今回ご紹介する映画は『ダメージ』(1992)です。
監督は『死刑台のエレベーター』(1958)や『地下鉄のザジ』(1960)など、恋愛劇から社会派まで幅広い作品を世に送り出したフランスの巨匠ルイ・マル。
映画『ダメージ』は激しい不倫の愛に溺れる男女を描いたセンセーショナルな作品です。
映画『ダメージ』の作品情報
【公開】
1993年(イギリス・フランス合作映画)
【原題】
Fatale
【監督】
ルイ・マル
【キャスト】
ジェレミー・アイアンズ、ジュリエット・ビノシュ、ミランダ・リチャードソン、ルパート・グレイヴス、レスリー・キャロン、イアン・バネン、ピーター・ストーメア
【作品概要】
もし息子の恋人と恋に落ちてしまったら。愛という名の魔界から抜け出せることはできるのか。
理性で抑えられない愛に溺れてゆく男を演じるのは『戦慄の絆』(1988)『運命の逆転』(1990)のイギリス出身の俳優ジェレミー・アイアンズ。
謎多きファム・ファタールを演じるのは『存在の耐えられない軽さ』(1988)や『ポンヌフの恋人』(1990)などで知られ、また世界三大映画祭全てで女優賞を獲得したフランス出身のジュリエット・ビノシュ。
傷つき、傷を求めあいながら愛し合う姿を2人が大胆に演じます。
映画『ダメージ』のあらすじとネタバレ
イギリス下院議員のスティーヴンは、上流階級の妻との間に2人の子供をもうけ、順風満帆な人生を送っていました。
ある日、スティーヴンはフランス大使館の式典で不思議な女性アンナと出会います。
アンナに心惹かれるスティーブンでしたが、彼女はスティーヴンの息子・新聞社に勤めるマーティンの恋人でした。
数日後マーティンが家にアンナを連れてきて家族に紹介します。
息子の恋人と知りながらも気持ちを抑えきれず、スティーヴンとアンナは肉体関係を結びます。
アンナは昔兄に兄妹以上の感情を抱かれていたこと、その兄が自死したことを告白します。
スティーヴンは離婚してアンナと再婚する決意をし、アンナにプロポーズしますが、彼女は今の関係のままでいたいと断ります。
後日スティーヴンはアンナがマーティンと婚約したことを知り、ショックを受けました。
映画『ダメージ』の感想と評価
主人公のスティーヴンは、周りからは“完璧”と見られる人生を歩んできた男。
恵まれた暮らし、美しい妻、2人の子供。しかし彼は今まで何かを渇望したこともなく、孤独だったのです。
スティーヴンが初めて感情に身を任せて求めた人、それがアンナでした。なぜならアンナは暗い過去を持つ、傷を抱えた女性だったからです。
傷がある女と、その傷を求める男。
スティーヴンはアンナの影を、自身の孤独と重ね合わせて恋に落ちたのでしょう。
アンナはそれを分かっているかのようにスティーヴンが求めるものを差し出します。
そうして背徳感を抱きながらも情事に溺れていってしまうのです。
しかし倫理を犯したスティーヴンはその報いを受け、文字通り全てを失います。
印象的な最後のシーンは、まるで時間が止まったかのようです。
大切な息子、心の底から愛したアンナ、もう2人とも彼のそばにはいません。
スティーヴンはいつまでも一緒に過ごした時のアンナを想い続けるのでしょう。
孤独だった男が愛を知るものの、その愛の答えはまた孤独。
一度感情を知った今、その孤独はさらに辛いものかもしれません。
激しい恋愛は刹那的で、傷“ダメージ”のないものなんてない…空虚で哀しいラストシーンはそれを表しているかのようです。
まとめ
倫理を犯しながらも抗えずにはいられない愛の姿と、傷と孤独が共鳴した哀しい人間の性を描いた本作。
何もかもを失った後だけにある静けさと永遠を、私たちは日常で感じることはあるのでしょうか。
堕ちてゆく男を感傷的な魅力たっぷりに演じたジェレミー・アイアンズと、純粋さと魔性さが共存する女性を演じたジュリエット・ビノシュ、2人の美しい姿を存分に堪能して『ダメージ』お楽しみください。