Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2025/03/21
Update

『ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男』あらすじ感想と評価レビュー。フェイクニュースでユダヤ人迫害を扇動した“魔術師”の素顔

  • Writer :
  • 松平光冬

ナチス・ドイツを創り上げた“フェイクニュースの祖”

映画『ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男』が、2025年4月11日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町・新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショーされます。

ナチス・ドイツ総統アドルフ・ヒトラーの腹心にして、プロパガンダを主導する宣伝大臣を務めたヨーゼフ・ゲッベルスの生涯を描いた衝撃作の見どころをご紹介します。

映画『ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男』の作品情報

(C)2023 Zeitsprung Pictures GmbH
【日本公開】
2025年(ドイツ・スロバキア合作映画)
【原題】
Führer und Verführer(英題:Fuhrer and Seducer)
【監督・脚本】
ヨアヒム・A・ラング
【製作】
マイケル・ソービグナー
【撮影】
クラウス・フックスイェーガー
【編集】
ライナー・ニグレリ
【音楽】
ミヒャエル・クラウキン
【キャスト】
ロベルト・シュタットローバー、フリッツ・カール、フランツィスカ・ワイズ、マルゴット・フリードレンダー
【作品概要】
ナチス独裁者アドルフ・ヒトラーの部下として宣伝大臣を務めた、ヨーゼフ・ゲッベルスの生涯を描きます。

『ある一生』(2024)のロベルト・シュタットローバーがゲッベルス、その妻マグダを木村拓哉も出演したドラマ「THE SWARM(ザ・スウォーム)」(2023)のフランツィスカ・ワイズ、『モニタリング』(2018)のフリッツ・カールがヒトラー役をそれぞれ演じます。

これまでに母国ドイツで重要な映画賞やテレビ賞を受賞してきたヨアヒム・A・ラングが、監督と脚本を兼任。

2024年ミュンヘン国際映画祭にて観客賞を受賞しました。

映画『ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男』のあらすじ

(C)2023 Zeitsprung Pictures GmbH

1933年のヒトラー首相就任から45年まで、ナチス・ドイツの宣伝大臣を務めたゲッベルス。当初は平和を強調するも、ユダヤ人排除や侵略戦争へと突き進んでいくヒトラーから激しく批判され、信頼を失ってしまいます。

そこで、ヒトラーが望む反ユダヤ映画の製作や、大衆を煽動する演説、綿密に計画された戦勝パレードを次々企画し、国民の熱狂とヒトラーからの信頼を取り戻していきます。

しかし戦況がナチス不利に傾いていくのを憂慮したゲッベルスは、ヒトラーとともに第三帝国のイメージを後世に残す過激なプロパガンダを仕掛けていき…。

映画『ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男』の感想と評価

(C)2023 Zeitsprung Pictures GmbH

フェイクニュースでファシズムを植え付けた男

被害者側のユダヤ人を主人公とした内容が多くを占めるホロコースト作品。そんな中で、本作『ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男』は、ナチス総統ヒトラーの腹心として仕えた加害者、ヨーゼフ・ゲッベルスが主人公です。

演説、ラジオ、映画などメディアを通して国民感情を煽り、ユダヤ人への憎悪を膨らませ、ファシズムを拡大させていったヒトラー。その裏には宣伝大臣としての、ゲッベルスの巧みなプロデュースがありました。

本作の監督と脚本を担当したヨアヒム・A・ラングは、ゲッベルスの発言や行動、ヒトラーやナチ幹部たちが交わしたとされる会話などに関する入念なリサーチを行い、脚本に盛り込みました。特筆すべきは、ゲッベルスやヒトラーといったナチス関係者の実際の記録映像をそのまま使用している点。

記録映像として残るフェイクニュースを制作する過程をドラマで再現することで、いかにしてホロコーストという暴虐行為が生まれたのかを、丹念かつ冷徹に捉えていきます。

(C)2023 Zeitsprung Pictures GmbH

自らの魔法に囚われた魔術師


(C)2023 Zeitsprung Pictures GmbH

ヘルマン・ゲーリング、ハインリヒ・ヒムラー、アルフレート・ローゼンベルクといった幹部党員たちを見下してヒトラーに取り入ろうとすれば、マグダという妻がありながら女優のリダ・バローヴァを愛人にする。さらにはそのマクダに浮気を問い詰められると、「俺は愛人が欲しいんだ」と開き直るという、あまりにも甲斐性のないゲッベルス。

ですが、ライバルたちからその矮小な性格を非難され、さらには失いかけるヒトラーの信頼を取り戻すべく、民衆にフェイクニュースという名の魔法をかけていきます。
自ら演説する際はスピーチの構想を練って鏡の前でリハーサルを繰り返し、わざとスピーチを間違うことでリアリティを持たせるといったセルフプロデュースも行っていく。

メディアの力を絶対とするあまり、次第に自分のかけた魔法に取り込まれていく魔術師の姿を、不条理かつシニカルに見つめていきます。

まとめ

(C)2023 Zeitsprung Pictures GmbH

本作の冒頭で、ラング監督による製作意図が表示されます。それは現代への警鐘です。

世界各国で右傾化が顕著となり、マイノリティ差別や移民排斥を掲げる右寄りの政党への支持が増え、加えてSNSやネット動画によるフェイクニュースが拡散されてしまう現代は、ある意味ナチスの支配よりも危険度が高まっていると言っても過言ではありません。
ゲッベルスのような扇動者は、いつの世も存在する――エンディングで映し出されるある人物からのメッセージは、第二次世界大戦が終結して80年となる本年を改めて考える好機となるでしょう。
映画『ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男』は、2025年4月11日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町・新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

松平光冬プロフィール

テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。

ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219



関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『POP!』あらすじ感想と評価解説。小野莉奈がリン役を好演することで見せた“彼女自身の魅力”とは⁈

映画『POP!』は2021年12月17日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。 京阪地域は12月17日(金)よりシネ・リーブル梅田、1月14日(金)より京都みなみ会館、1月15日(土)より …

ヒューマンドラマ映画

『バーニングオーシャン』ネタバレ感想と実話映画の評価!動画無料視聴方法も

日本でも大きく報道された『2010年メキシコ湾原油流出事故』。 被害の大きさは数日にわたりテレビ中継が行われ、燃え上がる石油採掘施設や、溢れ出る原油などショッキングな映像が放送されました。 今回の『バ …

ヒューマンドラマ映画

映画『パターソン』あらすじと感想レビュー!ラスト結末も

ジム・ジャームッシュが『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』以来4年ぶりに手がけた長編劇映画『パターソン』が公開中です! バス運転手で詩人であるパターソンという男性をアダム・ドライバーが演じていま …

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】チャーリー(犬の映画)あらすじ感想と評価レビュー。孤独な男がラブラドール犬との出会いの旅で知る“人生の真実”

人嫌いの男が、悲しい過去を持つ犬との出会いで見つけた、真実の愛。 孤独な男とやんちゃなラブラドール犬が、南インドからヒマラヤを目指して旅に出る姿を描くロードムービー『チャーリー』。 様々な言語が用いら …

ヒューマンドラマ映画

映画『ペインアンドグローリー』あらすじネタバレと感想。名俳優バンデラスの演技力が8回目のペドロアルモドバル作品でも異彩を放つ

名俳優アントニオ・バンデラスは、映画『ペイン・アンド・グローリー(原題:Dolor y gloria)』で、カンヌ国際映画祭「男優賞」受賞! 映画『ペイン・アンド・グローリー』は、『オール・アバウト・ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学