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Entry 2018/07/06
Update

映画『菊とギロチン』あらすじと感想。キャストの演技力にシビレた瀬々監督入魂の一作

  • Writer :
  • 西川ちょり

構想三十年!瀬々敬久監督入魂の作品『菊とギロチン』がいよいよ7月7日(土)よりテアトル新宿ほかにて順次ロードショーされます!

時代に翻弄されながらも「自由」を求めて疾走する若者たちの辿り着く先は!?

映画『菊とギロチン』の作品情報


© 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

【公開】
2018年(日本映画)

【監督】
瀬々敬久

【キャスト】
木竜麻生、韓英恵、東出昌大、寛一郎、嘉門洋子、前原麻希、仁科あい、田代友紀、持田加奈子、播田美保、山田真歩、大西礼芳、和田光沙、背乃じゅん、原田夏帆、渋川清彦、嶺豪一、荒巻全紀、池田良、木村知貴、飯田芳、小林竜樹、小水たいが、伊島空、東龍之介、小木戸利光、山中崇、井浦新、大西信満、川本三吉、高野春樹、大森立嗣、篠原篤、菅田俊、川瀬陽太、嶋田久作、渡辺謙作、宇野祥平、中田彩葉、鈴木卓爾、松山カオル、小林節彦、飯島大介、上木椛、村上由規乃、森田晋玄、下元史朗、奈良大介、金城左岸、内堀太郎、中村修人、荒堀舞、和久本あさ美、三村晃傭、松村厚、武田一度、吉岡睦雄、柴田一樹、西村達也、申芳夫、渡辺厚人、松倉智子、海野恭二、辻凪子、白井良治

【作品概要】
構想30年、瀬々敬久監督が自身のオリジナル企画として手がけた青春群像劇。

大正末期、関東大震災直後の日本を舞台に、アナキストの秘密結社「ギロチン」社の若者たちと、女相撲一座の女たちが出逢う。彼ら、彼女たちは、次第に心を許しあい夢を語るが、時代は容赦なく彼らを襲い始める・・・。

京都撮影所を拠点に、関西でロケを敢行。黒澤明の『羅生門』や、溝口健二作品を手がけてきた御年91歳の馬場正男が美術監修を務めている。

映画『菊とギロチン』のあらすじ


© 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

大正末期、関東大震災直後の日本は、混沌とし、軍部が権力を強め、急速に不寛容な社会へとむかっていました。

花菊は、姉が他界したあと、後妻として嫁いだのですが、夫は暴力を振るい、彼女を支配していました。

ある日、東京近郊に女相撲一座「玉岩興行」がやって来ます。花菊は女力士たちの活躍に目を輝かせました。

自分も強くなりたい…。

夫の暴力に耐えかねて、家を飛び出した花菊は、「玉岩興行」に飛び込み、新人力士として懸命に練習に励みます。

力士仲間には、元遊女の十勝川や、花菊と同じく、夫から逃げてきた女など様々な事情を抱えた女性が集まっていました。


© 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

時を同じくして、大阪で活動するギロチン社というアナキスト集団の男たちが、資金集めと称して、金持ちから金を略奪していました。

今の社会に憤慨し、「格差のない平等な社会」を標榜する彼らでしたが、実際のところ、金は酒と女に消えていました。

ある日、ギロチン社の一人、吉田大次郎が、大杉栄が憲兵大尉・甘粕正彦らに拉致され殺害されたという知らせを持って飛び込んできました。

彼らは復讐を画策しますが、警察に追われ、中濱鐵と吉田大次郎は、東京へと活動場所を移します。

女力士たちの興行を興味本位で覗きに行った中濱と吉田でしたが、彼女たちの闘いぶりに感銘を受けます。

「社会を変えたい。差別のない世界で自由に生きたい」

立場は違えど、彼らは同じ願いを持っており、行動を共にするうちに、次第に心を通わせていきます。

しかし、厳しい現実が容赦なく彼らを襲い始めるのでした…。


© 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

映画『菊とギロチン』の感想


© 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

圧倒された!

観終わってまず出た言葉でした。まさに圧巻の189分といえるでしょう。

口だけは威勢のいい、ギロチン社の面々の行動は若干喜劇的でもあり、東出昌大扮する中濱はどことなく、詐欺師的な魅力も漂わせています。

威勢のいい割には喧嘩も弱く、頼りにもならない。正直、観ていて、なんて弱いんだ、と思うことも少なくありませんでしたが、それでも、自由を求めて走り続ける彼らには、理想と夢があり、生き生きと躍動する姿は実に魅力的です。

女相撲一座に加入した花菊は盛んに「強くなりたい」と口にします。

女だからというだけで受ける理不尽な暴力と対峙するには自分も強くなければいけない、と彼女は身を持って体感しているのです。

この「強さ」に関する問題は、この作品の大きなテーマの一つと言っていいのではないでしょうか?!

花菊の夫のように腕力の強い男が果たして「真に強い」といえるのでしょうか?


© 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

本当の強さとは何か? 

後半、そのことを大いに感じることになります。

重い題材も逃げずに直視し、時代の息苦しいまでの圧迫感を映像に乗せながら、「青春活劇」とも呼べる粋のいい作品に仕上がっています。

まとめ


© 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

瀬々敬久監督が、「ギロチン社」についての映画を考え始めたのは1980年代。

その後、女子プロレスの元祖である興行女相撲のことを知り、「ギロチン社」と「女相撲」を合体して描くことで、困難な時代に自由に生きようとした若者たちを描くという構想が浮かびます。

構想から三十年、『ヘヴンズ・ストーリー』に続く自身のオリジナル企画第二弾として、満を持して完成した入魂の一作です。

昨今、韓国映画が、近現代の歴史を背景に、エンターテインメント性を加味して、傑作を次々と産み出しているのを観るにつけ、日本映画でもそうした試みがもっとあってもいいのではないかと思っていたのですが、瀬々監督がやってくれました!


© 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

これまでも、時代、社会に揉まれ、苦悩する人々を見つめ、描いてきた瀬々監督だからこそ、描くことが出来たといっていいかもしれません。

そして、平成も終わろうとしている今こそ、私達にこの映画は必要なのだ、と思わずにはいられません。是非多くの方々に見てほしい傑作となっています!

花菊に扮する木竜麻生は本作が映画初主演。吉田に扮する寛 一 郎は、本作が俳優デビュー作。

そんな初々しい二人は勿論のこと、役者陣が素晴らしいのです!とりわけ、「玉岩興行」の興行主である岩木玉三郎を演じた渋川晴彦に痺れました。 

そしてやはり東出昌大という役者のスケールのでかさに目を奪われずにはいられませんでした。

『菊とギロチン』は、2018年7月7日(土)より、テアトル新宿他、全国順次ロードショーされます!


© 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

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