「誰が私に希望を見せられようか」介護士の男が、難病を抱え人生に希望のない青年との旅で一緒にみつけた希望の物語
映画『思いやりのススメ』は、利用者の気持ちを尊重しながら、残こされた時間に「希望」という必要不可欠なチャンスを与え、自らも「希望」を見つける物語。
ジョナサン・エビソンの原作小説を、ロブ・バーネット監督が映画化しました。
自分の望むことは、必ずしも誰かが叶えてくれるとは限りません。けれども少し勇気を出して踏みだせば、相棒がそれを聞き逃さず、見過ごさずに叶えてくれるかもしれません。
介護士は「必要」としていることを訊ね、聞いて、観察しながら手伝い、そしてまた訊ねる・・・。これが障がい者に対する『思いやり』で、それ以上でもそれ以下でもありません。ですが、この作品の主人公は違います。この映画が示す『思いやり』をご紹介します。
映画『思いやりのススメ』の作品情報
【公開】
2016年6月(アメリカ映画)
【監督】
ロブ・バーネット
【原題】
The Fundamentals of Caring
【原作】
作者:ジョナサン・エビソン
『The Revised Fundamentals of Caregiving』
【キャスト】
ポール・ラッド、クレイグ・ロバーツ、セレーナ・ゴメス、ジェニファー・イーリー、ミーガン・ファーガソン
【作品概要】
本作はアメリカ図書協会から「最も魅力的な作家」(2009年と2011年)に指名され、ワシントンステートブックアワードなど数々の受賞歴のある、小説家ジョナサン・エビソンの2012年に発表した小説『The Revised Fundamentals of Caregiving』が原作です。
監督にはテレビプロデューサーとしてエミー賞を複数回受賞している、ロブ・バーネットが務め、主演は「アントマン」シリーズや「アベンジャーズ」でアントマン役を演じた、ポールラッドが好演し、共演に「サブマリン」のクレイグ・ロバーツ、ディズニー・チャンネルドラマ『ウェイバリー通りのウィザードたち』(2007~2012)で人気のセレーナ・ゴメスが出演しています。
本作はサンダンス映画祭で初上映され、2016年6月よりNetflixオリジナル映画として独占配信されています。
映画『思いやりのススメ』のあらすじとネタバレ
小説家のベンは3年前に自身の過失で一人息子を死なせてしまいます。それ以来、生業としていた小説家を辞めてしまいました。
生活をしていくためと「誰かを助けることで、自分も救われたい」ベンはそう思い介護士の研修を受けていました。
息子を死なせてしまったことで、妻からは離婚を迫られますが、応じることができないまま3年が経ち、とうとう裁判所から出廷命令が来てしまいます。
研修後の初めて担当する利用者はトレヴァーという18歳の青年で、ディシェンヌ型筋ジストロフィー症を患い、車椅子生活を送っています。
採用面接の時にトレヴァーは知的障害のあるふりをしたり、変な数字のゲームをしてベンを困惑させます。
「1から3500の数字の中で何番がいい?」と、トレヴァーは聞くとベンは「・・・・・・3」と、答えますが理由もわからないまま「不合格」と告げられます。
しかし、そのトレヴァーがベンを採用すると決定したのは、下の世話をしたあとのケア方法でした。「拭き残しがないように……自分の尻と同じように拭く」躊躇なくこう答えて採用となるのです。
トレヴァーは気難しい性格で1日のルーティーンは時間で決められて、それが崩れるとパニック発作を起こし、偏食もひどくサプリメントで栄養を補っています。
朝のテレビ番組でアイダホの2階建てトイレの情報が流れると、トレヴァーは「アメリカのダサイ名所マップ」を取り出して、テプラで名前を打ち込みその場所に貼り付けます。
その「ダサイ名所マップ」にひときわ大きい星印のついた場所を訊ねると、そこは『世界一深い穴』と、いう名所でベンはトレヴァーがその場所に関心があることを知りました。
ベンは介護の仕事を順調にこなしていきました。トレヴァーのきつい悪ふざけにも徐々に慣れて、コミュニケーションも良好になっていきます。
そして、トレヴァーの母親は「息子は今まで他の介護士には心を開かなかったの。だから、とても感謝しているわ。でも、いずれは離れていくのだから、今以上に親密にならず守れない約束はしないでほしい」と、念を押してベンに約束させました。
映画『思いやりのススメ』の感想と評価
本作で主人公が介護士の講習の中で習う、「必要」としていることを訊ね、聞いて、観察しながら手伝い、また、訊ねる・・・これは『介護五原則』のことです。
この五原則は、Ask(訊ねる)、Listen(聞く)、Observe(観察する)、Help(助ける)、Ask Again(再び訊ねる)の頭文字を取った「ALOHA」と略されています。
この『ALOHA』はハワイ語で「こんにちは」と「さようなら」の意味がありますから、介護士と利用者の関係性を表すものでもありますが、他にも「愛と愛情」という意味もあるのです。
それまでトレヴァーを担当する介護士は彼のひねくれた態度や、卑猥で下品な言動などに耐えられずすぐに辞めていったのでしょう。
ところがベンにとってトレヴァーの発想や言動は同性ならではのことで、理解もでき気転を活かしすぐに打ち解けられたのです。
また、父親の存在を知らずに育ったトレヴァーもベンに「父親像」を見ていたと考えられます。母親には言えないこともベンには言えること、察してもらえることが嬉しかったと考えられるのです。
つまり、トレヴァーにとって介護士は「こんにちは」と「さよなら」の関係でありながらも、ベンとは愛のある交流ができ、2人の旅はまさに「介護五原則」に沿ったものだったのです。
まとめ
この作品はとんでもなく突飛なアクシデントがおこる演出はありません。映画にありがちな推測できる旅のアクシデントは、2人がジョークとして表現しています。
その方が逆に介護士と障がい者の関係が現実的です。そこにジョークを入れることで観客の予想にも応えていたといえるでしょう。
『思いやりのススメ』は旅を通じてトレヴァーの「願い」を訊ね聞き、それを叶える旅でした。
行きたい場所へ行き、会いたい人と会い、知らない人たちと関わり初デートをして、生命の誕生に立ち合い、「立ち小便」まで経験できたのです。
健常者なら何でもない体験をサラリと描いて、観終わった後には最高に清々しい気持ちになり、心から感動できる作品でした。