第41回トロント国際映画祭出品作品され、その後、日本でも公開された『彼女が目覚めるその日まで』。
ニューヨークタイムズのベストセラー・ノンフィクション第1位となった実話の原作を、若手女優クロエ・グレース・モレッツと、製作にはオスカー女優でもあるシャーリーズ・セロンで挑んだ映画化です。
原因不明の病気と闘った1人の女性と、生きる希望を紡いだ家族の実話とは?
映画『彼女が目覚めるその日まで』の主演キャストと監督をはじめるスタッフ、原作者について、感想を交えて紹介します。
最愛の両親や大切な恋人、あるいは自分自身が、ある日突然、人格を奪われ 正気と狂気の間をさまよう病にかかったとしたら──あり得ないと思うかもし れないが、その病は日本でも年間 1000 人ほどが発症していると推定されている。 決して、遠い国の縁のない話ではないのだ。
CONTENTS
1.映画『彼女が目覚めるその日まで』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ映画)
【原作】
「脳に棲む魔物」スザンナ・キャハラン著・澁谷正子訳(KADOKAWA刊)
【原題】
BRAIN ON FIRE
【監督】
ジェラルド・バレット
【キャスト】
クロエ・グレース・モレッツ、トーマス・マン、キャリー=アン・モス、リチャード・アーミティッジ、タイラー・ペリー、ジェニー・スレイト
【作品概要】
2.主演を務めたクロエ・グレース・モレッツ
本作のスザンナ・キャハラン役を務めたクロエ・グレース・モレッツ。
彼女は1997年にアメリカのジョージア州アトランタ生まれます。
子役モデルとして活動をスタートさせ、映画とテレビドラマに数多く出演。
2010年に公開されたマーク・ウェブ監督の映画『(500)日のサマー』を経て、同年にマシュー・ヴォーン監督の『キック・アス』のヒットガール役で一躍大ブレイクを遂げ、その名を世界的なものにします。
その後もクロエの魅力を全開にした作品は続き、2008年のスウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』のリメイク版の『モールス』(2011)。
参考映像:『モールス』(2011)
マーティン・スコセッシ監督初の3D映画『ヒューゴの不思議な発明』(2010)。ティム・バートン監督&ジョニー・デップ主演の『ダーク・シャドウ』(2012)。
ホラー映画の名作『キャリー』のキンバリー・ピアース監督のリメイク版(2013)など、次々と話題作に出演し。メジャーやインディペンデント問わず、ハリウッドの若手女優としての地位を確立しています。
3.演出はジェラルド・バレット監督
参考映像:
ジェラルド監督が注目された『Glassland』(2015)
本作『彼女が目覚めるその日まで』の演出を担当したのは、ジェラルド・バレット監督。
1987年7月5日にアイルランドに生まれます。
初監督作品『Pilgrim Hill』は、第24回ゴールウェイ国際映画祭で、見ごとなデビューを飾った新人監督として話題にあがりました。
同作で第10回IFTA映画&ドラマアワードにてライジングスター賞を受賞、第39回テルライド映画祭でワールド・プレミアを迎えました。
ジャック・レイナー主演の監督2作目『Glassland』は、2015年の第12回ゴールウェイ映画祭で6部門ノミネートに輝き、サンダンス映画祭でレイナーに特別審査員賞受賞をもたらします。
この作品『Glassland』を観たシャーリーズ・セロン率いるプロデューサー陣の目に留まり、本作『彼女が目覚めるその日まで』の監督に抜擢されました。
女優シャーリーズ・セロンが同業の若手であるクロエ・グレース・モレッツをヒロインした映画をジェラルド監督に託した才能に注目しましょう。
4.プロデューサーのシャーリーズ・セロン
参考映像:製作・主演を務めた『アトミック・ブロンド』(2017)
シャーリーズ・セロンは1975年に南アフリカ共和国で生まれます。
2003年に公開されたパティ・ジェンキンス監督の映画『モンスター』にて、第76回アカデミー主演女優賞、第54回ベルリン国際映画祭銀熊賞、第61回ゴールデングローブ賞主演女優賞などを獲得した演技派の女優です。
近年は2015年に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の女戦士フュリオサ役が大きな話題となりました。
また、プロデューサーとしてもキャリアを重ねており、主演作『モンスター』にはじまり、『ダーク・プレイス』(2015)、『アトミック・ブロンド』(2017)などで製作を兼務しています。
さらにはNetflixのドラマ『ガールボス』(2017)では製作総指揮として名を連ねていて、自身の映画制作会社デンヴァー・アンド・デリラの代表を務めています。
後輩女優のクロエ・グレース・モレッツを育成する手腕はいかなるものか、関心の高い見どころですね。
5.映画『彼女が目覚めるその日まで』のあらすじ
21歳のスザンナ・キャハランの毎日は、希望と喜びに満ちていました。
憧れのニューヨーク・ポスト紙で新米の駆け出しですが、記者として働きながらいつか新聞の1面を飾る記事を飾ることに夢を抱いています。
また、プライベートでも、プロのミュージシャンを目指すスティーヴンと付き合いはじめ、会うたびに互いの想いを温めています。
そんななか父親トム・キャハランと母親ローナ・ナックが、誕生日パーティを開いてくれました。
2人は離婚していましたが、娘スザンナを通して良好な関係を築いていました。
場の中心にいたスザンナは、それぞれのパートナーとスティーヴンに囲まれて、ケーキのキャンドルを吹き消そうとした際に、スザンナは初めて体調の異変を感じます。
近くに居るはずの皆の声が遠のき、得体の知れない目眩を覚えました。
その後、スザンナは職場であるニューヨーク・ポスト紙のデスクのリチャードから、スキャンダルを抱えた上院議員のインタビューという大きな記事のインタビューを任されます。
スザンナの才能を認める先輩記者のマーゴからの後押しもあっての大抜擢の役目でした。
しかし、スザンナの体調は日に日に悪化していきます。
目眩の酷さに視界が揺れ、会話も聞き取れず、夜も不眠に悩まされてしまいます。
そのようなことが続くなかで、記事の締め切りを破るだけでなく、綴りや文法まで単純なミスが多々起きてしまいます。
やがてスザンナは、手足が麻痺するようになり、病院で診察を受けるが、どの医師の診断も検査結果はすべて異常なしというものでした…。
6.原作者のスザンナ・キャラハン
映画『彼女が目覚めるその日まで』の劇中で、女優クロエ・グレース・モレッツが演じたスザンナ。
この作品が実話であることから、原作者は実際のスザンナ・キャラハンとなります。
スザンナは1985年にアメリカで生まれます。
高校3年の時にニューヨーク・ポスト紙のインターンシップで働き、ワシントン大学卒業後、同紙に入社。雑用係を経て報道記者になりました。
そこでスザンナはスキャンダルから犯罪まで幅広い分野をカバーした記事を執筆します。
2009年の24歳の時に原因不明の神経疾患に侵されてしまいます。しかしそれから7か月後には復帰を果たし、その闘病記『記憶から抜け落ちた謎と錯乱の一カ月』の連載を書きはじめます。
それが話題となり、シルリアン優秀賞を受賞。この記事を基に本書を執筆するとベストセラーになりました。
現在はニュージャージー在住、ポスト紙で主に書籍関連の記事を担当する傍ら、抗NMDA受容体自己免疫性脳炎について理解を広める活動を行っています。
本作『彼女が目覚めるその日まで』では、スザンナ自身も脚本作りや、キャストの役作りに協力したほか、共同プロデューサーとして全面協力も勤め上げました。
3.映画『彼女が目覚めるその日まで』の感想と評価
89分間クロエの演技を堪能する作品
プロデューサーの一角を演技派女優のシャーリーズ・セロンを務めたことや、若手演技派として知られるクロエ・グレース・モレッツが実在の主人公スザンナ・キャラハンを演じたことで、本作は何よりもクロエの演技に注目する作品となっています。
女優クロエ・グレース・モレッツについては、プロフィール紹介で多くの映画を紹介しましたが、そこに記載していない作品で言えば、2014年の公開作で、第67回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された『アクトレス〜女たちの舞台〜』があります。
演出はオリヴィエ・アサヤス監督によるもので、共演したのは名女優ジュリエット・ビノシュが主人公マリア・エンダース役という大女優を務め、、その地位を揺るがす若手女優ジョアン・エリス役をクロエ・グレース・モレッツでが演じていました。
しかし、実際に映画が完成すると同じアメリカ人女優のクリステン・スチュワートが演じた、マリアの専属マネージャーのヴァレンティン役は、あまりに見事で圧巻の存在感。3人の女優による演技合戦は、クリスティンに軍配が上がりました。
それでも劇中でクロエは、自身にしかできない役所を魅力いっぱいに演じていました。
しかし、本作『彼女が目覚めるその日まで』では、クロエの演技力と存在感にピックアップした作品といえ、上映時間89分は彼女を見守るためにあると言ってもよい作品です。
クロエの熱演した演技力に注目です。
映画を観る者も難病の当事者に寄り添う怖さ
この作品での主人公スザンナは、突然に病魔に侵されていきます。
女優クロエ・グレース・モレッツの可愛らしい笑顔に見入ってるうちに、何だか分からない状況に観客であるあなたを引きずり込んでいきます。
スザンナの両親や大切な恋人スティーヴンも理解を示せないうちに、彼女は人格を奪われてしまい、正気と狂気の間を彷徨う病魔にかかってしまいます。
その発病していく孤独感は、ニューヨークの地下鉄という舞台を巧みにビジュアル効果として使い、何か得体の知れない闇に落とされるかのごとくです。
その見事なクロエの演技力を活かした編集マンの力量が合間って見せる映像文法は、巧み病魔の進行と時間経過が興味深い描写になっています。
その後、スザンナの病気の症状は、感情がコントロールできなったり、極端に幸福と絶望を行き来します。
また、周囲の人の人間性を崩壊するような毒舌を吐き捨て、やがて激しい痙攣とともに昏睡に陥り、そのまま死に至ることもあるような描写が続きます。
本作を観ているとすぐに思い出す映画は、1973年に公開されたウィリアム・フリードキン監督のオカルト映画の傑作『エクソシスト』です。
あまりに有名なリンダ・ブレアが演じた少女リーガン・マクニール役とダブって見えてしまう点は、おそらくは意識してスザンナは悪霊に取り憑かれたのかと脳裏を過ぎるように見せたものでしょう。
そこが観客としてクロエ演じるスザンナに観客が寄り添った場合、実話だと知っている観客は原因が分からない病気なだけにどうなること心配と恐怖心に支配されていきます。
それもそのはずです、『エクソシスト』で悪魔に憑依された少女リーガンにはモデルになった実在の少年がいます。
実はその少年はスザンナの侵された病気の典型的な症例だったと、今では指摘されているようです。
ちなみにその恐ろしさを観客のあなたに共有させるのは、クロエ・グレース・モレッツの熱演があってのものですよ。
まとめ
本作『彼女が目覚めるその日まで』で描かれた病気は、2007年になって、ようやく急性脳炎の1つと位置付けられたものです。
正式名は「抗NMDA受容体脳炎」という病名が与えられるまでは、短絡的に精神的な疾患やエクソシストのような悪魔憑きと決めつけあられたりしながら、正しい治療方法を受けることすら難しかったものです。
それを2009年にこの病気にかかったニューヨーク・ポスト紙の記者であるスザンナ・キャハランが、壮絶な闘病生活や医療記録や家族の日誌などから構成したノンフィクションを自身で発表したことで、広く認識されるまでになります。
そのスザンナと必死なまでの家族の闘いに、強い感銘を受けたオスカー女優のシャーリーズ・セロンがプロデュースに乗り出し、若手女優クロエ・グレース・モレッツを主演に実話の映画化に挑みました。
当初スザンナのキャスティングはダコタ・ファ二ングに決まっていた経緯もありますが、スケジュールの都合で降板。主演キャストに当時18歳の若手演技派のクロエ・グレース・モレッツを抜擢します。
脚本に興味を持ったクロエは、スザンナと自身はと共通点が多いと認めながら、「スザンナは野心家で、自分が何を求めているのか、ちゃんとわかっている女性。抗NMDA受容体脳炎にかかる前の彼女は、私のよう」と彼女は述べています。
また、スザンナの役作りに挑むにあたってクロエは次のように語っています。
「まず、スザンナと FaceTimeで2時間話をした。癖や話し方や、日常生活 について知りたかったから。病気になる前と後の彼女をどう演じ分ければいい のか手がかりが必要だった。病院での様子や入院前に歯車が狂い始める様子、初期の症状や実際に覚えているのはどれくらいで、記憶から抜け落ちているのはどれくらいか。スザンナとの会話だけで、ノートの12ページ分が埋まった」
このような演技プランの組み立てにあたったクロエ・グレース・モレッツ。
本作『彼女が目覚めるその日まで』を、あなたが見れば熱演ぶりに、当時は原因不明の病気の進行に、きっと心をかき乱されるはずです。
21世紀になるまで正体不明な病気の実話ということで、「抗NMDA受容体脳炎」の認知にもこの作品は大きく貢献しています。
それはまた、若手若手女優クロエ・グレース・モレッツの演技力の認知にも他ならない作品と言えます。