Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2020/08/12
Update

映画『ホテルニュームーン』感想と考察評価。イランと日本を舞台に母娘の絆で描くヒューマンサスペンス

  • Writer :
  • 山田あゆみ

映画『ホテルニュームーン』は2020年9月18日(金)アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー。

映画『ホテルニュームーン』は、綾野剛出演映画『孤独な惑星』の筒井武文監督によるヒューマンサスペンス映画。イランと日本を舞台に秘密を抱えた母娘の謎と絆を描いた作品です。

撮影監督は「アウトレイジ」シリーズほか北野武作品で常連の柳島克己。

出演者は日本の実力派俳優である永瀬正敏、小林綾子。イランからは国民的な女優マーナズ・アフシャル、気鋭の新人女優ラレ・マルズバンらが名を連ねています。

映画『ホテルニュームーン』の作品情報


(C)Small Talk Inc.

【日本公開】
2020年(日本・イラン合作映画)

【原題】
Mehmankhane Mahe No

【英題】
Hotel New Moon

【監督】
筒井武文

【脚本】
ナグメ・サミニ

【キャスト】
ラレ・マルズバン、マーナズ・アフシャル、永瀬正敏、アリ・シャドマン、小林綾子、ナシム・アダビ、マルヤム・ブーバニ

【作品概要】
日本人監督の筒井武文が、イランの風景やそこに住む人々の魅力を作品にしたいという思いから製作された映画です。

筒井監督は、長編一作目『レディメイド』(1982)を手掛けたのち、フリーの助監督、フィルム編集者を経て独立。篠崎誠監督『おかえり』(1996)で製作、編集を。塩田明彦監督『どこまでもいこう』(1999)では編集を担当しています。イメージフォーラム、映画美学校、東京藝術大学大学院映像研究科などで教鞭をとるほか、映画批評、映画批評、海外映画人へのインタビューなども多数手がけているマルチな映画人のひとりです。

主な監督作は『オーバードライヴ』(2004)や、綾野剛出演作の映画『孤独な惑星』(2010)、『自由なファンシィ』(2015)、『映像の発見=松本俊夫の時代』5部作(2015)があります。

イランのリアルを映し出すために、脚本家に起用されたのはイラン出身の人気脚本家ナグメ・サミニ。10本以上の劇映画の脚本および20本以上の公演で劇作を手がけ、数々の賞を受賞しています。イランで視聴率90%超えのヒットドラマ『Shahrzad』の脚本も手掛けている人気脚本家です。

また、テヘラン大学で演劇の台本指導、そして東京藝術大学大学院映像研究科では脚本ワークショップを務めており、その指導力が決め手になり監督からのオファーがあったようです。

撮影監督を務めたのは柳島克己。「アウトレイジ」シリーズをはじめとする北野武作品や、深作欣二監督『バトルロワイアル』、アッバス・キアロスタミ監督『ライク・サムワン・イン・ラブ』などを手掛けるベテランカメラマンです。

映画『ホテルニュームーン』のあらすじ


(C)Small Talk Inc.

女子大生のモナ(ラレ・マルズマン)と母親のヌシン(マーナズ・アフシャル)は、イランのテヘランにふたりで暮らしていました。

モナの父親は昔、登山中に友人を助けようとして死んでしまったため、母娘は長い間ふたりきりでまるで友達のように仲良く支え合っていました。

しかし、門限が厳しく男性との交友関係に口出ししてくる厳しいヌシンに対して、モナは不満を持っていました。

彼氏と共にカナダへの留学試験に合格していたのですが、そのことをヌシンに打ち明けられずにいたのです。

ある夜、こそこそと出かけていくヌシンに気づいたモナはとっさに後を着けます。とあるホテルのロビーで日本人男性に会っていたヌシン。

幼少期のモナとヌシンがその男性と並んで映っていた写真を見つけたモナは、自分の出生の秘密や母親の過去について疑惑を持ち始めます。

映画『ホテルニュームーン』の感想と評価


(C)Small Talk Inc.

日本とイランの実力派役者のコラボレーション

母親のヌシン役を務めたマーナズ・アフシャルは、イランでは知らない人がいないほどの国民的大女優

1998年にテレビドラマ『Lost』で役者デビューのち、約50本の作品に出演しています。イラン映画祭(ファジル国際映画祭)で度々主演女優賞にノミネート、受賞している実力派女優です。

彼女のキャリアの中で、母親役は今回が初めてだったようで、引き受けることに対して葛藤があったそうです。

そんな不安は微塵も感じられないほど、自然かつ説得力のある演技で母ヌシン役を見事に演じ切っていました。

娘を想う母の一途な姿はもちろん、永瀬正敏との会話シーンでは日本語を披露し幅広い演技力を見せています。

娘のモナ役を演じたのはオーディションで監督の心を掴んだ気鋭の新人女優ラレ・マルズバン。

実は彼女のオーディション前日にモナ役は別の女優に決まっていたのですが、ラレの気品溢れる魅力と演技論に心奪われた監督が起用を決めたそうです。

彼女の若さと将来への期待ではじけそうな魅力や、憤りを爆発させるシーンの演技は鬼気迫るものがありました。

このふたりの掛け合いと自然なじゃれ合いが見事で、まるで友達のように仲の良い様子からふたりでどんな時も支え合ってきた母娘の過去が伝わってきます。

日本からは、ジム・ジャームッシュ監督『ミステリートレイン』(1989)『パターソン』(2016)、山田洋二監督『息子』(1991)、河瀨直美監督『あん』(2015)など数々の映画で活躍している俳優の永瀬正敏。

そして、イランでも大ヒットした日本ドラマ『おしん』(1983)で一躍脚光を浴びた小林綾子が、イラン側の希望があってキャスティングされました。

日本を誇るふたりの役者の演技が作品の重厚感をさらに引き立てています

イラン国内で上映されるための作品作り


(C)Small Talk Inc.

監督が意識したのは、イランの人が観たとき違和感をもつようなシーンを作らないということでした。

撮影の柳島克己以外ほぼイラン人スタッフでの現地撮影は、日本との違いが多く苦戦したこともあったようです。

イスラーム教が国教であるイランは女性の肌の露出は頭髪も含めて禁じられています。それは映画、写真撮影においても同様です。

室内、しかも就寝時ですらスカーフを巻いていなければならないという厳しい制約の中撮影されたとか。

ほかにも、男女の接触シーンは厳禁。そんな中でも、モナと彼氏の恋人らしいやりとりはナチュラルで微笑ましいものでした。

また、本作ではモスクやバザールなどイスラームをイメージする場所であえて撮影をしていません。

イランの若い撮影スタッフによる意向だったそうですが、かえってそのことでテヘランの普通の暮らしを垣間見ることができたと思います。

そこに住む人々がどう生きているのか、より身近に感じられる作品です。

まとめ


(C)Small Talk Inc.

テヘランと日本を舞台に、母の秘密が明かされるとき娘は愛に辿り着く。

母として、一人の女性として生きることの困難と、それでも貫いた愛を感じられる作品になっています。

『ホテルニュームーン』は2020年9月18日(金)アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開です。


関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『テスラ』ネタバレあらすじと評価感想。ラスト結末も【イーサンホークが移民の発明家が歩む生涯を演じる】

愛と人生に裏切られた天才発明家の半生を描いた伝記ドラマ マイケル・アルメレイダが脚本・監督を務めた、2020年製作のアメリカの伝記ドラマ映画『テスラ エジソンが恐れた天才』。 移民としてニューヨークに …

ヒューマンドラマ映画

映画『ホモ・サピエンスの涙』感想と考察評価。ロイ・アンダーソン監督がヴェネチア映画祭にて銀獅子賞を受賞した“人類の愛と希望”

映画『ホモ・サピエンスの涙』は2020年11月20日ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー ヴェネチア国際映画祭にて銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した映画『ホモ・サピエン …

ヒューマンドラマ映画

映画『リンドグレーン』感想とレビュー評価。母になることで世界一強い女の子は生まれた

映画『リンドグレーン』は2019年12月7日より岩波ホールを皮切りに全国順次公開。 2019年12月7日より岩波ホールを皮切りに全国順次公開される映画『リンドグレーン』。 「長くつ下のピッピ」「ロッタ …

ヒューマンドラマ映画

映画『ミナリ』ネタバレ考察と結末解説。ラストで韓国語MINARIの意味がユンヨジョン演じるおばあちゃんへの想いに繋がる

映画『ミナリ』は2021年3月19日(金)よりTOHOシネマズシャンテ他にて全国ロードショー。 韓国からアメリカへ移り住んだ一家を描いた映画『ミナリ』。 リー・アイザック・チョン監督自身の家族のエピソ …

ヒューマンドラマ映画

映画『ロスト・ドーター』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。オリビア・コールマンが演じる母親の葛藤と喪失|Netflixおすすめ映画80

映画『ロスト・ドーター』は2021年ベネチア国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞した作品。 『ロスト・ドーター』は、エレナ・フェッランテの小説を基に、『クレイジーハート』や『ダークナイト』などに出演している …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学