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【ネタバレ】違国日記(実写映画)あらすじ感想と結末の評価解説。新垣結衣×早瀬憩で描く“分からない”だらけの人生の生き方

  • Writer :
  • 星野しげみ

35歳の叔母と15歳の姪の共同生活の行く末は?

人見知りな女性小説家と、人懐っこい姪の奇妙な共同生活を描いた『違国日記』。ヤマシタトモコの同名漫画を、瀬田なつき監督が映画化しました。

女性小説家の高代槙生は、事故で亡くなった姉夫婦が育てていた15歳の一人娘・朝と共同生活をすることになりました。

人見知りでぶっきらぼうな槙生と、明るく人懐っこい朝。対照的な性格の二人はそれまで疎遠だったこともあり、お互いにどう接していいのかわからず、ぎこちない態度をとります。

ハラハラさせる二人の距離は、いつ縮まるのでしょうか。映画『違国日記』をネタバレ有りでご紹介します。

映画『違国日記』の作品情報


(C)2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会

【公開】
2024年(日本映画)

【原作】
ヤマシタトモコ

【監督・脚本・編集】
瀬田なつき

【キャスト】
新垣結衣、早瀬憩、夏帆、小宮山莉渚、中村優子、伊礼姫奈、滝澤エリカ、染谷将太、銀粉蝶、瀬戸康史

【作品概要】
人見知りな女性小説家と、人懐っこい姪の奇妙な共同生活を描いたヒューマンドラマ。コミック誌『FEEL YOUNG』で2017年から2023年まで連載されたヤマシタトモコの同名漫画を映画化した作品です。

女性小説家・高代槙生を『正欲』(2023)で新境地を開いた新垣結衣が、姪の田汲朝をオーディションで抜てきされた新人・早瀬憩が務めました。また槙生の友人・醍醐奈々役を夏帆、槙生の元恋人・笠町信吾役を瀬戸康史、朝の親友・楢えみり役を小宮山莉渚がそれぞれ演じています。

監督・脚本は『PARKS パークス』(2017)『ジオラマボーイ・パノラマガール』(2020)の瀬田なつき。

映画『違国日記』のあらすじとネタバレ


(C)2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会

中学3年生の田汲朝(早瀬憩)は、卒業式を間近に控えたある日、両親を交通事故で亡くしました。

事故のショックから抜け出せないまま参列した両親の葬儀の場で「涙も出さない、強い子だ」「可哀想に、これからどうするんだろう」「親戚中をたらい回しになるのでは?」など、親戚たちの心ない言葉が朝に突き刺さります。

その時、参列していた朝の叔母・高代槙生(新垣結衣)が公然と言い放ちました。

「あなたは愛せるかどうかはわからない。でも私は決してあなたをたらい回しにしない」

小説家の槙生は朝の母・美里(中村優子)の妹でしたが、美里と折り合いが悪く、長年疎遠状態でした。ですが、朝に対する親戚の心ない言葉に腹を立て、彼女を自宅へ連れて帰りました。

次の日は朝の卒業式でした。いつも通りの笑顔で学校へ行った朝ですが、親友の楢えみり(小宮山莉渚)が朝の両親が交通事故で亡くなったことを先生に言い、先生がクラスの皆に言ったことを知りました。

先生は「いつも通りに過ごしてあげてね」と生徒に念をおしたつもりでしたが、朝は「そんなことは言わず、皆は本当に知らないままの方が“いつも通り”だったのに」と怒ります。朝はそのまま学校を飛び出し、とうとう卒業式には出席しませんでした。

えみりから心配するLINEが届きますが、朝は開くことができません。町を彷徨ってやっと槙生の家に戻ると、帰りが遅いのを心配した槙生が玄関先で待っていました。

卒業式に出なかったことを明かす朝。なぜか理由がわからないままですが、槙生は黙って朝を家に入れ、ひっきりなしに届くえみりからのLINEに返事だけはするように言いました。

人見知りで片づけが苦手な槙生は、専業主婦で綺麗好きな母・美里と暮らしていた朝にとって会ったことのないタイプの大人であり、この一件以来、槙生はますます“変な人”になりました。

また高校生になったばかりの朝と、一人暮らしが長く昼夜なく執筆をしてきた槙生とでは、生活時間もかみ合いません。ですが、深夜まで黙々と机に向かう槙生の真剣な横顔を見て、朝はなぜか心の安らぎを覚えます。

後日、両親の遺品整理のために槙生は朝を連れて朝の自宅へ行きました。黙々と遺品を整理する二人ですが、ふとしたことで口論となってしまいます。

「私はお母さんのことを好きになってほしい」と言う朝に、槙生は「あの人への気持ちは、あの人が死んでも決して変わらない。大嫌いなの。これは誰にも変えられない」と答えます。

それでも、もしかしたら変わるかもと食い下がる朝の純粋さに、槙生の心の中で何かが動き出します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『違国日記』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『違国日記』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会

交友関係の狭い槙生ですが、学生時代からの親友・醍醐奈々(夏帆)とはツーカーの仲でした。ある日、醍醐が槙生の家に遊びにやってきます。

明るく気さくな醍醐に朝もすぐ心を許し、手作り餃子で女子会パーティーが始まりました。朝にとっても槙生にとっても、お互いの意外な一面を知るよい機会となりました。

また、槙生の元彼・笠町(瀬戸康史)の存在も知ることになります。かつて恋人同士だったという二人の間には、今も親密な空気が流れており、恋愛経験のない朝は、大人の関係に興味津々です。

ある日、二人の様子を心配した槙生の母・京子(銀粉蝶)が訪ねて来ました。「大丈夫?」と気遣う京子に朝は「槙生は大丈夫だと思う」と言い、自分を守ってくれているような朝に槙生は戸惑います。

そんな二人の様子を見て安心した京子。また彼女は帰り際、遺品として手元に届いた美里の日記を「朝ちゃんに渡そうかと思ったけど、あんたに渡すよ」と、こっそり槙生に渡しました。

日記を読もうとした槙生ですが、やはり読めません。子どもの頃、文章を書いてばかりいる槙生のことを散々ばかにした美里のことを、槙生は今も許せないでいるのです。

そしてこの気持ちは、美里の子どもである朝には、決して分かってもらえないものだと思っています。

一方の朝は、新しく始まった高校生活を楽しんでいました。高校で出会った友人たちとクラブ活動に励む中、中学からの親友・えみりは、何でも話し合える相手だと思っています。

ある日、えみりが朝を体育館に呼び出し「男子には興味がないから彼氏はいない、自分は女性と交際している」と告げました。

自分の知らない世界を持つえみりに驚く朝。それからも、さまざまな友人たちと出会って、朝は確実に成長していきます。そんな朝を、槙生は眩しい想いで見守っています。

槙生の家の表札もいつの間にか、「高代」から「高代/田汲」に変わっていました。

そんなある日、槙生が渡せずにいた美里の日記の存在を、朝に知られてしまいます。取り乱した朝の心に、それまで押し殺してきた感情があふれ出し、彼女は泣き続けました。

そんな朝の肩を、槙生は黙って抱き寄せました。

映画『違国日記』の感想と評価


(C)2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会

本作は、両親を交通事故で亡くした15歳の姪と、彼女と暮らすことになった35歳・独身の叔母の二人をめぐる物語。

それまでわけあって、ほとんど会ったことのない二人です。おまけに槙生は、朝の母親である姉・美里のことが大嫌いでした。

姉は大嫌いだからその子どもは愛せないかもしれないけど、姪っ子を親戚のたらい回しになどしないと、槙生は宣言します。

作家である槙生は昼夜おかまいなしに仕事をし、部屋の片づけは大の苦手。“大人らしくない大人”の彼女の姿に戸惑う朝ですが、次第に槙生の不器用な誠実さに惹かれていきます。

15歳の朝が知っている“大人”とは違ったタイプの槙生を通じて知る大人の世界と、35歳の槙生が朝を通して垣間見るリアルな高校生の姿が、スローペースのゆるりとした日々の生活の中で交錯します。

そんな毎日の中でも、違いがある個人の考えや気持ちは、皆が分かり合えるものではありません。ですが、「できるだけでいいから、分かろうとする」という気持ちそのものが大切と思えます。

きりりとした表情で冷たく突き放すような言い方をするも、それは誠実であろうとするがゆえの裏返しである槙生役は、実力派の新垣結衣。15歳の朝役をオーディションを勝ちとった早瀬憩は、ルーキーらしからぬ迫力ある演技で、複雑な思いを抱く朝を表情豊かに演じ切りました。

気持ちの上で距離感はあっても、近寄ろうとすることはできます。感情をぶつけあっても、いつかは分かることもあるでしょう。

分かり合えないだろうけれども、お互いを理解しようと努力する槙生と朝。難しい関係を爽やかに演じた新垣結衣と早瀬憩に拍手喝采です。

まとめ


(C)2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会

『違国日記』は、2017年から2023年まで連載されたヤマシタトモコの同名漫画を映画化した作品です。

35歳の・独身の叔母と、両親を失った15歳の姪の共同生活。育った環境も性格もまるで違う二人の女性たちの間柄は、親子でもなく、友人でもありません。なんともちぐはぐで奇妙な同居生活ですが、次第に心が通い合ってゆく二人にホッとしました。

映画では、人間同士は分かり合えなくても、お互いに分かり合おうとすることが大切ということを諭しています。

対立しながらも分かり合おうとする槙生と朝の距離感が変化することで、人生や人間関係、心の葛藤について深く考えさせられる作品でした。



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