Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2021/04/25
Update

映画『海辺の家族たち』あらすじ感想と評価解説レビュー。3人兄妹の絆を描いたゲディギャン監督の集大成的秀作

  • Writer :
  • 松平光冬

父との最期の日々を過ごすために集った3人の子どもたちを描くヒューマンドラマ

〈フランスのケン・ローチ〉と称えられる名匠ロベール・ゲディギャン監督の最新作『海辺の家族たち』が、2021年5月14日(金)より、キノシネマほかで全国順次公開されます。

マルセイユ近郊の海辺の家に、父との最期の日々を過ごすために集まった3人の子どもたちが、それぞれ胸に秘めた過去と向き合う様を、丹念にドラマ化しました。

映画『海辺の家族たち』の作品情報

(C)AGAT FILMS & CIE – France 3 CINEMA – 2016

【日本公開】
2021年(フランス映画)

【原題】
La Villa(英題:The House by the Sea)

【監督・脚本】
ロベール・ゲディギャン

【撮影】
ピエール・ミロン

【編集】
ベルナール・サシャ

【キャスト】
アリアンヌ・アスカリッド、ジャン=ピエール・ダルッサン、ジェラール・メイラン、ジャック・ブーデ、アナイス・ドゥムースティエ、ロバンソン・ステヴナン

【作品概要】
『マルセイユの恋』(1996)、『幼なじみ』(1998)、『キリマンジャロの雪』(2011)などが高く評価され、ベルリン国際映画祭や、ヴェネチア国際映画祭で審査員も務めたカンヌ国際映画祭の常連でもある名匠ロベール・ゲディギャン監督最新作。

自身が生まれ育ったマルセイユを舞台に、父との最期の日々を過ごすために集まった3人の子供たちと、漂着した難民の子供たちとの出会いを描き、「ゲディギャン監督の映画人生40年の集大成の傑作」として、さらに名声を高めました。

主なキャストは、ゲディギャン監督作の常連にして実生活での妻でもあるアリアンヌ・アスカリッドに、やはりゲディギャン作品の常連であるジャン=ピエール・ダルッサンとジェラール・メイラン。

そのほか、『ニキータ』(1990)のジャック・ブーデ、『タイム・オブ・ウルフ』(2003)のアナイス・ドゥムースティエに、『デルフィーヌの場合』(1998)のロバンソン・ステヴナンといった面々が脇を固めます。

映画『海辺の家族たち』のあらすじ


(C)AGAT FILMS & CIE – France 3 CINEMA – 2016

パリに暮らす人気女優のアンジェルは、20年ぶりにマルセイユ近郊の故郷へと帰って来ます。

彼女を迎えたのは、家業である小さなレストランを継いだ上の兄のアルマンと、最近リストラされて若い婚約者のヴェランジェールに捨てられそうな下の兄のジョゼフ。

3人が集まったのは、父が突然の病に倒れ、意識はあるもののコミュニケーションが取れなくなってしまったから。

家族の思い出の詰まった海辺の家をどうするのか、話し合うべきことはたくさんあったはずなのに、それぞれが胸に秘めた過去が、ひとつひとつ露わになっていきます。

昔なじみの隣人も巻き込み、家族の絆が崩れそうになったその時、兄妹たちにある事態が…。

映画『海辺の家族たち』の感想と評価


左からロベール・ゲディギャン監督、アリアンヌ・アスカリッド、ジャン=ピエール・ダルッサン
(C)AGAT FILMS & CIE – France 3 CINEMA – 2016

〈フランスのケン・ローチ〉と称えられるロベール・ゲディギャン監督は、出世作ともいえる『マルセイユの恋』や『幼なじみ』、『キリマンジャロの雪』などで、自身が生まれ育ったマルセイユ近郊を舞台とした作品を手がけてきました。

以前、「細い路地のひとつひとつまで知り尽くした町の方がやりやすいから」と、マルセイユで撮る理由を語っていたゲディギャンですが、本作『海辺の家族たち』では、マルセイユ近くのメジャン入江をメイン舞台に選んでいます。

「山腹に建つ、まるで外観しかないように見える色とりどりの小さな家々。それらを見渡す高架橋があり、そこを走る列車はまるで子どものおもちゃのようだ。海に向かって開けた光景が、水平線を背景…彩色されたキャンバスのように変えてしまう。冬の光の中、誰もいなくなったときには特にそう見える。メランコリックで美しい、使われていない舞台セットになるのだ」

ゲディギャンにとって「劇場のようだ」というこの入江で、とある家族と隣人や恋人も交えたドラマが綴られます。

(C)AGAT FILMS & CIE – France 3 CINEMA – 2016

主要人物となるアンジェル、アルマン、ジョゼフの3人兄妹は、突然の病に倒れた父の身を案じ、久々に顔を合わせるも、彼らは忌まわしき過去の出来事と、それぞれ抱える現在の問題が重なり、素直に再会を喜ぶことが出来ずにいます。

そんな寂れてしまった入江の町に、3人の難民の子どもたちが漂着します。

ゲディギャン作品においては、マルセイユという町も主役

マルセイユは南フランス最大の港町ということもあり、地中海を通って各地の難民が集まってきます。

民族間の紛争から逃れるため、命がけで海を渡ってくる人々の中には、幼き子どもも含まれており、彼らは逃亡時に親と離れてしまったり、または大人からの迫害を避けて自ら国を離れるなど、理由もさまざまです。

難民・移民事情が絡むのもゲディギャン作品の特徴で、これは、彼の父親がアルメニア出身であることが関係しているでしょう。

旧ソ連から独立したアルメニアとアゼルバイジャンの2国は、カスピ海と黒海に挟まれたカフカス地方の南部にある地区ナゴルノ・カラバフの独立をめぐり、1980年代末期から長い紛争が続きました。

昨年11月10日に4回目の停戦合意となるも、累計で100万人以上の難民を生んだとされるこの紛争がもたらした人々の分断を、ゲディギャンは『Le voyage en Arménie(アルメニアへの旅)』(2006、日本未公開)や『Une histoire de fou(狂気の歴史)』(2015、日本未公開)で、父の故郷アルメニアを絡めて映像化しています。

人口の3割をイスラム系移民が占め、難民にとっては安住の地となりつつあるマルセイユの今を、ゲディギャンは映します。

まとめ


(C)AGAT FILMS & CIE – France 3 CINEMA – 2016

辛い過去と厳しい現在を抱える3人の兄妹は、難民の子どもたちとの出会いにより、思わぬ化学反応を生みます。

『マルセイユの恋』、『キリマンジャロの雪』などで、社会的に弱い立場の人々の人生を温かな眼差しで見つめ続けてきたゲディギャン。

本作が、彼の集大成と銘打たれている理由が分かることでしょう。

市井の人々の絆が生む未来の道しるべを、ご自身の目で確かめてください。

映画『海辺の家族たち』は、2021年5月14日(金)より、キノシネマほかで全国順次公開

関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『ジョーンの秘密』あらすじと感想考察。原作は実話でスパイ容疑で逮捕された80代の老女

映画『ジョーンの秘密』は2020年8月7日(金)TOHOシネマズシャンテほかで全国順次公開。 映画『ジョーンの秘密』は、イギリス史上、最も意外なスパイの実話から生まれた英国の作家ジェニー・ルーニーのベ …

ヒューマンドラマ映画

映画『ボリショイ・バレエ 2人のスワン』あらすじと感想。上映館情報も

映画『ボリショイ・バレエ 2人のスワン』は、7月7日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開! ロシア国立ボリショイ・バレエ・アカデミーの頂点を目指した少女たちの挫折と栄光。その夢見る …

ヒューマンドラマ映画

映画『晩春』ネタバレ解説と考察評価。結末までのあらすじで解く、娘の結婚に“複雑な父の思い”

「なるんだよ、幸せに」小津作品の中でも特に傑作と名高い作品『晩春』を観る 映画『晩春』は、小津安二郎の1949年の作品で、小津作品の中でも『東京物語』(1953)などと並ぶ最高峰の一つとして高く評価さ …

ヒューマンドラマ映画

映画『ひとよ』ネタバレ感想と評価。結末のカーチェイスは原作にはない家族のあり方を見事に表現

桑原裕子の舞台『ひとよ』を映画化。家族の絆の尊さとは何か。 白石和彌監督による家族のあり方を描いたヒューマンドラマ、映画『ひとよ』。 ノンフィクションベストセラーを原作とした映画『凶悪』(2013)で …

ヒューマンドラマ映画

映画『きらきら眼鏡』ネタバレ感想レビュー。考え方ひとつで日常を輝かせることが出来るアイテムとは

見たものすべてを輝かせる「きらきら眼鏡」、あなた心の眼鏡は曇っていませんか? 『津軽百年食堂』『夏美のホタル』など多数の映画化が続く人気作家の森沢明夫が自ら犬童一利監督に熱烈オファーをし映画化した作品 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学