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Entry 2021/05/01
Update

映画『幸せの答え合わせ』あらすじ感想と評価解説レビュー。家族の別離から導き出される希望を描く

  • Writer :
  • 松平光冬

熟年離婚の危機を迎えた夫婦とその息子がたどり着く希望とは

映画『幸せの答え合わせ』が、2021年6月4日(金)よりキノシネマほかで全国順次公開予定

長年連れ添いながらも、突如として離婚の危機を迎えた熟年夫婦を描いたヒューマンドラマで、自身の両親との実体験をもとに、ウィリアム・ニコルソンが脚本を執筆し、自ら監督も手がけた作品です。

アネット・ベニング、ビル・ナイというゴールデングローブ賞に輝く俳優たち、そしてジョシュ・オコナーといった実力派が紡ぎだす、ほろ苦くあたたかな再起の物語をご紹介します。

映画『幸せの答え合わせ』の作品情報

(C)Immersiverse Limited 2018

【日本公開】
2021年(イギリス映画)

【原題】
Hope Gap

【監督・脚本】
ウィリアム・ニコルソン

【製作総指揮】
ヒューゴ・ヘッペル、ニコラス・D・サンプソン、クリストス・マイケルズ、ギャビン・プールマン、アレックス・テイト、ノーマン・メリー、ピーター・ハンプデン

【撮影】
アンナ・バルデス・ハンクス

【編集】
ピア・ディ・キアウラ

【キャスト】
アネット・ベニング、ビル・ナイ、ジョシュ・オコナー、アイーシャ・ハート、ライアン・マッケン、サリー・ロジャース、スティーブン・ペイシー、ニコラス・バーンズ

【作品概要】
長年連れ添うも、突如として離婚の危機を迎えた熟年夫婦の姿を描くヒューマンドラマ。

妻グレース役をアカデミー賞およびゴールデングローブ賞で多数のノミネート歴を誇るアネット・ベニング、夫エドワード役をゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞などの賞に輝くビル・ナイがそれぞれ演じます。

グレースとエドワードの一人息子ジェイミー役には、テレビドラマシリーズ「ザ・クラウン」(2019~20)でチャールズ皇太子役を演じ、ゴールデングローブ賞を獲得したジョシュ・オコナーが務めます。

グラディエーター』(2000)でアカデミー賞脚本賞にノミネートされたウィリアム・ニコルソンが、自身の両親との実体験をもとに脚本を執筆し、自ら監督も手がけました。

映画『幸せの答え合わせ』のあらすじ

(C)Immersiverse Limited 2018

イギリス南部の海辺の町シーフォード。近くの崖下には「ホープ・ギャップ」と呼ばれる、美しい景色が散策する者たちの心を癒す入江が広がっています。

この町で暮らすグレースとエドワードは、もうすぐ結婚29年目を迎えようとしていました。

仕事を引退し、詩集の作成に時間を費やしていたグレースは、離れて暮らす一人息子ジェイミーが久しぶりに帰郷した週末のある日に、夫エドワードから「家を出て行く」と別れを告げられます。

その理由を聞いて耳を疑うグレースとジェイミー。

突然訪れた絶望と怒りに支配されるグレースと、彼女を支えるジェイミーも、自身の生き方や人間関係を見つめ直していくこととなります。

映画『幸せの答え合わせ』の感想と評価

(C)Immersiverse Limited 2018

長年連れ添ってきて、傍目には円満な夫婦関係に見えていても、実はパートナーへの不満を貯め込んでいて、それがとあるきっかけで爆発し、離別してしまう。

高齢化社会となった日本においても、こうした“熟年離婚”への関心は高いようで、『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』(2011)、『家族はつらいよ』(2016)、『お終活 熟春!人生、百年時代の過ごし方』(2021)など、熟年夫婦のすれ違いをテーマにした映画が作られています。

本作『幸せの答え合わせ』もまた、家族の崩壊を迎えてしまう熟年夫婦を描いています。

(C)Immersiverse Limited 2018

イギリスの小さな町シーフォードで暮らすグレースは、ある日、約30年連れ添ってきた夫エドワードから別れを告げられます。

突如として離婚を突き付けられた者は、その理由に心当たりがなく困惑するというケースをよく耳にしますが、喜怒哀楽をあまり表に出さないエドワードに苛立ちを覚える関係ながら、根底では彼を愛していたグレースにとっても、まさに青天の霹靂。

その驚きは怒りに変わり、帰省していた息子ジェイミーにも当たり散らすほど、荒れ狂います。

監督と脚本を手がけたウィリアム・ニコルソンは、本作を「『逢びき』(1945)と『バージニア・ウルフなんかこわくない』(1967)の中間に位置する映画」としています。

前者はお互いに家庭を持ちながら惹かれ合っていく男女のメロドラマ、後者は2組の冷め切った夫婦を赤裸々に綴る対話劇ですが、本作のグレースとエドワードもまた、愛憎入り混じった関係が描かれます。

『バージニア・ウルフなんかこわくない』(1967)

アカデミー賞ノミネートの脚本家が自身の境遇をドラマ化

(C)Immersiverse Limited 2018

そもそも本作は、ニコルソンの実生活に基づいています。

両親が30年の結婚生活の末に離婚したことで、「家族」に対する見方が大きく変わったというニコルソンは、この個人的な体験をベースに脚本を執筆。

進めていくうちに、キーパーソンとしてグレースとエドワードの一人息子ジェイミーを据えました。

ジェイミーは、言うまでもなくニコルソン自身の投影です。

いくら分別のついた成人になっても、子どもにとって親は将来の指標となる。しかし、その親が熟年期で別れてしまったことで、「今まで自分を育ててくれた年月は偽りのものだったのか」と悩み、進むべき指標をも失います。

ニコルソンは語ります。「この映画は人間関係の中で、人々が背負う負担について、特に親が子供たちに知らず知らずのうちに背負わせているものについて描いている」。

エドワードに去られて気力を失ったグレースを支えつつ、ジェイミーもまた、これまで歩んできた人生を見直していきます。

まとめ

(C)Immersiverse Limited 2018

家族の別離という、一見重いテーマを含む本作『幸せの答え合わせ』。ですが、本質で描かれるのは人間の再起です。

失うものの代わりに、得るものもある――各々が抱えた喪失をバネに、3人の家族は、自身の人生を新たに歩んでいきます。

夫のまさかの離婚宣言から始まった、3人の“幸せの答え合わせ”とは?

本作を観れば、自分と親との関係を新しい観点から見ることができるでしょう。

映画『幸せの答え合わせ』は、2021年6月4日(金)より、キノシネマほかで全国順次公開予定



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