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『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』あらすじ感想と評価考察。原作者レイチェル・ジョイスが文学新人賞を経て伝えたかったこととは⁈

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』は2024年6月7日(金)より全国順次公開!

まさに「思い立ったが吉日」。一つの手紙をきっかけに、男性は長い旅路に向かい始めたのでした。

晩年を迎えた一人の老人が、一つの契機によって人生のやり残しに向き合っていく姿を描いた映画『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』。

イギリスの作家レイチェル・ジョイスによる小説を原作とした本作は、「決意し実行すること」の厳しさと、それでもその行動に対する異議、尊さを描いた物語。

人気ドラマシリーズを数多く手がけてきたイギリスのヘティ・マクドナルドが、イギリスの風情を感じさせる街並みや野原などを背景に文字通り「まさか」のロードムービーを作り上げました。

映画『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』の作品情報


(C)Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022

【日本公開】
2024年(イギリス映画)

【原題】
The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry

【監督】
ヘティ・マクドナルド

【キャスト】
ジム・ブロードベント、ペネロープ・ウィルトン、リンダ・バセット、アール・ケイブ、ジョセフ・マイデル、モニカ・ゴスマンほか

【作品概要】
過去にわだかまりをもつ一人の老人が、一枚の手紙をきっかけに突然予想だにしない長旅に出向いていく姿を描きます。原作は作家レイチェル・ジョイスが2012年に発表した小説「ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅」。本作ではジョイス自身が脚本を担当しました。

『名探偵ポワロ』『アガサ・クリスティー ミス・マープル』など数々の人気テレビドラマシリーズを手がけてきたヘティ・マクドナルドが監督を務めました。

そして『パディントン』シリーズ、『ドクター・ドリトル』『ゴヤの名画と優しい泥棒』などのジム・ブロードベントが主人公ハロルドを担当、またハロルドの妻モーリーン役を『ダウントン・アビー』シリーズのペネロープ・ウィルトンが演じました。

またハロルドの息子デイヴィッド役を、俳優、ロックシンガーであるニック・ケイヴの息子アール・ケイヴが務めています。

映画『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』のあらすじ


(C)Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022
定年退職し妻モーリーンと平穏な日々を過ごしていたハロルド・フライは、ある日北の果てから思いがけない手紙を受け取ります。

手紙の差出人は、かつて彼が務めていたビール工場でともに一緒に働いていた同僚の女性、クイーニー。不治の病で入院中の彼女は、まもなく死を迎えると記してありました。

昔を思い返事を執筆するハロルドは手紙を近所のポストから出そうと家を出ます。

そしてポストに手紙を入れようとした瞬間、彼にふと一つの思いが芽生え、突然800キロ離れた場所にいるクイーニーのもとを目指してそのまま歩き始めます。

「クイーニーにどうしても会って伝えたい」慣れない歩き旅に苦戦しながらも、一つの思いを胸にさまざまなハプニングに見舞われながらもハロルドは歩き続けます。

映画『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』の感想と評価


(C)Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022

のどかに広がるイギリスの田園風景を舞台としたこの物語は、決意や覚悟を決めることの厳しさ、そして大切さを描いているもの

どこかパッとしない日々を過ごすハロルドの日常において一通の手紙が届いたことで、ある意味青天の霹靂が訪れるわけですが、その啓示は静かに彼の前に現れます。

そして一歩、また一歩と歩みを進めるたびに出会う人それぞれより新たな啓示を受けていき、彼の思いは強い確信へと変わり古い友人クイーニーのもとに向かう長い旅を続けていくわけです。

旅の途はどこかデヴィッド・リンチの『ストレイト・ストーリー』を彷彿するような光景も見られますが、一方でハロルドは同時に大きな試練に向き合うことになります。


(C)Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022
一つは「誤解」。彼の旅を偶然知ることになった人がその行為をSNSで拡散、旅はいつしかハロルド本人が思いもよらなかった、大勢のお供を連れた「巡礼の旅」へと発展していきます。

そして彼は「彼らから離れなければならない」という一つのきっかけを迎えるまで、自分の意にそぐわないながらも「巡礼の旅」をお供たちと続けていくわけです。

この展開はハロルドの旅の中では不自然に目立つポイントでもあり、何かを成し遂げようとしたことに対し人の理解を得ることの難しさのようなイメージを受けるところであります。

そしてもう一つは「成し遂げることの難しさ」。旅を続けていく上で、ハロルドはさまざまなきっかけで自分自身が気づいていなかった自らの闇に気づかされていきます。

さらに自身の知らなかった事実を知らされていくいことで精神的に大きなダメージを受け、「クイー二ーに会いに行く」という行為を成し遂げることが困難な状況に陥っていきます。

物語としては整然とした展開を自然に受け止められるように演出を加えたストーリーという印象ではありますが、人の人生の中で胸に残るしこりのようなものにどう向き合っていくか、自身に真剣に向き合わせてくれるような作用をもった作品であるといえるでしょう。

まとめ


(C)Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022
ジム・ブロードベント演じるハロルドが歩む道のりは、イギリスらしい古くも整然とした石畳が続いていきます。

その雰囲気もさることながら、この景観は一つのイギリスらしさを表すイメージを想起させます。

劇中では、ハロルドが野山を歩くようなシーンはほとんどなく、大半は何らかの舗装された道路の上を歩いています。

道筋としては行く先をしっかりと示されている反面、歩いていくには非常に負担のかかる道であり、劇中では当初歩き慣れていなかったハロルドを苦しめます。

その歩く苦しみは、いつしかハロルド自身が抱える過去の傷とどこか重なり、歩みの中でハロルドを精神的にも苦しめていきます。

本作のその景観は非常に美しく趣のあるものでありつつ、辛辣なメッセージをどこか暗に示しているようなイメージが感じられ、物語の説得力をより強める要因になっているといえるでしょう。

映画『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』は2024年6月7日(金)より全国順次公開!

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