鬼才テリー・ギリアム監督の執念の一作が完成!
『未来世紀ブラジル』(1986)のテリー・ギリアムが映画化を試みるも、何度も製作中止、頓挫してきた企画がついに結実。
2020年1月24日よりTOHOシネマズシャンテ他にて全国ロードショー公開の映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』にかけてきたギリアムの、これまでのフィルモグラフィとの因果関係をひも解きます。
CONTENTS
映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』の作品情報
【公開】
2010年(スペイン・ベルギー・フランス・イギリス・ポルトガル合作映画)
【原題】
The Man Who Killed Don Quixote
【監督・脚本】
テリー・ギリアム
【製作】
マリエラ・ベスイェフシ、ヘラルド・エレーロ、エイミー・ギリアム、グレゴワール・メラン、セバスチャン・デロワ
【撮影】
ニコラ・ペコリーニ
【編集】
レスリー・ウォーカー、テレサ・フォント
【キャスト】
アダム・ドライバー、ジョナサン・プライス、ステラン・スカルスガルド、オルガ・キュリレンコ、ジョアナ・リベイロ、オスカル・ハエナダ
【作品概要】
テリー・ギリアムが何度も映画化を試みるも実現に至らず、構想から30年を経て、ついに完成にこぎつけた念願の一作。
自らをドン・キホーテと信じる老人と、若手映画監督の奇妙な旅路を描きます。
自らをドン・キホーテと思い込む老人ハビエルを、ギリアム作品の常連であるジョナサン・プライス、トビー役を「スター・ウォーズ」シークエル三部作(2015~19)のカイロ・レン役で知られるアダム・ドライバーが演じます。
その他のキャストとして、「マンマ・ミーア!」シリーズ(2008~18)のステラン・スカルスガルド、『ある天文学者の恋文』(2016)のオルガ・キュリレンコらが脇を固めます。
映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』のあらすじ
仕事への情熱を失くしたCM監督のトビーは、スペインの田舎で撮影中のある日、とある男からDVDを渡されます。
実はそれは、トビーが学生時代に監督し、賞に輝いた映画『ドン・キホーテを殺した男』だったのです。
撮影舞台となった村が近くにあると知ったトビーは、久々に現地に赴くも、映画の影響で村人たちはすっかり変わり果てていました。
映画でドン・キホーテを演じた靴職人の老人ハビエルは、自分こそ本物の騎士ドン・キホーテだと信じ込み、清楚な少女だったアンジェリカは、女優を目指して村を飛び出していたのです。
トビーのことを忠実な従者サンチョ・パンサだと思い込んだハビエルは、無理やり彼を引き連れて冒険の旅に繰り出します…。
“呪われた”企画と化した「ドン・キホーテ」
本作『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』のベースとなった小説「ドン・キホーテ」は、スペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスが、17世紀に出版したものです。
“騎士道物語”に心酔するあまり、現実と妄想の区別がつかなくなった男が、自ら遍歴の騎士「ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ」と名乗り、冒険の旅に出ようとします。
日本でも、二代目松本白鸚(九代目松本幸四郎)が1969年の初演からライフワークとする舞台「ラ・マンチャの男」で広く知られる、この物語の映画化に動いていたのが、本作監督のテリー・ギリアムでした。
ギリアムが最初に「ドン・キホーテ」の映画化に動きだしたのは、今から30年前の1988年に『バロン』を撮り終えた直後でした。
そもそも、1970~80年代に人気を博したイギリスのコメディグループ「モンティ・パイソン」にギリアムが参加していた時から温めていたとされるこの企画。
ですが、原作小説の難解さから資金調達は困難を極め、ギリアム自身の解釈による脚色を経て、2000年にようやくクランクインするも、自然災害やキャストの病気降板といったさまざまな事態に見舞われ、9回もの企画頓挫を繰り返します。
最初の映画製作時の舞台裏が、『ロスト・イン・ラ・マンチャ』(2002)としてドキュメンタリー映画化されるなど、いつしか“呪われた企画”と呼ばれるようになった、この「ドン・キホーテ」映画化プロジェクト。
それでも、「最後は夢を諦めない者が勝つ」という強い意志の元、2018年についに完成。
にもかかわらず、同年6月には権利問題に関する裁判により、世界各国での上映がいったん白紙になってしまうなど、最後までいわく付きの作品となったのです。
“妄想を現実”に変え続けるテリー・ギリアム監督
参考:『12モンキーズ』(1995)
長きにわたり、「ドン・キホーテ」の映画化に燃えていたギリアム。そんな彼のフィルモグラフィには、ある共通点があります。
『バンデットQ』(1981)は、自分の部屋が時空間とつながっていることを確かめようとする少年の話。
『バロン』(1988)は、自らを常軌を超えた能力を持つ家来を持つ英雄だと吹聴する男爵の話。
『フィッシャー・キング』(1991)は、アーサー王の聖杯伝説を信じて疑わないホームレスの話。
『12モンキーズ』(1995)は、人類絶滅を防ぐために未来からタイムスリップしてきたと語る男の話。
『ブラザーズ・グリム』(2005)は、少女失踪事件が魔物の仕業であることを証明しようとする兄弟の話。
直近作『ゼロの未来』(2015)は、非現実的な力が自分を解放してくれると思い込むプログラマーの話。
理解されにくい妄想や神話を信じるあまり、周囲から相手にされない――ギリアムはそうした人物が主人公の作品ばかり撮ってきた監督です。
そしてついに完成した本作『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』は、自分を騎士だと信じる老人の話です。
表現者には、生い立ちや主義主張などから形成された、揺るぎない作家性というものがありますが、ギリアムほどそれが顕著に出たフィルムメーカーもいないのではないでしょうか。
テリー・ギリアムよ、どこへ行く?
本作『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』の主人公である、老人ハビエルとCM監督トビー。
英雄を演じたことで自分も同化してしまったハビエルは、妄想を現実にしようとする内容の作品を撮り続けるギリアムであり、ボスの言いなりになるのに嫌気が差す監督トビーもまた、作家性を理解してくれない製作サイドと何度も衝突してきたギリアムなのです。
ましてや、トビーが「ドン・キホーテ」を監督していたという設定自体が、ギリアム自身の何者でもありません。
ただ、これまで「ドン・キホーテ」の変奏曲のような映画を作ってきたギリアムが、ついに悲願の「ドン・キホーテ」を作ってしまったことで、今後フィルムメーカーとしての指針を失ってしまうのではないか、という危惧も感じます。
もしかしたら、「ドン・キホーテ」とは大きくかけ離れた作品を生むかもしれませんし、やっぱり「ドン・キホーテ」のような作品を手がけるかも…。
いずれにしろ、『テリー・ギリアムの~』と、タイトルに自身の名前を冠せる映画監督は、そうはいません。
存在そのものが大きなブランドとなっている、テリー・ギリアムの次作に注目しましょう。
参考:モンティ・パイソンの公式ツイッター
Farewell dear Terry J. Two down, four to go. Love Terry G, Mike, John & Eric pic.twitter.com/RbVrAAJz2d
— Monty Python (@montypython) January 22, 2020
最後に、ギリアムと同じモンティ・パイソンのメンバーだったテリー・ジョーンズが、本作の日本公開3日前の2020年1月21日に、77歳で亡くなりました。
ギリアムの作家性を築いたモンティ・パイソンを共に支えてきた、ジョーンズのご冥福を祈ります。
映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』は、2020年1月24日(金)よりTOHOシネマズシャンテ他にて全国ロードショー。