戦国時代史上最大の海戦「閑山島海戦」を映画化!
キム・ハンミンが脚本・監督を務めた、2022年製作の韓国のR15+指定の歴史大作『ハンサン 龍の出現』。
戦国時代末期。天下統一を成し遂げた豊臣秀吉は、大陸の明(ミン)国を狙いに定め、侵攻の足掛かりとして朝鮮半島に出兵しました。
秀吉の下で「賤ヶ岳の七本槍」の1人として名を馳せた戦国武将・脇坂安治率いる大軍を迎え撃つのは、冷静沈着な朝鮮水軍のイ・スンシン将軍。
互いの実力を認める2人の武将が、時に自軍内の政治的な駆け引きに足を引っ張られながらも準備を重ね、決戦の時を迎えます。
映画『ハンサン 龍の出現』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
映画『ハンサン 龍の出現』の作品情報
【日本公開】
2023年(韓国映画)
【脚本】
キム・ハンミン、ユン・ホンギ、イ・ナラ
【監督】
キム・ハンミン
【キャスト】
パク・ヘイル、ピョン・ヨハン、アン・ソンギ、ソン・ヒョンジュ、キム・ソンギュ、キム・ソンギュン、キム・ヒャンギ、オク・テギョン、コンミョン
【作品概要】
『神弓 KAMIYUMI』(2012)や『バトル・オーシャン 海上決戦』(2019)のキム・ハンミンが脚本・監督を務めた、韓国の歴史大作。
2023年3月17日(金)にシネマート新宿ほか全国に順次公開された本作は、韓国動員730万人を超える大ヒット作品となり、2022年第27回春史国際映画祭脚本賞と、第31回釜日映画祭美術・技術賞と最優秀監督賞を受賞した作品です。
『別れる決心』(2022)のパク・ヘイルが本作の主演を務め、『太陽は動かない』(2021)のピョン・ヨハンや、『折れた矢』(2013)のアン・ソンギら豪華キャスト陣と共演しています。
映画『ハンサン 龍の出現』のあらすじとネタバレ
戦国時代末期。天下統一を成し遂げた日本の武将・豊臣秀吉は、大陸の明国を次の狙いに定め、侵攻の足がかりとして朝鮮半島に出兵しました。
1592年4月13日。秀吉の号令のもと、朝鮮に押し寄せた日本軍は釜山(プサン)城に進撃。同地を陥落させ、そのわずか20日後に朝鮮の首都・漢陽(ハニャン。現在のソウル)を占領しました。
朝鮮の王・宣祖(ソンジョ)は、戦禍を逃れ北方の平壌に避難しますが、日本軍は破竹の勢いで北上します。
一方、朝鮮勤王軍5万人が漢陽を奪還するべく、龍仁(ヨンイン)・光教山(クァンギョ)に集結しました。
しかし6月5日の早朝、「賤ヶ岳の七本槍」の1人である日本軍の将軍・脇坂安治率いる2000人弱の兵が、朝鮮勤王軍に奇襲を仕掛け壊滅させました。
「賤ヶ岳の七本槍」とは、近江国伊香郡の賤ヶ岳付近で起きた秀吉と柴田勝家の戦い「賤ヶ岳の戦い」にて、秀吉の下で活躍した七人の若き武将のことです。
脇坂たちの奇襲攻撃を機に、完全に守勢に回った朝鮮は、滅亡の危機に瀕していました。
同日、朝鮮の海を守る全羅左水使(チョルラチャスサ)である朝鮮水軍の将軍イ・スンシンは孤軍奮闘し、何度も海戦を仕掛けて日本水軍の戦力を削ることに成功。
一次海戦の朝鮮の玉浦(オクポ)・合浦(ハッポ)・赤珍浦(チョクチンポ)では42隻の船を撃沈させました。
しかし二次海戦、泗川(サチョン)・唐浦(タンポ)での海戦にて、卓越した攻撃能力と防御力を誇る朝鮮の装甲船「亀船」の前方にある竜頭が敵船に食い込んでしまいました。
挙げ句の果てに、指揮をとっていたイ・スンシンが1人の日本兵に銃撃され、負傷してしまったのです。
三次海戦まであと5日。イ・スンシンの本陣である全羅の左水営(チョルラチョスヨン)で行われた軍議にて、慶尚右道(キョンサンウド)水軍を率いる朝鮮の慶尚右水使(キョンサンウスサ)のウォン・ギュンは、今こそ防御を固めるべきだと主張。
敵が自軍の兵力を過信している今こそ、釜山を奪還する好機だとして、攻勢に転じようとするイ・スンシンの一派に「先に攻めうつ?気は確かか?」と愚弄します。
ウォン・ギュンとイ・スンシンの一派が対立するなか、イ・スンシンは攻めるとも守るとも明言せず、状況を見据えながら交戦の準備を進めていました。
イ・スンシンは自身の配下である遊撃将ナ・デヨンと突撃将イ・オルリャンから、竜頭がない新しい亀船を造るのはどうかと提案されます。
それは泗川での戦いの後、ナ・デヨンたちが考えに考え抜いた末に思いついた唯一の打開策でした。
というのも亀船の船型には大きな欠点がありました。火砲を撃つのは容易いものの、敵船に包囲されれば左右前方から一斉砲火されてしまいます。
また、竜頭があると亀船の速度は遅く、泗川での戦いにて亀船が突っ込んだ、天守閣が船に乗ったような日本の旗艦「安宅船」に、竜頭が食い込んでしまいました。
イ・スンシンはこの提案を受け入れ、ナ・デヨンに新しい亀船を造ることを命じます。
その後、イ・スンシンのもとへ、平壌から「王の一行は義州(ウィジュ)へ向かう」と記された書状が届きました。
イ・スンシンは、朝鮮最高の水先案内人である光陽県監のオ・ヨンダムを呼び出します。
王の一行が平壌城を敵に差し出し、義州に退避したのには何らかの理由があるからだと考えたからです。
その書状を読んで、イ・スンシンに呼び出された意図を瞬時に察したオ・ヨンダムは、義州に退避したのは明国への亡命のためではないかといいます。
もしそれが本当であれば、宣祖はさらに民からの信頼を失いかねません。それどころか、この地の命運も………。
一方、日本軍が本陣を置く釜山浦(プサンポ)では、脇坂が日本水軍の将となり、イ・スンシンの本陣である左水営を叩こうとしていました。
脇坂はイ・スンシンを一度で確実に仕留めるために、彼と亀船に関する情報を集めようと、朝鮮語を解する甥の脇坂左兵衛を間者として敵陣に送り込みます。
さらに脇坂は、第六軍の武将・小早川隆景に対し、自分が全羅道で得る報奨を全て差し出す代わりに、陸から左水営を攻めるよう依頼しました。
朝鮮軍の捕虜となった日本軍の武将・俊沙は、この小早川の不審な動きについて尋問されるも、イ・スンシンと朝鮮軍を嘲笑します。
イ・スンシンはその芝居がかった様子に彼の真意は別にあると感じ、密かに対面して問い質しました。
この戦いは何のためにあるかと俊沙が尋ねると、イ・スンシンは国と国との戦いではなく、「義と不義との戦いだ」と答えました。
俊沙は、泗川でイ・スンシンを撃ったのは自分だと明かし、彼に仕えたいといいました。
実は俊沙は泗川での戦いにて、命惜しさに自分たち家臣を盾にした主君に絶望しました。と同時に、手負いの部下を身を挺して守り戦った彼の姿に感銘を覚えていたのです。
三次会戦まであと3日。イ・スンシンは日本水軍を誘き寄せて一気に叩くべく、八陣の一つ「鶴翼の陣」を敷くことに決め、演習を重ねていきます。
「鶴翼の陣」とは、鶴が翼を広げたような陣形が特徴の陣形のことです。中央に位置する本陣が後ろに、左翼と右翼が最前線に立ち、敵軍を挟みこんで戦います。
しかし、高い操船技術が必要な「鶴翼の陣」は容易ではなく、海域に慣れていないウォン・ギュンとの不協和音が続いていました。
さらに、本陣の亀船造船所にある亀船の見取り図が左兵衛に盗まれてしまいます。
その報告を受けたイ・スンシンは、ナ・デヨンがいる順天(スンチョン)府に設置した秘密造船所を訪れ、次の戦いまでに完成は間に合いそうかと尋ねました。
この時、ナ・デヨンとその配下たちは2日間、不眠不休で作業に取り組んでいました。しかしそれでも、次の戦いまでに完成させるにはまだ少し時間が必要でした。
そう話すナ・デヨンに、イ・スンシンは「連中はそなたの作業場から亀船の見取図を盗んだのだ。脇坂は亀船の難点に気づくだろう」と言い、亀船を戦力から外すという苦渋の決断をします。
一方、左兵衛は亀船の見取図を持って本陣に帰還。彼と共に本陣に戻った俊沙は、脇坂の軍を攪乱させるために偽情報を報告します。
俊沙の報告を聞いて亀船の弱点に気づいた脇坂は、イ・スンシンからの先制攻撃はないと判断しました。
豊臣の命により、脇坂と同じ「賤ヶ岳の七本槍」のメンバーである加藤嘉明と九鬼嘉隆が、40隻の兵船を率いて日本から駆けつけます。
一方、朝鮮軍の間者イム・ジュニョンは左水営に帰還。イ・スンシンに日本軍に侵入して得た情報を報告しました。
「脇坂が率いる兵船は大船30隻、中船が約70隻と合計100隻余り」、「さらに加藤が率いてきた40隻を含めて、合計140隻余りの船が待機している。脇坂は満を持して出陣するはず」。
「加藤は、今まで見てきた船とは異なり船体が厚く、火砲をつるしている特異な船を率いてきた」、「そのうち大将船と見られる船は、全体が鉄板で覆われている」と。
それを聞いて軍議が紛糾するなか、イ・スンシンは脇坂の軍との決戦を決意。「明日の夜、子の刻に出陣する」と、オ・ヨンダムたちにいいます。
映画『ハンサン 龍の出現』の感想と評価
日本と朝鮮、両軍の大きな分岐点となった「閑山島海戦」。
伝説として語り継がれる朝鮮の装甲艦「亀船」と、天守閣が船に乗ったような日本の旗艦「安宅船」が激突する海上バトルは、物語のクライマックスにふさわしいほどの圧倒的なスケールで描かれており、歴史好きな人もそうでない人も目を奪われます。
特に日本水軍には数で劣ってしまう朝鮮水軍が繰り出す「鶴翼の陣」が、まさに作中でイ・スンシンらが言っていた「海上の城」と化し、これを突き破ろうとする日本水軍の船を次々と粉砕していく様は、とても格好良かったです。
また、数で勝る日本水軍の「魚鱗の陣」も、作中で脇坂が言っていたように、羽を伸ばそうとする鶴を食わんとする大きな魚のように見えて、ウォン・ギュンやオ・ヨンダムらの艦隊に迫りくる様は観ていてハラハラドキドキします。
このイ・スンシンと脇坂が用いた「鶴翼の陣」と「魚鱗の陣」は、1572年の「三方ヶ原の戦い」に用いられた陣形です。
朝鮮水軍と同じく、兵数が少なかった家康は「鶴翼の陣」を、対する武田信玄は脇坂と同じ「魚鱗の陣」を敷いて戦いました。
ですが、家康はこの戦いで信玄に惨敗し、作中での小早川の軍のように命からがら浜松城に逃げ帰ったといいます。
作中では脇坂がこの戦いのことを語っており、「閑山島海戦」と「三方ヶ原の戦い」を学ぶことができるので、歴史好きな人にはたまらない作品といえるでしょう。
まとめ
天下統一を成し遂げた豊臣秀吉の朝鮮出兵における、戦国時代史上最大の海上決戦「閑山島海戦」を描いた、韓国の歴史大作でした。
本作の見どころは、現代に蘇った「亀船」と「安宅船」、互いの実力を認める脇坂とイ・スンシンのぶつかり合う様が描かれた海上バトルです。
パク・ヘイルが演じるイ・スンシンといえば、朝鮮水軍の将軍として迫りくる日本の大軍から朝鮮を守り抜いた救国の英雄であり、韓国で知らぬ者はいません。
対するピョン・ヨハン演じる脇坂安治は、日本での知名度はあまり高くありませんが、加藤清正らと「賤ヶ岳の七本槍」に名を連ねた武勇の持ち主であり、韓国ではイ・スンシンの最大のライバルとして名を馳せている人物です。
そして冷静沈着なイ・スンシンと、猛々しく軍を鼓舞する脇坂という、静と動を体現する2人の武将のカリスマ対決と、彼らを演じるパク・ヘイルとピョン・ヨハンの気迫あふれる演技力に誰もが心奪われることでしょう。
韓国で知らぬ者はいないイ・スンシンと脇坂、2人の武将がぶつかり合う海上バトルを描いた歴史大作を観たい人に、とてもオススメな作品です。