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Entry 2019/07/11
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映画『浜の記憶』あらすじと感想。元東宝の名優加藤茂雄が演じる年の離れた男女の孤独な物語

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

映画『浜の記憶』は2019年7月27日(土)よりK’s cinemaにて公開!

黒澤明監督の『生きる』や成瀬巳喜男監督の『流れる』など、数多くの東宝作品に出演したほか、テレビドラマ『太陽にほえろ!』などにも出演したベテラン俳優・加藤茂雄

2018年に俳優生活70周年を迎え、親交のあった大嶋拓監督から「加藤さん、久しぶりにドラマやってみませんか?」と声をかけられ、実現に至った加藤茂雄、93歳にして初めての映画主演作品です。

大嶋監督は高齢である加藤が演じる際に無理がないよう、漁師としての顔も持っている、加藤自身と同じ鎌倉の漁師を主人公に設定し、脚本を書き下ろしました。

加藤が老漁師・繁田和夫を演じるほか、カメラマンを夢見る20歳の女性・波川由希役には、一般オーディションで選ばれた宮崎勇希が務めます。

自称カメラマン志望の女の子と過ごす、93歳の老漁師の不思議なひと夏の行方とは…。

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映画『浜の記憶』の作品情報


©︎2018「浜の記憶」製作委員会

【公開】
2019年(日本映画)

【脚本・撮影・編集・監督】
大嶋拓

【キャスト】
加藤茂雄、宮崎勇希、渡辺梓

【作品概要】
黒澤明監督の『生きる』『七人の侍』、本多猪四郎監督の『ゴジラ』など、多くの名作映画に出演してきた加藤茂雄が、2018年に俳優生活70周年記念作品として制作。93歳にして初の主演映画です。

俳優以外に漁師の一面を持った加藤が、自身の姿と重なる鎌倉の老漁師・繁田和夫を演じ、その相手役である20歳の若い女性・波川由希役を宮崎勇希が務めました。

映画『浜の記憶』のあらすじ


©︎2018「浜の記憶」製作委員会

鎌倉・長谷の海岸で地引網漁を営む93歳の漁師・繁田和夫。彼は今日も大漁を願い、乗り込む船に御神酒をかけます。

そんな繁田の妻はすでに先立っており、東京で教師をしている一人娘の智子も月に数回顔を見せる程度でした。

今も現役で網を引く繁田の仕事は、けして若い者に負けはしません。それでも近頃は徐々に老いる孤独感が静かに日常を包み込むようになっていました。

そんなある夏の日。カメラマンを目指しているという若い女性の由希が、気さくに話しかけてきました。


©︎2018「浜の記憶」製作委員会

亡き祖父が漁師だったという由希は、それからもたびたび繁田のもとを訪れるます。そして70歳以上も年の離れた2人は、互いの心の空白を埋めるように親しさを増していきます。

一緒に浜辺を歩き、祭りを楽しみ、鎌倉の古寺をめぐるなか、由希は繁田を「シゲさん」と呼び、繁田も「由希ちゃん」と声をかけ、かけがえのない2人だけの楽しい時間が流れていきます。

しかしある日。浜辺で逢瀬を楽しむ繁田と由希の前に、東京から娘の智子が現れたことで、2人の関係は思いがけない方向に……。


©︎2018「浜の記憶」製作委員会

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映画『浜の記憶』の感想と評価


©︎2018「浜の記憶」製作委員会

93歳のベテラン俳優が迷い込んだ「映画の夢」

加藤茂雄は1925年、神奈川県鎌倉市に生まれます。石川島造船所青年学校、横浜工業学校を出た後、1949年に鎌倉アカデミア演劇科を卒業。

1950年には演劇科の同期生だった廣澤榮の勧めで東宝と準専属契約、1954年に専属契約となりました。

東宝の『生きる』『七人の侍』『ゴジラ』をはじめ、そのほかクレジットされていない作品まで含めて数多くの映画に出演してきました。

1972年の契約解消後は、ドラマ「ウルトラマン」シリーズや『太陽にほえろ!』などテレビや舞台にも活動の幅を拡げます。

その一方、地元の生活圏では漁業組合員として地引き網漁を営んでいます

今回、大嶋拓監督の呼びかけではじまった、93歳にして加藤茂雄にとって映画初主演となる本作は、まさに加藤の俳優人生における記念作品であるとともに、加藤自身の等身大の姿をカメラに収めようとした作品だといえるでしょう。

大嶋監督が加藤のことをよく理解した上で、脚本段階から主人公を当て書きする手法をとりました。その結果、本作は高齢の俳優である加藤に対して体力的な面を配慮した鎌倉でのロケ撮影が中心となり、ある種、その撮影中に加藤が見せたドキュメンタリー作品としてのプライベートな漁師の姿を捉えたものになりました。

大嶋監督は加藤茂雄という人物の、俳優の「ハレ」を演じる役柄と、鎌倉に住まう小市民の「ケ」にあたる生活という両側面からキャラクター造形を試みたのです。


©︎2018「浜の記憶」製作委員会

劇中で見せた繁田と由希が手を取り合うように夏祭りを見に行く様子は、「ハレ」と「ケ」がまさに混在し、孫以上に歳の離れた孤独な者同士が“陳腐な関わり合いでしかない現実”を超え、ドラマチックに「逢瀬」へと燃ゆるようにさえ思えます。

まさに加藤茂雄という俳優(あるいは人物)が、“映画という魔法箱”のなかを、真夏の夜の夢のなかを生きている姿を垣間見られるのです。

また、本作を観ている最中に、あなたが繁田や由希の仕草や言動に「艶っぽさ」を感じたとすれば、それこそが生き物の「生(性)」の輝きそのものなのではないでしょうか。

これは恋愛なのか?大嶋流の“人恋しさ”

参考映像:大嶋拓監督『カナカナ』(1994)の特別映像

大嶋拓監督は1994年の映画『カナカナ』でも、歳の差が離れた男女の様子を描いています。

『カナカナ』にて、主演の県多乃梨子が演じた女性・塚本徳子は29歳。

同棲する男がハッキリとした態度を見せないことから、一緒に住むことを解消し実家に戻りますが、婚期を気にする母親とはいさかいが絶えません。

徳子は、そんなある日、母親が蒸発して孤独に暮らす中学生の隆人と出会い、いつしか不思議な絆で結ばれます。

この作品では、『浜の記憶』とは男女設定などは異なるものの大嶋監督が固執する年齢差の奇妙な関係や、女性が男性を介護する描写はすでに確立されています。

そのことについて、大嶋監督は次のように述べています。

自分の作品は、何故か男が女の人に面倒を見てもらう話が多く、この「カナカナ」以降も、「火星のわが家」は父親が娘2人に介護される話でしたし、「チョコチップ漂流記」や「39-19」では、いい年の中年男が10代の少女の世話になったりしています。これは、ひとりっ子で甘やかされて育った私の、「永遠にケアされたい願望」なんでしょうか? 自分では、結構オトナのつもりなのですが…。(大嶋拓の公式サイトより)

このような女性が男性を甲斐甲斐しく面倒をみる様子や、孤独を抱えた2人が年齢差を超えた感情抱くという物語性は、2007年の『凍える鏡』でもハッキリと見てとれます。

参考映像:大嶋拓監督『凍える鏡』(2007)

主人公を演じるのは、今では若手人気俳優となった田中圭。都会の片隅で自画像を描いた絵を売る青年・瞬を演じています

そんな殻にこもった瞬と、信州の山荘にひとり暮らしをしている童話作家・香澄が、ある日、街の路上で開かれていたアートマーケットで出会います。

香澄は少年の荒っぽく暗い絵に惹かれ、一枚の彼の自画像を購入します。親子以上に年の離れた2人は、いつしか不思議な絆で結ばれていきます。

このように大嶋監督の映画で描くキャラクターは、多くの場合、何がしかの理由で孤独を抱えた者同士が「偶然(物語としては必然だが)」に出会うことから始まります

しかも、それは「年の離れた関係」を前提に持っています

そのことを通して見えてくるのは、家族や親子という宿命が帯びた関係が破綻した状態を埋めもどす行為への試みです。

それは、疑似家族や疑似夫婦、疑似恋愛を通して何かを得ようと人生をリメイクするかのようです。

“すべては他人”であり孤独を抱えたの「個人」


©︎2018「浜の記憶」製作委員会

ここで話を『浜の記憶』に戻せば、繁田の実の一人娘である智子との親子関係は少しサバサバとしたものでした。

上手くいっていないとまではいいがたいのですが、由希が智子に指摘したように父親を「アノ人」と呼んだり、繁田は娘に手つくりの「干物」を持ち帰らせたいと思っても、素っ気なくイラナイと言われます。ここに少し親子の歪みが見てとれます

実は少し注目して欲しいのは、智子がいらないといった「干物」を繁田が由希に調理して食べさせますが、一方の由希も、地引網漁で獲った直後の魚は見もせず即座に「調理できないから…」と譲り受けませんでした。

由希が劇中で繁田から貰わないものは他にも登場しますが、それ以上に彼女の真意をここから受け取れるような気がします。

『浜の記憶』という映画は、観客によってかなり見え方は大きく変わってくるように、大嶋監督はあえて演出をしています

なぜなら、『恋愛』『詐欺』『嘘』という要素は、映画のなかでの見せ方として重要な要素だからです。

しかし、由希が繁田に最後に告げる無意識な言葉はあんまりなものでした。

それは大嶋監督が脚本に込めた“映画の魔法”がとける瞬間であり、時間と映画の関係性がよく見えた「時間の感覚のズレという“残酷な現実”」そのものでした。

まとめ


©︎2018「浜の記憶」製作委員会

本作『浜の記憶』はキャストとスタッフ総勢5人で作った作品です。

この少人数の数値だけで、作品の密度を図ることにけして意味はありません。

この“大嶋組という一時の「疑似家族」のような関係”のなかで産み出された作品は、加藤茂雄という俳優70年の記念作品にふさわしいものです。

この映画には由希の祖父が愛用していた一眼レフのフィルムカメラが登場します。

カメラはドラマを引っ張るマクガフィンとなっており、その由希の真意の読み方は観客によって様々に異なるでしょう。もちろん大嶋監督もその答えとなる描写は野暮なので正解は描いていません。

カメラのレンズ越しでしか他人が見れず、携わることができない者。そして孤独な人は少し臆病といってもよいので、大嶋監督の作品にはそのような観察者が多く登場する特徴になっています。

大嶋拓監督自身がカメラを構えて、レンズの先に加藤茂雄はじめとするキャストたちを撮影した本作。

監督は何を「記憶」として「記録」したかったのでしょう。劇場でその思いを馳せてください。

映画『浜の記憶』は2019年7月27日(土)よりK’s cinemaにて公開!

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