結局なんかになんねぇと、
自由にはなれねぇってことだろ?
数々の映画祭で評価された明石和之監督による、青春をロックに捧げながらも、独り立ちできない少年(半ノラ)を主人公した映画『HANNORA』。
バンド演奏、喧嘩アクションなど、多感な若者の姿を具現化する熱演で挑んだ主演・田中理来(たなか・りく)の演技力が光る“新感覚”青春ロック映画です。
2022年7月2日(土)より新宿シネマ・ロサにて封切り後、11月25日(金)~12月1日(木)の大分県・別府ブルーバード劇場での上映など全国にて順次公開される映画『HANNORA』。
本記事ではネタバレなしで、映画の物語設定などに散りばめられた「ロックの伝説」たちへのオマージュ、そこから浮かび上がってくる『HANNORA』の新たな一面を解説していきます。
CONTENTS
映画『HANNORA』の作品情報
【日本公開】
2022年(日本映画)
【監督・編集】
明石和之
【脚本】
西島ユタカ、明石和之
【キャスト】
田中理来、幡乃美帆、池田和樹、大西一希、勝俣栄作、須賀裕紀、加藤理子、大石菊華、古川順、田丸大輔、近藤奈保希、有賀さやか、飛磨、龍輝、田中陸、ユウジロウ、みやたに
【作品概要】
ロックバンド活動の経験を持つ明石和之監督による、自己存在の独り立ちをできていない少年が“自由”を求めるロック魂を音楽とともに描く青春映画。
主演は映画『渋谷シャドウ』、AbemaTV『私の年下王子様』をはじめ、舞台などでも精力的に活躍する俳優・田中理来。ヒロイン役はミスiD2021にてネクストアクトレス賞を受賞し、『劇場版 ほんとうにあった怖い話2020-呪われた家-』などに出演した幡乃美帆が演じます。
そのほか池田和樹、大西一希、勝俣栄作、須賀裕紀、加藤理子、大石菊華、古川順、田丸大輔、近藤奈保希、有賀さやかなど、これからの活躍が期待される若手からベテラン俳優まで幅広い世代のキャストが集結しました。
映画『HANNORA』のあらすじ
自由を求め、友人の光司・裕也とロックバンドを組み、楽器が置いてある不思議な中華屋でアルバイトをしている高校生の尚人。
ある日、尚人の前に突然現れた女子高生の真希は携帯画面を見せて「この子知らない?」と尚人に問いかけます。真希は突如失踪した友人「智子」を探しており、一緒に探して欲しいと頼みます。
この日きっかけに、尚人は真希の友人探しに協力しますが、そこには裏社会とのつながり、ラッパーとの対立など様々な人間ドラマがあり、2人を困惑させます。
2人は真希の友人「智子」を探すことはできるのでしょうか?! そして誰も知らなかった真希が抱えていた問題とは……。
映画『HANNORA』の感想と評価
中華料理屋はブティック「SEX」?
主人公・尚人(田中理来)がバイトの店員として働きながらも、友人の光司(池田和樹)、裕也(大西一希)とともにバンドの練習をする中華料理屋。
その不思議な物語設定は、おそらく映画作中でも言及された伝説的パンク・ロックバンド「セックス・ピストルズ」の結成経緯が“オマージュ元”なのではと推察できます。
ブティック「SEX」の経営者マルコム・マクラーレンが、店によく出入りしていたスティーヴ・ジョーンズ、ポール・クックが結成し活動していたアマチュアバンドに目をつけ、当時『SEX』の店員として働いていたグレン・マトロック、オーディションで見つけたジョニー・ロットンを加入させ、新たなバンドへと形作った……。
そんなセックス・ピストルズの結成経緯は、どこか『HANNORA』に登場する中華料理屋の設定、そして店の主人である林喜子(大石菊華)とバイト店員の尚人の関係性とつながるものがあります。
そのようなオマージュを行なったのは、自己が抱える鬱屈した感情を「自身が生きる社会への怒り」という形で歌に込め続ける尚人の姿に、当時のイギリス社会を徹底的に攻撃する歌詞を叫び続けた“かつての”セックス・ピストルズの姿を重ねたかったからかもしれません。
また、セックス・ピストルズという伝説的パンク・ロックバンドそのものへのオマージュは、中華料理屋という設定だけではありません。映画作中で尚人たちのバンドがたどる運命にも、セックス・ピストルズというバンドの歴史をどこか彷彿とさせるものが散りばめられているのです。
「石ころ」の歌から浮かび上がる「孤独なお嬢さん」
映画後半部にて、尚人は「石ころ」にまつわる歌を叫びます。
「“石ころ”を歌ったロックソング」……その言葉を聞いて、多くの方はボブ・ディランの『ライク・ア・ローリング・ストーン(Like a Rolling Stone)』を連想したのではないでしょうか。
1965年6月にリリースされ「ボブ・ディラン最大のヒットシングル」「1960年代のロック変革期を象徴する曲」「ロック史上、最も重要な曲の一つ」として知られる『ライク・ア・ローリング・ストーン』。
かつては裕福な暮らしで学歴も高かったにも関わらず、周囲の人々におだてられ、騙されてしまったことで路上生活を送るまでに落ちぶれた女性「Miss Lonely(孤独なお嬢さん)」を語ったその歌詞は、やはり「体制側」の人間への批判と受け取ることができます。
その一方で、『ライク・ア・ローリング・ストーン』の歌詞内で語られた女性「孤独なお嬢さん」の人物像は、『HANNORA』作中で尚人が出会った女子高生の真希(幡乃美帆)、彼女の親友である智子(加藤理子)がそれぞれに抱えていた「孤独」と「秘密」の姿とも重なるのです。
まとめ/「透明」になって明かされる秘密
ちなみに、ボブ・ディラン『ライク・ア・ローリング・ストーン』の歌詞には、このような一節があります。
When you ain’t got nothing, you got nothing to lose
(お前に何もない時、お前は何も失うものがない)You’re invisible now, you’ve got no secrets to conceal
(お前は今「透明」なんだ、お前には隠さないといけない秘密もないんだ)
何もないからこそ、何も失わない。そして「透明」だからこそ、他人や社会に隠さないといけない秘密もない……それは、真希が抱える「秘密」が明らかになる様を予感させる言葉というだけでなく、『HANNORA』が描く「自由」と呼ばれる何かの姿と通じているのかもしれません。
そして「透明」という言葉の意味をどう解釈するかによって、その言葉が『HANNORA』に登場する人物の誰の心を表しているのかが変化するはずです。
映画『HANNORA』は2022年7月2日(土)より新宿シネマ・ロサにて封切り後、11月25日(金)~12月1日(木)の大分県・別府ブルーバード劇場での上映など全国にて順次公開!
ライター:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。