性別・人種・年代の壁を越えた友情を描く、アカデミー作品賞に輝くハートフルドラマ
1990年製作のアメリカ映画『ドライビング Miss デイジー』。1987年度のピューリッツァー賞演劇部門を受賞したブロードウェイの戯曲を、原作者のアルフレッド・ウーリー自ら脚色し、ブルース・ベレスフォードが監督を務めました。
アメリカ南部に暮らすユダヤ系の老婦人と黒人の運転手の、長きにわたる心の交流と友情を描き、アカデミー賞作品賞をはじめ、婦人を演じたジェシカ・タンディが主演女優賞を獲得しています。
CONTENTS
映画『ドライビング Miss デイジー』の作品情報
【公開】
1990年(アメリカ映画)
【原題】
Driving Miss Daisy
【監督】
ブルース・ベレスフォード
【原作戯曲・脚本】
アルフレッド・ウーリー
【製作】
リチャード・D・ザナック、リリ・フィニ・ザナック
【撮影】
ピーター・ジェームズ
【音楽】
ハンス・ジマー
【キャスト】
ジェシカ・タンディ、モーガン・フリーマン、ダン・エイクロイド、パティ・ルポーン、エスター・ローレ
【作品概要】
アメリカ南部に暮らすユダヤ系の老婦人デイジーと、黒人の運転手ホークとの心の交流と友情を、25年の時の流れの中で描くハートフルドラマ。
1987年度のピューリッツァー賞演劇部門を受賞したブロードウェイの戯曲を、原作者のアルフレッド・ウーリー自ら脚色し、『ロンリー・ハート』(1986)のブルース・ベレスフォードが監督を務めました。アカデミー賞では、デイジーを演じたジェシカ・タンディが史上最高齢(当時)の80歳で主演女優賞を受賞したほか、作品、脚色、メーキャップ賞に輝きました。
映画『ドライビング Miss デイジー』のあらすじとネタバレ
1948年のアメリカ、ジョージア州アトランタ。
元教師のユダヤ系老婦人デイジーは、買い物に出かけようと愛車キャデラックに乗り込みますが、運転を誤り隣家の垣根に突っ込ませてしまいます。
彼女の息子ブーリーは、お抱え付きの運転手を雇うことにし、自身が経営する紡績工場の黒人従業員であるホークを採用します。
反対したにもかかわらず、運転手として現れたホークを拒絶し、乗車拒否をするデイジー。
しかし、拒まれても毎日足を運び、実直に職務に励むホークの姿に根負けし、彼の車に乗るようになります。
それから、デイジーの勘違いによるホークへのいさかいが起こったりしながらも、次第に会話をしていく2人。
墓参りに行った際、ホークが文盲であると知ったデイジーは、彼に文字を教えれば、クリスマスには読み書き用の本をプレゼントするのでした。
そんなある日、デイジーは、アラバマに住む兄の誕生日を祝うべく、ホークの運転するキャデラックで向かうことに。
ジョージアから出たことのないホークにとっては、これが初めての遠出でした。
その道中で、路肩に止めた車の中で食事をしていた際、警察官からの職質を受けます。
ホークと自分への警官たちの対応にデイジーは気分を害し、ホークは子どもの頃に見たというKKK(クー・クラックス・クラン)の忌まわしき思い出を語るのでした。
1963年、住み込みの家政婦アイデラが急死してしまったことで、デイジーは身の回りの世話をホークにより頼るように。
それから3年後、デイジーはマーティン・ルーサー・キング牧師の説教を聞くため夕食会に参加しますが、一緒に行く予定だったブーリーが直前で取り止めたため、ホークを誘います。
しかし、デイジーの配慮の無さに呆れたホークは、それを拒否。
断られたことが腑に落ちないデイジーが聞いたキング牧師の説教は、差別とは無関心・無意識から生じるという内容でした。
映画『ドライビング Miss デイジー』の感想と評価
参考映像:アカデミー賞授賞式でのジェシカ・タンディ
変革していく近代アメリカ史を描く
本作『ドライビング Miss デイジー』は、脚本家のアルフレッド・ウーリーが、彼の実の祖母と、彼女を送り迎えしていた黒人の運転手をモデルに書いた戯曲が原作です。
白人の老婦人と黒人運転手の友情を軸にしつつ、黒人への人種差別が横行していた1950年代初頭から60年代の公民権運動を経て変革していく、近代アメリカ史を凝縮した内容となっています。
また、黒人のみならずユダヤ人への偏見という、多人種国家が抱える根深い病理にも触れているのも、特筆すべき点でしょう。
キャスティングにおいては、デイジー役には当初、キャサリン・ヘプバーン、ベティ・デイヴィス、ルシール・ボール、ローレン・バコールといった往年の名女優たちが候補に挙がっていました。それゆえに、キャリア的に助演が多かったジェシカ・タンディの起用は大抜擢といえましたが、見事にアカデミー主演女優賞を獲得。
一方のホーク役にはエディ・マーフィが第一候補と目されていましたが、舞台版で同役を演じた経歴のあるモーガン・フリーマンがスライドする形で務めました。
人種差別ギャグの定番ネタに
参考映像:『僕らのミライへ逆回転』(2008)
アカデミー賞のみならず、ゴールデングローブ賞の作品賞、主演女優&男優賞(いずれもミュージカル・コメディ部門)も受賞するなど、認知度が高い本作。ですが欧米では、それとは違った理由でも広く知られています。
レンタルビデオ店員が、店を存続させるために『ゴーストバスターズ』(1984)や『ロボコップ』(1987)といったハリウッド映画を独自でリメイクしていくコメディ『僕らのミライへ逆回転』(2008)。
劇中、ジャック・ブラック演じる店員が本作『ドライビング Miss デイジー』をリメイクしようと言うと、黒人のモス・デフ扮する友人が露骨に嫌がるシーンがあります。
実は本作は、「白人のデイジーにとって、ホークは都合のいい黒人として描かれすぎ」として、黒人の間ではあまり好かれていない作品なのです。
登場する黒人描写で物議を醸した映画としては、ほかに『風と共に去りぬ』(1939)、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)、『グリーンブック』(2019)があり、いずれもアカデミー作品賞を受賞したことで、嫌われ度が増しています。
とりわけ本作は、『バッドボーイズ』(1995)や『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(2008)でギャグのフレーズに使われたり、『フルハウス』や『スキンズ』など多くのテレビドラマでパロディ扱いされたりと、人種ネタの定番になっています。
参考映像:ドラマ『スキンズ』(2007)
まとめ
いろいろと複雑な事情も含んだ本作『ドライビング Miss デイジー』ですが、ブロ一ドウェイではロングラン上演の定番プログラムに。日本でも2019年に、市村正親、草笛光子、堀部圭亮の3人芝居による舞台化が実現し、好評を博しました。
性差・人種の壁を越えた友情ドラマとして観てほしい一本なのは間違いありません。