「人は孤独とよ」。
母の言葉に込められた真実とは。
長崎の町を舞台に、幼い頃別れた父を探して歩く兄弟の物語。
映画『ゆらり』で長編監督デビューを果たした横尾初喜が、自らの半自伝的なストーリーを作り上げました。監督の故郷である長崎でオールロケを敢行。
俳優の井浦新と、芸人のアキラ100%が兄弟役を演じ、監督夫人でもある女優の遠藤久美子が主人公を支える妻役で登場しています。
誰の記憶にもあるであろう、こはく色の恋しき日々をそっと思い出す映画『こはく』を紹介します。
映画『こはく』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本映画)
【監督】
横尾初喜
【キャスト】
井浦新、大橋彰(アキラ100%)、遠藤久美子、嶋田久作、塩田みう、寿大聡、鶴田真由、石倉三郎、鶴見辰吾、木内みどり、城下弘貴、城下弘哉
【作品概要】
横尾初喜監督が自らの幼少期の実体験をベースに原案を書き上げ、故郷である長崎で撮影を行った映画『こはく』。
俳優の井浦新演じる主人公の兄役を演じるのは、本名の大橋彰で挑んだ、芸人アキラ100%。芸人のキャラとは真逆の新境地を見せています。
映画『こはく』のあらすじとネタバレ
夕焼けの海に小さな兄弟の姿があります。水面が揺れるなか、兄弟は大人の姿に変わっていました。
兄の章一と弟の亮太は2人兄弟。幼い頃に父親と別れてから母親と暮らしてきました。
亮太は、父が借金とともに残していったガラス細工会社を継ぎ、どうにか経営を立て直していました。私生活では一度離婚をしており、別れた息子たちのことを気にしています。
その後再婚した現在の妻・友里恵の妊娠が分かります。亮太は喜びながらも、父親になることへの不安が募ります。どこかで父親のいない過去を引きずっていました。
亮太の元に兄の章一から電話が入ります。兄と母が暮らす実家に帰る亮太。母・元子は久しぶりの親子水入らずに嬉しそうです。
章一は、実家に母と住みながら定職にもつかず、ぶらぶらと過ごしていました。虚言癖があり周りの皆を困らせています。
そんな章一が、幼い頃に別れた切りの父を見かけたと言い出します。「父さんのこと、どう思ってる?俺は恨んどる。絶対に迎えにくる。そう言ったのに」。
いつになく真剣な兄の様子に、亮太も一緒に父親を探すことにしました。しかし、兄は聞き込みで出会う女性をナンパしまくり、ヤクザにハッタリをかますも追い出され、全然役に立ちません。
亮太の会社の工房で働くガラス職人の宮本は、亮太の父が社長の時から働いています。亮太は宮本に、父親が仕事も家族も捨てていなくなった理由を思い切って聞いてみました。
本当の事は誰も分からないが、父が姿を消したのと同時期に、職員だった晃子という女がいなくなったことで、変な噂が流れたということです。
父と母が別れた理由は、父の女問題が原因だったのではないか?亮太と章一は、父の同級生であり債権者でもあった人物から、晃子の情報を聞き出します。
亮太はイライラしていました。なぜ父と母は別れたのか?父はどこにいるのか?亮太は母親を責めるように問いただします。母は困惑し教えてくれませんでした。
映画『こはく』の感想と評価
映画『こはく』は、横尾初喜監督の半自伝的ストーリーということで、監督の作品を愛する気持ちが、キャストの演技にも滲み出ているような温かい映画でした。
中でも、井浦新と兄弟役を演じた大橋彰(あきら100%)の俳優の顔に驚きです。とても自然な演技で、観るものにリアリティを与えます。
テレビではお馴染みの裸姿は、たびたび挟まれた入浴シーンで披露。見慣れた姿に笑いが起こります。弟役の井浦新との入浴シーンでは、本当に兄弟では!?と思うほど顔つきも似ているように見えました。
父親と再会するシーンは、あふれる涙を拭わず子供のように抱き着く姿に、心を持っていかれました。一緒に泣き出す弟の亮太、兄弟を温かい眼差しで包み込むよう抱きしめる父親。
愛し合う家族が、訳会って離れなければならなかった時間。溢れる涙で浄化されていくような素敵なシーンでした。
そして、私生活でも横尾初喜監督の妻である遠藤久美子が、映画でも主人公の妻役を演じて話題となりました。
父のいない過去を引きずりながらも無理をしがちな亮太を、優しく見守る聖母マリアのような笑みが印象的です。
見返りを求めない無償の愛は、何よりも強く、美しいと感じました。
横尾初喜監督は、これからの時代に大切な「優しさ」とは何かを作品を通して感じてほしいとメッセージを寄せています。
「優しさ」には「許すこと」も含まれているのではないでしょうか。人を傷つけてしまっても、自分の行動に後悔しても、過去は変えられないものです。
許し許されながら絆を深め、互いを理解する努力をする。それが家族の基本なのかもしれません。
まとめ
横尾初喜監督が自らの幼少期の実体験をベースに原案を書き上げ、映画化した『こはく』。
映画の舞台となるのは、監督の故郷でもある長崎県。長崎の美しい海の風景が印象的です。長崎弁のセリフもじんわり心に染みます。
「琥珀色の恋しき日々は胸の中」と歌う主題歌「こはく」は、Laika Came Back(車谷浩司)が本作のために書き下ろした曲で、映画の世界観が見事に表現されています。
映画『こはく』。優しさについて、今一度立ち止まり考えるきっかけになる映画です。