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Entry 2024/05/20
Update

映画『フィリップ』あらすじ感想と評価解説。原作小説で作家レオポルド・ティルマンドが描く“ナチス悪行の負の連鎖”とは⁈

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『フィリップ』は2024年6月21日(金)より全国順次公開!

ポーランド人作家のレオポルド・ティルマンドが、自らの体験から執筆した小説が原作の映画『フィリップ』。

ナチスの虐待を避けた一人のユダヤ人が、フランス人に成りすまし、ドイツ社会で密かに暮らす愛と苦悩の日々を描きます。

ティルマンドが1942年、フランクフルトに滞在していた実体験に基づいて描かれた原作小説は、1961年に発表されましたが、その内容の過激さから当時発禁処分に。

しかし60年以上の時を経て2022年にオリジナル版が出版され、ついに映画化へと至りました。

映画『フィリップ』の作品情報


(C)TELEWIZJA POLSKA S.A. AKSON STUDIO SP. Z.O.O. 2022

【日本公開】
2024年(ポーランド映画)

【原題】
Filip

【監督】
ミハウ・クフィェチンスキ

【キャスト】
エリック・クルム・Jr.、ヴィクトール・ムーテレ、カロリーネ・ハルティヒ、ゾーイ・シュトラウプ、ジョゼフ・アルタムーラ、トム・ファン・ケセル、ガブリエル・ラープ、ロベルト・ヴィエツキーヴィッチ、サンドラ・ドルジマルスカ、ハンナ・スレジンスカ、マテウシュ・ジェジニチャク、フィリップ・ギンシュ、ニコラス・プシュゴダ ほか

【作品概要】
ナチス支配下にあったポーランドとドイツを舞台に、ユダヤ人であることを隠して生きていた一人の青年が、愛と復讐の運命を歩んでいく姿を追った物語。

監督を務めたのは、ポーランドの名匠アンジェイ・ワイダによる映画作品『残像』(2016)『ワレサ 連帯の男』(2013)『カティンの森』(2007)のプロデュースを担当したミハウ・クフィェチンスキ。

映画『フィリップ』のあらすじ


(C)TELEWIZJA POLSKA S.A. AKSON STUDIO SP. Z.O.O. 2022

1941年のポーランド・ワルシャワ。ゲットーで家族らと暮らしていたポーランド系ユダヤ人のフィリップは、ある日ナチスの襲撃に遭い、目の前で恋人や家族を殺されてしまいます。

2年後。フィリップは自身をフランス人と偽り、ドイツ・フランクフルトの高級ホテルに潜入、レストランでウェイターとして働き始めます。そこで彼はナチスへの復讐として、ナチス将校の夫を戦場に送り出した孤独な妻たちを次々と誘惑していました。

偽りに満ちた生活を送る毎日。そしてある日、フィリップは一人の美しいドイツ人女性リザと出会い、恋に落ちていきます……。

映画『フィリップ』の感想と評価


(C)TELEWIZJA POLSKA S.A. AKSON STUDIO SP. Z.O.O. 2022

第二次世界大戦時中、ナチス政権下におけるドイツの物語。

その中においてこの物語が特殊なのは、いわゆるナチスにより弾圧、あるいは差別を受け苦しんでいた立場にいた人間が、非情な手段により密かに報復をおこなっていることにあります。

ポーランドで幸せな生活を送っていたフィリップは、ある日ナチスによって友人や愛する人を失ってしまいます。その結果、彼が選んだ道は当時のドイツへ密かに溶け込み、ナチス将校の妻を寝取り絶望の淵に立たせるという毎日。

そんな日々を送る彼が満たされない表情を募らせる光景は、ナチスの作り上げた社会構造、思想がいかに醜いかという印象とともに、どれだけ不毛なことであるかを示しているようであります。


(C)TELEWIZJA POLSKA S.A. AKSON STUDIO SP. Z.O.O. 2022

物語ではその不毛な日々を送るフィリップが執念を燃やしギリギリの日常を送る一方で、彼の周りの友人たちばかりが連れ去られ、終わりを迎えてしまいます。

ある日彼は一人の女性と出会い恋に落ちますが、それでもナチスへの恨みは晴れることなく、クライマックスではナチスを称賛する人々の声の中で、彼はとある行動を起こします。

それはまさに彼の怒りを示す一方で、怒りに身をゆだねるだけでは真の解決が生まれないことを暗に示す秀逸な演出が行われており、重々しい空気にグッと気持ちを引かれていくことでしょう。

総じて見れば、ナチスのとった政策により生まれた社会は多くの負の感情を生み出し、結果的に怒りの感情ばかりが残る中で誰もが幸せな気持ちになれなかったであろうことを、メッセージとして込めているようでもあります。

まとめ


(C)TELEWIZJA POLSKA S.A. AKSON STUDIO SP. Z.O.O. 2022

主演を務めたエリック・クルム・Jr.は、自国ポーランドで精力的に活躍する俳優。本作でも抜群の存在感をもって、フィリップという複雑な境遇を抱えた男性を演じました。

冒頭で見せた、自国での生き生きした表情。愛する者と自身のライフワークに興じている際には、「ダビデの星を常に腕章としてつけること」を命じられたことから滲み出る影などまったく見えない、喜びに満ちた顔を見せていました。

しかしナチスの虐殺により愛する者を奪われ、新たな運命に翻弄されるその顔には、どこか危険な香りすら感じられます。わずかに生まれた仲間との談笑の時、そして新たな愛の始まりもあっけなく踏みにじられ、彼の心は残酷にも引き裂かれていきます。

そんな彼がラストに見せたその表情は、それまでの展開では見られないほどあっさりした冷静なもの。

しかしそれでいて、本作の重要なポイントを示すとともに人間の感情の恐ろしい部分を如実に示しているようでもあり、まさにエリック・クルム・Jr.あっての本作と思わせるものであるといえるでしょう。

映画『フィリップ』は2024年6月21日(金)より全国順次公開!

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