされません。
アメリカ政府が隠し続ける「グアンタナモ収容所」の記録に迫るナンシーとスチュアートは、やがて、恐ろしい陰謀の絡む、ある真実を知ることになります。
映画『モーリタニアン/黒塗りの記録』感想と評価
2015年に出版され、大ベストセラーになった、モハメドゥ・ウルド・スラヒの手記「グアンタナモ収容所/地獄からの手記」を原作にした、映画『モーリタニアン/黒塗りの記録』。
「グアンタナモ収容所/地獄からの手記」が、発売当初に衝撃を与えたのが、アメリカ政府の検閲を受け、2500か所の黒塗りが残ったままだったという点です。
映画本編でも、情報を開示するよう求めたナンシーに、都合の悪い部分は黒く塗りつぶされた資料が、軍から送られてくるという場面があります。
数年前に、日本の国会でも、森友学園問題や自衛隊の日報問題で提出された資料が、不都合な部分が黒く塗りつぶされた報告書で、「のり弁」と呼ばれ問題になりましたが、まさに「のり弁」状態だったのが、ナンシーが開示請求した軍の報告書だった訳ですね。
国の隠ぺい体質は、どこも変わらないという事でしょうか。
では、アメリカ政府は何を隠しているのか?それが、本作最大の見どころなります。
『モーリタニアン/黒塗りの記録』では、アルカイダの最重要人物とされ、長年に渡る不当な拘禁を受けている、スラヒを救おうとする人権派弁護士のナンシーと、スラヒに「正義の鉄槌」を喰らわせる為に、死刑にする事を命じられた軍の弁護士スチュアートの、全く正反対の視点を通して物語が進んでいきます。
そこに、2002年に拘束されて以降、アフガニスタンにある米軍の秘密施設の後に「グアンタナモ収容所」に送られた、スラヒの記憶がリンクしていき、徐々に観客に真実が分かる構成になっています。
問題なのは、スラヒが「地獄だった」と語る「グアンタナモ収容所」です。
「グアンタナモ収容所」は実在しており、アフガニスタン、南西アジア、中東やアフリカから連行された約780人が連行され収監された場所で、厳しい尋問に加え拷問、長期拘禁も行われていました。
数えきれない程の人が、拷問や自殺で命を失っており、恐ろしいことは、収監された約780人は、ほとんどが言葉が通じないことによる誤解から罪を着せられた人達だったと言われている点です。
オバマ前米大統領は「グアンタナモ収容所」の閉鎖を公約にしましたが、実現しませんでした。
「グアンタナモ収容所」で行われた、恐ろしい行為の数々、アメリカ政府が隠しているのは、おそらくこの情報でしょう。
圧倒的に不利な状況の中、ナンシーとスチュアートは、それぞれの方法で真実に辿り着きます。
スラヒが現在は釈放され、手記を出版したことからも分かりますが、本作は「スラヒは本当に無罪か?」という部分が、物語の軸ではありません。
無実のスラヒを救う為、周囲からいくら罵られようと、人権と正義、そして真実を探り続けた、ナンシーとスチュアートの「人間の尊厳」のドラマです。
そして、クライマックスで明かされる「グアンタナモ収容所」の真実、そしてそれに絡む陰謀は、米駐留部隊がアフガニスタンから撤退したニュースが、世界的に報じられた事からも分かりますが、現在も尾を引いている問題でもあります。
まとめ
スラヒを救う為、アメリカ政府が隠ぺいする情報を追求する、ナンシーとスチュアート。
ですが、その行為は周囲の反感を買い、ナンシーは「テロリスト」と罵られ、スチュアートは多くの友人を失います。
おそらく、ナンシーは無償で請け負ったスラヒの弁護を諦め、スチュアートも軍が用意した資料の情報のみで、スラヒをテロの首謀者として起訴すれば、辛い目に遭うことも無かったでしょう。
それでも何故、戦い続けたのか?
それは、ナンシーとスチュアートも、強い信念を持っており、その信じるものこそが、本作のメッセージに繋がっています。
ジョディ・フォスターとベネディクト・カンバーバッチの、実力派俳優の共演による、重厚な人間ドラマが見どころの『モーリタニアン/黒塗りの記録』。
圧倒的に不利な状況でも、屈すること無く戦い続けたナンシーとスチュアート、そしてスラヒの姿から、人間の強さを感じる作品です。
映画『モーリタニアン/黒塗りの記録』は、2021年10月29日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開!