Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2020/01/30
Update

映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』あらすじと感想考察レビュー。モンティパイソンのメンバーだった監督が30年掛けて完成させた作品とは

  • Writer :
  • 松平光冬

鬼才テリー・ギリアム監督の執念の一作が完成!

『未来世紀ブラジル』(1986)のテリー・ギリアムが映画化を試みるも、何度も製作中止、頓挫してきた企画がついに結実

2020年1月24日よりTOHOシネマズシャンテ他にて全国ロードショー公開の映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』にかけてきたギリアムの、これまでのフィルモグラフィとの因果関係をひも解きます。

映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』の作品情報


(C)2017 Tornasol Films, Carisco Producciones AIE, Kinology, Entre Chien et Loup, Ukbar Filmes, El Hombre Que Mat o a Don Quijote A .I.E., Tornasol SLU

【公開】
2010年(スペイン・ベルギー・フランス・イギリス・ポルトガル合作映画)

【原題】
The Man Who Killed Don Quixote

【監督・脚本】
テリー・ギリアム

【製作】
マリエラ・ベスイェフシ、ヘラルド・エレーロ、エイミー・ギリアム、グレゴワール・メラン、セバスチャン・デロワ

【撮影】
ニコラ・ペコリーニ

【編集】
レスリー・ウォーカー、テレサ・フォント

【キャスト】
アダム・ドライバー、ジョナサン・プライス、ステラン・スカルスガルド、オルガ・キュリレンコ、ジョアナ・リベイロ、オスカル・ハエナダ

【作品概要】
テリー・ギリアムが何度も映画化を試みるも実現に至らず、構想から30年を経て、ついに完成にこぎつけた念願の一作。

自らをドン・キホーテと信じる老人と、若手映画監督の奇妙な旅路を描きます。

自らをドン・キホーテと思い込む老人ハビエルを、ギリアム作品の常連であるジョナサン・プライス、トビー役を「スター・ウォーズ」シークエル三部作(2015~19)のカイロ・レン役で知られるアダム・ドライバーが演じます。

その他のキャストとして、「マンマ・ミーア!」シリーズ(2008~18)のステラン・スカルスガルド、『ある天文学者の恋文』(2016)のオルガ・キュリレンコらが脇を固めます。

映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』のあらすじ

(C)2017 Tornasol Films, Carisco Producciones AIE, Kinology, Entre Chien et Loup, Ukbar Filmes, El Hombre Que Mat o a Don Quijote A .I.E., Tornasol SLU

仕事への情熱を失くしたCM監督のトビーは、スペインの田舎で撮影中のある日、とある男からDVDを渡されます。

実はそれは、トビーが学生時代に監督し、賞に輝いた映画『ドン・キホーテを殺した男』だったのです。

撮影舞台となった村が近くにあると知ったトビーは、久々に現地に赴くも、映画の影響で村人たちはすっかり変わり果てていました。

映画でドン・キホーテを演じた靴職人の老人ハビエルは、自分こそ本物の騎士ドン・キホーテだと信じ込み、清楚な少女だったアンジェリカは、女優を目指して村を飛び出していたのです。

トビーのことを忠実な従者サンチョ・パンサだと思い込んだハビエルは、無理やり彼を引き連れて冒険の旅に繰り出します…。

“呪われた”企画と化した「ドン・キホーテ」

(C)2017 Tornasol Films, Carisco Producciones AIE, Kinology, Entre Chien et Loup, Ukbar Filmes, El Hombre Que Mat o a Don Quijote A .I.E., Tornasol SLU

本作『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』のベースとなった小説「ドン・キホーテ」は、スペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスが、17世紀に出版したものです。

“騎士道物語”に心酔するあまり、現実と妄想の区別がつかなくなった男が、自ら遍歴の騎士「ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ」と名乗り、冒険の旅に出ようとします。

日本でも、二代目松本白鸚(九代目松本幸四郎)が1969年の初演からライフワークとする舞台「ラ・マンチャの男」で広く知られる、この物語の映画化に動いていたのが、本作監督のテリー・ギリアムでした。
 

ギリアムが最初に「ドン・キホーテ」の映画化に動きだしたのは、今から30年前の1988年に『バロン』を撮り終えた直後でした。

そもそも、1970~80年代に人気を博したイギリスのコメディグループ「モンティ・パイソン」にギリアムが参加していた時から温めていたとされるこの企画。

ですが、原作小説の難解さから資金調達は困難を極め、ギリアム自身の解釈による脚色を経て、2000年にようやくクランクインするも、自然災害やキャストの病気降板といったさまざまな事態に見舞われ、9回もの企画頓挫を繰り返します。

最初の映画製作時の舞台裏が、『ロスト・イン・ラ・マンチャ』(2002)としてドキュメンタリー映画化されるなど、いつしか“呪われた企画”と呼ばれるようになった、この「ドン・キホーテ」映画化プロジェクト。

それでも、「最後は夢を諦めない者が勝つ」という強い意志の元、2018年についに完成。

にもかかわらず、同年6月には権利問題に関する裁判により、世界各国での上映がいったん白紙になってしまうなど、最後までいわく付きの作品となったのです。

“妄想を現実”に変え続けるテリー・ギリアム監督

参考:『12モンキーズ』(1995)

長きにわたり、「ドン・キホーテ」の映画化に燃えていたギリアム。そんな彼のフィルモグラフィには、ある共通点があります。

『バンデットQ』(1981)は、自分の部屋が時空間とつながっていることを確かめようとする少年の話

『バロン』(1988)は、自らを常軌を超えた能力を持つ家来を持つ英雄だと吹聴する男爵の話

『フィッシャー・キング』(1991)は、アーサー王の聖杯伝説を信じて疑わないホームレスの話

『12モンキーズ』(1995)は、人類絶滅を防ぐために未来からタイムスリップしてきたと語る男の話

『ブラザーズ・グリム』(2005)は、少女失踪事件が魔物の仕業であることを証明しようとする兄弟の話

直近作『ゼロの未来』(2015)は、非現実的な力が自分を解放してくれると思い込むプログラマーの話

理解されにくい妄想や神話を信じるあまり、周囲から相手にされない――ギリアムはそうした人物が主人公の作品ばかり撮ってきた監督です。

そしてついに完成した本作『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』は、自分を騎士だと信じる老人の話です。

表現者には、生い立ちや主義主張などから形成された、揺るぎない作家性というものがありますが、ギリアムほどそれが顕著に出たフィルムメーカーもいないのではないでしょうか。

テリー・ギリアムよ、どこへ行く?

(C)2017 Tornasol Films, Carisco Producciones AIE, Kinology, Entre Chien et Loup, Ukbar Filmes, El Hombre Que Mat o a Don Quijote A .I.E., Tornasol SLU

本作『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』の主人公である、老人ハビエルとCM監督トビー。

英雄を演じたことで自分も同化してしまったハビエルは、妄想を現実にしようとする内容の作品を撮り続けるギリアムであり、ボスの言いなりになるのに嫌気が差す監督トビーもまた、作家性を理解してくれない製作サイドと何度も衝突してきたギリアムなのです。

ましてや、トビーが「ドン・キホーテ」を監督していたという設定自体が、ギリアム自身の何者でもありません。

ただ、これまで「ドン・キホーテ」の変奏曲のような映画を作ってきたギリアムが、ついに悲願の「ドン・キホーテ」を作ってしまったことで、今後フィルムメーカーとしての指針を失ってしまうのではないか、という危惧も感じます。

もしかしたら、「ドン・キホーテ」とは大きくかけ離れた作品を生むかもしれませんし、やっぱり「ドン・キホーテ」のような作品を手がけるかも…。

いずれにしろ、『テリー・ギリアムの~』と、タイトルに自身の名前を冠せる映画監督は、そうはいません

存在そのものが大きなブランドとなっている、テリー・ギリアムの次作に注目しましょう。

参考:モンティ・パイソンの公式ツイッター

最後に、ギリアムと同じモンティ・パイソンのメンバーだったテリー・ジョーンズが、本作の日本公開3日前の2020年1月21日に、77歳で亡くなりました。

ギリアムの作家性を築いたモンティ・パイソンを共に支えてきた、ジョーンズのご冥福を祈ります。

映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』は、2020年1月24日(金)よりTOHOシネマズシャンテ他にて全国ロードショー

関連記事

ヒューマンドラマ映画

【映画ネタバレ】オリエント急行殺人事件(2017)感想考察とラスト結末解説。最後の晩餐などキリスト教モチーフからポワロの“推理美学”を読み解く

ケネス・ブラナー監督は 名探偵ポワロの“推理の美学”をどう描いたのか? 1934年に原作アガサ・クリスティの発表した『オリエント急行の殺人』は、1974年にシドニー・ルメット監督により豪華キャストによ …

ヒューマンドラマ映画

『長江哀歌』ネタバレあらすじ感想と結末ラストの評価解説。ロケット・ビルなど“シュルレアリスム的表現”を混在させた理由は?

時代のうねりに翻弄されながらも、 精一杯に生きた「三峡」の善人たち……。 今回ご紹介する映画『長江哀歌』は、2006年のベネチア国際映画祭にコンペティション作品として招待されながらも、タイトルすらも一 …

ヒューマンドラマ映画

『ギルバートグレイプ』あらすじネタバレ感想とラスト結末の評価解説。名作映画に挑んだディカプリオの演技に注目!

午前10時の映画祭8にて、デジタル・リマスター版が上映された名作『ギルバート・グレイプ』。 『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』『サイダーハウス・ルール』などの名作で知られる、スウェーデン出身のラッセ・ハ …

ヒューマンドラマ映画

『アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語』ネタバレ感想レビュー。映画化が繰り返されてなお、新たな解釈に挑む

ロシアが世界に誇る文豪トルストイの「戦争と平和」と並び称される名著「アンナ・カレーニナ」をベースに映画化。 カレン・シャフナザーロフ監督が、20世紀前半に活躍したグィッケーンチィ・ヴェレサーエフの日露 …

ヒューマンドラマ映画

映画『祈りのちから』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も

あなたには、本当の自分に戻れる「場所」がありますか。心を解き放つ、そんな「空間」はあるでしょうか。 この映画の原題は、War Room(ウォー・ルーム)。「戦いの部屋」です。 人生、何と戦うかは人それ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学